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拾った年下男子が超尽くし系御曹司で沼りそうです!? 1

第一話

 

 出勤途中の道ばたに、ソファがでん、と据えられていた。
『ご自由にお持ちください』
 傍らに置かれたダンボール箱に札が立てかけられている。
「うわ。本革ソファじゃない」
 思わず声が出た。
 買ったら高い。めちゃくちゃ高い。
 側に寄って触ってみる。
 シックなブラウンの本革のふたり掛けソファは、座り心地がよさそうだ。でも持ち主は手入れが苦手だったのか、座面のすみのほうに小さなシミがある。
革は手入れが大変だ。汚れを丁寧に拭き取って専用のクリームを塗らなくてはならない。
「シミはクッションを載せてごまかすこともできるし、サイズ的にもなんとか……うちに入りそう、かな?」
 だけど、このソファをひとりで自分のマンションの部屋に運び込むことができるだろうか?
 ソファの前で腕組みをして自問した瞬間に、答えが出た。
 ――無理。
 札が立てられていた段ボール箱を覗き込むと、なかにあるのはワイングラスやウェッジウッドのティーセット。
 リサイクルショップに売る手間もはぶき、粗大ゴミとして出すわけでもない。季節はずれの急な引っ越しなのか。それとも暮らしていた誰かとの別離の果ての心機一転ですべて捨てちゃうっていうやつか。
 チクンと胸が痛んだ。
 たぶん名のあるデザイナーの作品なのに、手入れもされずに使われて、道ばたに捨てられた高級ソファ。その裏側にあっただろう誰かの人生。
 どちらも切ない。
「ごめん。私は持ち帰ってあげられないや。運べる力もないし、会社にいかなきゃだし」
 ソファに謝罪するなんておかしな話だ。
 それでも触り心地のいい革から手を離し、そうつぶやいた。
 ――せめて誰かにもらってもらえるといいね。
 帰宅時に、もしまだこのソファがここにあったら、そのときはなんとか持ち帰る努力をしてみようかなと、ちらっと思う。
「でも、ここ、結構目につくし――業者とかが見つけて、トラックで持ってっちゃいそうだよなあ……」
 まあ、そのときは、そのとき。
 縁がなかったっていうことで。
 顔を上げ、大きめのシンプルなショルダーバッグを肩にかけ直し、急ぎ足で会社に向かった。

 

 そしてその日の夜――。
 帰宅途中の道ばたには、まだ、高級ソファが残されていた。
 まばらに星が散らばる都会の夜。車が行き来する往来を白々と照らすコンビニの光。
 ごく普通の路地を背景に、革張りのソファへ向けて街灯がスポットライトみたいに斜めに光を零して――ファッション雑誌から抜けでてきたような美形の男性がひとり座っていて――。
 ぽかんとして無言になったところで、こちらに手を差しだされる。
「座って」
 と、彼は、耳に響く美声でそう言った。

 


 △ △ ▲ △ △

 


