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甘い指先で蕩かせて 絶倫年下御曹司の果てなき愛欲 3

第三話


 美桜は引き続き、一博に担当してもらうことになった。
 というのも、須佐が病気から復帰した直後、おめでただと判明したからだ。
 ホテルスパのアドレスから、須佐本人が書いたらしきメールが届いた。
【大変申し訳ございません。今、つわりがひどくてお休みをいただいております。復帰までもう少しお時間をください】
 お祝いとともに、無理しなくていいですよと返信しておいた。
 他の人に頼む気もないし、須佐が復帰するまでは一博にお願いするのが自然だろう。
 九月に入り、都心は厳しい暑さが続く。
 サマーインターンシップの開催も無事に日程を終え、内々定の数も順調に増え、人事部はようやく一息ついた。この時期になると、面接の数も落ち着いてくる。
 十月に内定式があるため、準備に取り掛かる。忘れてはならないのが、親ブロック対策だ。学生たちは親や保護者が反対すれば、内定を辞退してしまう。
 内定辞退者が出るのを防ぐため、保護者向けに資料を送付し、説明会をオンラインで行う。建速ハウス工業の素晴らしさをアピールし、待遇面で心配や不安がないよう説明を尽くし、弊社はお子様を大切にしますと宣言し、フォローするのだ。
 保護者を相手にする場合は神経を使う。セミナーでカメラに向かって明るく元気よく話すとき、舞台に立つ道化になった気分になる。
 そんなこんなで、メンタルと体力を擦り減らした美桜が、グランド・フィネガンズホテルを訪れたときには、九月の中旬になっていた。
 スパの入口の扉を開ける前に立ちどまる。
 前回のトリートメントを思い出すと、少々上がってしまう。
 よくないよなぁ、こういうの。あんなに一生懸命な一博君相手に妄想するとか……。今日は最後まで平常心で乗り切るのを目標にしよう。
 という覚悟を決め、扉を押し開ける。
 正面のレセプションカウンターに立つ、一博の姿が見えた。
 一博が少し首を傾げ、顔を上げる。
 目が合った瞬間、一博の瞳の色が変化するのが、ありありとわかった。
 え……?
 このとき初めて、瞳にも表情があるんだと知る。なんの感情もない状態から、ガラリと色が変わり……。
 ちょっと……一博くん……?
 ドキン、と美桜の心臓が跳ね上がる。
 肌にまとわりつくような、ねっとりした眼差し。
 一博の頬はほんのり紅潮し、白昼夢を見ているかのようだ。うっとりとした、少し酔っているような表情をしていた。
 美桜は慌てて周りをキョロキョロ見回す。万が一、今の一博を他のスタッフに見られでもしたらまずいと思ったから。
 幸い、ここにいるのは美桜と一博の二人だけで他のスタッフの姿は見えなかった。
 これは一言物申さなければ、と美桜は決意する。そんな目をしていたら、二人の不埒な関係を疑われてしまう。別になにも起きていないのに。
 美桜はつかつかとカウンターに歩み寄り、声を潜めた。
「あの、芦名ですけど。大丈夫ですか?」
 返事はない。
 仕方なく彼の顔を覗き込み、思わず息を呑む。
 一博はこちらを見ていた。いや、見惚れていた、と言ったほうがいいかもしれない。
 まるで恋をしているような、熱を孕んだ眼差し。
 この人は恋愛真っ最中なんだな、と誰が見てもはっきりわかる、あからさまな表情。
 うわ……。ちょっと、なんて顔してるの……?
 見ている美桜のほうが、とてつもなく恥ずかしくなった。
 彼はまぶたを少し伏せ、物欲しそうに唇をわずかに開く。
 美桜は自分がまるでスフレパンケーキになった気がした。お腹を空かせた一博に、今にも噛みつかれそうな。
 密かにうなじの産毛が逆立ち、体温が急激に上がる。同時に、食べられても嫌じゃないかも……と思ってしまう自分がいた。
 一博の尖った喉仏が、ゴクリと上下する。
 先月、一博に触れられた感覚が体中に生々しく蘇った。息苦しくなり、ブラジャーに覆われた胸の蕾が人知れず硬くなる。
 やば……。私、なんにもしてないのに、ちょっと感じちゃってる……。
 一博は無言でカウンターをぐるりと回ってきて、美桜の手を取った。
 彼に引っ張られるように、美桜はシアーカーテンの間を移動する。
 子供の頃、一刻も早く遊びたくて、友達の手をこんな風に引っ張ったっけ……。
 という、脈絡のないことを思い出す。あのときのどうしようもない待ちきれなさを、今の一博も感じているんだろうか。
 オプションはなにを頼んだのか憶えていない。なんのお茶を飲んだのか、エッセンシャルオイルもどれを選んだのか、どうやってシャワーを浴びたのかも。
 頭の中はふわふわして、フィクションの中にいるようで……リアリティがなかった。
 気づいたときにはトリートメントルームにいて、ペーパーショーツだけ身に着け、ベッドでうつぶせになっていた。
 いつも通り、ベッドのフェイスホールに顔を埋めると、鼓動の音がうるさい。
 実はこの時点で、一博の身になにが起きたのか、なんとなく察しはついていた。
 前回、感じてしまったのは、私だけじゃなかったのかも……。
 しかも、一博は女性未経験だ。健康な男性の二十三歳といえば、性欲がピークを迎える時期だと聞く。そんな彼とあんな刺激の強いことをしたから、妙なスイッチが入ってしまったのかもしれない。
 どうしよう? これって私が悪いの? このまま進んでしまって大丈夫……?
