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バツイチですが!? 敏腕上司の熱烈プロポーズ

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書籍紹介

アラフォー女子に訪れた、最高の恋

結婚なんてもうコリゴリ! これからは仕事一筋で生きていこうと決めたOLの美和は、寡黙だけど社内イチ『いい男』加賀にいきなりプロポーズされて!? 「俺は本気だ。おまえを愛し抜く」不意打ちで濃厚なキスをされて高鳴る鼓動。首筋、胸元……彼の唇が触れた身体は熱を持ちはじめ、快感に変わっていく――。

ジャンル:
現代
キャラ属性:
シチュエーション:
玉の輿・身分差 | 甘々・溺愛 | お風呂・温泉
登場人物紹介

加賀徹(かがとおる)

美和の同年代で仕事のデキるイイ上司。美和が離婚する前から一途に想っていた。実は御曹司。

葉山美和(はやまみわ)

バツイチアラフォー女子。離婚後は仕事に生きると決意。しかし加賀の熱烈なアプローチにたじたじ。

立ち読み

 十一月中旬──
「なに……これ……」
 白い封筒から出てきたのは、夜の繁華街を背にキスするひと組の男女の写真。その写真を見た途端、海崎美和の息は一瞬でとまった。なのに鼓動だけがけたたましく鳴り響く。まるで耳の裏に心臓が移ったみたいだ。
 若い女の指に自分の指を絡め、爪先立ちする彼女と戯れるように唇を合わせている男は、美和の夫。海崎卓矢だ。
 力加減を失った指で封筒から写真の束を引っ張り出し、二枚目、三枚目と捲って確認する。ふたり揃ってラブホテルに入るところ、出るところ。見間違えようもないほど、やたらと画質はいいし、ご丁寧なことに日付入りだ。
 そして四枚目の写真に写っていたのは、卓矢が通勤に使っている夫婦共用の車だった。
 倒した助手席のシートの上で、乱れた女の身体にむしゃぶりついている夫の横顔──自分に見せる男の顔と同じ、いや、それ以上の欲を孕んだ眼差しを見て、美和はコートを着たままへなへなと床に座り込んだ。
 手から滑り落ちた写真の束が、美和の膝元にバサッと散らばる。その数は、ゆうに二十枚を超えていただろう。頭の中は真っ白で、現実を見ることを心が拒絶する。でも頬を伝う涙は、現実を正しく理解していた。
「たっだいま~!」
 玄関から機嫌よさげな声がして、次の瞬間には廊下とリビングを分けるドアが、ガチャッと開かれる。
「今日、美和が好きな店のチーズケーキ買ってきたよ! 晩飯のデザートに──」
 マチの広い紙袋の横からひょうきんな顔を覗かせた卓矢に、普段なら「おかえり」と、優しく微笑んだだろう。「チーズケーキ? わぁっ、嬉しい!」と、全身で喜びをあらわにしただろう。でも美和は、呆然と床にへたり込んだままだった。
「…………どうして?」
 涙を拭うことすらせずに見上げると、チーズケーキ入りの紙袋を持ったままの卓矢が、顔面蒼白になってその場で立ち尽くしていた。

 

 

 

