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一途な副操縦士のあまい独占欲 男運のないCA、思いがけず運命の愛に出会う 2

第二話

 

「俺は飽きないよ」
「えっ……?」
「それに、つまみ食いで足りるわけがない。ちゃんと、小石川さんの全部を食べたい」
 目を瞬かせ、懸命に彼の言葉をかみ砕く。
 もしかして、さっきの愚痴に対する返答……? そう気づいた時直後、加路さんの腕に引き寄せられ、抱きしめられていた。突然の接近に、鼓動が暴れる。
「……小石川さん」
 囁くように名前を呼ばれ、おずおず顔を上げる。目が合った瞬間、情熱的な眼差しにとらわれて、そのまま唇を奪われた。私は目を閉じることもできず、押し付けられた唇の感触に、ただただ戸惑う。私の体は彼の広い胸にすっぽり収まってしまい、逃げるどころか身動きも取れない。
「ん……加路さ……っ」
 唇が離れた隙に名前を読んでみても、また次の口づけに声を奪われる。せめてもの抵抗で逞しい胸を押してみるけれど、彼はびくともしない。『食べたい』の言葉通り、角度を変えて何度も唇を啄まれ、時々ちゅう、と音を立てて吸われた。
 どうしよう。流されるつもりはないのに、加路さんのキス、気持ちよすぎる……。
 甘い心地よさに理性がどこかへ行ってしまいそうになっていたその時、私たちのそばをサーッと一台の自転車が通り過ぎていった。その音で急に我に返った私は、今さらのように路上で濃厚なキスをしていた自分が恥ずかしくなった。
「あの」
 もうこれ以上はやめましょう。帰ってください。
 そう言おうとしたのに、加路さんの瞳に宿る熱は鎮まることなく、私の胸をじりじりと焦がしていく。肌を撫でていく六月の夜風は生ぬるくどこかじっとりと湿っていて、体の内に持て余した熱を逃がすことができない。
 用意していたはずの拒絶の言葉を、私はいつの間にか忘れていた。
「ここでは、恥ずかしいので……部屋に」
 そう言ってキュッと彼の服を掴む。そこに彼の手がふわりと重なり、身を屈めた彼に瞳を覗かれる。
「いいの?」
「……あんなキスしておいて今さらです」
「ごめん」
「謝らなくていいです。だけど、その代わり……」
 目を合わせて言うのは恥ずかしすぎて、俯いて彼の胸に額を預ける。そして、小さく呟いた。
「私の初めて、もらってください……」
 これまでは、男性と恋仲になってから処女であることを告白して失敗してきた。
 でも、一夜限りの相手と酔った勢いで――ということなら、がっかり度はそう高くないと思うのだ。加路さんはすでに私の残念な恋愛遍歴を知った後だし、CAだってごく普通の女性であると、パイロットの彼ならある程度知っている。
 やがて頭上から降ってきたのは、優しく承諾してくれる彼の声。
「もちろん、喜んで」
 安堵すると同時に、今度は別の緊張が湧き上がってきた。
 ……私、今から、加路さんとするんだ。
「い、行きましょうか」
 パッと彼から身を離し、暴れる鼓動をなだめるために事務的な口調で告げる。加路さんの方を振り向かずに先を歩いていたら、ギュッと手を握られ恋人繋ぎをされた。
 期待と不安が入り混じっていっぱいいっぱいの私は、無言でマンションのエントランスを通り抜け、エレベーターで私の部屋がある三階へ向かう。加路さんもずっと黙って寄り添っていた。
 やがて部屋の前に到着したものの緊張で手が震え、玄関の鍵を開けるのにいつもの三倍くらい時間がかかった。やっと開いたドアから中に入り、「どうぞ」と振り向いた瞬間、加路さんに抱きすくめられる。
「あ、あの……っ」
 まだ、靴も脱いでいないのに……。
