子作り契約、はじめました。 独占欲強めの顔がよすぎる同期と目的を達するまで××します 3
胸がざわついて落ち着かない。抗議の言葉を見失ったまま、怜衣は抱えられてエレベーターホールに到着した。
匠海が近づいただけで右側の扉が音もなく開く。中へ足を踏み入れると、彼は怜衣を抱えたままゆっくり向きを変えた。
縦長に切り取られたロビーの景色が少しずつ細くなり、間もなく消えていく。
駆動音も振動もほとんどない。空気がふわりと持ち上がるような感覚だけが、辛うじて上昇していることを教えてくれた。
怜衣の住むアパートにもエレベーターはある。四階に住んでいるので日常的に利用しているが、築二十年を越えているせいか音も揺れもなかなかだ。特に停止する瞬間、籠がほんの少し沈み込むのには今でも慣れない。
それに比べて、このエレベーターはまるで空間ごと移動しているようだった。鏡面の壁に抱えられている自分の姿が映るのが恥ずかしくて、怜衣は息を詰めたまま天井の明かりを見上げる。
ややあって、閉じた時と同じように扉が滑らかに開いた。
そこはまたもや、空間がたっぷり取られたエレベーターホールだった。左手に進んだ先に黒い扉がある。
飾り気のない無機質な扉は、家の入口というよりセキュリティゲートに近い印象を受けた。匠海が近づくと、カチリと小さな金属音が聞こえる。
扉に鍵穴はある。けれどエレベーターと同じく、匠海はなにも操作していない。どういう仕組みなのか気になり、怜衣は思わず周囲を見回した。
匠海がそのままドアレバーを引き、玄関扉を開ける。
それを見つめながら、怜衣は半信半疑のまま口を開いた。
「もしかして、顔認証でセキュリティ制御されているの?」
「ご名答」
あっさり返され、怜衣は玄関の手前でようやく降ろされた。自分の体重が戻ってきて、小さな溜息が漏れる。それは安堵でもあり、感嘆でもあった。
匠海はエントランスからこの部屋に入るまで、一度たりとも鍵やカードキーの類を出していない。しかも指紋認証の機械も見当たらなかった。顔認証でドアが開くなんて、管理費は一体どれだけかかっているのか。想像するだけで身震いしてしまう。
玄関の内側も外と同じように無駄がなかった。淡いグレーの壁に照明が優しい光を投げかけ、ベージュの床タイルを柔らかく浮かび上がらせている。生活の気配は薄く、ここに人が住んでいるという実感があまり湧かなかった。
「早く靴を脱げ」
「あ、うん……」
怜衣は言われるままパンプスから足を抜いた。きちんと揃えられたスリッパがあったので爪先を入れようとした瞬間──。
「……って、なんでそうなるの!?」
また抱き上げられた。
抵抗したせいでバランスを崩し、咄嗟に匠海のシャツを掴んでしまう。動揺したのが恥ずかしくなるほど、怜衣を支える腕はしっかりしていた。
ツッコミは見事なほど黙殺され、匠海は廊下を進んでいく。怜衣は呆れと諦めを抱えたまま運ばれていった。
廊下の突き当たりを右に曲がった瞬間、空気がふわりと広がる。無機質だった景色から一変して、開かれた扉の向こうに明るさと余白が現れた。
そこは広々としたリビングダイニングだった。天井は高く、壁は白というよりわずかに灰を含んだ淡い色をしている。天井の縁から落ちる柔らかな光が、床の木目を静かに浮かび上がらせていた。
フローリングは艶を抑えた深いブラウンで、窓は大きい。夜景の光が薄いカーテン越しにぼんやりと滲んでいる。
家具はどれも主張しすぎない。それでいて、ひとつひとつが明らかに上質だった。グレーの大きなソファーは角が直線的で、センターテーブルはガラスと黒い金属を組み合わせたモダンなデザインだ。壁際の低いキャビネットには数冊の洋書と細身の花器が並んでいる。
無駄に飾らないことで、かえって余白そのものを贅沢に見せる部屋だった。
キッチン側へ目を向けると、石のような質感のカウンターが見えた。シンクもコンロもすっきりと隠されていて、家電の気配は薄い。生活感がないのに冷たくはなく、整然とした都会の夜の静けさがそのまま部屋になったような空間だった。
この場所だけで怜衣の住んでいるアパートの部屋すべてが収まりそうだ。リビングとダイニングだけでこれだけの広さがあるなんて、どう考えてもファミリーサイズだ。
(もしかして、家族と同居してるんじゃ……!?)