 夜空はいつものように深い藍色だった。
 北海道札幌市中央区の路上――九月初旬。
 ひとりの女性が、とぼとぼと歩いている。
 街灯に照らされた人影が、アスファルトの路面に細長くのびている。ゆるくウェイブがかかったセミロングの髪に、紺色のセットアップのパンツスタイル。通勤用の大きめなショルダーバッグ。手に持っているのはコンビニのレジ袋。中味は鮭と昆布のおにぎりとレモンサワーのロング缶二本だ。
 早川あかね。二十九歳独身、会社員。
 インテリアの内装メーカーである『サンノウ株式会社』の、札幌支社に籍を置いている。入社以来ずっと営業事務をしていたのだが、上司の目白部長から、
「早川くんはセンスいいから、内装もやってみたらいいんじゃないか。品番とか、仕入れとか、そういうのはむしろデザイナーより詳しいだろうし」
 と言われ、この春からデザイナーとしての仕事も任されるようになった。
 人によっては喜ぶことなんだろうと思っている。でも、正直なところ、あかねには荷が重い。
 この夜空は、今日、仕事で発注した壁紙の色だと、ぼんやりと思う。
 カタログに載っていたのに実際はもう廃盤で取り寄せ不可になっていて、それに気づいたのが終業時間ぎりぎりで、今日一日のあかねの労働を無にしてしまった壁紙の色。
「なんで廃盤になっちゃったのかなあ。……なんでってことないか。廃盤になるってことは、人気なかったんだよね。あんまり発注こなかったんだろうな」
 カフェも併設の北欧の雑貨を取り扱うショップの壁紙としては、シックでいい色だと思ったんだけどなあ。
「つまり、売れてない壁紙を発注しようとした私って、センスないのでは?」
 うつむくと、道に映しだされた自分の影がやけにうら寂しく感じられた。きっと心が弱っているせいだ。
 あかねは、手にしていたレジ袋をぶんっと大きく揺らす。カサコソと乾いた音がして、袋のなかで二本の缶がカツンとぶつかった。
「レモンサワーですらぶつかる相手がいるっていうのにっ」
 ふいにそんな言葉が零れ、これはもう弱りきっているなと我ながら呆れる。たまたま二本買ったから袋のなかでぶつかることができたのだ。一本にしていたら、レモンサワーはおにぎりとぶつかっていたわけで。
「……おにぎりですらぶつかる相手がいるっていうのに……?」
 重ねてそう言ってみて「馬鹿じゃない、私!?」と自分に突っ込んだ。
「いや、馬鹿じゃないっ。今日は愚痴ってもいい日。だってついてない一日だったし」
 あかねの声が夜空に吸い込まれていった。

 


