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インフィニティ・ラブ 好感度メーターがぶっちぎりのわんこ系後輩に死ぬほど執着されてます 3

第三話

 


 明日には治る──そう思っていた二階堂の体調不良だが、予想に反して翌日も彼は休み。
 そしてその次も、その次も、そのまた次の日も休み。
 最初は「熱っぽいらしいし風邪かな」くらいに軽く考えていた小夜だったが、二日、三日と欠勤が続くうちに、不安がじわじわ膨らんでいく。そしてついに四日連続休みとなったとき、小夜はパソコンの画面に向かいながら、心ここにあらずの状態になっていた。
(これは……さすがに、ただの風邪とかじゃないよね)
 胸の奥がざわつく。昼休みに思い切ってスマートフォンを取り出し、再びメッセージを送った。
『大丈夫? 食べ物とか薬はある? ないなら持っていこうか?』
『助かります。実は家に食べられる物がなにもなくて……。病院には行ったんですけど』
 メッセージの最後には、二階堂の家の住所が書かれている。篠原駅から降りて徒歩五分のマンションらしい。
 普段、「格好つけさせてください」と冗談めかして言っている彼が、頼ってくるなんて……よっぽど具合が悪いんだろう。病院に行ったのならひとまず安心だろうけれど。もしかして、デートの日も元から具合が悪かったとか? 無理していたんだろうか? 雨がトドメになっちゃったとか?
 彼の変化に気付けなかったことが悔やまれる。
『今日の仕事帰りに食べ物持っていくね。待ってて』
 そう返信した小夜は、超特急で仕事を終わらせ、定時上がりをした。
 そしてメッセージに書いてあった住所に行ってみると──
「えっ、ここ、なの……?」
 買い物袋を手に持った小夜は、スマートフォンの地図アプリを何度も見返した。どうやら住所はここで間違いないらしい。
 駅から徒歩五分──都会の喧騒を程よく切り離した場所に、その高級マンションは聳え立っていた。外観はガラスと御影石を組み合わせた重厚なデザインで、植栽の緑と夜間にはライトアップされるエントランスが、一際洗練された雰囲気を醸し出す。どう見ても高級マンション。二階堂がここに住んでいる、と?
(お家賃だけでうちの会社のお給料吹っ飛んでしまいそうだけど……? もしかして持ち家? あ! ご家族と一緒に住んでいる、とか?)
 勝手に独り暮らしだと思っていたのだが……。でも家族が一緒なら、病気の二階堂の食事もなんとかなりそうな気も……
(出張とかあるかもだし……お家の人と一緒に住んでるけど、今はひとり、なだけかも!)
 そう解釈して、おずおずとエントランスに近付き、オートロックインターフォンで二階堂の部屋番号を押してみた。
 ピンポーン……
「……はい」
「あ、水無瀬です」
 本当にここで合っているのかと不安に思いながらインターフォンのカメラを覗き込む。すると、機械越しに二階堂のほぐれた声がした。
「小夜さん! ありがとうございます。どうぞ入ってください」
(ほ、本当に二階堂くんのお家だった……)
 間違いじゃなかったことに驚きつつ、エントランスに入る。
 エントランスホールは天井が高く、ホテルのロビーを思わせる広々とした空間。大理石の床にはシャンデリアの光が柔らかく反射し、壁面はアートピースが飾られている。正面には、常駐のコンシェルジュデスクがあり、ホテルマンのような制服を着たコンシェルジュが、にこやかに「こんばんは」と声をかけてきた。
「こ、こんばんは……」
 悪いことをしているわけではないが、入っていいものかドキドキしながら会釈して、エレベーターに乗り込む。
 そうしてようやく、二階堂が教えてくれた番号の部屋の前に着いた。
 ピンポーン……
 ちょっと緊張しながら部屋のインターフォンを押す。すると──
 ガチャッと玄関ドアが勢いよく開いて、Tシャツとスウェット姿の二階堂が小夜の胸に倒れ込んできた。
「小夜さぁ~ん……本当に来てくれた……どうしよう。また好きになっちゃう……」