そんな可能性が頭をよぎり、怜衣は身を強張らせる。もしここが匠海の実家で、家族が奥から出てきたらどんな顔をすればいいのかわからない。いや、そもそもこの状況と事情を説明できるはずがない。
「あのっ、ここはご家族で……?」
「いや、俺一人で住んでいる」
恐る恐る訊ねると即答された。もしここが家族と同居している家だったら即離脱しようと決意していたが、怜衣は胸を撫で下ろす。
安堵したのも束の間、次の疑問が湧き上がってきた。
(こんな立派なマンションに、どうして一人で住んでるんだろう)
もしかして、副業をしている? もしくは親の持ち物とか……。色々な可能性が浮かんできたが、怜衣は思考にブレーキをかけた。さすがにそこまでは踏み込み過ぎだろうし、こちらが秘密を握られている側で、匠海のプライベートを詮索していい立場ではないのだ。
言葉を飲み込んだところで、匠海がソファーに腰を下ろした。
そしてそのまま、怜衣は膝の上に乗せられる形になる。
前を向かされ、背中が匠海の胸に触れそうになっていると気付いた瞬間、顔に熱が一気に上がってきた。
「ちょっと……!」
「ほら、鞄をよこせ」
抵抗する暇もなく、肩に辛うじて引っかかっていたショルダーバッグがするりと奪われる。匠海はそれをソファーの傍らにあるサイドテーブルへ置いた。
怜衣は膝の上で身動きできないまま、ただ瞬きを繰り返す。
サイドテーブルに置かれた鞄が、怜衣の視界の端で静かに存在を主張していた。自分のものなのに手が届かない。
逃げ道が、またひとつ消えた気がした。
膝の上で身を固くしていると、背後から回された腕が怜衣の身体をすっぽりと覆い隠すように抱きしめてくる。
戸惑いが先に来て、そのすぐ後にほんの少しだけ恐怖が追いかけてきた。匠海が本気を出したら、怜衣がどんなに頑張っても抵抗できない。歴然とした力の差は誇張ではなく、肌を通してひしひしと感じられた。
「あ、の……?」
問いかけの声はやけに掠れている。この状況をどう捉えたらいいのかわからない。ここまで来ておいて今さら怯えるのもおかしいけれど、身体が勝手に緊張してしまう。怜衣は匠海の腕の中で浅く細切れの呼吸を繰り返した。
「やっぱり、いいな……」
ぽつりと呟いた声に喜びが混ざっているように聞こえるのは気のせいだろうか。喉まで出かけた質問が口の中でしゅわりと溶けてしまった。拒むべきなのか、確認するべきなのか、どれも間違いではないはずなのに、その呟きひとつで輪郭が曖昧になる。
匠海は怜衣の望みを叶えようとしてくれている。家のための結婚を避ける「道」を提示してくれた。だから、匠海の望みもある程度は受け入れなければならないと覚悟している。
それでも、こんなふうに抱きしめられるのは予想外すぎた。
篠原匠海という男は、条件をすり合わせ、必要なことだけを淡々と進めるのだろうと勝手に決めつけていた。ずっと冷淡な人だと思っていたのに、身体を包む熱がやけに生々しい。
怜衣はまるで拘束されるかのような、自由のきかない感覚に居たたまれなくなってきた。膝の上から身体をずらすべくもぞりと動くと、背後からの拘束が強くなる。
ぎゅう、と腕が締まり、息が詰まった。
「おい、動くな」
低い声が耳の近くで落ちる。その命令がとても冗談に聞こえず、怜衣は反射的に抗議した。
「く……るしいんだってば!」
苦し紛れの言い訳だった。本当は苦しいというより恥ずかしくて居心地が悪いだけだ。だけど効果はあったようで腕の力がわずかに緩み、ほっと息を吐いた。
その隙に今度は身体を前へ逃がそうとしたのだが、すぐさま元の位置へと引き戻されてしまう。
「あの、そろそろ下ろしてくれない?」
怜衣は声をできるだけ平坦にして切り出す。いくら身体が小さくても、怜衣はれっきとした大人である。子どものように扱われるのは我慢ならないと、顔だけ後ろへ向けて睨むように見上げた。