「──ということで、離婚しましたので、諸々の手続きをよろしくお願いします」
 海崎美和──改め、葉山美和は、溌剌とした表情で直属の上司に離婚を報告した。
 週明けの朝一発目にする報告としては、些かヘビー級だとわかりながらも、切り出してしまえば肩の荷が下りたことは否めない。背後で部下や同期達が聞き耳を立てているが、どうせいずれはわかること。内緒にしたって仕方がないと思いながら、美和はグレーのタイトスカートスーツに包まれた背中を伸ばした。
 来月には四月になる。新入社員が入ってくる前に、会社に報告しておきたかったのだ。
「これからは旧姓の葉山に戻します。引っ越しも、銀行の名義変更も終わりました」
 旧姓の自分を世帯主にした新しい住民票の写しを差し出して、「お手数をおかけします」と付け足す。
「そうか……」
 上司は、受け取った書類を複雑そうな表情で眺めた。
 上司とはいっても、彼──加賀徹は美和と同年で今年三十五歳。中途採用で、四年前にこのクレアスの関西支社にやってきた。
 クレアスは全国に支社を持つ大手広告代理店で、昨今は世界大手を目指し、海外企業買収を本格化中。クレアスの中でも関西支社は、テレビ広告と新聞広告を特に業務の二柱にしている。十年ほど前からネット広告の依頼も増えてきた。
 加賀は以前、アメリカの広告代理店に勤務していたらしい。やたらと彫りが深い顔立ちで、非常に眼力がある男だ。寡黙な性格もあり、落ち着きを超えた渋さを感じさせる。少し長めの黒髪を緩やかに後ろに撫で付けているから余計にだ。
 加賀が採用された当時、彼がこの会社に慣れるまでの間、教育係に入っていたのが美和だった。名目上は教育係となっていたが、実際にやっていたのは会社のルールを教えることだけ。営業指導なんて必要ないほどに、彼は初めから優秀だった。こちらが一を言えば、十を理解してくれる。地頭がいい上に要領がいい。
 結果、同年代での出世頭は彼だ。三十五歳の今、営業部の係長となっている。だが、係長などはっきり言って役不足。上が詰まっていなかったなら、係長どころか課長や部長になっていても不思議ではない。彼にはその実力がある。去年は社長賞も受賞していた。まさに営業部のホープだ。加えて正直に言うなら、彼は実年齢よりも年嵩に見える。つまり、役職付きは嵌り役なわけだ。
 一方の美和はというと、結婚したときに出世コースから外れた。もう何年もチーフどまりだ。仕事は好きだが、この仕事はかなり時間に不規則で、残業も多ければ、クライアントによっては飲みニケーションが営業のメインだったりする場合も多い。結婚してから美和は、そういうクライアントは一切回ってこない。そういう配慮をしてもらっているのだ。それ故のチーフどまり。仕事と家庭を両立できるほど自分が器用でないこともわかっていたから、別に不満はない。むしろ、配慮してくれる会社には感謝している。だがこれからは独り身。積極的に仕事の量を増やして、出世を狙うのもアリかもしれない。
 加賀は美和から受け取った書類を、デスクに並べてあったフォルダの中に挟んだ。
「まぁ、なんだ。お疲れ。じゃあ、ふたりで飲みに行くか。どうだ? 奢るぞ」
 定時で帰る美和は、飲み会などほとんど参加しなかった。早く帰って卓矢に夕飯を作ってあげたかったから。でももうそれも必要ない。
 加賀とふたりで飲みにというのは初めてだが、彼が離婚した自分を気遣ってくれているのはわかる。美和が自身の教育係だったからか、上司の立場からというよりは、気さくな同僚の立場で、彼は物を言ってくれるのだ。
(案件増やしたいって話もしたいし……)
「じゃあ、甘えよっかな」
「おう」
 落ち着きのある渋い風貌の加賀は静かに口角を上げると、美和が先ほど渡した書類を挟んだフォルダを持って立ち上がった。
 ハイクラスのブランドスーツを着こなす彼は、長身の筋肉質の体躯で、立てば九センチのハイヒールを履いた美和とだって、頭ひとつ分は差がある。
「先に総務に行ってくる」
「ええ。ありがとう。お願いします」
 美和が微笑むと、彼は掲げたフォルダでハーフアップにした美和の頭をポンッと軽く撫でてから部署を出た。


