結婚しよって言ったよね? 幼なじみ御曹司が私を一生溺愛する気です! 3
第三話
「あ……」
昏く色付いた眼差しに射貫かれて、ふるふると首を横に振る。
肯定と否定、どちらを伝えたかったのか、自分でもわからない。
ただ怖くて、震えただけのような気もする。
「ああ、ごめんね。昔の俺が軟弱だったせいなのに……円香ちゃんを責めたらダメだよね……。これ以上心配させたくないから、今日は舐めるのは、ここまでにしてあげる」
「え……? あっ……!」
広げられたままの脚の間を、今度は指先で辿られた。
小陰唇や膣口を撫でられたかと思うと、そのままゆっくりと指が入り込んでくる。
「ふぁ、あ……!」
既に雄を求めて疼いていたそこは、初めての異物を喜んで受け入れて、摩擦を堪能するように締め付けていた。
奥まで滑り込んできたかと思うと、もう一方の手で陰核を撫でられる。
「あっ……! そこ、っ……ぁあっ……」
「ふふ、こっちを撫でてあげると、きゅうきゅう絡みついてくる……。もしかして、一本じゃ足りない?」
「え……あ、ぁあ……!」
すぐさま二本目を捻じ込まれて、でも溢れた涙は、新たな快感によるものだった。
指が中で蠢いて、真剣な目とかちあう。
反応を観察されているのだと気付いて、恥ずかしさに顔を背ける。
けれど雪斗は、微かな呼吸の乱れすら見逃さず、円香も知らない弱いところをじわじわと暴いてきた。
「あ……、あっ……そこ、おさな……おさないで、っ……おしちゃだめ……だめっ!」
「お腹の……ここ? こりこりしたところ、気持ちいいの?」
「っあ、っぁ、あ……!!」
否定したかったのに、爪先がきゅっと丸まって、雪斗に真実を伝えてしまう。
陰核を虐められた時の過激な刺激とは違って、ゆっくりと確実に絶頂へ押し上げられて怖くなる。
「ああ、すごい。まだ触ってないのに、胸の先も硬くなっちゃってる……」
「あぁ、あ……」
片手で、汗ばんだ膨らみを撫でられた。
大きさや柔らかさを確かめるように揉み込まれて、けれどその先で疼いている胸の先には、決して触れてくれない。
「胸、昔はまっすぐだったのに。すごく成長してる。綺麗……」
「っ……うそ……別に、綺麗じゃ、ない……」
円香は自分の胸があまり好きではない。
無駄に大きなせいで重たいし、どんな服もシルエットが不格好になって着こなせないのだ。
「なんで? 柔らかくて、でも先っぽだけ真っ赤になってて、可愛いのに」
「あっ……!? あぁあ……!」
ようやく胸の先を摘ままれると、驚くほど甘い痺れが駆け抜けて、ぎゅううっと身体の中の指を締め付けてしまった。
「あ、あっ……!? やだ、そこ、や、ぁあ、ぁあぁ……!」
「っ……胸の先、そんなに、気持ちいいの……?」
雪斗は探るように乳首を摘まんだり弾いたりしながら、中に入れた指で、再びお腹側を擦りはじめる。
身体の中で快感が繋がり、増幅されて、頭の中があっという間に白く霞んだ。
「ぁあ、あ、あー……あー……!」
何度目かの絶頂にガクガクと震えて涙さえ零しているのに、差し込んだ指の手の平で陰核まで捏ねて、更に攻め立ててくる。
「あー……! あ……!」
「誰にこんなに開発されたの? 初めてしたのは、何歳の時? どんな奴? 格好良かった? 俺よりそいつが好みだったの? 俺との約束なんて忘れるほど、良かった?」
呼吸が苦しくて、『気持ちいい』でいっぱいで、何も頭に入ってこない。
辛うじてわかったのは、やっぱり怒らせてしまって、責められているということくらいで。
「っあ……も、謝る、から……ごめんな……まってっ、ゆび、やめて、や……っ」
「俺だって嫌だよ。前の男より、いっぱい、いっぱい気持ちよくしてあげたい。全部俺で、上書きしたい……っ」
とうとう三本目の指が入り込んできて、広げられた膣口が熱を持った。
「っ……、ああ、あー……!」
痛みを覚えたのは、ほんの一瞬だ。
苦しいのに満たされて、どろどろと愛液が溢れて止まらない。
