新しくカートに入れた電子書籍 すべて見る
カートを見る 合計金額(税込)0円
新しくカートに入れた電子書籍 すべて見る
カートを見る 合計金額(税込)0円

けんかっぷるですが、結婚することになりまして!?

本を購入

本価格:715(税込)

カートに追加しました
電子書籍を購入

電子書籍価格:715円(税込)

獲得ポイント:7pt
電子書籍を閲覧するにはビューアアプリ「book-in-the-box」(SHARP)をインストールしてください。
書籍紹介

おまえなんか、大好きだっ!

喧嘩ばかりの同期、暁人が好きなのに素直になれない直海。酔った勢いで告白したら「ずっとキスしたかった」荒々しく唇を塞がれて!? 何度も絶頂を味わい、濃密な夜を過ごしたものの、彼の本心がわからない。距離を置こうとすると、裸で眠る直海の写真をちらつかせ「結婚の約束、忘れてないよな?」と脅迫してきて!? 憎まれ口は愛の証! けんかっぷるのときめき社内ラブ!

ジャンル:
現代
キャラ属性:
ワイルド・騎士・軍人
シチュエーション:
玉の輿・身分差 | 甘々・溺愛 | オフィス・職場
登場人物紹介

小村暁人(こむらあきと)

IT企業勤務。身長190cmでがっしりとした体躯で、社内のバスケットボールサークルに所属。面倒見がよく、後輩から慕われている。

駒木直海(こまきなおみ)