 あかねにとって、デザイナー兼任は大抜擢でもなんでもない。単純に少ない人員でやりくりしてきたツケがまわってきた、というだけなのだ。デザインをする分、仕事量が倍になって、それでいて給料は上がらず据え置きだ。
 それなのに、あかねの先輩である皆元紀子は、あかねを目の仇にして「早川さんは身体で仕事を取ったのよね」なんて陰で言いふらしている。それだけではなく、皆元は、数少ない、札幌支社の女性社員たちに手をまわし、みんなであかねを無視するように仕向けたのであった。お局と言われるポジションにいる皆元の号令のもと、札幌支社の女性たち八名が、あかねに話しかけなくなった。
 それが春からずっと続いている。
 おとななので、学生時代のように新入学も卒業もない。札幌支店の人員は増減も異動もなく、昨日と同じ今日が巡る。
 春が過ぎ、夏も終わり、秋のはじまりのいまになっても、あかねは札幌支社の女子の群れから追われた「はぐれ女子」のままである。
 ここのところ、会社の飲み会は、女性社員のなかで常にあかねだけが上司の隣につくよう皆元に画策されている。あかねはそれでも笑顔で上司や営業の男性社員たちと酒を飲むが、そんな男たちと酒を飲むあかねの姿を見て、同僚の女性たちが目配せをしてうなずきあっているから、飲んでも楽しくないし、食事だってまずい。
 どうせみんなはひそひそと「やだやだ。早川さん、また男に媚びを売ってるわ~」みたいなことを言っているのだろう。自分たちが、男性社員たちの側にあかねを配置する座席を用意しておいて。そんなの罠でしかないじゃないか。
 しかし、その程度の「はぐれ女子」扱いはまだいいのだ。
 話し相手がいないのは許せたが、とうとう今日は、あかねが入力したデータファイルを消されてしまい、提出した伝票を隠され、捨てられた。
 そんな子どもじみたことを、この年になってもまだやるかねと思ったが――やってくれたのである。
 けれど、そこで上司に泣きついてしまったら、皆元の思うつぼだと思った。きっと「ほら、やっぱり上司のおじさんたちには愛想を振りまくのよ」と、陰口を叩かれる。冗談じゃない。負けてたまるか。
 だってこれは酒の席の席決めなんかじゃなく、仕事なのだ。仕事に支障をきたすようなイジメをされて、泣き寝入りなんてしてたまるか!
 あかねは怒りのあまり能面のごとき無表情になり、すべてに淡々と対応した。
 伝票はもう一度書き直して上司の印鑑をもらってくればいいだけだし、データファイルも作り直してアップロードすればいいだけのこと。
 今日は週末で、明日と明後日は休みだ。ここでがんばらないとリカバリができない。
 誰にも頼らずになんとかやり遂げてみせる――と強い決意のもと残業していたら、皆元が「お先に失礼します」と笑顔を向けて挨拶し、あかねのデスクに近づいてきた。
 なんだろうと身構えると、皆元は、デスクに張りついていたあかねの耳元に顔を近づけて、あかねにしか聞こえない小声で「早川さん、同性に対してだけ、かわいくないんだよね。男ウケばかり気にしてさ」と毒づいて去っていった。
 そんなことを会社で直に言ってくるって、ある?
 驚いてしまって言葉も発せないまま皆元の後ろ姿を呆然として見送った後、あかねの胸中にもやもやとさらなる怒りが湧いてきた。
 しかし言い返したいことがたくさん出てきたときには、もう皆元の姿は消えていた。
 ――私はね、誰が相手でもかわいくないんだよ。うるさいな。
 男受けなんて気にしたこと、ありませんから!
 そもそも自分にはかわいげというものが、ない。指摘されずとも知っている。
 かわいげがあって要領が良かったら、十歳以上年上のお局さま扱いの皆元とうまくやっている。当然後輩たちともきちんと連携を取れているはずだ。それができてないってことは――愛嬌もないし、交際術に長けてもいないのだ。
 会社でかわいげがないだけじゃない。プライベートでもかわいげがない自覚はある。
 たとえば、毎日毎日残業で、つきあっていた恋人に「パワハラっていうか、イジメを受けてるんだよね」との相談もできないまま心の距離が開き、挙げ句の果てに一ヶ月前に振られてしまったくらいには、かわいげがないのである。
 異性にも同性にもうまく甘えることができない。かといって、他人を甘やかすことができる度量があるわけでもない。どっちつかずで、不器用なのだ。
 考えていたら、自己反省に至ってしまう。
「……私がかわいかったら、違ったのかなあ。いろいろ」