「あー……、あー……!」
お腹の中を指で何度も捏ねられ、凝った乳首をぎゅうっと摘ままれて、涙と汗と涎を流しながら、ひたすら啼くことしかできない。
指が少し出入りするだけで、粘膜がずりずりと擦れて、その刺激でまた達してしまう。
酸欠で朦朧とし、壊れた人形のようにびくつくだけになると、雪斗はやっと指を抜いてくれた。
「あ……、ぁ……、あ……っ……」
愛撫は終わったのに、腰がびくびくと前後し続けて止まらない。
震えながらも、チーズみたいに蕩けた身体が、シーツにへばりついていく。
乾いた音がして、雪斗に視線を滑らせた。
全てを脱ぎ捨てた雪斗が――股間のあたりで何かを握って、指に絡んだ円香の愛液を塗り込むように前後に動かしている。
何を持っているのかわからなくて、雪斗を、ぼーっと見つめる。
何度か瞬くと、涙でぼやけていた視界がはっきりしてきた。
薄らと汗ばんで光る滑らかな肌に、太くしなやかな長い手脚。
雪斗が息を吐くたび、逞しい腹筋が浮き上がり、胸筋が上下する。
そして、腰のあたりで動く手が握っているものは――。
「あ……、……え……?」
王子様然とした、高貴な印象とは正反対の、生々しい形。
全く別世界のものをかけあわせたみたいで、脳が上手く情報を処理できない。
が、雪斗は円香の理解など待たず、どこからか取り出した避妊具を慣れた手付きで装着した。
「あ、っ……」
だらしなく開いたままの膝を再び胸の方へ押し付けられ、これから何が起きるのか理解して――快感を覚えたばかりの膣が、本能を露わにひくついた。
「あ……ユキ、くん……」
もう、雪斗がわからない。
と同時に、唯一知る男性が、雪斗で良かったと思っている自分がいた。
――たとえ……昔とは、変わっちゃったとしても……。
雪斗のおかげで自分の醜さに気付いて、与えられた人生を受け入れて頑張ろうと思えた。
でなければ、自らの環境や親を恨み続けて、もっと酷い人間になっていたかもしれない。
そして、雪斗との思い出は唯一の幸せで、人生の励みだった。
その彼に一晩でも喜んでもらえるなら本望だ。
そう思いながらも、つい弱音が零れてしまった。
「ユキくん……い、痛いの、だけは、しないで……」
「俺がそんな、酷いことをすると思うの?」
泣きそうな顔が近付いてくる。
眠り姫を起こすような優しいキスは、少しずつ淫らなものへ変化して、広がった膣口に、確かな硬さが押し当てられた。
「っ……、ん、っ……」
いつ入り込んでくるかわからない緊張で、全身が強張る。
息を止めて、この先に待ち受けているであろう痛みを耐えようとした。
「円香ちゃん……頑張って、気持ちよくするから。そんなに怯えた顔、しないで」
「お……大きくて、ちょっと……怖い、だけ」
何が嬉しかったのか、雪斗は一瞬目を丸くした後、ふにゃっと破顔した。
――あ……。
――よかった……私の知ってる、ユキくんだ……。
昔の雪斗を感じるだけで、自然と身体の緊張がほどけて恐怖が凪いだ。
「な、なんで……笑うの……?」
「だって……他の男より、大きいってことだよね? 女の子からしたら、くだらないことだろうけど……少しでも、魅力的だと思ってもらえた気がして」
ちょっと気まずくて答えに詰まった。
正直、大きさの違いなんてわからないのだ。
でも雪斗が喜んでくれると、円香も嬉しくなって、散々追い詰められた身体が疼いてしまう。
「頑張って、円香ちゃんの好きなところだけ突いてあげるね……」
「っ……、そんなの……、い、いい、から……」
雪斗の首に腕を回して先を促すと、腰が近付いてくる。
「駄目だよ……他の男なんて忘れて、俺のことしか、考えられなくなってほしいから」
鈍い痛みが走り、思わず爪を立てたが、指で慣らされた場所はやすやすと広がって、貪欲に雪斗を受け入れていく。
「っあ……、っ……! ぁ……!」
「円香ちゃん……っ……すっごく、あつくて……きつい……」