 彼は手を後ろに回して器用にドアをロックすると、両手で私の顔を包み込む。火照りっぱなしの頬をすりっと撫でられ蕩けるような視線を向けられ、体の芯がジンと痺れた。
 身を屈めた加路さんが、顔を近づけてくる。私も抗う意思はなく、目を閉じてやわらかい感触を受け止めた。
「ん……ふっ」
 息をついた唇の隙間に、ちゅく、と彼の舌が入り込む。探るように私の口内を味わった後、怯えたように奥に引っ込んでいた私の舌を探し当て、互いの唾液を交換し、それがこぼれそうになるとじゅっと音を立てて吸う。
 まだキスしかしていないのに、痺れるような快感で体が小刻みに震えた。
 路上で交わしたキスも濃厚だったけれど、あれでも彼は遠慮していたようだ。たっぷり舌を使い惜しげもなく濡れた音を立てるやり方がとてもいやらしくて、腰が砕けそうになる。
「ん、はぁ……っ。加路さん……せめて部屋に……」
 息継ぎのタイミングで、縋るように彼の服を掴んで訴える。彼は名残惜しそうに一度強く唇を押しつけてから、そっと顔を離した。
「そうだな……悪い。きみの唇があまりに美味しくて、夢中だった」
 苦笑した彼が、太い人差し指でふに、と私の唇を押す。ついさっきまでただの同僚だったとは思えない甘い仕草に、全身が震えるほど胸が高鳴る。
 夢中なのは、私も同じ――。私は彼の手を取り、寝室のドアへ視線を向ける。
「続きは、あっちで……」
 もごもごと曖昧な言い方にはなってしまったが、彼の手を取り、寝室へと誘った。
 ドアを開け、壁のスイッチで明かりをつけると、私がいつも寝起きしているプライベート空間が現れた。汚いわけではないけれど、ベッドが起き抜けのまま乱れていたり、飲み会の直前に『やっぱり違う服にしよう』と思い脱ぎ捨てたワンピースが床に落ちていたり、ローテーブルの上にはメイク道具が散らばっていたりと、生活感丸出しで恥ずかしくなる。
「も、もう少し暗くしましょうか」
 慌ててローテーブルに近づき、メイク道具に紛れて置かれていた照明のリモコンに手を伸ばす。しかし、手に取る寸前で加路さんに腕を掴まれ、阻止されてしまった。
 そのまま後ろから抱きしめられ、耳にちゅ、と彼の唇が触れる。頬に熱が集まるのを感じながら、おずおず振り向く。
「加路さん……?」
「明るいままでいい」
「でも、誰かをお招きする予定なんてなかったので、色々とお見苦しいところが――」
 説明している途中で、加路さんの手がウエストの方から上がってきて、シャツの上から胸のふくらみを包み込む。感触を楽しむようにゆるやかな力で揉まれ、思わず甘い声が漏れた。
 中腰だった状態からぺたんと床に座り、彼の胸に背を預けて愛撫を受け止める。
「あ、ん……」
「そうやって感じてる、かわいい顔をちゃんと見たいから……このまま」
 耳に当たる加路さんの息も、少し上がっている。
 興奮してくれているの……? そうだったら嬉しいけれど、やっぱりまだ自分に自信がない。
「かわいくなんて、ないです……」
「かわいいよ」
「どこがですか?」
「うん? 全部」
 彼はそう言って笑うけれど、適当な方便としか思えなかった。お世辞にしたってもう少し気の利いたことを言って欲しい。
 私がむくれている間に、いつの間にかシャツのボタンが一番下まで外されていた。加路さんの手がするすると肩に引っかかるシャツを脱がせ、下着姿になった私の体のラインをなぞる。ぴくん、と肩が跳ねた。
 今までの恋人たちとも、挿入には至らずとも軽い前戯なら経験がある。でも、どんな時も私はその先の〝処女喪失〟にばかり意識を集中させすぎて、快楽を得た実感はないというのが正直なところだった。
 それなのに、今日はどうして体がこんなに敏感なんだろう。お酒を飲みすぎたせい?
