コワモテ御曹司は可愛すぎる童顔妻を一生溺愛したい! 1
第一話
坂下茉子(さかしたまこ)は、東京都渋谷区広尾にある実家で、三が日を過ごしていた。
両親と共に、近くの神社に初詣に行ったし、母が作ったお雑煮とおせちも食べた。それ以外はひたすらテレビを観たり、昼寝をしたりしていただけだが、茉子は外出するより、こうしてのんべんだらりとする時間が好きだ。
(でも、そろそろマンションに帰らないとなぁ。掃除して、買い出しも行かないとだし)
仕事の休みは一月五日までだが、化粧もせず朝から部屋着のままこたつに入り浸っていると、もとの生活に戻れなくなりそうだ。
母から一通りの家事は学んだけれど、一人娘に甘い両親のおかげでゆっくりと過ごせた。一人暮らしをしてわかる親のありがたみに心の中で手を合わせつつ、昼食の準備をするためにキッチンに立っている母に声をかける。
「お母さん、私、お昼ご飯食べたらマンションに帰る。お父さん、午後も家にいるよね?」
茉子は座卓に上半身を投げだし、目の前に積まれているせんべいを囓りながら言った。
「あら、そう? もう少しいればいいのに」
母がカウンター越しに答えた。
母は百四十五センチと小柄だ。茉子は母より少しだけ大きい百四十八センチ。茉子はそんな母と瓜二つだとよく言われる。背は低いのに胸ばかり大きい童顔だ。母はいまだに二十代に見られるし、茉子もしょっちゅう学生に間違われる。
身長にいくはずの栄養がすべて胸にいってるのよ、と母はケラケラと笑うが、幼稚園教諭として子どもたちと走り回ることの多い茉子からしたら、Dカップの胸なんて揺れると痛いし邪魔くさいだけだ。
テレビ台に置かれた小さな鏡には、とても二十六歳には見えない自分の顔が映っている。目はぱっちりと大きく、鼻は小ぶり。唇は厚めだが小さい。
学生に間違われるのがいやで、肩の下まで伸びた髪を茶色に染めてみたものの、家族からは不評である。大人っぽい化粧の練習も試みているのだが、もとの顔立ちを変えない限り、どうにもならないのだろうと半ば諦めてもいた。
「ん~でも、部屋の掃除もしないと。あと二日しかお休みないし」
「帰るときは、またマンションまで送っていくからな」
リビングで窓拭きをしていた父が手を止めてこちらに目を向ける。筋トレ好きの父は動いていないと気が済まないタチで、じっとしていることがほぼない。母は茉子と同じでのんびりしたタイプだから、釣り合いの取れた夫婦だなと思う。
「いつもありがとう、お父さん。お母さん、お昼ご飯の準備手伝う?」
「休みのときくらい、やらなくていいわよ。家ではちゃんとしてるんでしょう?」
「それなりにはね。ほとんど出かけないから暇だもん」
「お友だちと遊びに行ったりはしないの?」
キッチンのカウンター越しに聞かれて、茉子は苦笑しつつ首を横に振る。母も期待していたわけではないのだろう。「そう」とだけ返された。
幼い頃は活発で、友だちと外で遊ぶのも大好きだった。毎日のように公園遊びをしていたが、今はそこに近づきたいとも思えない。
頭に浮かんだ過去の記憶に苛まれ、茉子は自分の身体をぎゅっと抱き締める。家の中は十分すぎるほど暖かいのに、あのときの恐怖を思い出すだけで肌が粟立った。
あれから何年も怖い思いなんてしていない。それでもトラウマはなくならない。
お笑い芸人のネタに無理矢理笑ってため息を呑み込み、意識を過去から今に戻す。
そうしてぼんやりしているうちに昼食ができたのか、座卓の上に美味しそうな料理が並べられる。
「茉子、ご飯をよそって運んでくれる?」
「はぁい」
キッチンで炊飯器から三人分のご飯をよそい、座卓に運んだ。窓拭きをいったん終えた父が手を洗い、こたつに入る。おかずはカツ煮と、正月料理の余りの大根とにんじんのなます、それにお雑煮だ。