雪斗は何度も大きく息を吐き、痛みを耐えるように顔を歪ませた。
反射的に雪斗の頭を撫でていたのは、昔、苦しんでいる雪斗を慰めて励ますのは、自分の役割だったからだ。
「ユキくん……だい、じょうぶ……? 気持ちよく、ない……?」
「っ……なんでまだ、俺を心配するの? 今度は俺が幸せにしてあげるって、何度言ったら、わかってくれるのかな……?」
「あ、っ……!」
手を握られ、シーツに押さえつけられる。子供の頃からは考えられない力強さに、いつまで思い出を引きずっているんだ、と笑われた気がした。
成長したことを突きつけるように腰を突き出され、力強く脈打つ杭で、ぐりぐりと奥を抉られる。
「あ、ああ、あー……!」
もうこれ以上深くは入らないと思ったのに、指では届かなかった場所を犯されて、目の奥に閃光が弾けた。
雪斗が微かに腰を揺らすたび陰核が擦れ、全身が陸に打ち上げられた魚のように跳ねる。
「ひぁ、っ、ぁあ、あ……!!」
「う、っ……!」
膣が硬い陰茎にみっちりと絡みついて収縮すると、雪斗が低く唸った。
頭の中が真っ白になって、息が止まって――雪斗が手を押さえつけてくれていなかったら、快感を受け止めきれずに、彼を殴るか、引っ掻くかしていたかもしれない。
「あ……っ、あ……っ、ユキ、くん……、なに……なに、したの……っ……」
「入れてあげただけなのに……ふふっ……そんなに、気持ちいい?」
円香は、がくがくと頷いた。
心臓は爆発しそうなほど激しく脈打っているし、下腹部がいっぱいいっぱいで苦しいのに、信じられないほど満たされている。
「っ……はぁ……可愛い……嬉しい。この先、円香ちゃんを抱くのは俺だけだから……俺の形、ちゃんと覚えてね?」
「え……? あ……」
ちゅっと額にキスをして、雪斗がゆっくり腰を引いた。
「ひぁ、あ……! ぁああ……!」
狭い上、粘膜が絡みついている分、摩擦が強い。
長い陰茎がずりずりと抜けていく感触だけで、また小さく達してしまった。
指先まで広がる痺れに恍惚としていると、今度はお腹の奥までゆっくりと押し込まれて、爪先が引き攣る。
「ぁあぁあ、ぁ……! あ……!」
「っ、どう、しよう……、優しくしたいのに……きもちい……っ……あ……腰、止まらない……」
雪斗が、喘ぎ交じりに息を継いで、じりじりと腰を上下させる。
身体の中の雪斗が大きさを増し、みっちりと隙間なく犯されて余裕がないのに、愛液のせいで、出入りは怖いほどスムーズだ。
「あぅっ、ぁ、っ……ぁー……! あー……」
「っ……俺で、気持ちよくなってくれてるの、嬉しい……一緒に、幸せに、なろうね……」
少しずつ速度が速まって、いつの間にか、ぱちゅっ、ぱちゅっと濡れた肌がぶつかりあう音が響いている。
雪斗の動きは明らかに不慣れでぎこちなかったが、もちろん円香はそんなことに気付く余裕はなかった。
ごりごりとお腹を、子宮口を抉られて視界がぶれ、ベッドが揺れる。
繰り返し大きな快楽の波が押し寄せて、頭の中が蕩けていった。
「あ、あっ……あっ……あっ……」
「っは……、円香ちゃん……円香ちゃん……っ、好き……好き……っ、すきっ、だいすき、っ……すき……」
「っ……」
本気の告白なわけがない。
二十年ぶりに再会した瞬間に本気で結婚を持ちかけてくるなんて、ありえない。
雪斗は自分のカリスマ性を自覚している。
どんな女の子だって簡単に籠絡できると知っていて、全て計算済みのはず。
強引に部屋に連れ込んで、大袈裟に口説く行為自体が、その表れだ。
わかっているのに、温かな気持ちが流れ込んでくる気がしてしまうのは、この行為も、甘く愛を囁かれるのも初めてだからだろう。
「円香ちゃん……もう絶対……ぜったい、離さない……俺の、ものだよ……」
雪斗は夢中で腰を振り、耳元や首に吸い付いて甘えてきた。
硬い男根が出入りして、じゅぶじゅぶと泡立った愛液が溢れ、幸せで窒息しそうになる。
――セックスって……愛がなくても……こんなに、しあわせ、なの……?
