婚約破棄してください!
絶倫御曹司は愛することをやめてくれない

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- 本販売日:
- 2022/06/04
- 電子書籍販売日:
- 2022/06/03
- ISBN:
- 978-4-8296-8484-9
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残念だが、君を離してあげられない
優しくて紳士、完璧すぎる御曹司の高太郎。
婚約者の瑠奈は平凡な自分が彼にふさわしくないと思い込み、別れを決意。
せめてもの思い出に抱かれたいと告げると
「俺の好きなようにさせてもらう」
激しい愛撫に喘ぎ、何度も剛直で貫かれ絶頂を迎える。
それでも彼の欲望は衰えを知らず……。
「絶対に離さない」
きつく抱き締められ、胸が高鳴る。
諦めてくれない御曹司の執着愛!

鳴海高太郎(なるみこうたろう)
株式会社NRM建設工業専務。真面目で誠実。優しくて完璧な男性。瑠奈とは親同士が決めた婚約者だが……。

神田瑠奈(かんだるな)
カンダ工藝工業の社長の娘。同社の業務課で勤務。明るくて素直で社長令嬢という特別感がない。高太郎は初恋の人。
「もう、婚約者はやめたい……」
言えた。
やっと言えた。
──けれど、このタイミングでこんなセリフを口にするのは、もしかしたら間違っていたかもしれない……。
きょとーん、とする婚約者の顔を凝視しながら、神田瑠奈は短兵急な己の言動を悔やむ。
誰が見ても目鼻立ちが整いすぎた男前、顔面偏差値爆高の彼、鳴海高太郎がこんならしくない顔をしてしまうのも無理はない。
どこの世界に、高級ホテルのスイートルームで婚約者をソファに押し倒し甘いキスを交わしている最中に、「婚約者辞退希望」を出されるのを予想できる人間がいるというのか。
いや、いない。
というより、このタイミングで言うのはあまりにも空気が読めていなくて自分勝手だ。
(そんなことわかってるけど言っちゃったんだよぉ!!)
瑠奈は心の中で自己弁護を叫ぶ。このあとのことを考えると切なくなって、つい口から出てしまった。
今夜は仕事が終わってから高級ホテルのスイートルームでディナーというセレブ感たっぷりのデート。これも大手ゼネコンの御曹司であり専務として活躍する高太郎だからこそのセレクトだ。
そんな彼の婚約者になって八年。
十六歳のときに、婚約者だと知らされた。もともと、瑠奈が生まれたときからそんな約束が親同士のあいだで交わされていたらしい。
初恋の人が婚約者だと知ったとき、嬉しくて嬉しくて、心臓が止まってしまいそうなほどドキドキした。
でも、八つ年上の彼はとっくに会社で活躍している大人で、自分がとんでもなく子どもに思え、……ちょっと、申し訳なくもあった。
そんな瑠奈を、高太郎はときに妹に接する兄のように、ときに婚約者に接する男性として、絶妙な塩梅で優しく大切にし続けてくれたのだ。
優しく、優しく、大切に……。
大切に……されすぎていた……。
気がつけば、二十四歳になった今も瑠奈は清い身体のままである。
二人で旅行に行ったこともあるし、こうしてスイートルームで過ごすこともある。それでも、キス以上の関係になったことはない。
──おかしくはないか……。
最初のうちは、成人するまで待ってくれているんだと思えた。そのあとは大学を卒業するまで待ってくれているんだと思った。……思おうとした。
けれど、無理だった。
初恋の人はカッコよくて素敵で、一年一年、年齢を重ねるたび、落ち着きのある素敵すぎる紳士になっていく。
どうして、この人の婚約者がわたしなんだろう。そんな疑問を持ってしまうほどに。
彼は瑠奈を女性として見られないのではないか。親同士のつきあいで婚約者に据えられているし、子どものころから知っている瑠奈を傷つけてはいけないと、婚約を決めてくれたのではないか。
高太郎は瑠奈に対してものすごく気を遣って接してくれる。
そのせいで、自分がやりたいことも、自分の本心も、押し殺してしまっているのではないのだろうか。
