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ハツコイ同士。 ハイスペ御曹司は初心な幼馴染となんとしても結婚したい

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書籍紹介

俺をヒナの王子様にして欲しい

「いっぱい見たい、ヒナが俺でイくとこ」
昔から大好きな幼馴染の御曹司、光一に押し倒されているこの状況は一体なに!?
勃たないと悩んでいたから陽奈子が“治療”してあげるはずだったのに。
執拗な愛撫で快感に啼き喘いでいるのは陽奈子のほうで。
「ヒナをお姫様扱いしたい」だなんて、
甘く真剣に迫られたら、もう抗えない――。
じれじれ両片思いからの激甘結婚物語!

ジャンル:
現代
キャラ属性:
社長・セレブ
シチュエーション:
幼馴染・初恋の人 | 甘々・溺愛 | 玉の輿・身分差
登場人物紹介

黒崎光一(くろさきこういち)

黒崎商事の御曹司。陽奈子とは幼馴染。父親が厳しく、見合い相手を次々連れてくるもののヒナ以外はまったく好きになれない。

如月陽奈子(きさらぎひなこ)

公営団地育ちの庶民代表。光一にずっと憧れているが、住む世界が違うと諦めている。ある日深夜に光一が訪ねてきて……?

立ち読み

 ──なんで、こんなことになったんだっけ?
 陽奈子は、快楽に侵された頭で必死に考えようとした。
 耳を塞ぎたくなる喘ぎ声に、卑猥な水音。
 腰がびくつくたび、安物の組み立てベッドが小さく軋む。
 横たわった陽奈子と上下反対に寝そべり、脚の間に顔を埋めているのは幼馴染の光一だ。
 指で膣を、舌で花芯を嬲られ続けて、どのくらい経ったのだろう。
「ぁ、あぅ、あー……っ……」
「ヒナ、しー……。我慢しろって。ヒナの可愛い声、誰にも聞かせたくない。今だけは全部俺のものにしたいから」
 陽奈子の暮らすアパートは古くて壁が薄い。
 でももう喉も唇も力が入らなかった。
 ──可愛いって? どこが?
 ──子供の頃から、女の子扱いしてくれたことなんて一度もないのに。
 ──コウくん、やっぱり酔っておかしくなってるんだ。
 雨でずぶ濡れになった光一が訪ねてきたのは、深夜零時近くのことだ。
 青ざめた顔を見て、またお見合い相手と上手くいかなかったんだな、とぴんときた。
 しょうがないなぁ、ともてなして励まして、恋愛上級者を気取って偉そうにアドバイスをして、『きっと次の人とは上手くいくよ!』と背中を叩いて送り出す。
 それがいつもの、陽奈子の役目だ。
 なのに。
「あ、ぁっ……! ばかばか、ばかっ……! そんなの、もう、いい……っ」
 太い指でくちゅくちゅと浅い場所を擦られて、全身が震え続けている。
 何度限界を迎えても、泣きながら身を捩っても、陰部にむしゃぶりついたまま離れてくれない。
 ずっと緩やかに達している気もするし、イきすぎてイけなくて、痙攣が止まらなくなっているだけのような気もする。
「ヒナは濡れやすいんだな。美味しくてずっと舐めてたい……もっと気持ちよくなって、いっぱい飲ませて?」
 わけがわからない事を言われているのに、何故か下腹部がきゅうっと疼く。
 光一が、好きだ。
 でもただの友達だからこそ、こんな行為を気軽にされているのかと思うと悲しかった。
 せめて触り方だけは、大切な女性を抱く時と同じであって欲しい。
「ぅ、う……コウくん、ゆび、っ、変なふうにするの、やめて……っ」