 今すぐ立ち上がり、バスローブを着て飛び出せば、キャンセルは可能だ。気分が悪くなったとか、急な予定を思い出したとか、理由は適当に言えばいい。
 このまま行けば一線を越えてしまう。一博は若いから余計に歯どめが利かないだろうし、ここは年上の大人の女性として、前途ある若者の未来を守ってやるべきでは。
 けど、私が誰にもなにも言わなければ問題ない……よね?
 どうなんだろう? 問題ないの? バレなければなにをしてもいいわけじゃないし。
 正直、このまま流されてどこにたどり着くのか、見てみたい気もする。
 一博は素敵な男性だと思うし、彼を好きな気持ちもある。真剣な想いかと問われれば、まだ自分でもわからないけど。
 どうしよう? どうする? 逃げるべき? それとも……?
 一ミリも動かず懊悩している間に、ガチャリ、と音がして一博が戻ってきた。
 キャビネットを開けたり、手を洗ったり、カチャカチャと準備をする音が聞こえる。
 しばらくすると、彼がすぐ傍に近づいてくる気配がした。
 うなじにそっと触れられ、ドキッとする。
 洗いたての髪はタオルに包まれている。トリートメントを受けるときは、乾いた髪でも濡れた髪でも、どちらでも構わないと言われている。
 露わになったうなじを、じっと見られている気がした。
「芦名さんの肌……とても綺麗です」
 感動混じりの声に、美桜はうれしさが込み上げる。
「あの……触れても、いいですか?」
 彼の声は少し掠れる。
 この「触れても」が、ただ触れるという意味ではないとわかった。明らかに性的な意味なんだと。
 断るべきだと理性が命じる。今ならまだ引き返せる。ここで拒否すれば、一博はすぐ引き下がるだろう。強引にコトを進めるタイプではないし。
 それなのに。
「いいですよ」
 気づいたら、そう口走っていた。
 一博からの称賛が美桜を大胆にさせたのかもしれない。
 美桜は意を決し、ゆっくりと上体を起こす。体の前面を覆っていたバスタオルが剥がれ落ち、乳房がふるりとまろび出た。
 目の前に立つ一博が、はっと息を呑む。
 胸に釘付けになる視線を感じながら、美桜はゆっくりと仰向けに寝そべった。
 美桜の鼓動は早鐘を打ち、やましさに襲われる。
 こんな誘いかたをしたら、ヤバイ女だって思われない? けど、彼は女性経験がないから、こうでもしないと……。
 じっとしていると、彼の両手が伸びてきて、ふにゃっと双乳を掴まれた。
「あぅっ……」
 オイルまみれの手が、乳房をやんわり包み込む。柔らかさをたしかめるように、優しく揉まれた。
「大きい、ですね。それに綺麗だ……」
 彼の感嘆の声を聞くと、美桜の女性としてのプライドがくすぐられる。
 乳房の付け根から頂に向かい、手は円を描くようにぬるぬる滑りはじめる。
 ゆっくりと揉みしだかれ、ため息が出るほど心地いい。
 だんだんオイルが肌に馴染み、彼の手と同じ温度になった。
「とても柔らかいです……」
 骨張った指が、頂の蕾をいやらしくくすぐる。
 指が蕾を掠めるたび、ぷるんと揺らされ、気持ちいい刺激に声が抑えられない。
「ん……。あぅ……」
 蕾は石のように硬くなる。キュッと摘ままれ、甘い快感が弾けた。
「あぁ……」
 一博君に触られるの、気持ちいい……。このままずっと触られてたい……。
 媚薬のような、癖のあるイランイランの香りもあいまって、官能的な気分が高まる。
 一博は顎をつと下げ、乳房に鼻先を近づけると、賛美する目で蕾をじっと眺めた。
「本当に綺麗です。芦名さんのここ……」
 蕾は薔薇色になり、オイルに濡れ、ツンと淫らに尖っている。
 おもむろに彼は唇を開き、ぱくりとそれを咥えた。
 生温かい舌に蕾が包(くる)まれ、腰がピクンッと跳ねる。
「あぅっ……!」
 蕾は舌の上でコロコロと転がされる。
 あったかくて、ぬるぬるして、よく濡れていて、堪らなくくすぐったい……!