 ぼんやり考えていると、ふっと背中の締めつけが緩む。ブラを外されたのだと気づいた時には、胸を直接彼の両手で捏ねられていた。自分でも大きめだと自覚がある双丘が、加路さんの骨ばった手で形を変える様がいやらしい。
 じりじりと先端に集まる熱が、そこを硬くしていく。
「……勃ってる」
 内緒話のように耳元で囁かれ、腰がずくんと疼いた。彼の指先が熟れた頂に触れ、引っ掻くように弾かれる。鋭い刺激が全身に走った。
「ひゃ、それ、ダメです……っ」
「気持ちいい?」
「んっ……言いたくなっ……」
 会話している間も、赤い尖りを指先でかりかりと弄られる。痛いくらいに腫れあがって、快感が増していく。下半身にもどかしい熱を感じて太腿を擦り合わせた。
「言って、小石川さん。恥ずかしくないから」
 加路さんの低い声に鼓膜をくすぐられ、首筋にチュッとキスをされる。それからうなじをゆっくり彼の舌が這うと、理性も羞恥もやがて薄れていく。
 私は虚ろな目で、彼を見つめた。
「気持ち、いい……」
「そう……どこが?」
「加路さんに……いっぱい弄られてるところ……」
 人はあまりに気持ちいいと、語彙をなくすらしい。つたない言葉でそう伝えると、加路さんが甘い笑みを浮かべて、一度チュッと私の唇を吸う。
「そんな顔をされたら、もっと乱したくなる」
「そんな、顔……?」
「ああ。瞳は潤んで、唇は物欲しげに開いてる。そろそろ、こっちも触ってほしいんだろう」
 まだ脱がされていなかったテーパードパンツのホックを外され、ファスナーをジジ……と下ろされる。彼の手はショーツのレースに触れながらゆっくり太腿の間を目指し、中指でそっと、割れ目のラインをなぞった。押しつけられたショーツはすでにぬらぬらと濡れていて、そのまま下着越しに秘裂を弄られる。彼が指を動かすたび、くちゅり、くちゅりと、粘度のある水音が立った。
「あ、あんっ……」
 こらえきれずに嬌声を上げながら、そんな自分の状態を、嘘でしょ、と思う。
 これまでなにをされてもあまり濡れず、それは自分が処女だからだと思っていた。
 経験を積むうちに、段々と体が順応していくものなんだろうと、誰にも相談できないから自分で勝手にそう結論付けていたのだ。
 でも、どうやら経験の有無も多少も関係ない……?
「……服まで汚してしまいそうだ。全部脱ごうか」
「は、はい……」
 彼に手伝ってもらいながら服と下着を脚から抜くと、加路さんが私の体を軽々とお姫様抱っこしてベッドへ運ぶ。裸でベッドに横たわる心許なさに思わず自分の体をきゅっと抱いていると、加路さんもまた自分の着ていたTシャツに手をかけ、一気に脱いだ。
 真面目な彼には似合わないほど色っぽい肉体美が露わになり、ドキンと胸が鳴る。逞しい上腕から張りのある胸筋、綺麗に引き締まって割れたウエスト……順に視線を移動させながら見とれていると、彼がベルトを外してジーンズを下ろしたところだった。
 脱ぐ前から軽く輪郭の見えていた彼のモノが、ボクサーパンツ越しに存在を主張している。……ええと。お、大きくない?