 うわごとのように呟く彼の顔は真っ赤だ。セットしていない髪がサラッとしていて新鮮だったけれど、好感度メーターはいつも通り突き抜けていて真っ赤の∞。ハートがポコポコあふれてきているが、心なしかいつもより勢いがない。よっぽど身体が辛いと見える。
「大丈夫? 二階堂くん。これ、いろいろ適当に買ってきたから。食べられる物があったら食べて。そして元気出して」
「ありがとうございます……ほんと、助かります……」
「身体熱いね……ちょっとおでこ触るよ?」
 寄り掛かってくる二階堂の額に触れてみると、明らかに熱い。これは三十七度後半か、三十八度くらいはありそうだ。二階堂はぐったりと目を閉じて、更に小夜にもたれ掛かってきた。
「二階堂くん、しっかりして。横になろう。部屋入るね」
「ふぁ~い」
 二階堂の足元が覚束ない。やはり家の人は他にいないようだし、この数日ひとりでどうしていたんだか……。もっと早く来るべきだったと小夜は少し後悔した。
「お邪魔します。──二階堂くん、ベッドどこ?」
「……奥の部屋です」
 二階堂の肩を支えながら部屋の奥へと進んでいく。廊下とリビングを仕切るであろうドアを開ける。
 マンションの外観から想像はついていたが、中も広い。大型テレビと三人掛けソファが置かれたお洒落なリビングダイニングにはドアがふたつあって、そのうちの片方が開いており、電気の灯りが漏れていた。
「この部屋です」
「うん。横になろ。しんどかったね」
 二階堂が、どさっと力なくベッドに崩れ落ちる。ここが彼の部屋らしい。広いがベッド以外特になにもない部屋だ。ベッドはセミダブルベッドで、少し大きめ。窓にはグレーのカーテンが掛かっている。
 彼にブランケットを着せた小夜は、サイドテーブルに処方薬や飲み物、電気のリモコンと共に置いてあった体温計を手に取った。
「今、何度かな? 測ってみて」
「はぁい」
 二階堂はおとなしく体温計を脇に挟む。その間に、小夜は買い物袋を開けて、買ってきた物を見せた。
「レトルトのおかゆでしょ、ゼリーとパン。それからプリンもあるよ。なになら食べられそう? おかゆは?」
「ん。おかゆ、たべる……」
 二階堂がいつもより少し幼くなっているように感じる。不謹慎にも、弱っている彼に胸がきゅんとしてしまった。
 ピピピ、ピピピ……
 体温計の音が鳴る。二階堂がのそのそと体温計を取り出して見せてきた。
「七度八分。ちょっと高いね」
「下がったほうです。一昨日は八度六分まで上がったんで」
「そっか……大変だったね」
 咳や鼻水はなさそうだ。本当に熱だけ、ポンと高く出てしまっているんだとか。
「雨に濡れたくらいで情けない」
「びしょ濡れだったもんね。ごめんね、早く帰ればよかったね」
「いや、僕が帰りたくなかったんです。小夜さんと一緒にいたかったから……」
「…………」
 小夜は二階堂の髪をそっと撫でた。指先に、少し熱を帯びた柔らかい髪の感触が伝わる。二階堂は目を細めて、気持ちよさそうにじっとしていた。普段は元気いっぱいな彼がこうして弱っていると、どこか子供のように無防備だ。それが可愛い。熱のせいか、頬がほんのり赤くなっている。じっと小夜を見上げて、目を逸らさない。まるでここに小夜がいることが信じられないと言いたげに、奥歯を噛み締めるのだ。そのひとつひとつの仕草が、胸を擽って仕方ない。
「わたしも、二階堂くんといたかったよ。また一緒に出掛けよう?」
「……はい」
 二階堂が嬉しそうに目を細める。小夜は買い物袋を持って掲げた。
「おかゆ温めてくるね。キッチン借ります」
「ありがとうございます」
 小夜は鞄をサイドテーブルの横に置いて部屋を出た。
 リビングダイニングと対面になっていたキッチンは、鍋や包丁などひと通りはある。が、冷蔵庫を開けると、驚くほどなにもない。スポーツドリンクが二本あるだけだ。二階堂はこの数日、ほとんどなにも食べていなかったんじゃないだろうか?
(栄養取れてないから治りが遅いんじゃ?)