匠海は眉ひとつ動かさず、代わりに右手がするりと怜衣の頬を撫でる。指先が頬骨のあたりをなぞり、触れられた場所が熱が灯ったようにじんと痺れた感覚に陥った。
「真っ赤だぞ」
淡々とした指摘に心臓が跳ねる。顔が熱いのは自覚しているが、わざわざ指摘しないでほしい。
「暑かったんだから仕方ないでしょっ」
つい語気が強くなる。言い返しながら、怜衣はますます熱が上がっていくのを感じた。恥ずかしさに追い打ちをかけるように背中にジャケット越しの胸板が当たる。分厚くて硬く、呼吸のたびに微かに上下するのが伝わってきて落ち着かない。
怜衣は口を引き結んで視線を逸らした。頬に触れていた手がゆっくりと下へ滑っていく。指先が顎のラインをなぞり、耳の下をかすめ、首筋へと移る。触れ方は乱暴ではなく、むしろ丁寧で優しい。だからこそ余計に怜衣の身体は正直に反応してしまう。
首筋を指先でそっとなぞられた瞬間、背筋をぞくりとしたものが駆け抜けた。
くすぐったいとは少し違う。むず痒いのに嫌ではない。むしろ、お腹の奥から熱が湧き上がってくるような疼きがじわじわと広がっていく。怜衣は思わずこくりと喉を鳴らした。そんな音が出でしまったことに激しく動揺してしまう。
こんな感覚はすっかり忘れていた。ちゃんと自活することで実家を頼る必要はないと証明するのに必死で、恋愛などしている暇などない、と切り離していた。
匠海の手は怜衣が着ているニットの上から鎖骨のあたりを撫でる。そこからさらに下へ降りていき、ジャケットのボタンに掛けられた。
これから起こることが逃げ場のない現実として迫ってきて、反射的に手を押さえてしまった。
「おい、外せないだろ」
頭上から降ってきた声はやけに低い。いつもの素っ気ない口調とは違う、邪魔されたことへの不満がありありと滲んでいた。
「はやくどけろ」
「ちょっ……ちょっと待って!」
匠海は押さえられてもなお、強引にボタンを外そうとしてくる。焦った怜衣は渾身の力を込めて制止した。小柄な自分が抵抗しても力で敵うはずがない。なぜかそれでも止めないといけない気がした。
子どもを作るためにはなにをしなければならないかは当然知っているし、覚悟だってしていた。それなのに、こうして自分以外の手によって服が脱がされていくのを目の当たりにした瞬間、覚悟はたやすく崩れていく。
頭で思っていた「やらなければ」が、現実の「触れられる」に勝てない。これから起こることが急に生々しく思えて怖気づいてしまう。
ジャケットのボタンがひとつ外れると、現実が一歩近づいてくる。本当に逃げられない場所に来てしまったのだと改めて思い知らされた。
怜衣は押さえた手を見つめたまま大きく息を吸う。
拒否したいわけでも逃げたいわけでもない。ただ、急激に現実が近くなったことに心が追いついていないだけなのだ。
微かに震えているのが伝わったのか、匠海の手が止まった。
指先がボタンから離されるのが、怜衣の手のひら越しにわかる。押さえていた手の下から力が抜けていくのを感じた瞬間、怜衣は小さく息を吐いた。
助かったという安堵が胸に広がっていく。けれどすぐに、別の感情が追いかけてきた。
匠海は怜衣の望みを叶えてくれようとしている。提案に乗っておきながら、土壇場で拒むなんて理屈が通らない。怜衣は罪悪感に苛まれ、恐る恐る振り返って謝ろうとした。
その時、怜衣の身体がふわりと浮き上がる。
脇の下に手が差し込まれ、身体ごと反転させられた。景色がくるりと回り、匠海の膝を跨いで向かい合わせになる。突然変えられた体勢に何度も瞬きをした。
匠海の険しさを乗せた顔が近づいてくる。
「ごめっ……」
謝罪の言葉は重ねられた唇によって塞がれた。一拍遅れてその事実に気づき、咄嗟に後ろへ身を退こうとする。けれど、その動きは見透かされていたらしい。後頭部に回された手がすかさずそれを阻んだ。
「んん……っ」
怜衣も負けじと匠海の胸を両手で押したものの、力で到底敵うはずがない。