高太郎には、もっと彼にふさわしい女性がいるのでは……。
そう思いはじめると止まらない。彼にもっと自由な恋愛をさせてあげたいと思えば、瑠奈だって自分の身の丈に合った男の子とつきあったほうが悩みもなくていいのではないかと思いはじめる。
高太郎が思いきれないなら、瑠奈が切り出すしかない。
そう決意をして、どれほど経っているのかもわからなくなっている。言おう、今日こそ言おう、そう思っては言えないまま終わることが何度もあるからだ。
今夜だって、言おうと決意をしてここまで来て、結局言えないまま終わるのかと弱気になったが……。
それを振り切って、やっと口に出せたのだ。
キスをしてどんなに甘いムードになったって、それ以上先へ進むことはない。たとえ瑠奈が「もしかして」と期待をしても、彼はお風呂を用意してくれて、デザートを注文してくれて、お酒を飲みながらゲームをするか映画を観るか、なんだかんだとしているうちに眠くなって、大きなベッドで二人で眠る。
……もちろん、健全に眠るだけ……。
もしかして……なんてドキドキしてしまうのは瑠奈だけだ。いつもそう。
そんなの悲しすぎやしないか。
いやらしいと思われようがなんだろうが、好きな人に触れてもらえないなんて、女性として関心を持たれていないようで寂しすぎる。
いつまでも、気を遣って守られているだけなのはつらい。
瑠奈のひと言に彼らしくない顔をしていた高太郎だが、すぐにまぶたをゆるめて視線を斜め上に飛ばしなにかを考えこむ。
思案するときの彼の表情がまた男らしくてドキッとする瑠奈に、高太郎はそのままの顔で視線をくれた。
「瑠奈」
「は、はいっ」
「婚約者をやめたい、ということは……いい加減“奥さん”にしろ、ってことか?」
「そうじゃなくてっ」
話が飛躍した。そっちじゃない。その方向に行くべき話ではない。
「だから、高太郎さんの婚約者っていう立場でいること自体をやめたいの。つまりは、婚約を解消したいっていうか」
「解消? 婚姻前提の立場でいるのをやめようってことか?」
「そう、それ! よくできましたっ!」
ついに言ってしまった興奮と、わかってもらえるだろうかと戸惑う焦りで瑠奈は正解を出した高太郎を指さす。
その指先に手のひらをあて、高太郎は眉を寄せた。
「人を指でささない」
「……ごめんなさい」
子どもっぽい癖を咎められて、瑠奈は素直に手を身体の横に戻す。瑠奈の言動を注意するときの高太郎は保護者オーラが増し増しになるせいか謝らずにはいられない。
身体を離した高太郎がソファに座り直し、両肘を膝に置き口元を押さえる。深く長い息が吐き出され、瑠奈の胸がズキッと痛んだ。
(……また、困らせてる?)
考えこむ高太郎を見るたび、自分の子どもっぽさが彼を悩ませているのではないかと思い知らされる。
そして、どれだけ自分が彼とは釣り合わないのかを考えさせられてしまう……。
口元を押さえていた手が、わずかに離れる。そこから吸いこまれた空気が、重い声になって吐き出された。
「……瑠奈が、そうしたいなら……」
──ズキン……と、二十四年間生きてきた中で、一番の痛みが胸に響く。
激痛に疼く胸を感じながら、瑠奈はゆっくりと身体を起こす。鼓動が速くて呼吸が震える。それを抑えようと大きく息を吸ってはゆっくりと吐き出した。
動揺してはいけない。これで高太郎は自由になれるし、瑠奈だって、もう、悩みながら好きな人に接する日々から解放される。
高太郎との思い出が、ぐるぐる頭を回る。
もう限界だと思い知らされた、あの日の出来事も────。
桜が咲く季節が好きだ。
別れと出会いが重なりあう季節。終わるものがあれば始まるものもある。
自分が生まれた季節だから。けれどそれ以上の理由として、大好きな人が生まれた季節でもあるから。
でも、桜が咲く季節が一番好きな理由は……。
「瑠奈は俺の婚約者だ。瑠奈も十六歳になったし、これからはそれを意識してくれると嬉しい。いい?」
あの日、大好きな高太郎が、満開の桜の前でそう言って瑠奈を高い高いしてくれた。