 そんなことを考えてしまう。
 小夜はレトルトのおかゆを湯煎して、食器棚から出したお椀に入れて二階堂の寝室へ持っていった。
「できたよ~」
「ありがとうございます」
 二階堂がベッドの上で身体を起こす。
 小夜はベッドサイドにちょこんと座って、おかゆを彼に手渡そうとした。
「はい、どうぞ」
 でも二階堂は受け取らない。それどころか彼は──
「……あーん」
 小夜に向かって口を開ける。思わずきょとんとして目を瞬いた。
「……ダメですか……?」
 甘えた表情で言われて、小夜は「ぷっ」と噴き出してしまった。
「なぁに? もう、赤ちゃんじゃないんだから自分で食べられるでしょ?」
「いや、これはチャンスだと思って」
 なにを言ってるんだか。でも可愛い。小夜は笑いながらお椀を掻き混ぜ、おかゆをひと匙すくって二階堂の口元に差し出した。
「もーっ。特別だよ? はい、あーん」
「やった!」
 彼は嬉しそうに身を乗り出すと、スプーンに自分からかぶり付く。それが本当ににっこにこの笑顔で、好感度メーターからハートがポコポコと飛び出してくるんだから、小夜の頬も自然と綻んでしまう。
「プリン、冷蔵庫に入れておいたから。また食べられそうなときに食べて」
「はーい。ありがとうございます」
「お家の人は? いつ帰ってくるの?」
「? 僕、独り暮らしですけど?」
「えっ!」
 思わず声を上げてしまう。なんとなく聞いたことだったけれど、まさか独り暮らしだったなんて。
「ひとりでこんな広いマンションに住んでるの?」
「広いですか? まぁ、狭くはないですけど、普通じゃないですか? 持ち家だから相場はよくわかんないんですけど」
 だなんて彼は言うのだ。
(二階堂くんって、お坊ちゃまなのかな?)
 親御さんが買ったマンションなんだろうか? 彼の年でマンションを買うだなんて、あまりない気もするし……
「一緒に住みます?」
 にっこにこの二階堂に聞かれて、小夜は仰け反って首を横に振った。
「ええっ、なんでっ! 住まない、住まないっ!」
「えーっ。小夜さんと一緒に住みたいのに」
(一緒に住むって同棲じゃない! まだ付き合ってもないのに!)
 妙に焦ってしまう。
 あっけらかんとした二階堂の態度は、本気なのか揶揄っているのかよくわからない。なんだか熱くなってきた顔を押さえて、小夜は彼の口にゴスッとおかゆを突っ込んだ。
「冗談が言えるならもう元気そうだね」
「小夜さんのおかげでだいぶよくなってきました」
 二階堂は本当に少し調子が戻ってきたようだ。好感度メーターから出るハートの勢いが増してきている。
 小夜はほっとしながら、空になったお椀を持って立ち上がった。
「じゃあ、食器洗ってくるから、お薬飲んで横になって」
「はーい」
 キッチンでお椀を洗う。コップがいくつか流しに置いてあったので、それもついでに洗っておく。そうして小夜が寝室に戻ると、二階堂がすーすーと寝息を立てていた。
「あ……寝ちゃった?」
 そろそろ帰ろうと思っていたのだけれど、彼が寝てしまっては鍵が閉められない。
(どうしよ……起こす?)
 寝かせてあげたい気もするが、電車の時間を考えるとそろそろ帰らなければならない。帰るなら、このまま二階堂を起こせばいい。それはわかっている。わかっているのだけれど──
 そっとベッドサイドに腰掛けて、二階堂の様子を窺ってみる。薬の空がサイドテーブルに置かれているから、薬は飲んだみたいだ。
「……んんん……う……」
 彼は少し寝苦しそうに唸っている。眉間の皺も深い。やはりまだ身体が辛いのだろう。さっきは少し元気そうだったけれど、小夜がいるから無理をしていたのかもしれない。
(このままひとりにしておいて大丈夫かな……?)
 ちょっと不安になって、そっと彼の前髪を撫でてみる。あらわれた額がほんのりと赤い。それに少し汗ばんでいる。もしかして、また熱が上がってきたんだろうか?
「二階堂くん……」
 小声で呼びかけてみると、二階堂の手が突如持ち上がって、小夜のブラウスをきゅっと握ってきたのだ。
 それはまるで、どこにも行かないでと言っているかのようで──
(…………)
 弱っている二階堂を無理やり起こすなんて、小夜にはとてもできそうもなかった。

 

 ピピピピッ、ピピピピッ、ピピピピッ──……
 どこからかスマートフォンのアラームの音がする。小夜はぼんやりしながら、重たい瞼を持ち上げた。
 二回、三回と瞬きをしていると、だんだんと目の焦点が合ってくる。目の前にあらわれた端整な顔立ちに、小夜は驚いて固まった。
(え……二階堂、くん……?)