それでも無駄な抵抗を続けていると息が苦しくなってきた。怜衣はぎゅっと眉根を寄せ、堪えきれずにわずかに唇を開いてしまう。
欲しかったものと一緒に口内に柔らかな感触が触れ、腰のあたりがぞくりと震えた。拒まなくてはと思うのに、呼吸を求める本能がそれを上回ってしまう。
差し込まれた舌先からほんのり甘く、そして薬草を連想させる香りが伝わってきた。そういえばレストランで匠海は透明なリキュールを食後酒として飲んでいたっけ。
たしか名前は……「サンブーカ」と言っていた気がする。こんな味がするんだ、と些細な記憶に縋って意識を逸らそうとする。
けれど、口の中を隈なくまさぐられるようなキスに現実へと引き戻された。全身が火照り、息が乱れる。激しく執拗な口付けを繰り返されるうちに、最初は抵抗していたはずの手がいつの間にか匠海のジャケットをしっかり掴んでいた。
唇が解放された時には怜衣の意識は半ば朧げになっていた。身体を支えられなくなって、くたりと匠海の胸元に預ける。その時を待っていたかのように、肩口に滑り込んだ手が怜衣のジャケットを落とした。
「あっ……」
怜衣は掴もうと手を伸ばしたが、素早く匠海に取り上げられてしまう。ジャケットはソファーの背に掛けられた。
「いい加減、観念しろ」
耳元で響く愉悦がたっぷり混ざった声に怜衣はぴくりと身体を揺らす。囁きひとつでまたお腹の奥からじわりと熱いものが込み上げてきた。
次の瞬間、怜衣の身体が持ち上げられる。匠海の腕の中にすっぽり収められ、宙に浮いた足の感覚が現実だと教えてくれる。匠海はそのままリビングを抜けると再び廊下に出た。
息を整えるだけで精いっぱいだった。怜衣を運ぶ歩みは迷いがなく、突き当たりにある扉が開かれる。
その先にあるのは真っ暗な空間。なにも見えていないはずなのに匠海は迷いなく進むと、ふわりと身体が受け止められた。着地した感覚でここがベッドなのだと判断する。
ややあって、すぐ近くで柔らかな光が灯った。
薄暗い空間は予想していた通り、寝室だった。リビングと同様に広々としていて、無駄のないモダンさはそのままに温かみが足されている。壁は落ち着いたグレージュで、淡い光が部屋全体を穏やかに包んでいた。
ベッドは匠海が二人寝ていても余裕があるほど大きく、適度な弾力がある。
サイドテーブルは左右にひとつずつ、上にはスタンドライトと読みかけの本が数冊。装飾は最小限で、まるでホテルの一室のようだった。
怜衣は思わず寝室の中を見回してしまった。生活の気配が薄いのに、すぐそばにある体温だけがさっきからずっと生々しく感じられて落ち着かない。
不意に肩を押され、ころりとベッドの上に転がされた身体をマットレスが受け止めた。怜衣は息を詰めて薄暗い天井を見上げたまま、まだ思考が状況に追いつけない。咄嗟に起き上がろうとしたところに匠海が覆いかぶさってきた。
視界が影に覆われて熱がさらに近くなり、鼓動がうるさいほど騒ぎ立てる。
「あ、あのっ……」
「往生際が悪い」
呆れを含んだ低い声が降り注ぐ。怜衣は反射的に両手を伸ばして迫ってくる身体を押し返そうとした。けれど当然ながらうまくいかなかった。
力で無理なのであれば言葉で止めるべきなのに、なぜか声が出てこない。
匠海は逃げる隙を塞ぐかのように深く口付けてきた。抵抗する術を失った怜衣の頭の中は熱で浮かされ、考えがちぎれていく。
息すらも奪うようなキスに翻弄されているうちに、ニットがたくし上げられていった。気づいた怜衣が身体を強張らせたが動きは止まらない。唇が離れた一瞬の隙に頭を抜かれ、いつの間にか頭上へ上げさせられていた両手からもするりと抜かれてしまった。
あまりにも鮮やかで慣れた手つき。その手際の良さが怜衣の胸にある疑念を呼び起こす。
匠海がこういうことに慣れているのは経験が豊富だからに他ならない。その上、見た目も整っているのだから──。
(もしかして、恋人がいるんじゃないの?)