「で? 離婚の理由は?」
 二時間の残業をして、会社の最寄り駅近くのバーに着いたのは二十時を少し回ったところ。煉瓦倉庫を改造したこの店では今、ジャズの生演奏が行われている。セクシーな女性の歌声は、店の雰囲気作りに一役買っていた。
 美和は初めてここに来たが、加賀は時々来るらしい。駅の裏手という立地と、煉瓦倉庫そのままの外観のせいで、知る人ぞ知る穴場なんだとか。会社の連中はまったく来ないんだそうだ。
 カウンター席に加賀と並んで座った美和は、歯に衣着せない彼の率直さに、思わずクスッと笑ってしまった。
「いきなりね?」
「葉山が別れるなんてよっぽどだからな」
 昼休みに、女性同僚や部下達が「離婚したって? 大丈夫?」「あんなに幸せそうだったのに、どうしたの?」と美和を心配してランチに誘ってくれた。だが、彼女らの言葉の裏側に見え隠れするのは、下世話な好奇心。
「他人の不幸は蜜の味」とはよく言ったものだと思う。話せば最後、言ったことも言っていないことも、尾ひれがついて陰で拡散されることは目に見えている。
 自分の人生をゴシップネタとして提供する趣味なんか美和にはない。だから「性格の不一致ね。よくある話よ」と軽く笑って流していた。
 でも加賀から感じるのは、美和への確かな気遣いだ。彼は美和からなにを聞いても決して漏らさないだろう。上司だからという以前に、そういう男だ、彼は。
「彼ね、不倫してたみたいで。去年の十一月にね、家に証拠の写真が届いたの」
 美和が事実を短く伝えると、加賀は無言で眉を顰めた。それ以上のリアクションも、言葉もなにもないが、驚きすぎて言葉も出ないというわけではなさそうだった。
 予想していたのかもしれない。考えてみれば離婚の理由なんて、そこまでバラエティに富んでいるわけでもないから、当然といえば当然か。
 ただ受けとめてくれるだけの彼の態度は、不思議と美和の気を楽にさせてくれた。
「封筒にね、旧姓で私の名前が書いてあったから迷わず開けたの。そしたらぜーんぶ旦那の不倫の写真。全部で二十五枚もあったわ。しかも日付入りでね。証拠としては文句なし。私、旦那が不倫してるなんて全然気付いてなかったのよ。バカでしょ? 残業も出張も全部信じてた。まぁ、蓋を開けてみれば、半分以上が嘘だったみたいなんだけどね」
 卓矢はほとんど毎日を定時上がりしていたし、出張だと言われたそれは、お決まりの不倫旅行。そうとも知らずに、着替えのパンツから靴下、移動中に食べるおにぎりまで用意して、「頑張ってね」と送り出していた自分が滑稽で嗤えてくる。そうやって送り出した夫が、旅先でなにを「頑張って」いたかなんて、想像すらしたくない。美和は盲目的に夫を信じていたのだ。愛しているから──
「そうか」
 加賀がようやく口を開いた。
 彼はバーテンが持ってきたウイスキーのロックに口をつけて小さくため息をつく。美和の前にもジンをベースにしたフルーツカクテル、ストロベリー・オールド・ファッションドが置かれた。
「葉山の旦那──ってか元旦那か。そんなタイプには見えなかったけど、わからないものだな」
「あれぇ? 加賀くん、会ったことあったっけ?」
 結婚式に会社の上司や同僚が何人か来てくれたが、加賀は美和が結婚してからひと月後に入社したので、卓矢に会ったことはないはずなのだが。
「いや? 直接会ったことはないよ。写真を見せてもらった。旅行に行ったときのやつ」
「ああ……」
 美和は旅行が趣味だ。旅行先で撮った写真を会社で見せたことは何度もある。おそらくそのときに、卓矢の顔を見たのだろう。納得だ。
「そうねぇ……あんな人だとは思ってなかった。でもね、不倫してても私には優しかったのよ」
 証拠写真が届いた日も、美和の好物であるチーズケーキを買ってきてくれていたっけ。焼きたてふわふわのチーズケーキは、泣きじゃくる美和の口にも、顔面蒼白の卓矢の口にも入らず、冷えて固まって賞味期限を迎えてしまったが。
「あの写真……誰からだったのか、未だにわからないわ」
 白い封筒だった。住所も、差出人の氏名もない、切手もない。美和の旧姓だけが書かれたパンドラの箱。あんな不審な物をどうして開けてしまったのかと、何度も後悔した。