 そういえば、アルガンオイルって元々食用なんだっけ……という、どうでもいい知識が頭の片隅をよぎる。以前、一博に教えてもらった。
 キャンディを唾液で少しずつ溶かすように、蕾は舐めしゃぶられた。もう一方の蕾も優しく愛撫され、心地よさに蕩けそうになる。
 下腹部の奥が熱く疼き、セックスに向かって肉体が開いていく。
 一博君に舐められるの、すっごく気持ちいい……。
 チュッ、と蕾を甘く吸い上げられ、「あぁ……」と声が漏れた。
「一博くん……」
 片肘をついて上体を起こすと、引き寄せ合うようにお互いの唇が近づく。
 一瞬、至近距離で閉じ合わされる美しいまぶたが見えた。
 整った唇に口づけると、想像以上に柔らかく、胸がときめく。
 チュッ、チュッと二度ついばみ、さらにもう一度ついばんだ。
「ん……」
 もっと深いキスがしたいな……と、もどかしさが募る。
 申し訳なさそうに一博が言った。
「すみません。僕、キスもほとんどしたことがなくて。どうしたらいいか……」
 ちょっと可愛くて、キュンとしてしまう。
 ふたたび唇を重ねながら、彼のうしろ頭を右手で捉える。舌先で彼の唇を割り開き、そろりと口内に挿し入れると、彼の体がピクンと痙攣した。
 ウブな反応にいちいちドキドキさせられる。女性慣れしてテクニックに優れた男性よりも、一博のピュアさに堪らなく惹かれた。
 これでしちゃったら、どうなっちゃうんだろう……?
 ちょっと意地悪な想像が脳裏をよぎる。どうなるか見てみたい気もする。
 おずおずした彼の舌に、濃厚に舌を絡ませる。今日の私は大胆だ、と美桜は思った。
 舌先で歯列をなぞり、下顎を甘くくすぐる。
 彼の中でどんどん膨らむ興奮が、舌先の微かな震えから伝わってきた。
「んぅ……んぁっ。はっ、はぁ、はぁっ……」
 二人の唇が離れ、お互いの荒い息が顎にかかる。
 彼は肩で息をし、頬は紅潮し、恋をしている人特有の陶酔した表情をしていた。
 濡れて輝く瞳に、引き込まれそうになる。
 宝石みたいで……綺麗……。
「芦名さん、好きです」
 まっすぐな言葉が心に刺さり、少し驚く。彼の眼差しは場違いなほど真剣だ。
 一博君……。
 もしかしたら、彼には本気の想いがあるのかも……?
 とっさになにも言えないでいると、今度は一博のほうから噛みつくようなキスをしてきた。
「んぅぅ……っ」
 勢いに押し倒され、受け入れる。
 一博は優秀な生徒で、あっという間にキスの仕方を体得していた。
 ぬるりと温かい舌が口内に入ってくる。上顎をくすぐられ、頬を撫でられ、舌に甘く絡みつかれた。
「ん……。んぅ……んん……」
 一博くん、キス、うま……い……。
 愛おしそうに舌の裏側を愛撫され、体の芯がジィーンと甘く痺れた。
 あ……れ……? 一博君て、私のこと……本当に好きなの……?
 彼からの「好き」がまっすぐ心に届いた。ように感じた。飾り気のない素朴さに、感動すら覚える。
 これほど正直な恋情に触れた経験はない。
 こんなときだけど思う。やはり本音をそのままさらけ出せるのは、ある種の強さだ。
 一博はだんだん雄の本能を剥き出しにしてきた。両手で乳房を鷲掴みにし、大胆に揉みしだきながらキスを深めてくる。
「んんふっ……!」
 んちゅ、くちゃ、にちゅ……。
 くぐもった声と吸引音が、室内に淫らに響く。
 どうにか鼻で呼吸をし、口を大きく開けると、奥まで舌を挿れられ、口腔はいっぱいになった。唾液はぬるく溶け合い、舌は淫らに擦り合わされ、脳髄までとろとろに溶け落ちそう……。
 甘……くて、気持ち……いい……。好き……。
 お腹の奥が熱く波打ち、じゅわっと蜜がショーツに染みる。
 どうしよう……。このまま続けるとしても、場所が……。
 かといって、火を点けられた状態で放置されるのはむごい。
 集中が切れたのを察知され、ぷはっと唇が離れ、唾液がつーっと糸を引く。
 お互いの体が離れると、「あっ……」と二人して我に返った。今がいつで、ここがどこで、なにをすべきか、やっと思い出したみたいに。
 唇も乳房も彼の唾液に塗れ、ぬめっている。そっとバスタオルを引き上げて胸元を隠し、何気なく彼のほうを見た瞬間、鼓動が跳ねた。
 あっ……ちょっ……。か、一博くんっ……。
 引き締まった両腿の間から、怒張が力強くスーツを押し上げていた。サラリとした伸縮性のある生地のせいか、凹凸の形状がくっきり見える。見たことがないほど巨大で、猛々しく反り返り、傘の部分が禍々しく張り出している。
 張り詰めた先端部分は濡れ、生地の色が濃くなっていた。
 う……わ……。でかっ……! あんなのが挿入(はい)ってきたら、私……私……。
 見ているだけで口が渇き、鼓動は雷鳴みたく轟く。
 一博は息を乱し、必死の形相で言った。
「芦名さん。僕、二十二時に仕事終わるんで、待っててもらえませんか?」
 頭がぼんやりして、まともに思考できない。ただ、続きをしたいのは同意できる。
 そうするのが正しいかどうかはわからないけど、黙ってうなずいた。


 美桜は火照った体をバスローブで隠し、トリートメントルームを出た。
 ロッカールームで着替え、支払いを済ませ、スパを出るまでの間、他のスタッフにバレないかヒヤヒヤした。一博と共犯者になったような、うしろめたい気分だ。
 とりあえず、一博から言われた通り、二十二時まで待ち(あっという間だった)、その間に送られてきたメッセージの指示通りの地点に行くと、黒塗りの高級車が音もなくやってきて目の前に停まった。
 降りてきたドライバーが恭しくドアを開け、美桜は後部座席に乗り込む。奥には一博が座っていて、申し訳なさそうに言った。
「すみません。お待たせしてしまって……」
 美桜は気にしないで、と首を横に振る。
 そうするのが当然みたく、一博に手を握られ、車は発進した。
 えーと、この車は……。運転手さんつきだけど、一博君のお家の……かな?