「いただきます」
和気あいあいと家族と食事をしているうちに、先程のいやな記憶は頭の片隅へと消えていった。
食べ終えた食器をキッチンに運び、洗い物は自分がすると母に声をかけようとしたところで、父に呼ばれた。
「茉子、帰る前にちょっといいかな」
「あ……うん、ちょっと待って」
「いいわよ、洗い物は大した量じゃないから。お父さんと話して」
「ありがとう」
茉子はキッチンを出て、こたつに戻った。こたつの横で正座をし、膝の上で手を揃えた状態の父を訝しげに見つめる。父の雰囲気を察するに、なにか真面目な話のようだ。
「お父さん、話ってなに?」
温かいお茶を持ってきてくれた母に礼を言い、父に向き直る。すると、突然父が床に手を突いた。
「え、え……なにっ!?」
床に擦りつけるように頭を下げられて、突然のことに狼狽える。そろそろと頭を上げた父は泣きそうな顔で茉子を見つめていた。
知的な雰囲気はないけれど、筋肉あれば憂いなしとでも言いたげに身体を鍛える父は、いつだって明るかった。父が落ち込んでいるところなど一度も見たことがない。いったいなにがあったのだろう。思い浮かぶ限りで最悪な想像は父が病気になったというもの。
「茉子……ごめん」
「ごめんってなに? わけがわからないよ。ちゃんと説明して」
父の泣きそうな顔を見ていると、茉子まで泣きそうになる。
茉子は二十六歳の大人だけど、まだまだ父には甘えたい。もし父が不治の病だったらどうしよう。そんな最悪な想像に涙を浮かべていると、父が唇を震わせながら叫んだ。
「うちの会社のために、紀野(きの)さんの長男と結婚してくれ!」
「え?」
驚きのあまり涙が一気に引っ込んだ。
(会社のため? 結婚? え、紀野さんってまさか)
結婚という言葉は茉子にとってもっとも縁遠いものだ。それを知っている父が、茉子に例の結婚を勧めるはずがない。
父は、会員制フィットネスクラブを展開する『アスレックス』の社長である。若い頃に柔道の全日本なんとか大会で優勝したとか、オリンピックに出場したとか、それなりに活躍していた選手だったようで、その経験を活かし会社を起ち上げた。
初めは後進を育てるべくコーチとしてどこかに雇われたようだが「そこはがつっと!」とか「えぇえぇいって感じに」とかで、選手からクレームが来たのだとか。
結局、起ち上げた会社も、取引先との窓口や経営面は母がすべて管理することとなった。父は言ってみれば、アスレックスの“顔”だ。ファンの多い父が同席しているだけで、うちに有利に運ぶのよ、とは母の談。
「結婚って……ちょっと待って、あの話は断ったんじゃ」
すると、洗い物を終えた母が父を押しのけて、茉子の隣にちょこんと座った。
「あのね、茉子……うちの会社、いよいよヤバいのよ」
「ヤバいって、倒産とかそういう、ヤバい?」
「そう、入ってくるお金より出ていくお金の方が多い状態。借金が膨らんで返せない状態」
「どうしてそんなことに……」
「う~ん、まぁ今までが上手くいき過ぎてたのよね。もともと私もお父さんも会社経営の経験なんてないでしょ。でも、お父さんのネームバリューだけでアスレックスはそこそこ大きい会社になっちゃったの。ただねぇ、今はそこかしこにスポーツ施設があるじゃない? さらに言えば、最近の若い人たちは坂下剛(ごう)なんて知らないのよね」
「あ~うん……そうかもね」
スポーツ選手の選手生命は非常に短い。オリンピック出場選手という肩書きはいつまでも通用するものでもない。十年もすれば人々からは忘れられる。そして『あの人は今なにしてる?』などの特集で取り上げられるくらいだ。