暁人の同期で同じくバスケットボール部に所属。高身長で、同性にモテる。暁人とはいつも口喧嘩ばかりしているが、実は……。

立ち読み

「それでは、駒木さんの前途を祝して……乾杯!」
「かんぱーい!!」
 課長の音頭に呼応した声は店全体に響いたのではないかと思うほど大きかった。一番奥の部屋でよかった、と隣に立つ直海はこっそり安堵する。
 今日は日本で有数のIT企業、ケニミリスの技術グループインフラストラクチャー部二課のチームリーダー、駒木直海の送別会。既にチームと課、そして女子社員のみ、更には若手限定と役職者だけの送別会が開かれているので正直お疲れモードである。
 だが、今日の部全体の送別会が最後にして最大規模。金曜日ということもあり、共に頑張ってきた仲間と大いに語り、ついでに思いっきり飲むつもりでいた。
 それは皆同じ気持ちだったのか、早々にグラスを手にした同僚達がひっきりなしにやって来ては別れを惜しんでくれる。とはいえ、直海は退職するわけではない。同じ技術グループ内にあるデータベース部、通称「DB部」へ異動するのだ。勤務場所も本館から渡り廊下で繋がっている新館に変わるだけなので、会おうと思えばいくらでも会いに行けるのだが。
 社内で最も所属人数が多いというのに結束が固い部署だと言われているのには訳がある。「基盤系」と呼ばれる、システムの中で基礎となる部分を構築するチームだけに雑用が振られることも多く、しっかりとした協力体制がなければ仕事が回らなくなってしまうからだ。
 他の部からは低く見られがちではあるが、直海はここが好きだった。
 頼りになる上司、沢山の苦労を共にしてきた同僚や日々成長してくれる後輩。体育会系なノリも居心地がよくて、自分はずっとここにいようと心に決めていた。
 そう──四ヶ月前までは。
「うわーん、姐さんやっぱり行っちゃやだぁー!」
 終盤になると飲み会の目的が曖昧になってくるのはお約束である。座敷の一角で女性陣に囲まれてお喋りに興じていると、酔いが回った市川亜里紗ががばりと抱きついてきた。可愛らしい見た目の彼女は二年先輩である直海を「姐さん」と呼んで慕ってくれている。
 なかなかの勢いだったが、身長百七十五センチと女性にしては大柄な直海は難なく受け止め、優しく背中を撫でてあげた。
 直海のボブヘアさえ無視すれば男女がいちゃついているように見える光景に、周囲の男性社員からは生温い視線が向けられた。
 そういえば、亜里紗には異動を本人に直接伝えるより先に人づてで知られてしまった。
 打ち合わせが終わって会議室を出た直海は、物凄い形相で駆け寄ってきた亜里紗を見て危うくダッシュで逃げそうになったのを思い出す。そして噂が本当だと告げるなり会議室フロアのど真ん中、大勢の社員が行き交う場所で大泣きされたのはもはや伝説と化していた。
 亜里紗が新入社員として配属されてきた時の教育係だったということもあるが、あまりの懐きっぷりにあらぬ疑いをかけられたのも今となってはいい思い出だ。
「まぁまぁ、声をかけてくれればいつでも飲みに行くからさ」
「絶対ですよ!? 最低でも週一は行きましょうねっ!!」
「んー……えーっと、努力する……よ」
 直海は週明けから新しい部署に異動する。そしてすぐに外部の講習を受けに行くことが決まっているので、その期間は諦めてもらうしかない。とはいえ、新しい仕事に慣れるまでは予定を立てるのがなかなか難しいというのが本音だ。
 いつになく歯切れの悪い返事になってしまった。当然ながら亜里紗がそれを聞き逃すはずもなく、顔を上げるなりすうっと目を細めた。
「なんですかそれ。私が欲しいのはそんな答えじゃないんですけど?」
「ごめんね。こればっかりはなんとも言えないなぁ」
「ひどいっ!」
 酔いも手伝っているせいで今日の亜里紗はなかなかたちが悪い。どうやって機嫌を直してもらおうか考えていると、直海に縋りついている細い肩を大きな手が掴んだ。
「そのくらいにしとけ。駒木が困ってるだろ」
「……はい」
 ──来た。
 声を聞いただけで自然と肩に力が入ってしまう。亜里紗が優しく引き剥がされていくのを見つめてからゆっくりと顔を上げた。
「ちょっと小村、邪魔しないでもらえる?」
「おい。わざわざ助けに来てやったっていうのにその言い草はなんだよ」
「誰も頼んでませんけど」
 ああ言えばこう言う、容赦のない舌戦が始まる気配に「またか」と言わんばかりに周囲からすうっと人が離れていった。
 直海の隣にどっかりと座り込んだ男の名は小村暁人。
 同期かつ社員番号も一番違いというかなり近しい間柄ではあるが、二人が顔を合わせると口喧嘩が始まるのは社内でも有名な話だ。だが、それは飲み会など仕事から離れた場に限られているし、暴言に至ることは決してなく憎まれ口を叩き合う程度なので上司からも黙認されている。