 いかにも要人送迎用といった高級外車だ。ボンネットには車に疎い美桜も知っている、世界的に有名なブランドのエンブレムが輝いている。車内はゆったりと広く、インテリアは重厚感のあるウッドトリムで、リアシートの座り心地は抜群だ。立派なフットレストもあり、ハイテクなタッチスクリーンがはめ込まれ、素人目にも最新の設備だとわかった。
 千波から一博の情報を聞いていたので、驚きはない。かつて美桜はそこそこのお嬢様大学に通っていたのもあり、運転手つきのリムジンで送迎される同級生も何人か知っているし、なんなら一緒に送ってもらったこともある。
 そんな中でも、この車はかなり格が上っぽいなぁ、という所感だった。
 勢いでついてきてしまったけれど……。
 本当にこれでよかったのかな……?
 まだ胸に迷いは渦巻いている。
 トリートメントルームでのことは一瞬の気の迷い、あるいは魔が差しただけ、という説明でギリギリ許される範囲だけど、ここから先へ進むとなると話は別だ。
 美桜は別に清廉潔白な人間じゃない。孝行との経験もあるし、なんならもっと経験してみたい、冒険してみたい気持ちはある。そういう関係になるのも、愛し愛される相手じゃなければ絶対に嫌、お互いに恋人という認識がなければダメ、なんて固いことは言わない。
 一時の熱情に身を任せるのもアリだと思う。
 もちろん、相手が好きな人ならば……が絶対条件だけど。
 今さら引き返したくはない。行くところまで行きたいから、ついてきたのだ。
 私、ちょっとワクワクしてるな。今夜、これから起こることに……。
 ひさしぶりの感覚だった。会社と家を往復し、ルーティンワークをこなすだけの退屈な毎日に予期せず到来した、心躍るような高揚感。
 けど、頭の片隅で冷ややかな理性がうそぶく。性懲りもなく期待しちゃって、バカみたい。どうせまた裏切られて、幻滅するに決まってるでしょ。いい加減、学べば?
 脳裏に孝行と沙穂の面影がよぎり、少しだけ冷静になれた。
 車は首都高速四号線に上がり、湾岸方面へ向かって走っている。ちょうど明治神宮の辺りだろうか。遮音壁の向こうに、鬱蒼と茂る木々のシルエットがぼんやり見える。
 夜の都心は本当に綺麗だ。きらめく星をちりばめた、幻想的な箱庭みたいで。このきらびやかな箱庭の中心に、とんでもなく素晴らしい奇跡が隠されている……見る者にそんな期待を抱かせる。
 毎日箱庭に立っているけど、中心に近づけないもどかしさが常にあった。きっといつか私にも素晴らしい奇跡が……なんて信じたいけど、現実は厳しい。箱庭で実際に繰り広げられているのは、マウントの取り合い、傷つけ合い、相手を人間とも思わない、貶し合いばかりだ。
 沙穂や孝行だけじゃない。自分の立場をよくするため、平然と誰かを利用する……そんな人をたくさん見てきた。そして、目にするたびに幻滅してきた。何度も。
 箱庭はただ綺麗に見えるだけで、なにもないのかもしれない。
 ようやく最近、そう思いはじめてきたところだ。
 けど、こうして一博に手を握られ、リアシートに身を沈めていると、否応なく期待してしまう。
 これから、なにかすごいことが起こりそうで……。
 一定の間隔を置いて、道路照明灯が次々とやってきては去っていく。オレンジの光が肩や頬を撫でるたび、日常の世界を抜けて非日常の世界へ移行していく感じがした。
 車内にはずっとヒリヒリするような沈黙が下りている。
 隣に座る一博の様子をそっと窺う。彼は視線に気づいたのか、横目でチラッとこちらを一瞥した。
 あっ……と思い、慌てて車窓の方へ目を逸らす。
 今夜はとてもじゃないけど、まともに目を合わせられない。
 だって、一博君がそんな目をするから……。どうリアクションしたらいいのか……。
 見ているほうが恥ずかしくなるぐらいの、一途な眼差しを向けてくる。
 一博君て、私のことなにか勘違いしてない? 私、過剰に美化されてないかな……。
 彼の頭の中をこじ開け、彼の抱いている芦名美桜像を取り出してみたい。実物と比べてみたら、かなりのギャップがありそうだ。
 あからさまな目つきをされ、戸惑ってしまう。この人、私が好きなんだ、とわかりすぎるほどはっきりしていた。
 こういうの、どう対処したらいいのか。言葉で「好きです」と言ってくれたら、「私も好き」とか、「ちょっと待って」とか、返せるんだけど……。
 一博は言葉よりも眼差しで雄弁に語るのだ。
 けど、実は彼のそんなところも好きだった。正直で、自然体で、他人の目や評価を気にしない、好意も恋情もありのままをさらけ出せるところが。