「お父さんがテレビにバンバン呼ばれてたときは、社員に特別ボーナスを出せるくらい儲かってたの。でも、年々売上は落ちていくばかりでね。水道光熱費も高いし、大型店が多いから賃料もバカにならないでしょう? ここのところ大型店を立て続けに閉店させてるんだけど、それでも赤字はなかなか解消しなくって」
母はため息をつきながら、困ったわと頬に手を当てた。
つまり、アスレックスは現在、倒産間近。三日間のんべんだらりと過ごしている場合ではないのでは。母に似てのんびり屋の茉子でもそう思った。
「まさか……それで、あの話を私に受けろと……?」
恐る恐る聞けば、父と母が揃って頷いた。
紀野家先代当主は、『キノホテル』というビジネスホテルを全国に展開していき、大きな企業グループを創立した。キノホテルは低価格ながらも好立地でサービスもよく、ビジネスマンだけではなくインバウンド客や観光客にも人気だ。
そして、亡くなった祖母と紀野家先代当主の妻は若い頃からの親友。自分たちに子どもが生まれたら結婚させたいわね、なんて話が出るほどの仲の良さであった。
しかし、生まれたのはどちらも男子。では、孫が生まれたらなんて話をしていたものの、坂下家も紀野家の親族も、彼女たちの話をまともに取り合ってはいなかった。
数ヶ月前、紀野家先代の妻が亡くなるまでは。
先代の妻が亡くなった際、遺言状の開封が行われた。なんとそこには財産分与のほかに『紀野柊司(しゅうじ)、逸生(いっせい)兄弟のどちらかは坂下茉子を妻とすること』と記してあったのだ。
そして、その遺言状を知らされた紀野家現当主が亡き母の思いを汲んで、一度、顔合わせだけでもしてくれないかと求めてきたのだ。
当然、茉子は母を通じて断ってもらった。
たとえ遺言にあったとしても、双方にその意思もないのに強引に結婚なんてさせられないと、両親も納得していた……はずだ。
(男の人と会うなんて、絶対に無理だし……相手の人にもいやな思いをさせちゃう)
茉子は男性が苦手だ。目を見て話すのも無理だし、近くにいると思うだけで心臓がいやな音を立てる。
最初の怖い記憶は、公園でトイレに連れ込まれそうになったこと。
個室に閉じ込められる前に泣き叫んだため、近くにいた祖母が気づき事なきを得たが、今でもその公園には近づけない。
友人が住むマンションのエレベーター内で身体に触れられたこともある。知らない男性に何度も待ち伏せされて追いかけられたことも。高校時代は複数人の男性から電車内で痴漢行為を受けた。
おそらく、茉子のおとなしそうな見た目と小柄な体格のせいで、そういった男に狙われやすいのだと思う。
そのような事情から、中学生の頃にはすでに男性が大の苦手になっており、高校でも短大でも、茉子は必要最低限しか男性と関わらなかった。
女性の友人たちは茉子に同情的だったが、事情を知らない男性は茉子を“男を変態呼ばわりする失礼な女”だとして嫌った。男性に避けられるのは茉子としても好都合だったが、ブスのくせにうぬぼれているなどと言われて、傷つかなかったはずもない。そのせいで、男性への苦手意識がさらに高まった。
誰も彼もが自分を狙っているように思えてまともに目も合わせられないし、喋ることもままならない。
だから、警戒し過ぎなほど警戒し、家族以外の男性とはなるべく関わらずに生きてきた。そんな茉子が結婚なんてできるはずがないと父もわかっているのに。
「なるべく社員をリストラせずに済む方法を考えて、最初はどこか大手の会社にアスレックスを売却できればと思ってたんだ。紀野家にも、うちは今こういう状態だから、顔合わせどころじゃないって話をしたら……」