 昨日はどうしたんだっけ? 二階堂におかゆを食べさせて、洗い物をして、帰ろうとして、でも二階堂が先に眠ってしまって──起こすのも忍びなくて、そのまま……
 小夜もいつの間にか眠ってしまったらしい。二階堂のベッドに横になっている自分に気が付いて、小夜は慌てて身体を起こした。
「どうしよ……」
 泊まってしまった。二階堂が心配だったとはいえ、軽率だったかも──小夜が右往左往していると、眠っていた二階堂の目がゆっくりと開いた。
「あ……小夜さんがいる……」
 目が合った彼の頭上にいつものようにブオンと好感度メーターの枠が表示される。ギュィィィィィィイン! と枠を突き抜けて伸びていく無限大のメーターは相変わらず真っ赤だ。
 彼は好感度メーターからポコポコとハートを飛ばしながら、幸せそうに柔らかく微笑んだ。
「いい夢だな……夢なら覚めないでほしい……」
 そう言いながら、小夜の頬に手を伸ばしてくる。そうしてぐいっと小夜の後頭部を抱いて引き寄せ──
「あっ……!」
 引き寄せられた小夜が体勢を崩すと、二階堂の腕の中に囚われてしまった。どうして? いきなり彼に抱き締められるなんて!
 今までで一番近くに彼を感じて、小夜は目をぐるぐる回しながらテンパった。
「あ、あの! 二階堂くん? わ、わたし──」
 二階堂の腕の中から逃れようと彼の胸を押す。でも、びくともしない。意外と強い力で抱き締められて──
「小夜さん……大好きです……」
 ちゅっ──突然、唇に熱いものが押し付けられて、小夜は驚きのあまり固まってしまった。
(え……)
 もしかして、キスされている……?
 唇がつーっと舐められて息を呑む。二階堂は小夜の頬を撫で、髪を掻き回しながら顔の角度を変えて唇をくちゅり、くちゅりと食んでくるのだ。小夜は目を開けたまま、うっとりした彼の表情を凝視していた。
 その彼の目が次第に大きく見開かれ、視線が合ったと思ったら、小夜を抱き込んでいた手がガバッと身体を引き剥がす。
「…………え?」
 二階堂は真っ赤になりながら、自分の口元を押さえた。
「さ、さ、小夜さん……? 夢じゃ……?」
 身体を起こし、慌てふためく彼を見ていると、あのキスは完全に寝惚けていたんだとわかる。小夜は髪を押さえながら身体を起こした。
「ご、ごめんなさい! なんでいるのって話だよね。昨日、帰ろうとしたんだけど、二階堂くんが離してくれなくて……その、わたしも心配だったし……そ、それで──」
「うわぁあ! す、すみません!」
「ううん! わたしこそごめんなさい。いつの間にかベッドに横になってて……全然覚えてなくて……」
 慌ててベッドから降りようとしたところで、パシッと手首を掴まれる。驚いて振り返ると、二階堂の真剣な顔がそこにあった。
「僕の側で寝てくれるほど……気を許してくれたと思っていいんでしょうか……?」
「えっ……」
 唐突な問いに、小夜は言葉を詰まらせた。掴まれた手首から、じんわりと熱が伝わってくる。
 そんなつもりは──と否定したいのに、胸の奥では反対の声が鳴り響いていた。
 昨日、眠る彼の側にいたのも、そもそもこの部屋に来たのも……全部“心配だから”だけじゃなかったはず。
 彼のことが気になってしょうがない……
 だって……だって──
「小夜さん……いやなら撥ね除けて……」
 二階堂の手がそっと頬に触れ、そのまま唇をなぞってくる。小夜はわずかに息を呑みつつも、彼の手を振り払わなかった。
「……小夜さん」
 低く甘い声が耳を打つ。次の瞬間、柔らかな唇が重なってきた。
 ちゅ……と触れるだけの軽いキスに、小夜の鼓動は暴れ出すみたいに跳ねた。逃げようとする意思よりも、もっと強いなにかに支配されて、ただ真っ赤になって彼の唇を受け入れてしまう。
 二階堂が顔を離し、熱を帯びた瞳で見つめてきた。
「いやじゃない?」
「……っ」
「いやじゃないってことは……僕のこと好きだって、思っていい?」
