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きまじめ夫はホントは激しいエッチがしたい

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書籍紹介

縛られた君は最高に綺麗だ

「紗織さんを……縛らせていただけないでしょうか」まじめな康政からの衝撃の一言。うぶな紗織は、愛する夫の頼みならと素直に受け入れる。縛られた妻の痴態にかつてない興奮を見せる康政。「すごく濡れてる」激しく求められることに紗織も快感を覚え、縛りや目隠し……と、一層不埒な夜に溺れていく。淫らな願望を共有してこそ本当の夫婦!? アブノーマル(?)新婚ラブ!

ジャンル:
現代
キャラ属性:
社長・セレブ
シチュエーション:
幼馴染・初恋の人 | 甘々・溺愛 | 新婚 | SM・監禁・調教
登場人物紹介

市川康政(いちかわやすまさ)

紗織の夫。財閥系不動産会社の御曹司。紗織を深く愛しているが、心の底では泣かせたり乱れさせたりしたいとも思っている。

市川紗織(いちかわさおり)

日舞の家元の娘。落ち着いた見た目と育ちの良さから、従順そうに思われがち。康政とは親同士の縁談で結婚したが、実は初恋の人。

立ち読み

 キングサイズのベッドの上で、市川紗織は、夫の康政と向かい合って座っていた。二人とも正座だ。夫はネイビーブルーのシルクのパジャマ、紗織は和晒しのガーゼでできた桜色の浴衣を着ている。
 日曜の夜だった。三ヶ月前、結婚祝いにと祖父がくれたキニンガーの置き時計は、十二時を指している。翌日の仕事に備え、いつもなら午後十一時には布団に入るはずの夫がこんなに遅くなるまで書斎から出てこなかった時点で、様子がおかしいなとは思っていた。
「紗織さんに、折り入ってお願いがあるのですが」
 声が硬い。夫は思い詰めたような顔をしている。薄い唇の両端に力が入っていて、プロポーズしてくれたときや初めての夜を迎えたときよりも緊張しているように見えた。
「はい、何でしょう」
 夫の緊張がうつり、紗織まで声が硬くなった。
「紗織さんを……縛らせていただけないでしょうか」
 紗織は小首を傾げた。夫の言っていることが理解できなかったからだ。
「あの、それは、どういう……?」
「こういったものを使用します」
 スッ、とシーツの上を滑らせて夫が差し出してきたものは、束ねられた真っ赤なロープだった。
 そっちか。
 紗織は面食らった。束縛したいとかそういうことではなく、もっと直接的で物理的な話のようだ。なるほど、そこまではわかった。しかしそこまでだった。
「無理にとは言いません」
「はあ……」
「ですが、僕はぜひともさせていただきたいと思っています」
 康政の表情は真剣で、ふざけている様子は微塵もない。もとより、あまり冗談など言うタイプの人ではなかった。
 縛るとは、具体的にどこをどのようにするのか。その行為にいったい何の意味があるのか。紗織にはまったくわからない。しかし愛する夫が、結婚してから初めて口にした心からの願いだ。自分がどうするべきかはわかっている。
 紗織は背筋を伸ばし、夫をまっすぐに見た。
「──承知いたしました」
 康政はハッとしたように顔を上げた。
「本当によろしいのですか」
「はい。どうぞお心のままに」
 よろしくお願いします、と紗織は三つ指をついて頭を下げた。夫もこちらこそ、と頭を下げる。
 長い夜になりそうだ。