 ついでに言えば長身の直海より暁人は更に頭一つ分高い。はっきりとした顔立ちの直海と少々厳ついが整った顔をしている暁人は並んでいるとなかなか様になる。その上、職位も同じ、面倒見がいいので、後輩からはそれぞれ「姉御」「兄貴」と呼ばれ、セットで扱われる場面も多かった。
 どうやら、暁人は直海を怒らせるのが趣味らしい。「お似合いなのにそりが合わないのが残念」と部署内で密かに言われているのを当人達は知る由もなかった。
「つーか、いつの間に勉強してたんだ。全然気付かなかったぞ」
「まぁ……元々そっちにも興味があったからさ、ちょっとチャレンジしてみようかなって思ってね」
 直海が異動する部署への配属には条件がある。その一つに業界でも難関と言われている資格の取得があるのだが、猛勉強の末に試験を一回目の挑戦でパスしたのは自分でも奇跡だと思っている。
 暁人は少し不満げに「ふぅん」と呟き、持参したグラスを一気に空けた。
「そういや、来月の大会は出ないらしいな」
「さすがに異動直後だからね。練習に行くのも難しいだろうし、慣れるまではしばらくは休むつもり」
 社内には社員間の交流を目的とした公認サークルがいくつか存在している。参加は任意だが直海はバスケットボールサークルに所属しており、アマチュアの大会では大事な戦力として重宝されている。ちなみに暁人も同じサークルに所属している。というより、直海が経験者だと知って勧誘してきた張本人なのだ。
 サークル長には異動が決まってすぐに伝えた、と話すとまたもや「ふぅん」とつまらなそうな顔で返された。誘ってもらった手前、直接伝えるのが礼儀だっただろうか。軽く目を伏せ、すっかり泡が消えてしまったビールに口をつける。温くなったそれはいつも以上に苦い味がした。
「ほら」
「あー、ありがとう」
 目の前にビール瓶がにゅっと差し出され、直海は慌てて空になったグラスを持ち上げると酌を受ける。そして酌を返そうと手を伸ばしたが暁人はさっさと自分で注いでしまった。その手つきはやけに荒々しくて、グラスの中身は半分近くが泡になっている。
 直海はグラスを大きく傾け、喉仏が大きく上下するのを見るともなしに眺める。これまで部署やサークル、同期の飲み会で散々一緒に飲んではいるが、こんな不機嫌そうな暁人を見るのは初めてだった。いつもなら陽気に笑いながら直海に絡んでくるというのに。
 いくら犬猿の仲とはいえ、いざ離れるとなったら寂しさを感じてくれている……?
 直海は不意に湧き上がってきた考えが全身へと染み渡るより前に素早く打ち消す。そんな可能性は万に一つもありはしない。
「……なんだよ」
「いや……ルトリンさんの案件、伝え忘れがないかを思い返していたところ」
 配属された直後から付き合いのある取引先だけに思い入れもひとしおで、できれば自分と同等かそれ以上の技術と知識がある社員に引き継ぎたい。異動が決まった際の面談で課長にそう伝えると、引き継ぎ先は今まさに直海の隣にいる男になってしまった。
 とはいえ、暁人の仕事ぶりはずっと近くで見てきている。がっしりとした身体つきから大雑把な性格だと思われがちだが、実は細やかで広い視野を持つ彼には何度も助けられてきた。条件としてはこれ以上の相手はいないだろう。
 そんなわけで記憶をめいっぱい掘り返して引き継ぎ資料を作ったが、まだ伝え忘れがある感じがどうしても拭いきれない。
「今更なに言ってんだよ。『これを見ればなんでもわかる!』って豪語してたじゃねーか」
「んー、そうなんだけど……何か抜けている気がしてね」
 思わず真顔になった直海の隣からぷっと噴き出す声が聞こえた。そして大きな手が頭に乗せられ、わしゃわしゃと髪をかき混ぜてくる。
「ちょっ、それっ……やめてって何度言えばわかんのよっ!」
「うっせーな。本当に抜けてることがあったら容赦なく呼び出してやるからな」
 空になったグラスを置き、急いで髪を整えると少し上にある不敵な笑みをじろりと睨みつけた。
「はぁ!? なんでわざわざそっち行かなきゃいけないの? メッセンジャーで十分でしょうがっ」
「ま、すぐに使えない奴認定されて差し戻しを喰らうかもな。そしたら担当を返してやるよ」
 確かに直海の異動先は高いスキルを求められるから、その可能性はなきにしもあらずだ。だが、当面の間は仕事に生きると決意した直海は必死で喰らいついていく覚悟がある。
「残念でした。ようやく小村の顔を毎日見なくて済むようになるんだもん。そんな幸せな環境を手放すわけないでしょ?」
「お前……っ! こっちが下手に出たからって調子に乗りやがって」
「あはははっ!! ごめんごめん。せいぜい頑張ってねー」
 そして──さようなら。
 決して口には出せない言葉を、ビールと共に喉奥へ流し込んだ。
 今までの出来事が次々と脳裏をよぎり、胸がぎゅっと締めつけられる。目の縁にこみ上げてくるものを必死で押し留め、直海はけらけらと笑った。