 小夜の頬は更に赤く染まり、喉の奥で声が詰まる。答えられないまま、ぎゅっと目を閉じて──ゆっくり、こくんと頷いた。
 好き……彼のことが好き……
 きっかけは好感度メーターだった。こんなに小夜を好きになってくれた人は今までいないから。でも、彼の可愛いところや、優しいところを知って、もっとずっと一緒にいたいと思ったのだ。
 この人と、一緒にいたいと……
 小夜が恐る恐る目を開けると、目が合った二階堂は蕩けるような笑みを浮かべている。そして、彼の頭上の好感度メーターは無限大に突き抜けていて、真っ赤に輝いているのは相変わらず。今回は更に、ドンドンドーンと、小さな花火まで上がっているではないか。独特なエフェクトに小夜の頬が緩みかけたとき、二階堂がまっすぐ小夜に抱き付いてきた。
「小夜さん……っ!」
 嬉しさに声を震わせながら、二階堂がもう一度キスしてくる。今度は甘く深く、けれど少し強引に。背中に回された腕に支えられ、ベッドへと押し倒される。
 ぽすんと仰向けになった小夜に、二階堂がキスしながら重なってくる。逃げ場のない距離に戸惑いつつも、逃げようとはしない。すると、二階堂の舌が唇を割って侵入してきた。
「んっ……」
 熱くて蕩けそうな感覚に、小夜は息を呑んだ。口内を舌でまさぐられ、頭の中が真っ白になる。戸惑う舌が捕らえられ、絡まる。根元から口蓋までを舌先でなぞられ、ゾクゾクッと身を震わせる。どんな表情をすればいいのかわからない。いつ呼吸すればいいのかもわからない。でも、力だけが抜けていく。とろっと脚の間からなにかがあふれてくる。
 二階堂は夢中で髪を掻き混ぜ、頬を撫でながら、何度も角度を変えて唇を求めてくるのだ。真っ赤なまま、唇が離れた一瞬、小夜は必死に声を絞り出した。
「に、二階堂くん……か、身体……体調、まだ──」
 戸惑いながらも見上げると、彼の好感度メーターがブシュウウッと音を立てて沸騰し、真っ赤に燃え上がっているのが見えた。ポコポコとハートがあふれ出してとまらない。
(……本気なんだ……)
 その熱にあてられて、小夜の頬も更に紅潮していく。小夜は必死に太腿を寄せた。
 二階堂は苦しげに眉を寄せ、けれど視線は逸らさずに囁いてくる。
「……もう、無理です。我慢できない……!」
 そう告げると同時に、再び唇を重ねてくる。舌を絡めながら、震える指先で小夜の胸元へと手を滑らせた。
「んっ……!」
 乳房が揉み上げられ、驚きに身を強張らせる小夜だったが、胸を優しく包み込む手のひらの熱さに、頭の中は真っ白になっていく。
「好きです……小夜さん。すごく……すごく好きです」
 唇の隙間から熱を帯びた言葉が流れ込み、胸を撫でられるたびにお腹の奥がずくりと疼く。
 二階堂は更に小夜を抱き締め、耳元に熱い吐息を吐いた。
「……僕のものになって……?」
 心臓が破裂しそうなほどに脈打つ。脚で膝を割り広げられて、カアァッと顔に熱が上がったのも束の間、二階堂の手のひらがスカートの中に入ってきて太腿を撫でるのだ。そしてつーっと脚の間を触れられて、小夜は声にならない声を上げた。
「~~~~っ!」
「あぁ……濡れてる」
 笑みをたたえながら囁かれ、これ以上ないほど真っ赤になる。いつの間に濡れてしまったんだろう……? キスされて、触られて、こんなふうになってしまうなんて……
「……ゃ……」
「可愛い……」
 ショーツのクロッチの隙間からするりと二階堂の指が入ってきて、濡れた秘裂をなぞられる。
(……やだ……はずかしぃ……お風呂入ってないのに……)
 羞恥心が全身を覆い尽くし、小夜の身体を硬くさせる。そのとき、二階堂の指が敏感な蕾をくにゅっと押し潰して、小夜の目の奥に火花が散った。
「あぅ!」
 身体を跳ね上げて、目を見開く。熱くじくじくとした快感が走って、慌ててそれを振り払おうと藻掻く。
 自分になにが起こったのかわからない。だって初めてなのだ。