 ピンクと白の大輪の芍薬は、華やかで、見ていて心が弾む。薔薇に似た香りもいい。
 紗織は六畳の和室で、リビングに飾るための花を生けている。芍薬の横には、可愛らしい花水木を添えてみた。床の間には、水盤に生けた菖蒲を飾った。芍薬とは全然違う、菖蒲の背筋が伸びるようなキリッとした美しさも紗織はとても好きだ。
 生け花の出来栄えに満足し、紗織はテーブルに花ばさみを置いた。家にいるときは、この部屋にいるのが一番落ち着く。障子を閉めてしまえば、窓の外が見えないからだ。
 紗織は生まれてからずっと一軒家で生活してきた。父親同士が仲のいい友人だった縁で康政と結婚して、ここに住み始めて三ヶ月経った今も、四十階建てのタワーマンションの最上階から見る眺めには慣れていない。
 ということを、夫である康政に話したことはなかった。このマンションを建てたのは、義父の経営する不動産会社で、息子である康政は市川不動産の取締役を務めている。だから遠慮してしまうということではなく、夫は優しいから、一言でも紗織が「高すぎて窓からの眺めが怖い」などと言おうものなら、おそらく翌日には引っ越し先を探してきてしまうからだ。入籍する直前、完成したばかりだったこのマンションを一緒に見に来たとき、紗織が深く考えず「和室は一つもないのですね」と口にしてしまったがために、即日リフォーム工事が始まったのには本当に驚いた。
 のんびり花を生けている間に、時刻は午後三時を回っていた。そろそろ着替えて、日舞のお稽古に出かけなくてはいけない。まだ五月とはいえ今年はずいぶんと暑い。もう単衣の着物を着たいところではあるけれど、師範という立場上あまり砕けた格好はできない。紗織は紬の袷を桐ダンスから取り出し、ササっと着替えた。
 生けたばかりの花をリビングに運び、マホガニーのサイドボードの上に置く。隣に飾っているフォトフレームの中の写真は、婚礼衣装を着た夫と自分だ。目元が涼しい夫の和風の顔立ちには紋付き袴がよく似合っていて、ほれぼれするほどかっこいい。何度も見ている写真だというのに、ついうっとりと見入ってしまう。婚礼衣装だけでなく、普段からもっと気軽に着物を着てくれたらいいのにと紗織は思っている。忙しい夫はいつもスーツばかりだ。スーツ姿ももちろん、素敵ではあるのだけれど。
 見合いではないとはいえ、ほぼ父親同士の話で決まった結婚だ。今どき親が決めた結婚なんて、と陰で言われていることは知っているが、紗織は全然気にしてはいなかった。
 紗織にとって康政は、初恋の人だからだ。大好きな人と結婚できて、両家の親たちも手放しで喜んでくれているなんて、こんな幸せなことはないだろう。
 紗織は写真の中の夫に微笑みかけてから、バッグを持って玄関に向かった。帰りは少し遅くなってしまいそうなので、夕飯の下ごしらえはもう済ませてある。今日はそら豆と小エビのかき揚げと、キスの天ぷらにするつもりだ。夫は和食を好む。揚げたてで出したら、きっととても喜んでくれるだろう。

 