初めては痛いものに違いないと思っていたのに、全く違う。
気を抜いたら、甘い台詞を信じて、自分まで『すき』と口走って抱きついてしまいそうだ。
「っ……どうしよう……まだまだ、幸せにしてあげたい……出したく、ない……っ、我慢、したいのに……」
雪斗は一体何と戦っているのか、低く唸りながら必死に耐えて、更に強く腰を打ち付けてくる。
「あっ、あ、あー……っ……」
奥を突かれるたび、意識が遠退いていくのを感じた。
息が苦しい。
止まってほしいのに、舌まで甘く痺れて喋ることも難しい。
雪斗は洗脳のように「大好き」を繰り返し、ぶるりと全身を震わせて動きを止めた。
それから、何度か名前を呼ばれて抱きしめられ、頭を撫でられた気がする。
――……よかった……。
――ユキくんも同じくらい……幸せに、なってくれたのかな……?
勝手にびくつき続ける身体を不自由に思いながら、いつの間にか気を失っていた。
でも雪斗はストーカーのごとく、夢の中にまで追いかけてきた。
お城のようなパーティー会場に現れたかと思うと、嫌がる円香に無理矢理誓いのキスをし、『子作りをしよう』だなんて言い出して。
これは夢だ、とわかっているのに、どうしても瞼が開かない。
円香は「うーん……」と魘(うな)されながら、夢の中で、夜明けまで奪われ尽くした。
「はっ、はぁっ、はっ……、好き、っ……円香ちゃん、だいすき、っ……」
腰を打ち付けるたび、愛液が飛び散る。
雪斗は、耐えるつもりだった。
だって、余裕たっぷりに、格好良く抱きたい。
一番硬い状態で、何度も円香を喜ばせたい。
軟弱だった子供時代とは違って、精力と強壮に溢れる、逞しい男だと思われたい。
けれど、初めて知った女性の感触に、腰が勝手に動いて止まらない。
円香がひときわ深く達した瞬間、飲み込むように媚肉が蠕動(ぜんどう)し、尾骨からぶるりと震えが駆け上がって――気付いた時には、射精していた。
「あ……うっ……! っ……!」
耳に届いたのは、情けない自分の呻き声だ。
円香の愛らしい声は掠れて、もはや悲鳴にすらなっていない。
粘膜の蠢きに最後の一滴まで絞り取られ、敏感な亀頭をしゃぶり尽くされて、自慰とは比較にならない快感に脳を灼かれた。
「っは……、はっ……はぁ、ぁあ……円香ちゃん……」
ゴム越しとはいえ、初めて種付けを果たした充足感に満たされて、溢れる愛しさのまま、何度も首筋にキスをする。
「大好き……好き……大好きだよ……」
行為が終わってもなお精液をせがんでくる膣の動きは、円香の隠れた本心を現しているようだ。
それに、手探りで反応を確かめつつの愛撫だったのに、すぐにたくさん感じてくれた。
――やっぱり円香ちゃんは、運命の相手なんだ……。
――遊び慣れてるから、感じやすいのかもしれないけど。
――女の子は、興味のない相手じゃ深く感じられないって、女の子向けのエッチな漫画とか小説に、書いてあったし……。
達したばかりなのに、挿入したままの性器はますます充血して、獣さながらに腰を振り立てたくなってくる。
「すぐイっちゃって、ごめんね。俺、まだまだ頑張れるから……! 何度でも、一晩中だって……、……?」
無反応を不思議に思って改めて見下ろす。
一体、いつからだろう。
円香は頭をこてんと傾けて目を瞑り、ぴくりとも動かなくなっていた。
「円香ちゃん……?」
汗で額に張り付いた前髪を耳の方へ撫でてみるが、円香は睫毛を震わせただけだった。
健やかな呼吸の音が聞こえて、胸の膨らみが微かに上下している。
「っ……気を失うほど、気持ちよくなってくれたなんて……っ」
感動のまま抱きしめると、円香は苦しげに息を乱した。
抜かないと避妊具の効果が薄れてしまう。
わかっていても、興奮は収まらない。
――また求めてもらえるように頑張ったけど……円香ちゃんはワンナイトのつもりだろうし。
――明日になったら、帰りたがっちゃうかも。
――それなら、このまま何度も中出しして、俺のモノにしちゃえば……、…………。
雪斗は本気で葛藤した。