 震え出した小夜を宥めるように、ゆっくりと花弁の間に息づく蕾を撫で回しながら、乳房を同時に揉んで、その膨らみをはむっと食んでくる。そうされるたびにお腹の奥がきゅんきゅんと疼いてしまい、自分でもどうすることもできない。
「は……ぁう……まっ、まって……に、にかいど、くん、まって……あっ」
「ああ、小夜さん……可愛い……もっと濡れて?」
 二階堂は小夜の上に乗って身体を押さえながら、ゆっくりとキスしてきた。口蓋が何度も舌の腹で擦られ、ゾクゾクする。口内にとろっとした唾液が流れ込んできて思わずそれを飲み下すと、二枚の花弁が割り広げられて、ぬるつく淫溝にとっぷりと彼の指が一本、入ってきた。
「~~~~っ!」
 目をぎゅっと瞑り、いやいやと首を横に振る。と、そのとき、二階堂の中に埋められた指が肉襞を割って、くいっとお腹の裏側を押し上げてきた。
「はぁうっ……!」
 得も言われぬ快感が走り、小夜の腰を浮かせる。二階堂はお腹の裏側をリズミカルにぽんぽんと押し上げながら、親指で蕾をまあるく捏ね回してきた。それが気持ちよくて、怖くて、逃げたくなる。
「や、やら……ゆび、だめ……」
「ここが小夜さんの気持ちいい処かな?」
 くいっと隘路の好い処を擦られて、思わず声が上がってしまう。小夜は涙目になりながら、彼の手を押さえた。
「に、かいど、くん……」
「一度イカせてあげる」
 蜜口に、二本目の指が押し込まれる。内側から開かれるような圧迫感に身悶えているのに、蜜口はぎゅぎゅっと彼の指を締め付けてしまう。その狭くなった蜜口に入念に出し挿れし、中の肉襞を指の節でごりごりと擦りながら奥をぞろりと撫でられる。その快感に汗がどっと噴き出てきた。
「ん、あ……らめ……」
 小夜は小さく抵抗しながら身を捩ったのだが、二階堂に抱き込まれてほとんど動けない。彼は隘路を大きく撫で回しながら、探り当てた好い処を重点的に擦り上げてきた。
 くちょくちょくちょくちょ……身体の中からいやらしい水音がする。それが恥ずかしいのに、だんだんと水音は烈しくなっていく。隘路がぎゅうぎゅうに締まる一方で、熱くどろどろに溶けるのだ。たっぷりととろみを帯びた愛液が、二階堂の指に纏わり付いた。
「あっ、あっ、あっ……! あっ! んぅ~」
「可愛い。もう中がとろとろ……そのまま感じて」
 二階堂の甘い声が鼓膜に吹き込まれてゾクゾクする。じゅんっと更に身体が濡れて、中に埋められた指を締め付ける。ガクガクと震えた小夜がピンと両脚を突っ張ると、放置されていた蕾が不意にくにゅっと押し潰されて、身体に電撃が走った。
「あぁ──っ!」
 二階堂の腕の中で仰け反りながら悲鳴を上げる。蕾を上下左右に嬲られて、目の奥で真っ白な火花が散る。そんな中、ずこずこと指を出し挿れされ、中と外、好い処を同時に刺激されて、小夜は初めての快感に泣いて堕ちた。
「────っ!」
 どっとベッドに沈み、焦点の合わない目を涙で濡らしながら肩で息をする。
 小夜がぐったりしているうちに、二階堂がバサッと自分のTシャツを一気に脱いだ。
 細身に見えた彼の身体は、意外なほどに筋肉質で逞しい。色白だが、肩幅があって、がっしりしている。着痩せするタイプなのか。
 初めて見た男の人の裸に、目のやり場に困って視線を外したとき、小夜はスッと彼の腕の中に抱き込まれていた。
「小夜さん……大好き……」
 上半身裸の二階堂にカアァッと頬を染める。彼に抱き締められている──そのことにドキドキする。
 二階堂は小夜の目尻に頬にとキスしながら、甘く囁いてきた。
「小夜さん、セックスしよ?」
 ドクンと心臓が跳ねた。沸騰しながらハートを撒き散らす好感度メーターは、真っ赤な無限大。好かれているのはわかる……でも怖い。初めてなのだ。好きな人に触れられる歓びよりも恐怖が勝つ。
 力の入らない腕で二階堂の胸を押しながら、小夜はやっとの思いで呟いた。