「まぁ、不倫相手の女が、自分の存在を本妻にアピールすることもあるらしいって、ネットで読んだから、その手の類なんだろうって思ってるんだけど、いちいち確かめてないわ。確かめて本当だったら、怒りが倍増しそう! 関わり合いになるのも本気でいやだったから、相手の女には慰謝料も請求しなかったの。車も元旦那にあげたわ」
 女との行為に使った車なんか気持ち悪くて、乗る気になれなかったから。
 卓矢は撮られている自覚が本気でなかったらしく、写真を見て相当青ざめていたが、あまりにもピンポイントの写真は、ふたりの行動パターンを完璧に把握しているとしか思えなかった。女が人を使って撮影することは充分に可能だろうし、行為中の写真はもっと簡単に撮れただろう。美和の旧姓で届いたのは「離婚しろ!」という、女からのメッセージにも取れる。
 あの女の顔は、死んでも忘れられそうにない。
「元旦那と話し合いはしたのか?」
「ん……ちゃんとしたよ?」
 卓矢は、ずいぶんあっさりと不倫を認めた。相手は彼の職場の後輩。一年半前から身体の関係を持っていたこと。美和が聞きたいことも、聞きたくないことも、彼は懺悔するようにぜーんぶ喋って、そして素直に謝り、許しを乞うてきた。
 許そうと思った。結婚して四年半、初めての浮気だ。長く連れ添っていれば、そういうこともあるのかもしれない。むしろ、自分に問題があったのかもしれない。困難を共に乗り越えてこそ夫婦なのでは? ──そう思ったのだ。
 不倫が発覚して、卓矢の謝罪を受け入れて、ひと月ほど経ってから、卓矢がおずおずと美和を求めてきた。
 終わったことを、いつまでも引きずるわけにもいかない。
 夫婦としてやり直すと決めたからには、彼を受け入れてあげなければいけない。自分が愛して結婚した男なのだから──
 卓矢との出会いは大学時代だった。大学自体は違ったが、バイト先が同じで、四年間一緒に働いていた仲間。同い年だし、結構仲良くしていたと思う。そのときは付き合っておらず、お互い就職して縁は切れたかに見えた。が、二十九歳のときに参加した合コンで、偶然にも再会。懐かしさも加わって、話が弾んだ。
『あのときは言えなかったけど、好きだった』と、卓矢が告白してくれたのをきっかけに付き合うようになり、三十歳になったときに結婚したのだ。
 夫婦仲はよかったと思う。いや、少なくとも美和はそう思っていた。卓矢は美和を喜ばせようと、美和の好きな物はなんでも把握しようとしてくれたし、旅行好きな美和のために、年に二回必ず一緒に旅行してくれていた。そんな卓矢が好きで、美和も彼に尽くしていたのだから。
 でも、子供はできなかった。
 美和だけ婦人科で検査したこともあったが、問題らしい問題はないんだとか。診察した医師は「強いて問題点を挙げるなら、タイミングと母体の年齢」と言ったが、しかし同時に「気にするほどでもない」とも添えられたので、気にしないようにしていたくらいだ。
 いつか──いつか──……
 そうやって一年が過ぎ、二年が過ぎ……
 子供はちっとも授からなかったけれど、卓矢は美和を責めたりしなかった。美和も彼になにも言わなかった。それは諦めたのとは少し違っていて、優しい卓矢となら、夫婦ふたりで生活するのも悪くないと思っていたから。
 でも、いざ卓矢に抱きしめられ、キスされそうになったとき、美和は自分でも知らないうちに涙していた。
 写真が……あの不倫写真が目に焼き付いて離れないのだ。夫が他の女と行為に耽る写真が、何度も何度もフラッシュバックする。
 忘れたいのに、忘れさせてもらえない。
 心が昇華できない。
 写真を見ずに、美和が自分で卓矢の不倫に気付いたなら、それとなくクギを刺してやめさせただろう。それで終わりにしたかもしれない。でも美和は写真を見てしまった。しかも行為中の写真は、一枚ではなかったのだ。
 夫は自分以外の女を抱いていた。何度も、何度も……。自分という妻がいながら。
 女として全否定された気分だった。
 一年半もの間に、美和や卓矢の誕生日も、結婚記念日、クリスマスも、バレンタインといった季節のイベントもあったのだ。その間も夫は自分に嘘をついていた。