 私なら、こんな風に恋する瞳にはなれない。周りが気になって、誰かに知られるのが怖くて、恋心をひた隠しにするから。いっつもビクビクして、怯えてて……。
 自分の卑小っぷりに苦笑する。さっきスパにいたときも、他のスタッフに見られやしないかとヒヤヒヤしていた。一博はそんなこと気にも留めず堂々としていた。
 一博は藁にでも縋るように手を握ってきて、必死さが美桜の口を噤ませる。
 どちらかがなにか一言でも発したらすべてが崩れ落ち、この夜が終わってしまう……そんな焦燥と恐怖を、一博からひしひしと感じた。
 暗がりの中、シートが小さく感じられるほど、彼は大きい。手を握る力は強く、絶対に逃さない、という強い意思を感じる。頼もしいし、好ましい。
 半袖から覗く筋肉質な腕や、街明かりに照らされた物憂げな横顔に、どうしようもなく心惹かれた。
 一博君て……やっぱり素敵な人だな……。
 これまで比べたことがなかったけど、一博は就活中の大学生たちより、はるかに大人びている。年齢は変わらないのに、一博のほうが落ち着いていてスマートだ。
 普段は弟みたいに可愛らしい彼だけど、時々ドキリとするほどセクシーに見える。
 一博の余裕を奪っているのが自分なのかと思うと、うれしさが込み上げた。
 ……体が、熱い。熱が冷めない。
 なにも言えず、ただ大きな手を握り返した。
 どこをどう走ったのか、二十分ぐらい経っただろうか。途中から方向がわからなくなったし、道順なんて憶えている余裕はなかった。
 車は警備員のいるグランドゲートを抜け、都心とは思えないほど緑豊かな庭園のあるマンションに横づけされた。
 一博に手を引かれてエントランスに入ると、目を見張るほど広く天井の高い、さながら宮殿のようなロビーが現れた。エレベーターはピカピカで、共用スペースのラウンジが非常におしゃれだったことは憶えている。
「素敵なマンションだね」とか、「何年ぐらい住んでるの?」とか、初めて自宅に招かれたときのお決まりのやり取りをしたかったけど、切羽詰まった様子の一博を前に、なにも言えなかった。無言で手を引かれ、絨毯の敷かれた廊下を足早に通り抜ける。
 一刻も早く抱き合いたくて、こんなに気持ちが逸るのは何年ぶりだろう?
 そうして気づいたら、薄暗いベッドルームに二人きりで立っていた。
 ラグジュアリーホテルのスイートみたく、モダンで洗練されたインテリアだ。
 天井にも床にもぬくもりのある赤木が使われ、同じ木材の細長いパネルが壁に貼られ、木目のパターンの繰り返しがアーティスティックだ。パネルとヘッドボードの間の壁には、和紙を丁寧に編んだようなクロスが貼られ、淡い間接照明に照らされている。落ち着いたスカイグレーのカーテンの前には、大小様々な観葉植物が置かれ、一博らしい緑溢れる空間だった。
 フロア中央にはキングサイズのベッドが置かれている。朝起きて出た状態のままなのか、枕の位置がずれ、ブランケットがめくれていた。
 謎に包まれた一博のプライベートに触れられた気がして、うれしい。
 ベッドサイドに立つ一博が急くように服を脱ぎ捨て、筋骨隆々とした裸身が露わになった。
 感嘆の声が漏れそうになり、とっさに手で口を押さえる。
 うわわっ……。一博君の体、すごっ……。
 一博の肉体はストイックに鍛え上げられていた。といっても、大げさなムキムキではなく、ごく自然で健康的な筋肉のつきかただ。肩も胸も腹も、密度の高い筋肉がみっちり詰まり、それらを包む滑らかな肌が張り詰めている。
 引き締まった大腿筋の間から、ボクサーショーツを突き破る勢いで怒張がそそり勃っていた。不思議といやらしさはなく、エネルギッシュで神々しい印象を受ける。
 わぁ……。一博君、とっても綺麗……。
 発情した野生の獣みたく、原始的な美しさに溢れている。
 今すぐ触れてみたくて、指先が疼いた。
「すみません。なにもしてないのに、僕……勃ってしまって……」
 一博は恥ずかしそうに頬を染め、自らの口を手で覆う。セクシーすぎる肉体美と、恥ずかしがり屋というギャップに、一撃で悩殺された。
 うぐっ……。こ、これは、萌え転がりそう……やばいかも……。
 崩壊しそうな自我をどうにか保ち、美桜も着ているものを脱ぎ、ブラジャーとショーツだけになった。
 強めに腕を引っ張られ、彼の腕の中に閉じ込められる。頬に当たる肌は熱く、密着した胸やお腹がほっと温められる。
 堪らなくいい香りがし、うっとりしてしまった。甘ったるいムスクと、男らしい肌の匂い。体の芯まで甘く痺れ、下腹部の奥が熱を持った。
「芦名さん……」
 想いを込めて抱きすくめられ、感動すら覚える。