「……こわいの……」
 そう言って身を引く。好感度メーターを確かめるのも忘れない。でも、小夜の拒絶にもかかわらず、二階堂の好感度メーターは微動だにしなかった。
「怖い? もしかして初めて?」
 小さく頷くと、二階堂がコツンと額を合わせてくる。彼は小夜の目を覗き込みながら、満面の笑みを浮かべた。
「可愛い……初めてならなおさら大事に抱かないとね」
 そう言う二階堂の好感度メーターからは巨大なハートが浮かび上がって、沸騰しながら弾けて消える。彼は小夜の頬を撫でて、また至近距離で見つめてきた。
「怖いのであって、いやなわけじゃない?」
「…………」
 それはそうかもしれない。小夜は初めてなのが怖いのであって、二階堂に触れられるのがいやなわけじゃないのだ。
 小夜がこくんと頷くと、二階堂はゆっくりキスしながら小夜の乳房を揉んできた。
「僕が触るのはいい?」
「……はずかしい……」
「っ、可愛い……あぁ、もう……!」
 服の上から乳房を食まれドキドキする。さっと背中に手を回されたと思ったら瞬時にブラジャーのホックが外されて、小夜は慌てて胸を押さえた。
「きゃっ!」
「いっぱい恥ずかしがって。可愛いから」
 ブラウスの中に手を入れられて、ブラジャーのカップをずり上げて直接乳房を揉まれる。乳首をきゅっと摘ままれると、さっきたっぷり弄ばれた蜜口から、とろりと新たな愛液がこぼれた。それが恥ずかしくて思わず太腿を寄せてしまう。
 二階堂は小夜の頬にキスしながら顔の位置を下げ、捲ったブラウスの中に顔を埋めてくる。そうして、ブラジャーのカップからまろび出た乳房にそっと唇を寄せてきた。
「んぅ……あ……」
 ゆっくりと乳首が口に含まれ、その熱さに声が出る。彼の舌が乳首を舐めて転がし、口蓋と挟んで扱き吸いながら、甘く噛んでくる。そのたびにお腹の奥がじくじくと疼いてとまらない。
 二階堂は小夜に両手を上げさせ、ブラウスとキャミソールを脱がせた。ホックの外されたブラジャーがこぼれるように落ちる。慌ててそれを拾おうとしたのだが、小夜の手は二階堂に阻まれてしまった。
「可愛い」
 ちゅっと乳房にキスされて、言いようもないほど真っ赤になる。彼はフレアスカートのファスナーを下げると、器用な手つきでスカートを取り払い小夜の脚を撫でてきた。
 ガーターストッキングとショーツ姿にされて思わずブランケットを抱き寄せる。恥ずかしがって身体を隠す小夜を笑いながら、二階堂はショーツをゆっくりと引き下ろした。
「ブランケット持ってていいよ。大丈夫だよ……大好き」
 二階堂は小夜を安心させる言葉をかけながら、ブランケットの下で小夜の身体を触る。とろとろになった蜜口を指で擦られ、愛液をなすり付けるように蕾を嬲られると、震えながら声が漏れてしまう。
「あぁ……ん……そこは……」
「うん。ここ、小夜さんが気持ちいい処だよ。いっぱい気持ちよくしてあげる」
 そう言いながら、コリコリした蕾を根元から起こしては引っ掻き、きゅ~っと摘まんでにゅるんと指から絞り出す。それがあまりにも気持ちよくて、小夜は無抵抗のまま目の奥をチカチカさせて昇り詰めた。
「はあぁうぁ……うっ……んんん~~っ……あっ!」
 ブランケットを抱き締め、身を縮こまらせつつ静かに法悦を極める。どっと力を抜くと、もう身体が動かない。気持ちよくて頭が痺れる。
 そんな小夜を見つめながら生唾を呑んだ二階堂は、腰を浮かせてスウェットを下げると、中からガチガチに反り返った物を取り出した。
「!」
 快感にとろんとしていた小夜だったが、見せ付けられた二階堂の物のあまりの太さと大きさに声を失った。彼の可愛い顔に似合わないそれは、パンパンに鰓を張り、青筋立っていて臍まで反り返っているではないか。
 初めて目にした男の物に、声を失った小夜はふるふると首を横に振りながら、ずりっと後退った。
「……無理。そんなおっきいの、無理……絶対無理……」
