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ずっと君を待っていた 一途な御曹司に抱かれるハワイの青い海

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書籍紹介

大好きな人とめぐる極上淫らな癒やされ旅

幼なじみの海斗が住むハワイへやってきた乃絵。久しぶりに会った彼は超美男子に!? 心地のいい陽光を浴びながら二人で観光地巡り。彼の温かい人柄に触れ、惹かれてゆく。「君だけを想い続けてきたんだ」心震わせる告白は甘い媚薬のよう。逞しい胸に抱き締められ、待ちに待った熱いキス。楔を最深部まで受け入れ、快感に蕩ける。帰国を目前に、彼からプロポーズの言葉が!?

ジャンル:
現代
キャラ属性:
ワイルド・騎士・軍人
シチュエーション:
幼馴染・初恋の人 | 玉の輿・身分差 | 船上・旅もの | 甘々・溺愛
登場人物紹介

天野宮海斗(あまのみやかいと)

天野宮家の御曹司で、巨大リゾートホテルチェーンの跡取り。日に焼けた褐色の肌と鍛え抜かれた体、整った顔立ち。乃絵とは幼なじみ。優しい性格。

桂坂乃絵(かつらざかのえ)

ブラックな職場で心身ともに疲弊し、退職。昔、実家の隣に住んでいた海斗の母に頼まれ、ハワイに行くことに。美しく成長した彼と再会してドキドキ……!