『ごめんね、ゴムが破けちゃってたみたい、責任は取るからね』と言えば、もしかしたら、結婚してくれるかもしれない。
――だめだ……結婚のために子供の命を利用するなんて、ただのクズだ……。ここまで忍耐を重ねて頑張ってきたんだから、最後まで誠実に……。
泣く泣く性器を引き抜くと、円香が「ん……」と甘く啼く。
自分に抱かれて、どろどろの状態で無防備に眠る姿を前に、ますます愛しさがつのった。
一向に鎮まる気配のない下半身が、雪斗をせき立ててくる。
「っ……、やっと会えたのに……やっぱり……我慢できない……」
雪斗は隣に横たわって抱きしめて、すんすんと頭皮や胸元の匂いを嗅ぎながら、自らの手で慰めた。
「ごめん……ごめんね……こんな、気持ち悪いことして……。でも俺……円香ちゃんしか……」
家柄も経歴も生粋のエリートで、容姿も知性もトリプルSで、どんな美女も入れ食いの昼間の姿からは、誰一人想像できないだろう。
精通前からたった一人の女の子を崇拝して、自慰のオカズですら、一度も浮気をしたことがないなんて。
――前は円香ちゃんの方が背が高かったのに……すっぽり収まっちゃうの、可愛い……。
――それに、昔は胸、ぺたんこだったのに……。
――おっぱい、大きくて……マシュマロみたい……。先っぽ、しゃぶりたい……。
「っは、っは……っ……う、っ……!」
円香を穢さないよう、片手で飛沫を受け止める。
立て続けに二度吐き出しても鎮まる気配がなく、泣きたくなった。
――再会しただけで勃起しちゃいそうだったから、今朝は念入りに二回も抜いておいたのに……。
雪斗は円香の裸体を視姦し、もう一度抜いた。
その後、湿らせたタオルで円香の身体を清めているうちにムラムラして、シャワーを浴びながらまた抜いた。
一時の満足に浸りたくなったが、問題はここからだ。
念願の再会を果たしたとはいえ、結局は都合のいい棒として求められただけのこと。
円香の東京滞在中に心を振り向かせることができなければ、結婚は難しいだろう。
でも、二十年かけて手に入れた健康な身体とキャリアをもってしても全くなびく様子がなかったのに、たった数日で、一体どうやったら気を引けるのか。
冷静に考えるほど追い詰められて――いても立ってもいられず電話をかけた。
「良平! どうしよう、やっと円香ちゃんと会えたのに――」
『あー、ちょい待ち、今三次会のカラオケで、周りがうるさくてさ』
良平の声の向こうから、調子外れの歌声が聞こえてくる。
彼が移動する気配があって、バタンという音と共に静かになった。おそらく部屋を出たのだろう。相談を続けようとすると、良平が陽気にまくし立ててきた。
『お前ほんっと律儀だな~。このタイミングで礼なんていいって! 栗原と二人で二十年分のあれやこれやを、くんずほぐれつ伝えあってろよ。実は俺もさっき、色目使ってきた子がいてさぁ~。いや浮気願望なんてないけど、俺も男としてまだいけるのかなって自信つくというか~』
「良平――良平、」
相当酔っているのだろう。何度名前を呼んでも止まらない。
『あ、でも今度焼き肉奢りな! 同窓会の幹事を引き受けたのも、頑なに興味ないって断ってきた栗原をしつこく誘ったのも俺! 俺のおかげ! 今日だって栗原引き止めて、お前のこと持ち上げといたしさー』
「え……待って。何? 持ち上げるって、どう……」
『そうそう! 言い寄られまくりで、女の子はよりどりみどり、ってさ。あーあと、全く言い寄ってこない女を追いかける方が好みだって! 我ながらいい感じの匂わせだろ? 栗原、「アイドルみたい!」って目ぇ丸くしてたぞ~! やっぱほら、人気者ってのは、それだけで魅力が数倍増しだしさ。もちろん、ひょろひょろだった幼馴染みが色男に成長してるってだけでも、ときめくだろうけど――』
良平は饒舌に手柄の披露を続けている。
雪斗は額に手をあてて長い溜息を吐き、応接間のソファーにぐんにゃりと横たわった。
――良平のせいで、軽い気持ちで誘ったと誤解されたんだ!