「怖がってるの可愛い……無理じゃないよ。大丈夫だよ。心配しないで」
 二階堂はいつも通りにこにこと笑って迫ってくる。小夜の腰を跨ぐように両手を突いた彼は、無造作に唇を寄せてきた。
「信じて」
 真剣な目でそれだけを言いながら、そっと唇にキスしてきた。唇を割って、口内に入ってくる舌に蕩け、乳房を揉まれて小さく喘いでしまう。
 お腹の奥が疼く。怖いと思っているのに身体は──彼を欲しがっている。大好きな人に触れたい、触れられたいという思いが小夜を熱くさせる。
「に、かいど、くん……」
「小夜さん……大好き……」
 唇を合わせながら囁かれ、本能的に目の端で彼の頭上の好感度メーターを確認してしまう。赤々としたメーターが枠を突き抜けて沸騰している。∞のマークは相変わらず。メーターからハートがポコポコと飛び出し、好感度が一ミリたりとも下がっていないのを見て、小夜はそっと力を抜いた。
 彼は、小夜を本気で好いてくれている。心から愛してくれている──
 だから、大丈夫……
 じっと二階堂を見つめ、彼の頬に触れてみる。彼は嬉しそうに目を閉じて、小夜に口付けてきた。
 ゆっくり、ゆっくりと唇を押し付け合い、舌を絡める。唇を重ねるたびに、熱がじんわりと胸の奥まで染み込んでいく。
 二階堂は小夜の頬を包み込み、まるで宝物を扱うように優しく唇を動かした。
 ちゅ……ちゅ……と、何度も確かめ合う口付け。
「ん……っ……」
 舌がそっと触れ合った瞬間、背筋に甘い痺れが走った。
 二階堂は小夜の震えを感じ取るように更に深く口付け、舌を絡めて甘く吸い上げる。吐息が混ざり合い、互いの鼓動がひとつになっていく。
 二階堂は何度も角度を変えてキスを重ね、小夜の唇を離すことなく、覆い被さってくる。脚の間を陣取った彼がそこにゆっくりと漲りの先を押し充ててきて、小夜はびくりと腰を引いた。
「大丈夫……大丈夫……」
 唇を合わせたまま囁かれ、少し力を抜く。硬い屹立で花弁を割り広げられ、そのままずりっと蕾まで擦られる。淫溝からあふれる愛液を纏った肉棒が蕾を下から上、下から上と擦り上げ、甘美な刺激を送ってくる。気持ちいい……擦られるだけで、お腹の奥がきゅんきゅんしてくる。蜜口から新たな愛液が滴るのを感じた。
「挿れるよ」
 蜜口にくぷっと漲りの先が押し充てられ、そこがみちみちと広げられる。指とは比べ物にならない太さが押し入ってきて、体験したことのない痛みに小夜は悲鳴を上げて泣いた。
「ひっ! いっ、ううう……いたぃ……だめ……! やぁ!」
「痛いね、ごめん……ごめんね。もう少し我慢してね」
 小夜の唇を啜りながら、二階堂は滑らかに腰を揺すってくる。ぐぐぐぐっと屹立が肉襞を割り広げ、その容赦ない摩擦熱が小夜に涙を流させた。
 痛い。身体が裂けてしまいそうだ。
 自然と閉じようとする脚を、身体で押し開かれる。二階堂は小夜の瞼に何度もキスして涙を舐め取りながら、小夜の頭を抱き締め、撫で回し、何度も小さな声で囁いてきた。
「大好き、大好きだよ、小夜さん……大好き……大好き……痛くしてごめんね、大好き……可愛い」
 その優しい声が胸に染み込んで、余計に泣けてきた。ブランケットをぎゅっと握り締め、歯を食いしばる。
 痛くて辛くて怖い。逃げ出してしまいたい。そのとき、二階堂の好感度メーターからあふれてきたハートが目に入って、小夜は唇を噛んだ。──逃げたくない。
 二階堂は小夜の痛みを逃がそうと、懸命にキスしてくる。額に汗を滲ませ、さっきまでの余裕なんかどこかに投げ出したような必死の表情で、小夜をぎゅうぎゅうに抱き締めてくる。この人なら間違いない……だってこんなに小夜を好きになってくれた人なのだ。大事にしてくれる。愛してくれる。
 この人になら、自分をあげてもいい……

 

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