 実家の離れにある稽古場に行くと、何やら揉めているような声が聞こえてきた。着替え場の方だ。
「またそんな妙なものを着てきて……きちんとした格好をするようにと、何度言ったらわかるんです。やる気がないならお帰んなさいっ!」
「やだなあ、やる気があるからわざわざ稽古に来てるんじゃないですかー。やる気なかったら、そもそも来ませんて。そんな無駄なことしません」
 まただ。叱っているのは、紗織の姉弟子の安田佐和子。そして叱られているのは、中学三年の西脇アリスだと、見なくてもわかる。日舞にストイックな佐和子と、ヒップホップダンスの方が好きだと公言してはばからない中学生のアリスは馬が合わず、顔を合わせるたび言い合いになっているのだ。
 二人の間に割って入らなければと、紗織は急いで着替え場の襖を開けた。
「おはようございます」
「あ、紗織先生、おはようございまーす」
 能天気に挨拶してきたアリスの格好を見て、紗織はつい「あ、可愛い」と口にしてしまった。佐和子にギロリと睨まれ、肩を窄める。
 アリスが着ている派手なピンク色の袷には、手のひら大のトランプがたくさん散っていた。黒い半幅帯にはリアルなウサギが描かれていて、半衿は黒いレースだ。
 なるほど、不思議の国のアリスか。とても派手だが、華やかな顔立ちのアリスによく似合っている。
「あなたが甘いから、教え子のこの子がつけあがるんです、紗織さん」
 佐和子にピシャリと言われ、紗織は「すみません」と小さくなって頭を下げた。
 紗織は、日本舞踊藤居流六代目家元である藤居しず香の一人娘だ。しかし母の一番弟子の佐和子にはまったく頭が上がらなかった。一回り近く年上だからというだけでなく、佐和子と自分では踊りの実力に大きな差があることを自覚しているからだ。
 年に一度行われる各流派合同の舞踊大会で、佐和子は何度も入賞を果たしている。一方紗織は、師範になった年に一度だけ出場したが本戦には進めず、それ以降は出場すらしていなかった。
 紗織は踊ることは好きなのだが、人と競い合うというのがどうにも苦手だった。おかげで家元の娘だというのに、舞踊家としてはたいした実績がない。三千人ほどいる藤居流の名取は、きっと紗織でなく佐和子の方が次期家元にふさわしいと考えているだろう。紗織にしても、今みたいに週に何度か高校生までの弟子に踊りを教え、年に一度全国の藤居流の門下生が一堂に集まる藤居会の舞台に上がるくらいの生活が性に合っていると思っている。大所帯の流派をまとめ上げるなんて、自分には荷が重すぎる。
 母は血縁よりも芸を重んじるタイプだ。本当に家元の地位を娘の紗織ではなく弟子の佐和子に継がせそうだし、それでいいと紗織は思っていた。
「まったく、こんな珍妙な着物、いったいどこで売っているんだか」
「あ、興味あります? よかったらショップ教えましょうか?」
「興味あるものですかっ」
 佐和子はアリスにピシャリと言って大きなため息をついた。
「はあ……発表会までこんな調子だったらと思うと気が気じゃないわ。こんなナリで舞台に上がられたら、藤居流はいい笑いものですよ」
「案外ウケるかもしれないじゃないですか、『藤娘』の斬新な解釈! とかいって」
「もうけっこう。これ以上宇宙人と話していたら、血圧が上がって倒れそうです」
 やれやれというように首を横に振ってから、佐和子は真顔で紗織を見た。
「紗織さん」
「はいっ」
「あなたの弟子なんですから、きちんと身なりから厳しく指導してくださいよ。振りが入っていればいいってものではないですからね」
「わ、わかってます」
「それでは私は失礼しますね」
 紗織に念を押して、佐和子は着替え場から出ていった。
「やだやだ、おばさんは頭が固くて」
 佐和子の足音が遠ざかってから、アリスはペロッと舌を出して肩をすくめた。