立ち読み

 旅慣れている人に憧れていたっけ、と桂坂乃絵は思い出した。
 パスポートに所狭しと押された、色とりどりの出入国スタンプ。よく使い込まれたスーツケースにびっしり貼られた、バーコードシールやラゲージステッカー。広大な空港内を確固たる足取りで渡り、カートには免税品の紙袋が山と積まれ、保安検査や出入国審査の手続きも迷いがなく、空港ラウンジや機内のサービスも熟知している。
 そんな人を格好いいと思っていた。そういう人になりたいとも。学生時代の話だ。
 残念ながらなれなかったな、と思う。「なれなかった」とまだ確定ではないけれど、この先旅慣れるほど頻繁に海外へ行くチャンスに恵まれるとは思えない。
 乃絵は短大時代、バイト代のほとんどを海外旅行に注ぎ込んでいた。豪華な旅行は無理だけど、比較的旅費が安くフライト時間の短い近場なら行ったことがある。友人たちと一緒にサイパン、香港、グアムには二回行った。
 なぜ、こんなことを急に思い出したんだろう? と不思議に思う。短大時代のことなんて長らく忘れていたのに。
 もしかしたら、ひさしぶりに飛行機に乗っているせいかもしれない。
 今、乃絵を乗せた旅客機はホノルルに向かっている。日本とハワイの航空会社のコードシェア便で約七時間半のフライトのあと、現地時間の午前八時過ぎに到着予定だ。
 出発前、搭乗ゲートで流線形の機体を目にしたとき、気分が一気に高揚した。
 うわぁ……。南国って感じで、すっごく華やかな飛行機だなぁ……!
 胴体部分に、『レイ』と呼ばれる花の連なる輪が巻きついたデザインで、尾翼にはハイビスカスを髪に飾った女性が色鮮やかに描かれていた。
 まばゆいライトに照らされ、「今からあなたをバカンスにお連れしますよ」といった体で搭乗客を待っている姿は、見る者の心を浮き立たせてくれる。
 尾翼の女性を彷彿させるCAたちの人種は多様で、褐色の肌にオーシャンブルーの制服が映え、笑顔はたおやかでプリミティブな魅力に溢れていた。
 すごく生き生きと仕事してるなぁ。楽しそうだし、のびのびしてる。私とは大違い……。
 最近、働いている人を見るたびに自分と比べては落ち込んでしまう。
 たしかにここのCAたちは、乃絵が毎日のように職場で目にしてきた人たちとは様子がまったく違った。イライラした眼差しと攻撃的な物言い、引きつった笑いやヒステリックな声とは無縁の世界を生きているらしい。
 もしCAに就職していたら結果は違ったかな、と想像してみる。けど、自分のような人間じゃきっと採用されない。容姿も平凡だし、特技もないし、英語も大してできないし。
 改めて己の欠点を並べてみると、がっくり肩が落ちてしまう。
 気分は今、どん底だった。ここまで完膚なきまでに自信を喪失したのは人生で初だ。生きているだけで申し訳ない、という負の感情に苛まれ続けている。
 乃絵のひどい状態とは裏腹に機内はゆったりしたハワイアンミュージックが流れ、ウキウキした雰囲気に満ちていた。ゴールデンウィークが終わったばかりだというのに機内はほぼ満席で、ファミリーや若者が多く、ほとんどが観光客なんだろう。
 今だけは暗いことを忘れなければ。じゃないと、「楽しんでおいで」とこの旅に送り出してくれた人たちに悪い。
 そう。自分の心の状態を除けばなにもかもパーフェクトだった。
 生まれて初めてのビジネスクラス! 専用カウンターでのチェックインと優先搭乗で、ちょっとした優越感に浸れた。アメニティのポーチは記念に取っておこうと思ったほど可愛く、機内食は豪華でボリュームがあるし、アルコールのメニューも豊富だ。用意された最新型タブレットでゲームも映画も飽きることなく楽しめ、体をまっすぐ伸ばして寝られるフルフラットシートでゆったりと眠りにつけた。
 機内の旅がこんなに快適になるなんて……! と感激がとまらない。
 そして、エコノミーにはないウェルカムドリンクのマイタイ! 鮮やかな紅緋色の液体に唇をつけると、ジューシーな果汁が口いっぱいに広がり、コクのあるラムの後味にクラッときて、最高のほろ酔い気分になれた。
 しかも、これからホノルルにある新築のコンドミニアムに十日間滞在する予定なのだ。
 こんなに贅沢しちゃっていいのかなぁ? 静枝さんはいいって言ってくれたけど……。