 彼の体は大きく、たくましく、絶対的な安心感があった。
 ……一博くん、すっごくドキドキして、少し汗ばんでいる……。
 さっきまで私のほうが年上なんだし、ここは一つ大人の余裕を……なんて冷静でいたのに、まるで一博から感染したみたく、ありえないほどドキドキした。
 視線を上げると、吸い寄せ合うように唇が重なる。
 舌先を甘くしゃぶられ、彼の舌が口内深く潜り込んでくる。だんだん劣情を抑えきれなくなったのか、強く舌を吸われ、口腔を荒々しく蹂躙された。
「……芦名さん……芦名、さんっ……」
 激しいキスの合間、彼は切なそうに名を呼ぶ。
 背中に回った彼の手が、ブラジャーのホックを外そうと悪戦苦闘しているのがわかり、健気さにキュンときてしまう。
 なんか……慣れてる人より、新鮮で好きかも……。可愛い……。
 ようやく外せたらしく、フツッと胸が解放される。ちなみに、効率化を図るべくショーツは自分で脱ぎ捨てた。
 ゴツゴツした手に乳房をやんわり揉まれ、親指で優しく蕾を愛撫され、甘ったるい刺激が下腹部まで響く。
 彼の鼻先が近づいてきて、耳元をすんすんと嗅がれた。次に鼻は首筋をすん、と嗅ぎ、乳房の谷間に潜り込んでくる。
 鼻先は少し冷たく、くすぐったい。
「芦名さん、なにかつけてます?」
 そう聞かれ、なにもつけてない、と正直に答えた。
「なんか、すごくいい匂いがします。大好きな匂いで……堪らなくて。僕、芦名さんの匂い嗅ぐと、勃ってしまって……」
 その証拠に、お腹の下のほうに硬いものがゴリッと当たる。それはますます大きく膨張し、グイグイ自己主張してきた。
 うれしいような、恥ずかしいような、女としての自尊心がくすぐられる。一博といると、自分がセクシーな美女に変身した気分が味わえた。
 さすがに年上の私がリードすべきだよね……? 彼は初めてなわけだし……。
 などと考え、彼の頬を両手で支え、ふたたび口づける。キスしながら彼の腰骨に手を添え、隆起した人魚線をなぞり、ボクサーショーツの中に手を滑り込ませた。
 ふわふわした叢を通り、ほかほかした熱芯を握りしめると、彼の体がビクンッと痙攣する。
 一博の敏感な反応に、美桜のほうがドキドキさせられた。


 ベッドにも行かず手でしちゃうなんて、慌てすぎかも。私も、一博君も……。
 美桜はベッドで仰向けになり、一博に圧し掛かられながら、そんなことを思う。
 シーツと枕から一博の匂いがする。爽やかなハーブと深い森林のような香りだ。市販の香水ではなく、毎日仕事でアロマオイルを扱い、草木を手入れする生活の中で自然と身についたんだろう。
 私、一博君の匂い、すごく好きかも。いつまでもここでこうしてたい……。
 一博の手が伸びてきて額に触れ、するりと髪を梳かれた。彼は髪が好きなのか、やたら触れたり、キスしたりしてくる。
「芦名さんの髪、ほんとに綺麗ですね。ずっと触ってみたかったんです」
 崇拝の眼差しを注がれ、自己肯定感が上がる。孝行と付き合っていた頃は、ひたすら卑屈だったのに、一博といると女性としての自信が回復する。
 一博を見ていると、中学生の頃が思い出された。大好きだった、八坂(やさか)君。ただ手を繋いで通学路を歩くだけで幸せだったっけ。
 私も中学のとき、今の一博君みたいな目をしてたのかな。大好きでいっぱいの目……。
 少し一博がうらやましい。美桜は孝行との一件のあと、人を信じるのが怖くなっていたから。
 それでも、一博のことは信じたい。きっと信ずるに足る人だ。
 一博は美桜の体の隅々まで探索した。耳から首筋に口づけ、鎖骨から腋の下を舌でなぞり、乳房の麓をたゆたい、頂の蕾をくすぐると、今度は臍へ向かう……。
 んんっ……。くすぐったい……。
 彼が我慢しているのがわかった。本当は一刻も早く貫きたいのに、懸命に堪え、美桜の心地よさを優先させてくれている。
 もっと大胆に、乱暴にしてくれていいのに……。
 もどかしさが募り、彼の腕を掴んで秘部へいざなった。
「あの、一博君。ここも……」
 ……触ってください。とは恥ずかしくて言えないけど、ちゃんと伝わったらしい。
「あっ……はい。こうですか……?」
 彼は恐る恐る秘裂をなぞる。
 ひんやりした指先の感触が心地よい。
「あっ……。濡れてる……」
 彼の声に歓喜が混じる。
「少しだけ、馴らしてくれる? すぐに挿れてもいいんだけど、一博君の……ちょっと大きい気がするから」
「はい」
 指は従順に秘裂を探りはじめる。
 花びらをそっとめくられ、割れ目を優しくなぞられ、お尻がぞわりと粟立った。
「んっ……」