 ごくりと喉を鳴らしていると、加路さんが下着一枚で仰向けの私に覆いかぶさってくる。
「小石川さん……」
 上擦った声で私の名を呼んだ彼が、キスを求めてくる。素直に応じて彼の首に腕を絡めると、ますます吐息を荒くした彼に、唇を貪られた。はふ、と息継ぎをした瞬間、両手で頭を掴まれて、舌をねじ込まれる。蠢く彼の舌に、頬の内側も上あごも、歯列の隅々までを犯されて、なにも考えられない。
「は、んぅ……加路さ……んんっ」
「キスは好き……? ほら、また濡れてきた」
 頭から首へ、胸から腰の曲線をなぞった手が、続けて太腿の内側をもったいつけるように撫でる。そうしてたっぷり焦らしてから、私のそこに直接触れた。中指でトントンと叩かれると、ぴちゃぴちゃと、愛液が弾ける音がした。入り口だけのもどかしい刺激に、腰が悩ましく揺れる。
 今日の私、やっぱり変だ……。だって、矛盾してる。処女なのに、もっと奥まで触れて欲しいと思うなんて。
「初めてなら、まずはこっちかな……」
「えっ……? あ、やっ、あぁっ……!」
 浅い場所から得るゆるやかな刺激に油断していたら、加路さんの指が唐突に、小さな赤い蕾に触れた。決して強い力ではないのに、軽く擦られただけでビクンと背中が浮く。とめどなく蜜が溢れて、お尻の方まで滴っていく。彼の指の動きに全神経が集中して、気持ちいい、しか考えられない。
「あっ、あぁん、そこばっかり……やぁ……ダメなのっ……変になっちゃう、から……っ」
 いやいやと首を振りながら、それでいて快感からは逃れられず、腰ががくがく震える。
 彼はどんどん敏感になる花芯から右手を離さないまま小さな円を描くように転がし、左手の指で乳首をぎゅむっと挟む。
「はぅっ……ん、やぁ」
 たまらずのけ反ったところで、今度は反対の胸を口に含まれ、すぼめた唇と舌でじゅうっと乳首を扱かれる。こんなにされたら、もう限界……。
「ダメ、あっ、あっ、なんか、きちゃう……っ」
「大丈夫。そのまま、俺のすることに集中して……」
 甘い吐息交じりの加路さんの声がとどめだった。下腹部に集まっていた熱が一気に膨張し、弾ける。目の前がちかちかした。
「ああぁぁん……っ」
 情けない声で喘ぎ、何度か激しく体をしならせてから、脱力してベッドに沈み込む。
 放心状態で呼吸を整える私に、加路さんが優しい口づけを落とした。
「よかった、ちゃんとイかせられて」
「加路、さん……ありがとう、ございます」
「どういたしまして。……でも、まだ終わりじゃないよ」
 ぐい、と膝を掴まれて、大きく脚を開かされた。
 あられもない格好に頬がかぁっと熱くなり、そこばかりジッと見つめる加路さんの視線に、秘部がジンジンと痺れる。
「……見てるだけなのに濡れてきた。かわいい」
 ふ、と淫靡に笑った彼が、中指をそこに這わせ、注意深くつぷんと埋める。
 初めて異物を受け入れる感覚に少しの不安を感じたけれど、痛みはなかった。
 ゆっくりかき回すようにして奥へ侵入してくる中指の動きに、段々と不安より期待が高まっていく。彼が不規則に抽送を始めると腰にゆるやかな官能が広がって、シーツの上でもどかしく体を捩った。
「あ、あぁ……ん」
 そのうち、加路さんの指がいいところを探り当て、「ひぅ……」という情けない声と共に、一瞬ベッドから体が浮いた。
 その反応を見逃さなかった彼は、そこばかりをしつこく責めながら、太腿の内側にキスをする。目に映ったその光景はとても淫らで、今、私はこの男の人に乱されているんだ――と思うと、体の奥からじゅわ、と蜜が溢れるのがわかった。
 どうしよう、加路さんの指でまたイかされちゃう……。
 心臓がきゅんと鳴り、まるでそことリンクしているかのように、膣壁もきゅんと締まる。