大事な確認をしていなかったことに今さら気づき、焦りが一気に膨らんでいく。人のものに手を出す真似だけは絶対に避けなくてはならない。こんな状況で訊ねるのはどう考えてもおかしいが、今のうちに確認しなければ。
慌てて口を開こうとした瞬間、匠海の手が腰へと移る。ベルトの金具が外れる小さな音がやけに鮮明に響いた途端に疑問が頭から飛び出し、代わりに心臓が跳ね上がった。
「ひゃあっ!」
パンツがストッキングもろとも引き下げられ、思わず漏れた悲鳴はこの部屋の静けさには似つかわしくないほど甲高かった。薄暗い寝室に響いた自分の声に怜衣は遅れて頬が熱くなるのを感じる。恥ずかしさと驚きが混ざって息の仕方がわからない。
匠海が、くくっと喉を鳴らして低く笑った。
「随分と色気のない声だな」
揶揄い交じりの指摘に、怜衣は反論の言葉を見つけられない。羞恥と少しの恐怖、そしてなぜか悔しさが一気に押し寄せてきて思考が散らばってしまう。
匠海は気を悪くした様子はなく、むしろこの状況を楽しんでいるように見えた。ついさっきまで怜衣の脚を包んでいたものが匠海の手から離れ、ベッドサイドに軽やかな音を立てて消えていった。
またもや匠海の手が腰のあたりに伸びてきて、今度はスリップをするりと脱がせた。
「お、意外と大きいな」
「いが、い……っは、よ、けいっ……!」
ブラ越しに胸をやんわりと掴まれて声が跳ねる。慌てて唇を引き結ぶと、これ幸いとばかりにふにふにと弄ばれた。
背が低くて細身の怜衣だが、胸だけはしっかりある。当人としてはこの成長が背の方に回ればよかったのに、と何度思ったかわからない。現実とはままならないものだ。
(ちゃんとした下着を選んでおいてよかった……!)
こういう展開になることなんて露ほども想像していなかった。だが、匠海に身の上を打ち明けなければならないという緊張もあり、気合いを入れるためにお気に入りを着ていたのだ。
安堵する一方で、明るいオレンジ色のレースの上を大きな手が滑っていく光景に頭がくらくらしてくる。
「そろそろ見せてもらおうかな」
匠海が嬉しそうに囁くと同時に胸元の締め付けが緩んだ。目の前をオレンジ色の肩紐が滑っていくのを見て、胸を隠すものがなくなっていたことに気づき、咄嗟に腕で覆うと匠海が不敵な笑みを浮かべた。
「そうしていられるのは今のうちだぞ」
どういう意味かを問うより先にネクタイに指が掛かってしゅるりと引き抜かれ、続いてジャケットが腕から滑り落ち、ワイシャツのボタンが外されていった。
白いシャツの隙間から露わになっていく素肌に怜衣の視線が吸い込まれてしまう。はたと気づいて勢いよく逸らすと、またもや低い笑い声が耳朶を打った。
カチャカチャと金属がぶつかり合う小さな音に、それが意味するものに思い至り、怜衣はぎゅっと目を閉じた。
「ひゃっ……」
背中とシーツの間に滑り込んできた手によって怜衣の身体が軽く浮き上がる。そのまましっかりとした弾力のある温もりに包まれ、心臓がどくりと大きく跳ねた。
頬が押し付けられている匠海の素肌は驚くほど滑らかできめ細かい。そして、その奥から激しい脈動が伝わってきて、体温が一気に上がった気がした。
素肌を合わせて、息苦しさを覚えるほどきつく抱きしめられている。額に唇が押し当てられ、反射的に顔を上げるとすかさず唇を塞がれた。
「んっ…………ふ、あっ……」
胸元を隠していたはずの腕はいつの間にか外され、代わりに匠海の手が膨らみを覆う。絶妙な力加減で捏ねるように弄られ、くぐもった喘ぎを零した。
手のひらの中で胸の尖りが硬さを増しているのがはっきりわかるのが恥ずかしい。止めてほしいのに、もっとしてほしいとも思ってしまう。そんな相反する願いと執拗なキスが怜衣の身体を急激に高めていった。
「あっ……ちょ、っと……ま、って…………」
「待たない」
怜衣の懇願はあっさり却下され、匠海の唇が首筋を滑り落ちていく。時折軽く吸い付いてくるから身体が勝手にひくひくと反応してしまう。
鎖骨まで到達するとぴりっとした痛みが走る。じわじわと熱を帯びてきたその場所にぺろりと舌が這わされた。
------
ご愛読ありがとうございました!
この続きは9月9日頃発売のオパール文庫『子作り契約、はじめました。 独占欲強めの顔がよすぎる同期と目的を達するまで××します』でお楽しみください!