 会社での立ち位置はどうにもならないとして、プライベートで、どこかで頼ったり甘えたりしていれば、まだ彼と恋人同士でいられたのか。
 つかの間考え、すぐに打ち消す。
「そんなことないよね。マンネリなのは互いにわかっていたんだし。甘えて相談したところで、結局、別れることになってたはず……。っていうかあのままつきあい続けてたら絶対に傷つけあって殺伐として日々戦いで毎日相手の急所を刺しまくってただろうなあ。私たちそういうところ似た者同士だったしな……」
 相手の弱点を見つけてつぶしがちなカップル。こだわりポイントや性格的な急所が合致していて――だから相手が言われたらいやなことや、弱味が手に取るようにわかってしまうそんな恋人だった。そういう人間関係は、うまくいっているときはいいけれど、だめになったときの悲惨さたるや……。
 これで強く結びついて愛に導かれたらよかったのだろうけれど――。
 彼とあかねの間柄は、恋のときめきは遠のいて、それでいて愛には至らなかった。
 中途半端に、次がいないから交際を続け、会わなくなることで破綻した。
 早いか遅いかの違いだけで、彼とはいずれ別れることになっていたのだろう。
 そうは思っても――振られたくらい、なんともないと自分を宥めつつも――別れてひと月経過してみると、予想外に、ひとりになったことがつらかった。
 ――かわいげがない人間だって、へこたれるときってのがあるのよ。
 それが、今夜だ。
 会社では仲間はずれ。恋人もいない。家族は道東で、自分だけ札幌でひとり暮らし。
 学生時代からの親友がいるにはいるが、彼女は去年、授かり婚をしていまは夫と共に東京だ。住んでいる場所が遠いのはオンラインでの連絡で埋められるけれど、独身者と既婚者、かつ育児中という環境の違いは、いかんともしがたい。
 ――けっこう悪条件が連なってない?  参ったなあ。
 頼るとしたら親友だけど、彼女がはじめての子育てで四苦八苦しているのが想像できるし、睡眠不足なのも理解しているから、盛大に愚痴を言いづらい。彼女にいま迷惑をかけたくないと思うくらいには、あかねは、彼女のことが大事だった。
 そうなると愚痴をはき出せる人間が、いない。
 だからあかねは、ここのところ家電相手にぶちぶちと文句を言うようにしていた。そうしたら、あろうことかテレビが壊れた。見ている番組にたまたま辛辣な感想を告げていた最中だった。ぷちん、という音がしてテレピのディスプレイが真っ黒になり、それきりつかなくなった。
 なんとなく悪いことをした気になった。テレビだって、辛辣な意見を聞きながら機械としての寿命を終えたくはなかったろうな。もっといいことを言ってあげとけばよかったよ。テレビに耳はついてないだろうけれど……。
 テレビはなければないままでもいいや、と新しく購入はせずに手続きをして粗大ゴミとして出し、今度は炊飯器と洗濯機と冷蔵庫にいろいろと話しかける日々がはじまった。
 あかねは、ストレスがたまると、ひとり言が増えるタイプの人間だったようである。
 たいしたことは言っていないが、冷蔵庫と洗濯機にはわりと感謝して、炊飯器には少しだけはっぱをかけがちだった。「早くご飯炊いてよー」だなんて言っていたら――炊飯器がある日、うんともすんとも言わなくなった。
 テレビに続いて炊飯器かと、あかねは、愕然としたのである。
 はっぱをかけるのも、まずかったか。だけど我が身に置き換えると、わからないでもない。ぎりぎりでがんばっているときに「もっとがんばれ」と言われたら、ポキッと折れそう。炊飯器にもテレビ同様、耳はないはずなのだけれど。
 そして――炊飯器が壊れたのは、地味に痛かった。
 生活をしていくうえで、ワンランクダウンした感じ。
 ――冷凍ご飯買ってきてレンジであたためればいいだけなんだけどさあ。なんか面倒で。
 だんだんご飯食べなくてもいいかなみたいになってきて。
 かといって外食ばかりだと栄養が……肌荒れも気になるお年頃だし……お金もそんなにないし。
 いろいろと考えているうちに、心は萎れ、歩く背中もどんどん丸くなっていく。
「あーあ」
 あかねの口から大きなため息が零れたのと同時に、歩道の縁石につま先が引っかかって躓く。そのまままっすぐ前のめりに倒れればよかったのだが、「倒れまい」と身体がバランスを保とうとして、足が捻れた。
 変な形で斜めに負荷がかかり、足もとでガキッと音がする。
「……っ!」
 覚えた違和感に、あかねはふと地面を見下ろす。