彼が指を一本増やし、出し入れの速度を速めた。狭かった隘路はやわらかくほぐれ、彼の動きに合わせてうねる。私はいつの間にか、つま先に力を入れて快感を逃すまいと必死だった。
「ん、んっ。ダメ……っ。わたし、また……っ」
 がくがくと腰を震わせて絶頂寸前だったのに、加路さんがふいに指の動きを止めた。
 動かしてもらえない切なさで、乱れたシーツに皺を寄せながら、うずうずと腰が動く。羞恥心はどこかへ消えていた。
「イきたい?」
 涙目で、こくこくと頷く。この熱を残したままでは、自分がどうにかなってしまいそうだ。
「じゃあ、次は俺のでイって……」
 加路さんは私の濡れた目尻に口づけ、熱に浮かされた眼差しを向けてくる。ベッドの上の彼はなんて色っぽいんだろう。そんな目で見られたら、ますます体が疼く。
 それに元はと言えば、私が頼んだことだ。
 彼に思い切り貫かれて、これまでの残念な恋愛経験を全部忘れてしまいたい。処女の呪縛から解き放たれて、新しい自分になりたい――。
「ください……加路さんの。私のここに……」
 手を伸ばし、お臍の下、子宮があるであろう場所にそっと触れる。加路さんは自分の手をそこに重ねると、唇に優しくキスをした。
「少し待って。……ゴムを着ける」
 彼は落ちていた自分のジーンズのポケットを探り、避妊具のパッケージを取り出した。
 ずいぶん用意がいいなと感心する裏で、私でなくても誰かとこうなるつもりだったのだろうかと、ふと思う。
 真面目そうに見えるけれど、実際ただの同僚の私を今から抱こうとしているわけだし、本当は遊び慣れてる……?
 なんとなくモヤっとしていたその時、背中を向けてゴムを装着していた彼が、こちらに向き直る。窮屈な下着から解放された彼の剛直は、凶暴な角度で天井を向いていた。
 あれが、私の中に――。そう思うとごくっと喉が鳴り、脳裏にこれまでの失敗が蘇る。
 これから本番というところで体を強張らせる私に、恋人たちはいつも冷たかった。
『萎えた』とか『話が違う』とか言われて、処女である私には価値がないのだろうかと、何度も自分に問いかけては、そんなことないと言い聞かせてきた。
 もし、今回も同じことになったら、私は立ち直れる……?
「そう緊張していると、挿入らないよ」
 穏やかな目をして覆いかぶさってきた彼が、私の髪に指を絡めて優しく梳いた。まるで恋人にするみたいな甘い仕草が心地いい。過去の失敗経験にとらわれ、必要以上に力んでいた体から力が抜けていく。でも、まだ少し不安だ。
「がっかり……してませんか?」
「どうして?」
「だって、言ってたじゃないですか。加路さんも、私にエッチな幻想を抱いているって。なのに、私がこんな風に緊張して雰囲気を壊してしまっているから……」
 加路さんはきょとんと目を丸くすると、すぐに目元を緩めて微笑んだ。
 髪に触れていた手が、シーツに投げ出されていた私の手を取る。そして、筋肉で盛り上がった逞しい彼の胸に導いて、手のひらをそこに置く。滑らかで、少し汗ばんだ肌の感触にどきりとする。
「……わかるだろ? 俺の心臓、うるさく鳴ってるの」
「えっ?」
「小石川さんがかわいくて、想像よりずっと綺麗な体をしていて、俺の手で素直に乱れてくれるから、ずっとこうだ。……自分でも呆れるほど、興奮してる」
 吐息をたっぷり含ませた声で囁かれ、下腹部がずくんと疼く。言われてみれば、手のひらを通して、彼の体温だけではなく激しく脈打つ鼓動までが伝わってきた。私よりも、少し速いみたいだ。男の人にそんな反応を示してもらえたのは初めてで、思わず感動してしまう。
「ありがとう……加路さん。うれしいです、私」
 潤んだ瞳で彼を見つめ、私は精一杯の笑顔を作った。
「それはこっちのセリフだ。でも、もっともっときみを知りたいんだ。一番深いところまで」
「はい。……来てください」