父がそう言って母を見た。母も仕方がなかったとばかりに頷く。
「あのね、柊司くん……あ、お兄さんの方ね。弟さんはもう結婚されてるから。その柊司くんがね、あなたとの結婚にすっごく前向きなんですって。もし茉子が結婚してくれるなら、アスレックスに出資して紀野グループの子会社にしてくれるって言ってるの。リストラは極力しない方向でって。だから、顔合わせだけでもしてみない?」
「結婚してくれるならって……嘘でしょ」
どうしてアスレックスへの出資の条件が、茉子と結婚することなのか。茉子と結婚してどんなメリットがあるのか。なにもないだろう。
紀野家の長男とは会ったこともない。もちろん向こうだって茉子を知らないはずだ。それでどうしてすっごく前向きになるのか。
混乱する頭で茉子が必死に考えたところで、よく知りもしない相手がなにを考えているかなどわかるはずもなかった。
「その、柊司さんって人は……私が、男性恐怖症だって、知ってるの?」
知らないから安易に結婚なんて言葉が出てくるのでは。そんな茉子の想像は当然のように頷いた母によって裏切られた。
「知ってるわよ。最初にそう言って断ったんだもの。でも、それでもいいって言うの。今どきあんなに誠実で真っ直ぐな男性はいないわ。お母さん、柊司くんに絆されちゃった」
会社の経営が危ういというのに、機嫌良さげに母が笑う。
茉子はそれを聞いて青ざめるばかりだ。自分がこの話を呑まなければどうなるのか。アスレックスが倒産するのでは。そう考えると、逃げ道が塞がれていく感覚がする。
「男の人とまともに喋れないんだよ? そんな女を妻にしたい男性がいるの……? 結婚したって会話なんてきっとゼロだよ?」
先方だって、まさか茉子が会話すらままならない女だとは思っていないだろう。実際に会って話をすれば、落胆してすぐに結婚話を取り消してくるに違いない。
「いやだわぁ、茉子ってば。自虐的すぎるでしょう。もしかしたら柊司くんを好きになって、お父さんとお母さんみたいに仲良し夫婦になるかもしれないじゃない」
「……そんなの、絶対に無理だよ」
両親は茉子がどれだけの目に遭っていたか詳しく知らないから、簡単に言えるのだ。あの恐怖は忘れられるものではない。
知らない男性が近づいてくるだけで息が上がって心臓が痛くなるし、全身から汗が噴きでてくるし、万が一話しかけられでもしたら身体が竦んで動けなくなる。
(みんながみんな私を狙ってるわけじゃないって、わかってる。でも……近づくのも、喋るのも、怖い)
誰が安全で誰がそうではないのか。ぱっと見てわかればいいのに。そんな無意味なことを考えてしまうくらいには、茉子は自分自身にもうんざりしている。
(顔を合わせて、向こうが無理だって言えば、結婚の話にはならないはずだよね)
茉子だって両親が必死に守ってきた会社を助けたい。しかし、顔合わせをするだけでアスレックスを助けてくれる、なんて都合のいい話があるはずもない。
そうなれば、アスレックスは倒産する。
「会ったって……向こうに断られる可能性が高いと思う」
むしろ、その可能性の方が大きいと茉子は思う。顔合わせはきっと上手くいかないだろう。自分のせいでアスレックスがなくなるなんて。
そんな茉子の気持ちが伝わったのだろう。母はあっけらかんと言った。
「そのときはそのときよ。もう一回銀行に頭を下げに行ってもいいし、なんとかアスレックスを助けてもらえないかって、紀野さんに頼んでみるわ」
「そうだね。茉子一人に責任を負わせるなんて絶対にしない」
そうは言うけれど、きっと両親はこの話を茉子にするまでに、散々迷い、手を尽くしてきたはずだ。アスレックスが今後も会社として存続するには、茉子と柊司の結婚が不可欠なのだろう。