 声を漏らすと、戸惑ったように指がとまる。
「あっ、大丈夫ですか……?」
 安心させたくて、大きくうなずいた。
「うん。一博君に触られると、感じちゃって……」
 彼はうれしそうに頬を赤らめる。反応がいちいち可愛くて好き……。
「女性のここ、こんな風になってるんですね。ほころびはじめた薔薇みたいだ」
 彼は感極まった様子でつぶやく。
「え……。見たことないの?」
 一博は「はい」と言ったあと、気まずそうに目を逸らして訂正した。
「いえ、すみません。嘘です。実は、動画とかAVとかで……」
「あ、そっか」
 一博君もちゃんとそういうの観るんだ……。
「僕も一応、男なんで。けど、こんなに間近で実物見るのは初めてです」
「あ、うん」
 正直だなぁ、と微笑ましくなった。
「あ、ここかな……」という声とともに、ぬるっと指が膣内(なか)に挿入(はい)ってきた。
「んぅっ……」
 そろそろと挿入され、指は想像より長く、奥のほうまで届く。
 内部で蠢く指の形状をはっきり感じる。すらりと細く、少し節くれ立ち、骨張っていて、硬い。クチュクチュと擦られると、堪らなく心地いい。
 あ……もっと……。
 物足りなさが伝わったのか、指は二本に増やされ、抜き挿しをしはじめた。
 じわじわと奥まで挿入され、ぬるりとまさぐられる。いくつかのポイントを試されたあと、敏感なところをグッと圧され、ゾクッと背筋を電流が走った。
「あぅっ……!」
「……この辺ですか?」
 ほっそりした指が媚肉を掻くたび、くすぐったい掻痒(そうよう)感に襲われる。
 二本の指は男性器がするように、ゆっくりと抽送を繰り返した。
 あっ……。一博君の指、好き……。
 自ずと媚肉が指に吸いつき、締めつけてしまう。
 彼は指を動かしながら、「あぁ……」とうめいた。
「芦名さんのここ……。挿れるときはすんなり入るんですが、引き抜くとき無茶苦茶絡みついてきて……抜きづらくて。なんか……いやらしくて……」
 言っておいて照れくさくなったのか、彼は頬を赤らめ口を噤む。
 そうかもしれない。わからない。自分で動かしてるわけじゃないから。
 指の動きに合わせ、腰が波打ってしまう。それを見られるのが、少し恥ずかしい。
「あ、あっ……。か、一博くんっ……そろそろ……」
 指だけでは物足りなくなり、飢餓感は募っている。
「あ……。芦名さんのここ、興奮で尖ってきましたね」
 ぐちゅぐちゅと抜き挿しされながら、花芽をそろりと撫でられた。
 ゾクッと腰が震え上がり、息がとまる。
「ん……んっ……。ちょっ……待っ……」
 彼は興味津々で、小さな花芽を撫でたり、つついたり、摘まんだりした。
 そこ、弱いから……ダメッ……!
 という叫びは声にならない。急激にせり上がる快感を堪えるのに、必死で。
 いやらしく花芽をこね回され、密かに達してしまった。
「あぁっ……。んっ……」
 真っ白な快感が弾け、腰がガクッと痙攣する。このとき、膣内の指を強く締めつけてしまった。
 ずるりっ、と指が引き抜かれ、「んんっ」と声が漏れ出る。指からポタポタと雫が垂れ落ち、シーツを濡らす。
 下肢からゆるりと力が抜けていき、うっとりするような余韻だけが残った。
「すみません。僕、勃ちすぎてしまって……。そろそろ……」
 苦しそうに彼は言い、蜜の滴る指を美味しそうに舐める。
 その仕草がひどく色っぽく、美桜の胸は高鳴った。
 オーケーの代わりにうなずくと、彼は膝立ちになり、避妊具を着ける。
 巨大な屹立が蜜口にあてがわれ、丸い鈴口の感触は柔らかい。
 いよいよだ……と鼓動が速まる。達したばかりで蜜口は開き、よく濡れていた。
「いきますよ……」
 緊張した声とともに、ゆっくりと挿入ってきた。
 熱塊に膣道をじわりと拡げられ、痺れるような快感が這い上る。怒張は捻じれながら、奥へ奥へと進んできた。
 う……わ……すごっ……。か……たくて……おっきい……。
 やがて奥まで熱塊でいっぱいになる。ずっしりした質量をどうにか受け容れようと、少しお尻を浮かせた。
「あ……ここまで、ですね」
 一博はつぶやき、腰の前進をとめる。
「だいじょ……ぶ。してるうちに拡がって、奥まで挿入るようになる……から……」
 それだけ伝えると、彼は生真面目にうなずいた。
 蜜壺がはちきれそうで、息苦しい。けど、虚しい空隙はすべて満たされ、膣内で脈打つ彼が愛おしかった。
 ん……。あったかくて、いいな……。一博くん……好き……。
 好きな気持ちが高まると、自ずと締めつけてしまう。
「……っ!」
 彼は言葉にならない声を発し、おもむろに腰を前後させはじめた。両手で美桜の両膝をすくい上げて開かせ、中心へ向かってストロークを繰り返す。