 ──ふわふわするなぁ。
 お酒に弱いわけではないが、今夜はだいぶ飲んでしまった。大勢の人が挨拶に来て、その度にちゃんとお酌を受けていたのがまずかったようだ。
 こんな状態で電車に乗るのは危険かもしれない。どこかで少し休もうか、あぁ、いっそタクシーに乗っちゃおう。僅かに残った理性から指令が下り、足先を目的の場所に向けようとした瞬間──身体がぐらりと傾いた。
「……っと、あぶねぇな」
「ふぇ?」
 踏ん張るより先に強い力で肩を掴まれ、直海は気の抜けた声を漏らす。なんとか体勢を立て直してから横を向くとスーツの襟元が視界に入る。
 直海が顔を確認するのに見上げなければならない人物は非常に限られている。見覚えのあるネクタイをしばらく眺め、のろのろと顔を上げればそこには直海を見据える渋顔があった。
「あれ、なんで……小村がいるの」
「お前がふらふらして危なっかしいからだろうがっ」
「あー、ごめん。だいじょぶだから放っといてくれていーよ」
「あのなぁ……さっき電柱に顔から激突しそうになっただろ。大人しく掴まっとけ」
「いやいやいやいや、平気だよー」
 肩から手をやんわり振りほどき、直海は再び歩き出す。が、またもや足を縺れさせて転びそうになった身体は後ろから回ってきた逞しい腕に掬い上げられた。
「おい……これ以上言うこときかないんだったら担いで運ぶぞ」
「無理無理。だって私、かなり重いもん」
「ほーう。そこまで言うなら試してみるか?」
「やめて……ってば!」
 腰を抱く手にぐっと力が入るのを感じ、直海は身を捩って抵抗する。ふらつきながらもなんとか自力で立った直海を見下ろす暁人はなぜか傷ついたような表情をしていた。
「っていうか、小村にそんなことをさせたらファンに恨まれるって。それだけは勘弁して欲しいわぁ」
 大柄で厳つい顔つきの暁人は黙っていると近寄りがたい印象を受けるが、笑顔になった途端にまるで無邪気な少年のようになる。そのギャップと面倒見のいい性格が相まって、暁人には性別を問わずファンが数多くいるのだ。
 ここは会社にほど近い繁華街だから誰に見られるかわかったものではない。そもそもどうして彼だけが一緒にいるのだろうか。アルコールで浮遊する思考では当然その答えに辿り着けるはずもなく、直海は再び歩き始めた。
「おい待て、どこに行くつもりだ」
「あー、えーと……タクシー乗り場?」
「なんで疑問形なんだよ。しかも方向が逆だ」
 暁人が一歩こちらへ近づいてきたので反射的に身構えてしまう。またもや痛みを堪えるような顔をしたものの何も言わず、今度は素早く腕を掴まれた。
「小村くーん、痛いですよー」
「うるさい。ふらふらしている方が悪いんだろ」
 大きな手が左手首に食い込んでいる。痣になるかも、という考えがちらりと頭をよぎったが、わざと体重を後ろにかけて歩くスピードを落としてみた。
 暁人は振り返ると苦々しそうな表情を浮かべ、更に腕を掴む手に力を籠めてくる。遂に直海は声を上げて笑いながら腕をぶんぶんと上下に振った。
「あのなぁ……いい加減にしろよ」
「だからー、放っといてくれていいんだってば」
 不意に立ち止まられ、バランスを失った身体が後ろへ倒れそうになる。慌てて重心を元に戻しかけたら今度は腕を強く引かれた。元々が酔っ払いなだけに、直海はこの程度の揺さぶりであっさり翻弄され、気がつけば目の前にあるネクタイに正面衝突していた。
「い……ったいなーもー。何すんのよー!」
 両手を突っ張らせて暁人から離れようとしたが、腰に回された手がそれを許してくれない。逆に強く引き寄せられそうになり、直海はめいっぱい抵抗した。
 スーツ越しでもわかるしっかりとした筋肉の感触に、ただでさえ熱い頬が更に火照ってくる。傍目には地味かもしれない力比べを続けていると、すぐ近くを通った集団がこちらを見て何やらひそひそと喋っている。
 まずい! と焦った途端に力が緩み、さっきより強く抱き込まれてしまった。掌で感じていたものを額に受け、体温がかっと一気に上がる。
「ごめんって! ちゃんと歩くから離してっ!!」
 半ば悲鳴のような声に道行く人が何事かと無遠慮な視線を向けてくるのが伝わってきた。ただでさえ背が高い二人は目立つのだ。うっかり顔見知りに目撃されたら大変なことになってしまう。
 ようやく腰の拘束が緩んだ。直海は二、三歩後ずさってから大きく息を吐く。乱れた前髪を直していると段々と腹が立ってきた。
 一人で大丈夫だと言っているのに、どうして放っておいてくれないのか。あぁ、もしかして自分の醜態が見たかったのかも? その割には構いすぎな気がしないでもないけど。
 まだ酔いの残った頭では当然考えがまとまるはずがない。だが、さっきのアレはやりすぎだ。これだけはしっかり抗議せねば。
「あのねぇ。確かに私がふざけたのも悪いけど、さすがに今のはどうかと思うよ?」
 いくら遅い時間だからといっても、誰に見られるかわかったものではない。普段よりやんわりとした口調で伝えたつもりなのに、暁人はひどく狼狽した表情へと変わり、直海はにわかに焦り出す。
「悪い。つい……調子に乗った」