 気分が上がれば上がるほどうしろめたさがつきまとう。
 ──あら、こちらから乃絵ちゃんに依頼したんだから気にすることないのよ。
 そう言って、ポンと旅費を出してくれたのは天野宮静枝だった。
 一応乃絵も旅費を少しは負担したものの、これほどの旅行日程となると本来なら桁が一つ……下手したら二つは違う額になるかもしれない。
 静枝は、乃絵の母親……桂坂琴美の親友だ。乃絵が幼い頃住んでいた千葉県にある実家の隣に住んでいた。静枝の息子と乃絵が同い年であり、同じ幼稚園と小学校に通う仲で、静枝と琴美はいわゆるママ友の関係だった。
 と言っても、静枝が千葉にいたのはほんの数年。乃絵が小学校三年生のとき、静枝は一人息子の海斗を連れ、アメリカに移住してしまった。
 幼い頃はどこへ行くにもなにをするにも海斗と一緒だった。遊びも宿題も、学校行事も登下校も、キャンプもクリスマスも常に海斗が傍にいた。
 海斗と別れたのが八歳のとき(乃絵は早生まれだから海斗は九歳だった)。今、乃絵は二十五歳だから、会うのは十七年振りということになる。
 現在ホノルルに住んでいる海斗が、静枝の代わりに旅行のガイド役を買って出てくれた。このあとホノルルの空港まで迎えに来てくれ、件のコンドミニアムへ案内してくれる手はずになっている。
 もちろん最初は固く断った。幼い頃の短い期間、仲がよかっただけの幼なじみ。疎遠になった今、迷惑をかけるのは悪いし、一人のほうが気楽だ。これ以上天野宮家のご厚意に甘えるわけにはいかないし、一人でタクシーを使って行けるから、と。
 ──ダメダメ。なんと言われようと、海斗を迎えにやります。今回の依頼について説明したいこともあるのよ。私が行ければよかったんだけど仕事が入っちゃって。
 静枝は一度言い出したら聞かない性格だ。それにハワイは初めてだし、一人旅ゆえ心細さもあり、ガイドがいるに越したことはない。今の状態だと正直、申し出を強く拒否する気力も潰えており、ここは素直に従うことにした。
 海斗がいったいどんな大人になったのか……まったく情報がないからわからない。
 記憶の中の海斗は天使そのものだった。透き通るような白い肌、色素の薄いふわふわの巻き髪、ぱっちりした飴色の瞳。華奢で発熱しがちな虚弱体質で類まれに見る愛くるしさだった。新築の豪邸に住み、いろんな意味で彼は目立ったせいで、よく近所の意地悪な子たちにいじめられてはメソメソ泣いていた。
 当時、女子にしては体が大きく正義感と根性もあった乃絵は、大好きな海斗をボディガードのように守っていた。勇敢に海斗を背に庇い、いじめっこたちと掴み合いの喧嘩をし、逆に泣かせてやったこともある。
 海斗はそんな乃絵の体に隠れるようにして、ちょこちょこあとをついてきた。
 人は誰しもそういう存在がいるんじゃないだろうか。幼稚園のときあるいは小学校低学年のとき、家が近いというだけで無心に仲良くしていた子が。大人になるにつれ疎遠になり、もう二度と会うことはないだろうけど、記憶の中だけに残された懐かしい面影が。
 海斗のことを思い出すとほんわかした気持ちになる。海斗は圧倒的に可愛らしく、どの女子よりもはるかに女の子らしかった。澄んだ大きな瞳でじっとこちらを見つめ、一心に信頼を寄せてくる海斗を、自分が守らなければ! と使命感に燃えていたっけ。
 そう言えば、海斗の現在の写真を見せてもらうのを忘れていた。逆に海斗のほうは乃絵の容姿を把握しているらしく、迎えに来るのに困らないと聞いたけど。
 静枝と琴美のママコンビは今でも仲がよく、海を跨いで頻繁にオンライン呑みを開催しており、乃絵もたまに参加していた。静枝は乃絵のSNSもフォローし、乃絵がUPしたご飯や景色の写真に毎回いいねをしてくれ、気が向いたらコメントもくれる。
 世界各国を飛び回る生活を送る静枝は、海斗とは年に数回電話する程度の交流しかないらしく、『まったく不愛想なバカ息子よね〜』とモニターの向こうでよくこぼしていた。
 乃絵の周りで旅慣れている人の代表格と言えば、静枝をおいて他にいないだろう。
 海斗はアメリカに渡ったあと、そこで中学高校時代を過ごし、カリフォルニアにある名門大学を卒業後、現在はホノルルにあるリゾートホテルで修業中とのことだ。