そう叫びたくなるのを、なんとか飲み込む。
――確かに、『全力で協力して! お願い!』とは頼んだけど……。
――いや、親友のせいにしたらダメだ。俺の努力と魅力が足りなかっただけなのに……。
元々円香と親しく、毎日公園で遊んでいたらしい良平は、雪斗が学校に通うようになって、初めてできた友達だった。
中学に進学し、円香からの連絡が途絶えたショックで再び体調を崩した雪斗を見かねて、折に触れて円香と連絡を取り、彼女の状況を教えてくれたのも良平だ。
そして、円香と再会し、結婚するために計画した今日の大規模な同窓会の幹事まで、快く引き受けてくれた。
なぜ同窓会かといえば、フェードアウトされて縁が切れた以上、正攻法でのアプローチより、自然な再会を演出した方が勝率が高いだろうと考えたのだ。
ちなみに、副支配人の杉本も協力者だ。
円香への想いを語り、成就するようにサポートしてほしいと頼んだところ、
『女性の影が全くないから、ゲイかしらと思ってました! 二十年も一人の女性を想い続けてきたなんて、素敵! もちろん全力で応援します!』
と、喜んでくれた。
ただ、寝室にコンドームが用意されているのを見た時は、
――再会してすぐ自室に連れ込んで、え、えっ、エッチなんて……!
――積もる話をして一緒に過ごせたらいいなって思ってるだけなのに……!
と一人で狼狽えたけれど、結果的に彼女のおかげで引き留められたと考えると、感謝してもしきれない。
――まあ、もしコンドームがなくても、軟禁はしてたけど。
貴重品も着替えも靴も取り上げたから、円香は簡単にはホテルを出られない。良平の力を借りて、作戦を練る時間は十分にある。
『てかさー、色目使ってきた子以外にもやたら連絡先渡されて、パーティーだか合コンだか開いて! って言われてさぁ。もしかしてお前、また俺に押し付けた? 毎回お前来なくてクレーム受けるの俺なんだぞ。いや、幹事好きだしなんだかんだ毎回カップル生まれてるからいいんだけど』
「良平――良平、ストップ! 聞いて!」
『お、おう? なんだよ』
「あのね、円香ちゃん、他人みたいに余所余所しかったんだよ」
『えっ、それはないだろ。確かにお前のこと覚えてないっぽい感じはあったけど、それは見た目が変わりすぎてたからで、』
「違うよ、あからさまに避けられた。それに良平は、『円香ちゃんは結婚の気配がないから安心しろ』って言ってくれてたけど……他の男と、経験があったみたいで……」
『あー……そりゃまあ……俺だって密に連絡取ってたわけじゃないし、細かい付き合いまではわからないって。つか今時、お前の貞操観念と同レベルの子はいないし、この歳まで独身だった幸運に感謝した方がいいと思うぞ』
勝手に円香を神聖化して、都合よく『未婚=処女』と解釈していたのがいけなかったのだろう。
雪斗は溜息を飲み込んだ。
「……そうだよね。とにかく、強引に引き留めたら迷惑そうな顔されて、早く帰りたがって……。ずっと一緒にいようって約束したことだけは覚えてると思ったのに、」
『待て――待て待て待て』
今度は良平に遮られた。
『まさかそれ聞いたのか?』
「それって?」
『結婚の約束がどうたらってやつだよ! 初手でそれはキモすぎるから絶対やめろって言ったよな!?』
「そうだけど……だって……だって、俺の顔を見ることすら嫌そうだったから、不安になって」
『なら余計に言うなよ!』
「む、無理だよ! やっと会えたのに、告白もせずに、たった数分の会話で終わるところだったんだよ!? 思い出してくれたら少しは違うかもと思って、でも全然忘れちゃってたみたいで、」
『あのなぁ~……! ガキの頃の約束なんて覚えてるわけないだろ! てか覚えてたとしたって、再会直後に結婚なんて持ち出す奴があるか! 頼むから冷静になれ……!』
「でも……でも円香ちゃんは、約束を忘れるような子じゃないから……」
円香を庇うと、良平は『いや、そこじゃねぇよ……』と呻き、長い長い溜息が続いた。