「舞台では舞台衣装着るっての。そのくらいのTPOはわきまえてますよーだ」
 わかってはいたが、反省は一ミリもしていないようだ。
「お稽古でもだめよ。そういうカジュアルなお着物は、お友達とお出かけするときとかに着てちょうだいね」
「なんで?」
「日舞にはふさわしくないからよ」
「つまんないの」と、アリスは唇を尖らせた。
「あのね、私はとっても可愛いと思うの、着物の柄も、レースの半衿も。でも皆は驚いてしまうでしょ。うちは年配のお弟子さんも多いし」
 稽古自体は基本マンツーマンとはいえ、稽古前後など、弟子同士が顔を合わせる機会は少なくないのだ。
「でしょでしょ、すっごい可愛いでしょ!」
 アリスは自分に都合のいい部分しか話を聞いちゃいない。
「先生もそんな地味な着物ばっかりじゃなくて、たまにはこういうの着てみたら?」
「え、私が?」
「似合うと思うよ。先生まだ若いし、可愛いもん」
「フフ、ありがと」
 アリスがあまりにあっけらかんとしているものだから、紗織はつい笑ってしまった。
 叱らなければいけない立場だというのはわかっているのだが、アリスがお稽古に通い始めた六歳の頃からずっと見てきたものだから、どうしても甘くなる。まだまだ小さな子供に思えてしまってならないのだ。直接教えるようになったのは、紗織が師範になってからなので、四年ほどになる。
「でも私がそんなポップな着物を着ているのを見たら、母が驚きすぎてひっくり返ってしまうわ」
「お稽古のときじゃなきゃ別にいいじゃない。それこそ遊びに行くときとか」
「どこで誰に会うかわからないでしょ。藤居のイメージを壊すような格好で街を出歩くなんて、とても無理よ」
「先生、可哀想」
「……え?」
 自分で自分のことを可哀想だなんて思ったことは、一度もない。けれどアリスが本当に同情するような目で見てきたから、紗織はドキッとした。
「そんな生活、つまんなくない?」
「どうして?」
「周りに気ぃ遣ってばっかりで、自分が着たいモノも着れないなんてさ」
 家元の娘として、そして財閥系不動産会社の御曹司である康政の妻として、服装や身なりに気を配り、周囲に気を遣うのは当たり前のことだ。だからといって我慢ばかりしているなんてことはまったくなく、結婚後も好きな踊りを続けさせてもらっているし、夫は紗織の行動を制限したがるタイプではないから、日中は特に許可を得ることもなく自由に外出している。それなのに、何かが心に引っかかった。
 気を取り直して、笑みを浮かべる。
「だったら私がこれ以上佐和子さんに気を遣わなくて済むよう、浴衣会ではちゃんとした浴衣を着て、初々しくて可愛らしい藤の花の精をしっかり踊ってみせてちょうだいね」
 年に一度、全国にある藤居流の教室で教えている師範やその弟子達が集まって正式な衣装を身に着けて大きな舞台で踊る発表会を、藤居会という。それとはべつに、それぞれの教室ごとに門下生を集めて日頃の稽古の成果を披露する会が、年に二度、稽古場で開かれる。そのうち七月に行われる会を、浴衣会と呼んでいた。
「任せて。もうバッチリだから」
「ほんと?」
「ほんとほんと」
 どうにも軽いが、たぶん振りはもう本当に入っているのだろう。アリスは今どきの子で、日舞なんて古くさいとたびたび文句を言ったりもするけれど、紗織の生徒の中では断トツに覚えがいいし、上手い。受験資格の得られる十五歳になったら即名取になれるだろうと紗織は思っている。
「それじゃ、さっそく今日のお稽古を始めましょう。この前のおさらいからね」
「オッケー!」
「こら。よろしくお願いいたします、でしょう」
「ごーめーんっ」
「ごめんなさい、です。あ、違った。すみません、か」
 紗織はアリスとじゃれ合うように着替え場を出て、稽古場に入った。