 アマノパレスホテルアンドリゾーツ……海斗の実父、つまり静枝の夫である天野宮一樹氏が会長を務める巨大ホテルチェーンだ。傘下のホテルは日本国内のみならず、アジア、ヨーロッパ、南米北米、オセアニア、そして太平洋のリゾートエリアにもあり、世界にその名を轟かせている。
 平たく言えば、海斗は名門天野宮家の御曹司。修業中……ということはいずれ父親の跡を継ぐのだろう。いずれにしろ、庶民オブ庶民の乃絵からすれば雲の上の人だった。
 海斗君、少しは男らしくなったかなぁ? 昔は可憐な天使だったから、やっぱりおとなしい感じに育ったのかな。それはそれで海斗君らしいけど……。
 などと考えつつ、なんとなくポーチからミラーを取り出し、メイク直しを始める。
 ひさしぶりに会う幼なじみに少しでも綺麗だと思われたい。無意識のうちにそんな見栄が働いたのかもしれない。
 メイクパレットを手に取り、二重まぶたに薄くオレンジのシャドウをぼかし、口角が心持ち上がり気味の唇にビタミンカラーのリップを塗る。瞳の色が黒いので、カラッとした柑橘系の色を差すと元気で明るい印象になれるのだ。
 服装はどう頑張ってもこれ以上盛りようがない。長時間のフライトに備え、ベージュのフレンチスリーブTシャツに、チャコールグレーのゆったりしたサロペットを合わせ、ラフなスニーカーを履いてきた。機内の温度が下がったときのために上から羽織るパーカーとフリースも準備し、楽チンと快適をとことん追求したカジュアルコーデである。
 仕上げは手のひらにヘアワックスを伸ばし、ミディアムボブの毛先を動きが出るよう整えた。スタイリストに勧められ、ナチュラルなニュアンスカットをしてもらい、カラーリングはせず黒髪のままにしている。
 そこまでしてから、なにをオシャレしてるんだろう? と、少し冷静になってきた。
 仮に海斗がどんな大人になっていても、自分には関係がない。コンドミニアムまで案内してもらうだけだし、母親の親友の息子というだけで今後深く関わることもないし、海斗も乃絵に構っていられるほど暇じゃないだろうし。
 大人になったら昔みたいな親しさで接するのは難しい……それぐらいわかっていた。
 もちろん、今回依頼されたことは責任を持ってまっとうするつもりだ。初めてのことだからうまくできないかもしれないけど、自分なりのベストは尽くしたい。
 天野宮家と桂坂家では住む世界がまったく違うことを忘れてはならない。
 いくら静枝がフレンドリーに接してくれても、静枝と海斗は別の人格なのだから。
 いつの間にか機内は明るくなり、次々と開けられる機窓からまぶしい光が差し込みはじめた。
 うつらうつら眠ったような、眠っていないような、妙な感じだった。疲労感はたしかにあったけど、それを上回る高揚感に眠気が掻き消されてしまったような。
 それから、朝の機内食を食べた。ふわふわのかぼちゃオムレツ。肉汁がジューシーなポークソーセージ。焼きたての香ばしいクロワッサン。
 いくつか口に入れてみて、思わず顔をしかめる。ぜんぜん本調子じゃないと悟ったからだ。この先本調子に戻れるのかどうかも疑わしかった。
 自分が自分じゃないような違和感がずっとついて回っている。
 気持ちを落ち着かせるためにコーヒーを飲み、機窓を流れゆくモクモクした雲海を眺めた。上空からの眺めは素晴らしく、はるか遠くに見えるカーブした水平線は地球が丸いことを思い出させてくれる。
 この旅は私をどこに連れていってくれるのかな?
 この旅が始まる前と終わったあとで、なにか少しでも変わってるといいな。
 そんなことをあれこれ想像するのは楽しかった。まだ見ぬ景色や出会っていない人たちが、自分を待ってくれている気がして……。
 これからなにかが始まる、という期待感が胸の奥を柔らかくくすぐるのだ。
 ポーン、という間延びした音が響き、我に返って斜め上を見た。
 視線の先にあるシートベルト着用サインのランプが点灯している。
 英語の機内アナウンスのあと、日本語のアナウンスが流れた。
『飛行機の降下に備えまして、シートベルト着用のサインが点灯いたしました。ただいまをもちまして、すべての機内サービスを終了いたします……』
 ぼんやりと聞きながら、もう着陸するんだと驚く。
 乃絵はシートの背もたれを起こし、しっかりとシートベルトを締めた。