 ゆさゆさと体ごと揺らされ、ベッドのマットは弾み、視界も上下にブレる。
 こちらを見下ろす漆黒の瞳に、惹き込まれた。
 この角度から見上げる一博君、すっごくセクシーで素敵かも……。
 暗い静寂の中、お互いじっと見つめ合いながら、一つに繋がった腰がうねる。
 一途な眼差しは熱く、目を逸らせない。逸らしたくなかった。
「あ、あっ、んっ、んぅっ、か……かっ、かずひろ、くんっ……あぅっ……」
「ここですか……? ここ……?」
 彼は角度を変え、深さを調整し、いいところを一生懸命探ってくれる。
 よくしてあげたい、という優しさが伝わってきて温かい気持ちになった。
「んっ、あっ、いいっ、そこっ……」
 奥の気持ちいいところを擦られ、うっとりするような余韻が腰に響く。
「あっ、あしな、さんっ……。ぼっ、僕も、気持ちいい、です……」
 振動で声は途切れ途切れに弾んだ。
 繋がってるところ、擦れて、気持ちよくて……蕩けそう……。
 彼はだんだん雄の劣情を露わにし、貪欲に快感を追いかけはじめた。
 勢いよく滑りくる矢じりに穿たれ、心地よさに四肢が震え上がる。この頃にはもう、根元まで呑み込めるようになっていた。
「んっ、んくっ、おっ……奥の……ほう、そっ、そこっ……!」
 もっと上り詰めたくて、なにも考えられなくなる。
 突っ込んでは引いていく肉槍に、繰り返し白蜜を掻き出され、シーツに飛沫が散った。
「はっ、あっ、あぅっ、お、奥っ……」
 ぐりぐりされて、気持ちいいっ……!
 深いところをグチュグチュと掻き回され、ぞわぞわっと鳥肌が立つ。
 なにかを求め、中空に手を伸ばすと、一博の手がギュッと握ってくれた。手のひらに頬ずりされ、キスをされる。色っぽい双眸に見下ろされ、胸が甘くときめいた。
 一博君……綺麗……。
「はっ、はっ、はぁっ、みっ、美桜、さん……。はぁっ、みっ、美桜さんっ……!」
 彼は苦しげに美貌を歪め、汗を飛ばしながら、繰り返し名を呼ぶ。
 激しく揺さぶられ、最奥は燃えるように熱く、張り詰めたものが今にも弾けそうだ。
 美桜はシーツを握りしめ、声を上げた。
「はぁっ、あぁっ、もっ……もうっ! も、もう、ダ、ダメッ……いっ……」
 イッちゃう……!
 腰がふるりと痙攣し、白い閃光が弾け飛ぶ。張り詰めたものが弛緩に転じた。
 脳髄までとろりと蕩けるような快感に、我を忘れる。
 あぁ……。すごい……キモチいい……。死んじゃいそう……。
 呼吸に合わせ、蜜壺はゆっくり収縮し、膣内にいる怒張をキュッと搾ってしまい、一博が焦った声を上げる。それは自分でも制御できない強さで、ごめんなさい、と内心で謝罪した。
「あっ、ちょ、ちょっ……と! あっ、ぼ、僕もっ、もうっ……んくっ……!」
 たくましい腰がビクンッと弾み、一番深いところまで挿入ってくる。
 子宮口に食い込む先端から、じわりと熱いものが広がるのを、薄い膜越しに感じた。
 あっ……これ……。出てる……。
 一博は顎を上げて喉仏を晒し、快感に喘ぎながら精を放つ。
「あ……ん、くっ……」
 筋骨隆々とした肉体は汗で光り、放つたびに腹筋は深く割れ、エロティックで美しい。
 うわ……すご……。なんか、ドキドキする……。
 精を注がれながら、うっとりと見惚れてしまう。
 時間を掛けて精を吐き尽くすと、一博はがっくりとうなだれた。
 はぁ、はぁ、はぁ……という荒い呼吸の合間に、彼はつぶやく。
「すみません……早くて。もっと頑張ろうと思ったんですけど」
 申し訳なさそうに頬を染める彼に、キュンとしてしまう。可愛くて、愛おしくて。
「そんなことないよ。すっごく素敵でした。初めてだなんて思えない……」
 これは本音だ。ありえないほど感じてしまった。
 慰めの代わりに、汗まみれの背中をしっかりと抱きしめる。
 彼は甘えるように唇を寄せてきて、熱い口づけを交わした。
 抱き合いながらベッドに倒れ込む。ちゅっ、ちゅっ、とキスをしたり、お互いの肌に触れたり、目が合って微笑み合ったり、まるで恋人同士みたいだ。
 そうしている間もずっと、心は幸福感に包まれていた。
 彼に好かれている、彼は私に恋している、という揺るぎない安心感がある。
 どうしよう。私、このままずっと一緒にいたい。けど……。
 なんの約束も、覚悟もないまま、始まってしまった。
 この関係をどう扱っていいのかわからず、美桜の心に不安がよぎった。

 

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