 やっぱり後で笑う為のネタ集めだったようだ。だけど、悪戯を咎められた子供みたいな顔をされてしまい、いつの間にか怒りは霧散していた。
「っていうか、小村も気をつけないと駄目でしょ? その気がないのに勘違いさせたら、後々になって面倒なことになるんだから」
 少しおどけた口調にしてみると、ようやく暁人はふっと表情を和らげた。
 ──のも束の間、またもや苦々しそうな表情へと逆戻りする。
「……駒木は勘違いしないのか」
「するわけないでしょ。だいぶ前に諦めてるからねー」
 暁人のぽかんとした表情に思わず声を上げて笑ってしまう。
 今日は金曜日で、どうせ来週から直海は別棟の住人となる。サークルもしばらく休むし、実はこれを機に抜けようとも密かに考えている。
 同じ会社とはいえ、今後は顔を合わせる機会がほとんどなくなるだろう。直海は酔いに任せて開き直ることにした。
「そりゃあさ、もうちょっと背が低くて可愛げのある顔をしてたら頑張っていたかもしれないよ。でもさぁ、逆立ちしたって私は美浦ひかりちゃんになれないんですよ」
 身長百五十センチ、童顔でFカップの売れっ子グラビアアイドルは街を歩けばその姿を目にしない日はない。まさに「可愛い」を具現化したような存在は世の男性から多くの支持を集めている。
「は? なんで美浦ひかりが出てくる?」
「いやいや、隠さなくていいってば。小村はああいう子が好きだって言ってたじゃない」
 あれは──そう、三ヶ月にわたった入社研修をようやく乗り越え、打ち上げと称して同期全員で飲みに行った時のこと。好みのタイプを尋ねられた暁人は「美浦ひかり」と即答したのを隣のテーブルにいた直海ははっきりと覚えている。
 あの時はまだ、暁人を異性として意識していなかった。だから、「男はああいう子が好きだよね」と密かに納得していたのだが。
 高身長で凜々しい顔立ち、学生時代はバスケットボール部に所属していた直海は同性から非常にモテた。バレンタインデーには男子生徒から羨ましがられるほどチョコレートをもらい、本気で告白された経験が数回ある。
 つまり直海は暁人の好みとは対極の存在。いくら同じ部署かつ同じサークル、その上社員番号が一番違いという社内で誰よりも近しい関係であったとしても、恋愛の対象にはなり得ない。暁人から同性のような扱いを受けているのがいい証拠だろう。
 だから、どんなに共に過ごす時間を重ねたとしても、好きになるだけ無駄だということは嫌というほどわかっていた。
 わかっていたのに──惹かれていくのを止められなかった。
「負けるってわかっている勝負に挑むほど、私も命知らずじゃないのでねー」
「ちょっと待て……それって、つまり」
 わかりやすく動揺する暁人を目の当たりにして、直海は思わず笑い声を上げた。いつも余裕そうな笑みを浮かべている顔はほんのり赤く染まり、憎まれ口ばかり叩く口元を左手が覆っている。
 今まで散々からかわれてきた仕返しが思わぬ形でできてしまった。妙な達成感に満ち溢れた直海は「それじゃーね」と軽く手を上げて横をすり抜けようとした。
「お、おいっ!」
「なによ。もう帰りたいんですけど」
 うっかり告白めいた台詞を口走ってしまったが、世の中にははっきりしない方がいいことだってあるのは暁人だってわかっているはず。なのにここで呼び止めるとは意外と空気が読めない奴だな、と直海は少しだけ評価を改めた。
 またもや左腕を掴まれている。直海はさっきと同じように上下に振って抵抗してみたものの、どうにも放してもらえそうにない。
「俺はてっきり……駒木に嫌われているんだと」
「そう思わせるようにしてたよ? なのに絡んでくるのをやめないから、苛められるのが好きなのかなって思ってたけどね」
「そんなわけねーだろっ! あれは、その……」
 暁人が言葉を濁すなんて珍しい。もう少しいじってみたい気もするが、直海の本能がこれ以上踏み込むのは危険だと警告を発している。
 実は、直海が暁人へ塩対応を続けてきた原因はもう一つあった。
 それは──。

おすすめの関連本・電子書籍
電子書籍の閲覧方法をお選びいただけます
ブラウザビューアで読む

ブラウザ上ですぐに電子書籍をお読みいただけます。ビューアアプリのインストールは必要ありません。

  • 【通信環境】オンライン
  • 【アプリ】必要なし

※ページ遷移するごとに通信が発生します。ご利用の端末のご契約内容をご確認ください。 通信状況がよくない環境では、閲覧が困難な場合があります。予めご了承ください。

ビューアアプリ「book-in-the-box」で読む

アプリに電子書籍をダウンロードすれば、いつでもどこでもお読みいただけます。

  • 【通信環境】オフライン OK
  • 【アプリ】必要

※ビューアアプリ「book-in-the-box」はMacOS非対応です。 MacOSをお使いの方は、アプリでの閲覧はできません。 ※閲覧については推奨環境をご確認ください。

「book-in-the-box」ダウンロードサイト
一覧 電子書籍ランキング 一覧

ジャンル・シチュエーション検索

 

ジャンル

キャラ属性

シチュエーション