 彼はいったいどんな気持ちでいたのだろう?
 罪悪感はなかったのか。相手の女の誕生日も祝ってやっていたんだろうか。ふたりに記念日もあったんだろうか。クリスマスは美和と一緒に食事に行ったから、相手の女には別の日に埋め合わせをしたんだろうか──
 考えたくなくても、頭が勝手に考える。涙がとまらない。
 こんなのはふたりで乗り越える苦難じゃない。不倫されたほうだけに降りかかる苦痛だ。したほうにしてみれば、終わった楽しい夢のようなもの。されたほうは地獄。
 求められても嬉しくもなんともなく、「女と別れたから、代わりにシたいだけなんじゃ?」と、そんなふうに考える自分がいる。そして、卓矢に抱きしめられて気付いたのは、彼への愛がとっくに壊れてしまっていたということだ。
 愛は消えるのではなく、壊れるものだと、このとき初めて知った。壊れて、鋭利な欠片になって胸を突き刺す。
 あんなに愛していたのに、あんなに大切にしていた想いなのに、今はそれが痛みの材料にしかならないなんて。
 不倫発覚からひと月後、美和は離婚を申し入れた。卓矢は渋ったが、彼といる限り美和は裏切られたことを忘れない。ましてや彼と身体を交えるなんてもう無理だ。心が彼を拒絶する。加えて、動かぬ証拠が山盛りにあって、子供もいないとなれば、卓矢の勝ち目はないのだから。
 こうして美和は、あの写真を受け取った日から翌々月には旧姓に戻っていた。そのあと、物件を探して引っ越ししたり、親に報告したり……。その他諸々の手続きが終わって、身辺と心の整理に二ヶ月を費やし、そして今日、やっと会社に報告したわけだ。
「話し合って、呑み込んで。許そうと思ったはずなのに、許せなかったの。彼はちゃんと謝ってくれたのに……ダメね」
 マドラーでイチゴをぐちゃっと潰しながら、自嘲気味に嗤う。別に悲劇のヒロインを気取るつもりはない。ただ自分が情けないだけだ。
 愛した男の不貞に気付かない愚かな自分。
 一度の過ちを許せない狭量な自分。
 謝罪を受け入れた振りをして、心の奥底ではまったく受け入れていない意固地な自分。
 自分がこんな人間だったとは思わなかった。自分ではもっと、サバサバした女のつもりでいたのに。
 やり直すことさえ、うまくできなかったのは、美和の責任によるところが大きいだろう。
 卓矢は誠心誠意をもって謝り、美和とやり直そうとしてくれていたのだから。
「謝ればなんでも許されるわけじゃないだろ。第一、葉山は悪くない。被害者のおまえが、罪悪感を持つ必要なんてない」
 清々しいほどきっぱりと言い切る加賀に、美和は小さく首を横に振った。
「ううん、私が悪いのよ。私が至らなかったから、あの人が他の女に走っただけで……」
 むしろ、夫の気持ちを繋ぎとめられなかった自分に原因が──
「それはない。いいか。おまえはなにも悪くない。百歩譲って、なにか欠点があったとしても、不倫の免罪符にはならねぇよ。完全に元旦那の人間性の問題だ」
 固まっている美和を横目で見た加賀は、視線を正面に戻してグラスに口をつけた。
 真面目な男の真面目な言葉が、美和の胸の内にじわっと染み込む。
(……そっか……そう言ってくれる人もいるんだ……)
 卓矢に自分が不倫をさせたのだと、美和は思っていた。
 卓矢との家庭を、仕事よりもなによりも優先して大切にしてきたつもりだったけれど、それでは足りなかったのではないか? 卓矢がくれる気遣いに甘えていたんじゃないか? そして、子供ができないことも……
 卓矢はなにも言わなかっただけで、本当は不満に思っていたのでは? だから他の女を求めたのでは──?
 頭に浮かぶのは自分を責める言葉ばかりだったのだ。でも、加賀に「おまえは悪くない」と言われて、初めて心が楽になった気がする。
「そんなふうに言ってもらえて……嬉しい。そっか……私、悪くないんだ……」
「そうだ。おまえはなんにも悪くない」
「ありがと」
 眉を下げて微笑んでみせると、正面を向いたまま、加賀が再び口を開いた。

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