 

「こんなに美味しい天ぷらは、生まれて初めて食べました」
 天ぷらの名店など行き慣れているはずの康政が、嬉しそうに目を細めている。大げさだなと思うけれど、喜んでくれるのは素直に嬉しい。
「フフ、ありがとうございます。このお塩が美味しいからですね、きっと」
 かき揚げには天つゆ、キスの天ぷらには塩をそれぞれ用意した。紗織自身はゆずや抹茶など風味のついた塩も好きだが、夫はシンプルな塩を好むので、食卓にはそれだけ出した。
 沖縄の海水で作られた塩は、先月二人で沖縄旅行に行ったときに買い求めたものだ。長期休みが取れず、新婚旅行が二泊三日の国内旅行になってしまったことを康政はずいぶん気にしていたが、紗織は大満足だった。夫の会社が経営している離島の宿は、客室がすべて平屋の一軒家のような独立した作りで、とてもリラックスできた。四月の沖縄は、暑すぎなくて過ごしやすい。風が吹き抜けるリビングで、いつも仕事に追われている康政と時間を忘れてのんびり過ごせてとても幸せだったし、夜二人で庭に出て眺めた星空は息を呑むほど美しかった。
「塩も料理自体も美味しいのですが、紗織さんと一緒に食べているからというのも大きいと思うんですよね」
「あら、お上手ですね」
「本当ですよ。結婚してから僕は、食事の時間がとても楽しみになりました。毎日夕方過ぎになると、一刻も早く家に帰りたくてたまらなくなります」
「康政さん……」
 結婚するとき紗織は父から、取締役という立場の康政がいかに忙しいか教えられ、平日は家に帰ってこないものだと思っておけと忠告されていた。しかしふたを開けてみれば康政は、毎日とは言わないまでも、週に三日は夕飯に間に合う時間に帰宅して、紗織と食事を共にしている。週末が仕事で潰れることもめったになかった。
「私……康政さんの帰宅が結婚前に想像していたよりずっと早いのは、家で待っている私に気を遣っていらっしゃるからだと思っていました」
 もしかしたら自分は康政の仕事の足を引っ張ってしまっているのかもしれないと、内心心配していたのだ。
「違います、僕がそうしたいんです」
 きっぱりと言い切って、康政はあおさの味噌汁を一口飲んだ。口に合ったらしく、自然と頬が緩む。
「おかげで独身時代よりずっと仕事の効率を考えるようになりましたし、家族を大事にしている社員達が定時で帰りたがる気持ちがよくわかるようになりました。僕が早く帰ることで、部下達も帰りやすくなったみたいですよ。今までも仕事が済んだのなら気にせず先に帰れと言ってはいたんですが、僕がいるとなかなかそうもできなかったみたいで。皆喜んでいます。紗織さんのおかげです」
「……ご飯、お代わり盛ってきますね」
 涙が出そうになってしまい、紗織は康政のご飯茶碗を持ってさりげなく席を立った。
 紗織は家で、いつも一人だった。一人っ子だったし、会社を経営している父親も日舞の家元である母も毎日忙しく、食事を共にする機会はとても少なかった。通いの家政婦さんはいい人だったし、作ってくれる食事も美味しかったけれど、彼女が紗織と一緒にご飯を食べてくれることはなかった。
 両親とも常に紗織のことを気にかけてくれていたし、接する時間が少ないとはいえちゃんと愛してくれていたのもわかっている。だが、寂しくなかったと言えば嘘になる。
 一方康政はというと、母親をまだ子供の頃に亡くしている。父親は紗織の父以上に忙しく、昔から年中国内外を飛び回っていたようだ。紗織と違って兄弟はいるとはいえ、母親の違う、十歳以上年の離れた弟で、一緒に住んだ期間はほとんどないと聞いている。紗織も何度か弟の優吾と顔を合わせたが、夫とあまり親密な関係には見えなかった。
 家族と囲む温かい食卓に憧れる気持ちは、きっと夫も自分も同じだろう。
「芍薬ですか。いいですね、とても綺麗だ」
 康政がサイドボードの花に気付いて褒めてくれた。夫にとって居心地のいい家を作りたいと思っているので、とても嬉しい。
 優しい夫。快適な住まい。好きな踊りも続けられているし、子供が欲しいとはいえまだ結婚したばかりで、焦りは全然ない。
 紗織は今の生活に、何の不満も悩みもなかった。世間知らずではあっても、いい大人だ。自分がいかに恵まれた境遇にあるのかもよくわかっている。
『そんな生活、つまんなくない?』
 アリスの言葉が、ふと脳裏に蘇った。すぐさま心の中で否定する。
 つまらなくなんてない。そんなふうに思ってしまったら、きっと罰が当たる。

 紗織はバスルームで体の隅々まで丁寧に洗い清め、寝間着にしている浴衣を着て、しっかり髪を乾かした。少しだけ寝化粧をして、洗面台の鏡の前で自分の姿を念入りに点検する。
 大丈夫。おかしなところはないはずだ。
 夫はすでに入浴を終え、夫婦の寝室で紗織を待っている。これからそこへ向かうのだと考えただけで、胸がドキドキしてしまう。特に話し合って決めたわけではないけれど、夫は休みの前日の晩になると、決まって紗織を抱くのだ。
 結婚して、三ヶ月。夜の夫婦生活にはまだ慣れない。嫌ではない。初めてのときこそ少々体がつらかったものの、最中に苦痛を感じることは、もうほとんどない。むしろ気持ちよくなってきていることに、紗織は戸惑っていた。寝室の明かりはできるだけ暗くしているから、みっともない顔をハッキリ見られてしまってはいないだろうが、強めに奥を突かれたときなど妙な声を上げてしまうことがたまにあり、恥ずかしくてしかたがないのだ。夫に耳栓を渡して使ってもらったらどうだろうと、紗織は半ば本気で考えていた。

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