「ん? 指? 一本じゃ足りない? きつきつだけど……ちょっと苦しくされるくらいの方が好き? そしたらもっと出てくる?」
「なに、何言って……ぁ、ぁあぁ……っ!?」
 花芯を舌で扱かれながら二本目の指を差し込まれて、ぽろぽろと涙が溢れる。
 散々解されていたから痛くはない。
 それどころか、更に声が漏れて、光一に触られていると思うだけで幸せがこみ上げて止まらなくなっている。
「ったく、いい加減恥ずかしがるなって。ただのお礼だって言ってるだろ? 遠慮しないで気持ちよくなって、スッキリすればいい」
「そん、な、……」
 もう何年も恋人がいるフリをしてきた。だから慣れていると思われていて当然だ。
 でも本当は、セックスどころか、キスすらしたことがなかった。
「もっと女の子のスイッチ入ったヒナ、見たい。見せて。どこぐりぐりしたら一番気持ちいい?」
 そんな事を聞かれてもわからない。
 指を動かしながら聞かれたって、まともに喋れるわけがない。
「ヒナ? 聞いてる? どこ? さっきと同じとこ擦ってイく? こっちはどう?」
「あ、あっ……!? だめ、っぇ……きもち、い……っ……」
 狭い襞をかき分け、更に奥を犯された。
 自分でも触ったことのない場所を玩具のようにぐちゃぐちゃに弄られて、また熱が爆ぜる予感がする。
「あ、あ、ぁあぁ……!」
 びくびくと震える腰を抱え込まれ、乱れたシーツの上でぴんとつま先が伸びる。
 震えが酷くて、両手で口を押さえることすらままならなかった。
 それでも光一の舌と指は止まらず、陰部を虐め抜かれて泣きじゃくる。
「あっ、あっ……あ、っ……あっ……!」
「またイってる……。すぐイくのほんと可愛い」
 ようやく指が抜かれ、光一が脚の間からいなくなってほっとする。
 それから逞しい腕に包まれ、誰もが振り向く精悍な顔立ちが近付いてきて──何度も額や頬にキスをされていた。
「可愛い。すごい可愛かった」
 今晩だけで、もう何十回可愛いと言われただろう。
 やっと終わったと思ったのに腰を撫でられて、濡れた場所にまた指が滑り込んでくる。
「あ……ぁあぁ……? も、気持ちいいの、むり……っ」
「全然大丈夫。ヒナのここ、まだ吸い付いてきてるし、可愛いから」
 ……?
 …………なんて??
 光一は頭がいい。
 生まれ育ちも経歴も将来も完璧で──つまり、普段は決して、こんなとんちんかんな返事をする人じゃない。
 文武両道で気配りが上手く、常に自然体で、決して自分を誇示しない。
 日々節約を心がけ、つましく暮らす庶民の陽奈子には手が届かない、遠い人だ。
 こんな下町の古いアパートに来て自分を頼ってくれること自体、奇跡だと思う。
 だから友達として光一の役に立てれば、それだけで十分で。
 ──コウくんが、恋人に振られて困ってたから。
 ──だから私が触って、協力してあげるって話だったのに。
 ──なんで、こんなことになったんだっけ? なんで……。
「はぁ〜〜……ヤバい、妄想の百万倍可愛い、天使……」
 くちゅくちゅとかき混ぜる水音に、意味不明な呟きが重なる。
 抵抗する力なんてこれっぽっちも残っていないのにぎゅうぎゅう抱きしめられて、耳元や首筋の匂いを犬みたいにすんすん嗅がれた。
 もうダメだよ、どうにかなりそうだから止めて、と訴えている筈なのに、身体が引き攣るばかりで声にならない。
 霞みはじめた意識の中で、陽奈子はこうなった原因を一番はじめから考えようとした。