婚約者だって言っておきながら、扱いは子どものまま。八つ年上の彼は確かにいつでも瑠奈より大人だけれど、婚約者だというのならもう少しそれらしい扱いをしてくれてもいいではないか。
「じゃ、じゃあ、高太郎さんも、わたしのことをちゃんと婚約者なんだって意識してくださいよっ」
父親同士が親友関係。両家の仕事の関係で家同士のつきあいもある。
そんな鳴海家の長男、高太郎が婚約者だった。
小さなころから大好きだった高太郎。驚くやら嬉しいやら反応に困ってしまい、瑠奈はムキになって高太郎の鼻先に人差し指を突きつける。
すると、その指先に高太郎がチュッとキスをしたのだ。
「わかってるよ。瑠奈」
頬がカァァっと熱くなって、脳髄が沸騰するかと思うくらい恥ずかしくて……嬉しかった。
「でもな、その人を指さす癖は直せ。失礼だぞ」
「わかってますっ」
慌てて指を引っ込める瑠奈を見て、高太郎は楽しげに笑っていた。
舞い落ちる桜の花びらが二人を囲んで、よかったねと祝福してくれるようにさえ感じた。
嬉しくて嬉しくて……幸せで……。
けれどこの幸せは、年を追うごとに少しずつ苦しいものにすり替わっていったのだ。
まるで、桜の花びらが一枚一枚降り積もっていくように……。
「終わったぁー!」
「おつかれぇー!」
「間に合ったぁぁ!」
オフィス内に歓喜の叫びが響き渡る。つい先程まで殺気立っていた室内は、一気に笑顔と安堵の吐息でいっぱいになった。
かくいう瑠奈もその一人。大きく息を吐きながら椅子の背もたれに身体を預け脱力する。力を抜きすぎたせいかズルズルっと腰が滑り、なんともだらしない体勢になった。
「瑠奈ちゃん、ほら、スカートずり上がってるよ」
すかさず背後から注意を飛ばしてくれるのは、先輩の増田睦美である。九ヶ月後の十二月には三十路を迎える彼女、明るく世話好きで、瑠奈が入社したときからお姉さん的存在だ。
「へへ……すみませーん」
おどけて笑い、瑠奈は膝上までずり上がっていたスカートを引っ張りつつ腰を戻す。仕方がないなと言わんばかりに苦笑いを見せ、睦美は小さく息を吐いた。
「脱力する気持ちもわかるけど。ちょっときつかったよね、今回は。営業もさぁ、いい顔したいからって気軽に納期の短縮とか受けるなって」
「でも間に合ったし、結果オーライですよ。営業さんの顔を潰さなくて済んだし」
瑠奈が何気なく庇う。睦美に顔を覗きこまれ、悪戯っぽい顔でニヤッとされた。
「甘いぞー、お嬢サマ。無理な約束はあまりさせないようにしてくださいよー」
「わたしにそんな権限はございませーん」
瑠奈も対抗し、過剰な笑顔を振りまきつつおどけてみせる。すぐに噴き出した睦美にポンポンと頭を叩かれた。
「瑠奈ちゃんはまっすぐでいいなぁ。私なんてここに営業がいたら殴り飛ばしてやりたいっていうのに」
「ええっ、勘弁してくださいよー、増田さんー」
アハハと笑う瑠奈の声に、ちょっとずるい猫なで声がかぶさる。二人が同時に顔を向けると、一見爽やかな笑顔の青年が立っていた。
「来たな、元凶」
「元凶とか言わないでくださいよ。お疲れ様でした、どうぞ、差し入れです」
悪者扱いされた青年、河津航が二人にミルクティーの缶を差し出す。受け取った睦美が渋い顔をするので、瑠奈は座ったまま彼女の腕をポンポンと叩いた。
「いいじゃないですか、終わったんだし。喉渇きましたね、飲みましょう? ありがとう、河津君」
缶の口を開けながら周囲に視線をやると、河津と組んでいる営業主任がみんなにコーヒーや炭酸飲料を配っている。さすがに施主からの要求を呑みまくって工事の手配を急がせた責任は感じているらしい。
瑠奈が勤める株式会社カンダ工藝工業は、電気設備や情報設備、空調設備の工事をメインにゼネコンから請け負う、業界ではそこそこ名の知れたサブコンである。
瑠奈は大学卒業後に入社し、業務課に籍を置いている。
睦美が「お嬢サマ」と言ったのはからかったわけではなく、瑠奈はカンダ工藝工業の社長の娘、いわゆる社長令嬢なのだ。
とはいえ瑠奈自体“お嬢様”という雰囲気はなく、人懐っこいかわいらしさと素朴な雰囲気のおかげで課員に特別扱いされることもない。他部署からも「素直でいい子だね」と言われる人気者である。