 手を伸ばして、彼の太い首にしがみつく。加路さんの眼差しが一瞬にして熱情をたぎらせ、ぐいと開かされた脚の間に、昂った屹立があてがわれた。ぐっと腰が押し付けられ、みちみちと隘路が拓かれていく。
「あ……っ」
「痛くないか?」
 ギュッと目を閉じて声を漏らすと、彼が気遣うように腰の動きを止める。指とは比べ物にならない圧迫感に鈍い痛みは感じるが、よく聞く裂けるような感覚はない。大丈夫だと伝えるために、こくんと頷く。
 手を伸ばした加路さんが私の胸を両手で掴み、ゆっくり腰を進めながら捏ね始めた。ねだるように勃ち上がった乳首を、指の腹で転がされる。
「あ、んっ……ふぅ……っ」
「きみは胸を弄られるのが好きだな……たくさん濡れて、滑りがよくなってきた。このまま、奥までいくよ……」
 快感をこらえているのか、掠れた加路さんの声が情欲的で、耳までも犯されているような感覚に陥る。胸の頂は大きく腫れ上がり、蠢く蜜壁が、彼を深いところへ誘い込む。
 やがて、彼がはぁっと息をつき、陶然とした目で私を見つめた。
「全部、挿入った……。頑張ったな」
 ねぎらいの言葉と共に、そっと頭を撫でられる。本能のままに動くことだってできるはずなのに、初めての私に合わせてくれているのがわかった。
 仕事中の加路さんは寡黙で取っつきにくい印象だったけれど、思っていたよりずっと優しい人みたい。……初めての相手が、彼でよかった。
 心の底からそう思うのと同時に、不思議と自分の欲に素直になれた。
 私……もっと、彼を感じたい。
「加路さん……」
 呼びかけに反応して目を合わせてきた彼に、自分から唇を重ねた。きっと下手だろうけれど、勇気を出して彼の口内へ舌を滑り込ませ、深いキスを仕掛ける。加路さんは束の間されるがままになっていたけれど、すぐに舌を絡めて応戦してきた。
 同時に、彼の腰がゆるやかに動き始める。深いキスと同じように卑猥な水音が、繋がった下半身からも聞こえてくる。恥ずかしいのに、やけに興奮した。声が抑えられない。
「はっ、あん……」
「痛くない?」
「大丈夫……です。むしろ、んっ、あんっ……」
「言葉にならないくらい気持ちいい?」
 図星を指された羞恥で頬にはさらに熱が集中し、瞳が潤んだ。私が痛みを感じていないのがわかったからか、加路さんが徐々に腰の動きを速める。
 耳に彼の乱れた吐息がかかり、ぞくぞくしてまた濡れる。彼の大きな熱塊に擦られ、やわらかな蜜壁が悦びに打ち震える。
「ああ……きみの中、とても気持ちよさそうにうねって、からみついてくる……」
 せつなそうに眉根を寄せた彼が、その感触を確かめるように腰で円を描き、濡れた蜜壺をかきまぜる。彼が動くたび、ぐちゅ、ずちゅ、と耳を塞ぎたくなるいやらしい音が室内に響く。
「あ、あっ……それ、ダメぇっ……」
 シーツを掴んでいやいやと首を振り、必死に快楽から逃れようとするものの、彼の指先が結合部から溢れた私の愛液をすくい、その上の小さな突起に擦りつける。優しいタッチで、しかし執拗に転がされ、ベッドから何度も腰が浮いた。
 さっき絶頂を迎えた時より大きな波が、下腹部全体に広がっていく。加路さんの抽送がいっそう激しくなった。蜜壁を余すところなく抉られ、私の中がきゅうっと狭くなる。
「あ、あっ……そんなに、いっぱい……したら、またっ……あぁんっ」
「あぁ……俺ももう限界だ……。小石川さんの中でイかせて……」
 そう呟くなり、彼は貪るようなキスで私の唇を塞ぎ、荒々しく腰をぶつけてくる。何度目かで私は雷に打たれたように大きく体をしならせ、快楽の果てに連れていかれた。
 想像を絶する体験に体力も精神力も限界を迎えた私は、放心状態でベッドに沈み込む。
 薄れゆく意識の中で、最後にギュッと、加路さんが抱きしめてくれた気がした。