 ダニエル・K・イノウエ国際空港、午前九時半。
 CAたちの華やかな笑顔に見送られ、乃絵は機外に出てボーディングブリッジを歩く。
 搭乗客の行列に従って空港内のバスに乗り、停車したところにあったイミグレーションを無事に通り抜けた。
“Aloha”
“WELCOME TO HAWAII”
 パネルに書かれた文字が爽やかなハワイの海の写真とともに視界へ飛び込んでくる。
 歩く道すがら、ハワイ産のキュートなお菓子が並べられたデューティーフリーショップや、色とりどりのレイが吊り下げられたフラワーショップを目にした。かの有名なコナコーヒー……ハワイ島のコナ地区でのみ栽培されている、希少なコーヒーが飲めるカフェもあった。一軒一軒の店に入って商品をじっくり眺めたかったけど、時間がないので帰国のときにしようと心に決める。
 ターンテーブルを回ってきた自分のスーツケースを発見し、引きずり下ろして足元に置いたところでようやく一息つけた。
 ターミナル内は肌の色も年齢も様々な旅行客たちで賑わっている。日本では嗅いだことのないスパイシーな体臭や、馴染みのない香水のキツい香り、挽きたてのコーヒーやパンなどの雑多な匂いがした。耳に入ってくる喧噪は英語か、知らない異国の言葉。当然ながら、目に映る案内表示も標識もすべてが英語。
 うわぁー、海外に来たんだなぁ! と、俄然テンションが上がった。
 両手を天井に向かって高く上げ、思いきりウーンと背筋を伸ばし、深呼吸をする。
 狭いところから広いところに出られたな……そんな小さな解放感を味わえた。
 海外旅行のよいところ一つ目、この解放感。
 前職で乃絵は狭い職場に閉じ込められ、四六時中周囲から監視されるような人間関係を生きてきて、窮屈すぎてたまに息が詰まっていた。
 なにもリアルの世界に限った話じゃない。ネットの世界も同じだ。実は苦手なSNSも今どきやらないわけにはいかず、友人知人と繋がってはいるものの自慢したりされたり、うらやんだりうらやまれたり、水面下でマウントを取られることも少なくない。
 薄っすらした息苦しさを覚えるのは否定できなかった。
 けど、ひとたびネットの世界から離れ、海を渡ればどうだろう? そこに乃絵を知る者はいない。誰も乃絵を気にしない。周りから見れば、乃絵はただの観光客であり、無名の異邦人であり、一介の東洋人にすぎない。
 この広大な見知らぬ異国にたった独りきり。
 そのことが身震いするほどの緊張と、とてつもない自由をもたらしてくれる。国籍や職業や年齢といったあらゆる属性から、一瞬で解き放たれるのだ。
 ひさしぶりにまともに呼吸できた気がする。スーツケースを転がし、足を踏み出した。
 今、前職のことを思い出すのはやめよう。もうすでに退職したのだから。
 ホノルルの空港は日本のそれに比べると古びたいい味わいがあった。ところどころの設備は新しく、改装工事中のところは白い幕で覆われている。
 古いものを大切に保ちながら新しいものも芽吹いている……そんな風に感じられ、この空港が好きになった。
 海外旅行のよいところ二つ目、空港の持つ魅力の素晴らしさ。
 これまでの海外旅行を振り返ると、もっとも強く印象に残っているのは都市の空港だった。トランジットで寄っただけの空港さえもよく憶えている。
 突き抜けるような高さのまぶしい天井。人の手でなされたとは思えない、ダイナミックな建築物。ガラス張りの壁からはるか見渡せる駐機場と滑走路。ロビーに並べられ、静かに客を待ち続けるベンチは哀愁を感じさせ、国ごとに形状の違うトイレは見るたびに新鮮な驚きがある。情報検索端末やネットスポットは最先端の機器だし、ダイニングにはその国の伝統料理が並んでいる。
 さすが玄関口と呼ばれるだけあり、空港は国の威信を懸けて造られ、国の個性を体現していると思う。
 なにより、空港を行き交う旅行客たちのまとっている空気が好きだった。
 これから旅立つぞ、というワクワク感。ようやく着いたぞ、という安堵感。再会を喜ぶ人、別れを惜しむ人。出発する人も到着した人も一様に心躍るような希望に満ち、それがひしひしと伝わってきて、微笑ましいような優しい気持ちになれるのだ。
 普段はこんなことを絶対考えないけど、人間ってすごいんだなぁ、というシンプルな感動に心打たれる。これほど巨大な空港を建設し、航空機という金属の塊を空に飛ばし、税関や検疫や出入国のルールをこしらえ、こうして安全に世界を旅して回れるなんて……。