 右足が、おかしい。歩くと、身体が傾いで、足もとがスカスカする。足首に痛みはない。ただ歩きづらい。
「なに……これ」
 右の靴を脱いで、手に持ちしみじみ見つめる。ヒールが根元からポキリと折れて、なくなっている。
 慌ててしゃがみ込んでまわりを見回す。少し先に折れたヒールが転がっていた。手に取って、だめもとで靴の踵に押しつけてみた。もちろん、押しつけたくらいで、ヒールはもとに戻らない。
「なんなのよ、これ……。次に壊れるのは洗濯機かと思ってたわよ。もー、なによっ。でも洗濯機よりこの靴のほうが安いから、まだマシか……?」
 いや、どっちがマシとか考える時点で終わってる。洗濯機も靴も壊れないにこしたことはないのだから。
「はあぁぁぁ……。今日はもう最低最悪。ついてないの限界突破だ」
 肩を落として独白し、冷たいアスファルトの歩道に膝をつく。屈んだ自分の影が、小さく濃い色になって足もとに沈んでいる。
「ここまで落ちたら、底はもうない……よね。よく言うじゃない。明けない夜はないって。この不幸続きの毎日もいつか明ける。きっと大丈夫」
 自分自身に言い聞かせる。
 悪いことがあればいいことがある。
 しかしこの考えは、いいことがあれば悪いことがあるっていうループにつながらない? いま暗いから、明日は明るくなるとして――その後は? 明るくなったらいつかまた暗くなるの? 
 ――って、そんなのはどうでもいいわけよっ。もうっ。
「あーっ、いいこと起きろっ!!」
 大声を出して、えいやっと立ち上がる。
 だいたい、立ち上がらないことには、歩きだせない。歩きださないことには、うちに帰れない。空元気でも出していかないと、やってられない。
 いいこと――宝クジが当たるとか、そうじゃなければせめて今朝の道ばたの本革のソファがまだ残っていて、ついでにあれを無料であかねの部屋に運んでもらう手段が思い浮かぶとか。
 適当かつ真剣にあかねは念じた。
 泉に斧を落としたら泉の女神が姿を現し正直者に金の斧を授けてくれるというおとぎ話みたいに、本革高級ソファの女神が傍らに立って「あなたが捨てたのはこの高級ソファですか、それともこちらの普通の椅子ですか」と問いかけて――正直に「どっちも捨ててない」と言ったら、両方の椅子をくれる――というところまで妄想し、あまりのバカさ加減に思わず笑った。
 笑った勢いで、あかねは、片方だけヒールの取れた靴で歩きだす。折れたヒールはバッグのなかにぽいっと投げ込んだ。
「もーやだ! 歩きづらいったらないよ」
 文句を言いながらぽてぽてと進んでいくと行き止まりのT字路だ。
 コンビニの白い光がぼわっとあたりを照らしている。
 いつものように道を右に曲がったあかねの目の前――今朝、本革のソファが捨てられていた場所を見たあかねの足が停止する。
 道ばたに置かれた高級ソファは朝の記憶のままだった。
 あかねから見て、横向きにソファが置かれている。
 ただし記憶と違うのは、そこに男性が座っているということ。
 長い足を組んで、くつろいでいる彼の頭上を照らす街灯はまるでスポットライトだ。
「……完璧な横顔」
 映画のワンシーンみたいだった。
 道ばたにある高級ソファと、そこに座る男性。遠目で横から見たシルエットがパーフェクトすぎる。すっと通った鼻筋と、顎から首にかけてのラインが美しい。
 街灯に照らされた男性の容貌は、この距離でもしっかりと見てとれる。
 濃い顔ではなく、一筆書きで描けそうな感じの和風の美形だ。
 モデルみたいな八頭身。手足が長い。Tシャツに淡いグレーのシャツを重ね、デニムパンツにローファーというカジュアルファッションなのに、どうしてか貴公子然として見える佇まい。
「……え? どーゆーこと?」
 捨てられていたと思ったけど、実はドッキリなのかな。それともドラマの撮影中なのかな。あるいはなにかの宣伝なのかな。なんの、誰の、宣伝かはわからないけれど。
 それともまさかあの人は、高級本革ソファの神か!? あなたが捨てたのはこの高級ソファですか、それとも普通の椅子ですかと問いかけて、正直に答えたら、両方を、あかねの部屋まで運んでくれる神――。
 そこまで考えたところで、その人が身体をひねって、あかねを見た。
 あかねと、彼の目が合った。
 ――格好いい。
 横顔がパーフェクトな彼は、正面から見ても、見惚れるしかない美貌だった。
 さらさらのストレートの黒髪と、たまご型の小さな顔。切れ長の奥二重の双眸がきらりと光った。
 彼はあかねに向かって手を差しだし、
「座って」
 と、そう言った。