仕事はゼネコンから回ってくることもあれば、施主と直接やり取りする別途受注などもあり、今回は条件が格段によかった施主の要求を呑みまくった営業が、少々無茶な納期まで了解してしまった。
直接現場に入る社員も大変ではあるが、その前に各見積もりや資材の手配を行う業務課だって大変だ。
連日の残業の末、それらをクリアできた。それを見計らったように、元凶である営業担当二人がお疲れ様の飲み物を配りに来たらしい。
「ん〜、さすが神田はわかってんなぁ。そうそう、なんとかなったんだし、終わりよければすべてよしっ」
瑠奈の言葉に調子づいた河津が両手を上げてオーバーアクションをとる。ミルクティーの缶に口をつけ、瑠奈はちょっと冷たい視線を送った。
「調子いいよね。で? なんで呼び捨て?」
「同い年じゃん」
「わたしのほうが一年先輩でしょ」
「干支同じだろ」
「それは、わたしが早生まれだからっ。学年はいっこ上だし、入社も君より一年早いし」
「でも同じ歳じゃん」
「わたし、誕生日すぎたから二十四になったし」
「オレだってあと一ヶ月で二十四になるし」
ああ言えばこう言う。入社二年目の瑠奈に対して、河津は一年目である。瑠奈も人懐っこいほうだが、河津もかなり人懐っこい。……いや、外見が少々チャラいイケメンで、そのまんまの性格だ。
そのせいか入社当時から瑠奈によく絡む。瑠奈が早生まれで自分と誕生日も近いと知ってからは同期扱いに近い。
普通、いくらとっつきやすくて友だち感覚で話せる先輩でも、相手が社長の娘となれば少々身構えるものだ。
現に昨年入社の河津の同期たちには一線を引かれている。
その線を踏み越えて、むしろ蹴り飛ばして接してくるのが河津航という男である。
仕事となればそれなりの態度をとるので、別に瑠奈を軽く見ているわけではない。彼なりのコミュニケーションというか愛嬌なのだろう。
瑠奈も立場的なものから遠慮ばかりされるより、よっぽど仕事がやりやすい。
負けずに対抗していた河津だったが、通りかかった男性課員に頭を小突かれ、とうとう言葉が止まった。
「かわづぅ〜、缶ジュースで勘弁すると思うなよ〜」
「あ、やっぱり……ですか?」
「おー、連日の残業だったからな、飲みに行くぞ、当然つきあえ」
「マジっすかぁ。この金曜の夜に」
「なんだよ、どうせ予定なんかないだろう」
「なんすか、それ。オレだって週末の予定のひとつやふたつ……まったくないですねぇ」
肩を組まれ困った声を出しつつ、顔は困っていない。どうやら営業主任が立案者らしく、課長と場所の相談をしているのが聞こえてきた。
「増田さんは行くよね。瑠奈ちゃんは……あ〜、無理か」
睦美の参加は当然とばかりに声をかけた男性課員は、瑠奈を見て言葉を濁す。河津が不思議そうな顔をした。
「なんでですか? 神田も酒好きじゃないですか。引っ張っていきましょうよ」
「いや、たぶん……迎えが来てるな」
「迎え?」
瑠奈は缶に口をつけたまま答えない。代わりに睦美が説明をしてくれた。
「連日残業だったからね〜。彼氏が心配して毎日迎えに来てるんだよ」
「毎日? えっ? 残業くらいで毎日? うざっ」
あまりにも素直に反応してしまったせいか、河津はまたもや男性課員に頭を小突かれる。
「おまえ、営業なんだからもう少し考えて喋れよ。そんなこと言って、バレたら闇に葬られるぞ」
「ひぃぃっ」
「そんなことしませんよ」
脅された河津がおびえたフリをするので、これ以上からかわれないよう瑠奈も口を出す。さらに睦美が助け舟を出してくれた。
「終わったんだし、飲んだら早く行ってあげなよ。待ってるよ」
「あ、はい」
ググッと缶をあおり、瑠奈は帰り支度を始める。
「瑠奈ちゃんお疲れ」
「デートいいなぁ。彼氏スッゴクかっこいいもんねぇ」
「それも大企業の御曹司。羨ましすぎ」
同僚に見送られオフィスを出る。エレベーターに乗ったところでスマホを確認すると、当然のごとく高太郎からメッセージが入っていた。

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