 国家や機関、様々な企業や組織の担当者一人一人がちゃんと役割を果たしていなければ成し得ない、人類の偉業と言っても過言ではないと思う。
 世界中で目を覆いたくなる事件や悲しいニュースはあとを絶たないけれど、こうして各国に空港が建設され、人々が行き来できるようになるのは数少ないグッドニュースの一つだと思えた。もちろん、なにが作られてもなにが消えても、いい面と悪い面のどちらもあることに変わりはないけれど。
 空港について考えると、こうして意識は日常を飛び出し、世界を俯瞰して眺めることができ、以前よりももっと人間が好きになれるのだ。
 足取り軽く税関を通り抜け、〝EXIT〟と書かれたゲートをくぐった。
 出口には搭乗客を迎えに来た人たちが群れを成し、名前の記されたパネルを掲げている。目を凝らし、自分を迎えに来てくれたであろう海斗の姿を探した。
 しかし、それらしき日本人男性は見当たらない。掲げられた名前を端から順番に読んでいったものの、『桂坂乃絵』の名前はなかった。
 あれ……。海斗君、まだ空港に着いてないのかな……?
 スマホを取り出し、電波が入っているのを確認する。事前に海斗のSNSを教えてもらい、相互フォローして必要なやり取りは済ませていた。
【一階の個人専用出口を出たところで待つ。万が一会えなかったら、二階にあるカフェまで来て】
 これは海斗から最後に送られてきたメッセージだ。指定されたカフェは日本にもある有名なコーヒーチェーンで、フロアマップのURLも貼られていたからわかりやすい。
 フライトナンバーも到着時刻も伝えてあった。もしかしたら、渋滞に巻き込まれたか不慮のトラブルに見舞われたかで遅れているのかもしれない。
 ならば、指定されたカフェに移動しようと、海斗宛てにメッセージを送信した。
【無事に着きました。指定されたカフェで待ってますね。空港に着いたら電話ください】
 そうしたら、すぐに既読がついた。ちゃんと読んでいるらしい。
 エスカレーターのほうへ一歩踏み出すと、すぐ近くに〝Visitor information”と書かれたカウンターが目に入った。
 せっかくだから軽く寄ってみようか。ハワイの名所や見どころを教えてもらい、観光マップでも入手しようと、そちらへくるりと方向転換した。
 そのとき。
「桂坂乃絵さん」
 すぐ傍で声が響き、強い力で左肘をグイッと掴まれ、飛び上がって驚いた。
 バッと振り返ると、見上げるほど背の高い、サングラスをした若い男が立っている。
 だっ、誰っ? まさか……引ったくり? 初めてのハワイでいきなり強盗っ!?
 いやいやそんなはずはない。今、しっかりフルネームで呼ばれたし。それとも自分がなにかやらかしたんだろうか? 入国審査や税関手続きで不正が見つかったとか……?
 嫌な予感にビクビクしていると、男は肘を掴んだまま言った。
「桂坂乃絵さん……だよね?」
 完璧な日本語だ。ひどく耳に心地よい、少し低めの美声。
 男がすっとサングラスを外したのを見て、乃絵はつい目を見張った。
 うっわあぁぁ……! すっごいカッコいい……。日本人の……アイドル? 芸能人?
 時と場所を忘れ、まじまじと見入ってしまう。
 年の頃は同じぐらいだろうか。うっとりするほど綺麗な顔立ちをしていた。澄みきった飴色の瞳。アーモンド型の目を縁取る、長いまつ毛。まっすぐな鼻梁のラインと、一文字型の唇に品のよさを感じる。キリッと斜めに上がった凜々しい眉に、前髪が無造作に下りていた。ゴールドに近い琥珀色の髪は毛束感のあるマッシュにカットされ、艶やかにきらめいている。
 まばゆいほどのオーラと、神々しいまでの透明感。
 乃絵の強すぎる視線にひるんだのか、男はパッと視線を逸らし、少し恥ずかしそうな顔をした。そのシャイな素振りに微かな既視感を覚える。
 あ……れ……。この人、昔どこかで会ったことがあるような……?
 頭の中の奥のほうにある、不確かな記憶を手繰り寄せる。
 ……違う。会ったことがあるんじゃない。よく知っている人に似てるんだ。こんな風にどこか達観したような目をした、あの人……。
「……あ。もしかして、海斗君?」
 記憶の回路がビリッと繋がった瞬間、そう口にしていた。

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