『あのさぁ……一足飛びでエリートコース乗って、興味のない美女には賢者モードのパーフェクト対応で心臓鷲掴みなのに、なんで栗原のことになった途端バカになるんだ!? 接客業なんだから距離感読むの得意だろ!? 活かせよ!!』
「……そう言われたって……円香ちゃんは特別だから……」
雪斗が好きなのは、女でも、男でもない。
〝円香〟という名前のついた、唯一無二の、特別な生き物なのだ。その他の雌と一緒にしないでほしい。
『いいか、普通にデートに誘え。無難に観光案内しろ! まずは今のお前をわかってもらって、もう一回友達になるところから。な? ほら、お前のお気に入りの場所とかさ。栗原、お上(のぼ)りさんだし。観光地なら大抵のところは喜んでくれるだろ。満足してもらうハードルは相当低いはず』
「……デート……お気に入りの場所……」
雪斗はわずかな希望を見出し、繰り返した。
良平の言葉には重みがある。
なぜなら彼は、好きな女性を射止めた既婚者だ。
雪斗からすると人生の成功者で、大先輩なのである。
「確かに、良平の言う通り……。今の姿を見てもらいさえすれば元気になったって伝わると思ってたけど、体調心配されちゃったし……。まだまだ、成長したことが伝わってないのかも」
『ほら。な? 栗原の中で、お前は二十年前のままなんだって。……っていうか、栗原は今どこにいんの?』
「寝室だよ」
『…………は? 何?』
「俺の寝室」
『……………………は?』
「う……良平は知ってるだろ。俺が童貞だったって。寝顔見たらまたムラムラして襲っちゃいそうだから、今は応接間から電話してる」
『はあ~~~~!? またって……またってなんだよ!! 童貞だった!? 一発ヤった後かよ!!!! アホらし、もう切る』
「ちょちょちょ、ちょっと待って! 引き留めるには、誘いに乗るしかなかったんだよ! 俺は相思相愛の上での初夜を思い描いてたのに、遊びならって言われて。だから荷物を取り上げて……あれ? あれ……良平? 良平!?」
通話は切れていた。
でもやはり、持つべきものは親友だ。
――良平の言う通りだ。
――会えばすぐに昔のように、なんて、俺の怠慢でしかない……!
今日まで仕事一筋だった雪斗にとって、お気に入りの場所といえば一つだけだ。しかも、自分が元気になったことをアピールするにも絶好の観光地。
――あそこなら……きっと円香ちゃんも、今の俺を見直して、『かっこいい! 素敵! 結婚して!』って思ってくれるはずっ……!
すぐに副支配人に連絡して準備を頼み、明日に備えて別室で眠ろうとして――一目寝顔を見たいという気持ちを抑えきれず、寝室に忍び入った。
眠る円香を起こさないよう隣に横たわり、顔を覗き込む。
「円香ちゃん……」
子供の頃の寝顔と今の彼女が重なって、頬が緩んだ。
円香は、雪斗のベッドで寝てしまうことがたびたびあった。
円香の寝顔を見るのが好きだった。
ドキドキして、今と同じように隣に横たわって、寝顔を見つめて――惹かれる気持ちのまま頭を撫でて、手を握った。
性の衝動を教えてくれたのも円香だ。
円香の匂いや声や感触に反応し、形を取りはじめた下半身を慌てて毛布で隠したのは、一度や二度のことではない。
自分の身体に何が起きているのかわからなかったけれど、帰ってほしくない、ずっと部屋に閉じ込めておきたい、ぎゅーっと抱きしめたい、と何度も願った。
あの頃は、円香だって同じ気持ちだったはずだ。
だって、日が暮れはじめて帰宅の時間が近付くと、彼女はいつも悲しげに窓の外を見て、
『また明日も来ていい?』
と泣きそうな顔で振り向いた。
「円香ちゃん……もう、どこにも帰る必要はないから……」
二十年前、下半身の疼きは、幼い雪斗に混乱をもたらした。
でも今は、これが愛情の証だということも、自分の為すべきことも明確にわかっている。
昏々と眠る円香を見ていると、ずっと心の支えにしてきた記憶が蘇った。
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