「……わかった。顔合わせに行くよ」
茉子は絶望的な気分で頷くしかなかった。
それからあっという間に一ヶ月が経ち、茉子がうだうだと悩んでいるうちに顔合わせの日を迎えた。
今日は土曜日のため仕事は休みだ。
朝から逃げだしたい気分で準備をした茉子は、クリーム色のワンピースに身を包み、上からコートを羽織り、両親とタクシーで紀野家へ向かっている。
膝の上で握りしめた手は寒さとはべつの意味でカタカタと震えているし、心臓は壊れそうなほど激しい音を立てているし、唇が乾いて上唇と下唇がくっつくし。
(もう帰りたい……)
「茉子、もし怖いなら、柊司くんを、幼稚園にお迎えに来るお父さんだと思ったらどう?」
母が暢気にそんな言葉で宥めてくる。
「職場でもないのに、保護者だなんて思えるわけない」
茉子は幼稚園教諭として『みらいのおか幼稚園』で働いている。
子どものお迎えに稀に父親が来る場合もあるし、園バスの運転手など男性職員だっている。緊張はするものの、誰もいないところに二人きりでなければなんとか対応できるのだ。けれど、これから会うのは自分と結婚したいと望む男性ではないか。
顔合わせに行く覚悟を決めたものの、会ったこともない男性との結婚生活をつい想像してしまい、そのたびに恐怖が押し寄せてくる。
「まぁ、柊司くんは、茉子がずっと無言でいても、話しかけて無視しても怒るようなタイプじゃないから、怖がっていても大丈夫だと思うわ」
「それ、ほんと? 失礼だとか言って怒鳴らない?」
恐る恐る聞けば、母は茉子を安心させるように頷いた。
「そういう人じゃないわ。お母さんはね、これを機に茉子がもう少し男性と歩み寄ってくれればとも思ってるの。お父さんだって、会社のためにとは言ってるけど、それだけじゃないのよ。私たちは一番に茉子の幸せを考えてる」
「私だって、ずっとこのままでいいなんて思ってない……っ、けど」
怖いのだ。男の人が怖くてたまらない。
子どもや女性を付け狙う犯罪者は、被害に遭う側がどれだけ恐ろしい思いをしているか、まるでわかっていない。それを身近な人にさえ言えず苦しんでいるのかも。
(私が悪いわけじゃないってわかってるけど、男の人に服を脱がされそうになったとか、さわられたなんて、恥ずかしくて……お母さんにもお父さんにも言えなかった……)
捕まったら殺されていたかもしれないとか、家に監禁されていたかもしれないとか、あり得た未来を夢に見るたびに恐ろしくて涙が溢れてくる。
だから茉子は、女性が多い職場という理由だけではなく、自分のような怖い思いをする子どもを減らしたくて、幼稚園教諭の仕事を選んだ。
(今のままじゃ、子どもを守るどころじゃないけど……)
大人になれば男性も平気になるんじゃないかと微かな希望を抱いていた。時間が経てば怖かった記憶も薄れていくんじゃないかと。でも、何年経っても恐怖はなくならない。
(そういえば……高校時代、一人だけ、怖くないって思った人がいたな)
痴漢から茉子を助けてくれた人。名前も知らないけれど、自分をからかう男子生徒や頭ごなしな教師からも守ってくれた人。
不思議と、背の高いあの先輩の声を聞くと、ほっとしたものだ。
(……現実逃避に思い出に縋ってる場合じゃないよね)
茉子がきゅっと唇を噛みしめると、隣に座った母に手を握られた。
「少しずつでいいの。きっとね、柊司くんは茉子がどれだけ怖がっても、慣れるまでずっと待っていてくれる人だと思うわよ」
母の言葉が本当だとしたら、柊司と自分の結婚が決まってしまうじゃないか。トラウマをどうにかしたい気持ちはある。けれど、よく知りもしない人と結婚だなんて。
茉子は曖昧に頷いて、窓の外へ視線を向けた。