「すごーい、制服だ! 何年生?」
 はじめに声をかけたのは陽奈子だった。
 公営住宅の団地に囲まれた、広い公園。
 小学二年生の如月陽奈子は、男子と外で遊ぶのが好きな活発な女の子だった。放課後はここで、馴染みの男子たちとつるんで遊ぶのが日課だ。
 いつもなら、見慣れない子に声をかけたりはしない。でもその男の子はいかにも仲間になりたそうな様子でこちらを見ていて、何よりとても寂しげな目をしていた。
「なんだよヒナ、そんなのほっとけよ」
 普段大声で叫び回って、女の子の陽奈子にも平気でデリカシーのないことを言う男子たちは不満をあらわにした。
 陽奈子にも、男子の気持ちは分からないでもない。
 この界隈で制服姿の子なんてまずいないし、いかにも優等生らしい落ち着いた雰囲気は、見るからに『こいつ、仲間じゃないな』という感じだ。
 でも陽奈子は、いつまでも動物的な嗅覚で乱暴に片付けようとする男子に少し呆れた。
「仲間はずれは良くないでしょ! ねー、どこの子?」
 ここで『どこの子』と聞いたら、『団地の中の、どの棟の子』という意味だ。でも。
「えっと……近くの駅から歩いてきました。二年生で、学校は──」
「そんな小学校、聞いたことねー」
「……嘘じゃないです。家に帰りたくなくて、それで……」
「うわ、家出だ! 不良じゃん!」
「同じ二年なのに、背ぇ低いなー」
「ねえ、やめなって!」
 言いたい放題の仲間を一喝すると、何故か味方をしてあげた男の子の方が萎縮して、陽奈子を見上げてきた。
 その瞳は、やはりどこか寂しげだ。
 さらさらの黒い髪に、白い肌と細い身体。少しおどおどした様子は女の子にも見える。皺一つないブレザーに、きっちり結ばれたネクタイ。背負っている鞄は、ランドセルと違って横に平べったい。
 陽奈子が名前を聞くと、彼は黒崎光一と名乗った。
「こういちくんかー、コウくんでいい? 私は陽奈子だけど、ヒナでいいよ。一緒あそぶ?」
 光一は大きな目を更に見開いた。
「でも……知らない子と遊んだら、お父様に怒られるかも……」
 ああだこうだと騒ぎ立てていた男子が、水を打ったように静まり返り、遅れて爆笑が起きた。
「ぶはっ、うける! お父様だって!」
「すげ〜、お坊ちゃまかよ。家でかい? お手伝いさんとかいるの?」
 光一は、何を笑われているのか分かっていない様子でこくりと頷く。
「マジかよ!」
「嘘だろ〜っ? 証拠は??」
「そのネクタイも、お手伝いさんが結んでくれるの? それともママ?」
「……違います、お母様──お母さんは、もう、……」
 次第に青ざめて涙ぐんでいく光一を見かねて、陽奈子は叫ぶ。
「やめなってば! 仲間に入れてあげようよ!」
「え〜」と一様に不満の声が上がったけれど、ひとまず『からかいがいのある奴だ』とは認定されたらしい。陽奈子と一番仲の良い男子が、にやにやと提案した。
「しょーがねーなー、じゃあ……隠れんぼで全員見つけられたら、仲間に入れてやる!」
「ヒナ、お前が一番強いんだから、手加減すんなよな」
 光一の答えを待たず、男子が散っていく。
 が、子供は無責任なものだ。
 男子全員が見つかって、皆で陽奈子を探しても見当たらないとわかった途端、
「隠れてるふりで、先に帰ったんじゃね?」
「もー諦めようぜ、腹減ったー」
「また明日なー」
 と解散してしまったのだ。その様子を木の上から見ていた陽奈子は、呆れて溜息を吐いた。
 ──ほんっと、男子って適当!
 夕刻を報せるチャイムが流れる中、一人残された光一は真面目に探し続けている。
「も〜。ここ! ここだよ! 木の上!」
 見上げた光一は、枝葉の陰に隠れている陽奈子を見て目を丸くした。
「そこ、何度も見たのに」
「コウくんが来るたび、枝の上移動してたから」
「えっ……」
 それはずるいんじゃ、と言いたがっているのが表情でわかった。
「じゃあ、僕の負けだね……。危ないから、下りてきたほうがいいよ、大丈夫?」
 すんなりと勝ちを譲って、その上気遣ってくれる男の子なんて初めてだ。
 陽奈子は驚きつつ、調子に乗ってマウントを取った。
「別にこのくらい平気! 私、男子に負けるのだけは嫌なの。あいつら、ちょっと出来ないことがあると、女だからってすぐ馬鹿にするんだもん」
 ちょっと勝ち誇りつつ、木の枝や幹の凹凸に足をかけて、するすると地上に降り立つ。光一は俯きがちに、ベンチに置いた鞄を取りに戻った。
「ねぇ、よく諦めて帰らなかったね?」
「見つけたら仲間にするって約束してくれたから……それに一人だけ残して帰るなんて出来ないよ」
 やっぱり、男子から気遣われるのはくすぐったくて変な感じだ。
「見つけられたことにしてあげるから明日もおいでよ。男子って馬鹿だから、明日になったら約束なんて忘れてるだろうし」
「……ばか……」
 生まれて初めて口にしたような様子で、目を丸くして陽奈子を見上げてくる。
 自分より小さくて身奇麗な男子に引かれたのを感じて、陽奈子は初めて男勝りな自分に恥じらいを覚えた。
「ま、まあ、コウくんは違うみたいだけど! ほら、もし何か言ってきたら私が味方してあげるから。ね? また一緒に遊ぼ!」
「……ありがとう」
 初めて見せてくれた優雅な笑みに、一瞬ドキッとする。
 まだ七歳だった。
 未知の世界が沢山あって、ちょっとした違いに冒険心を擽られる、多感な年頃。
 知らない匂いがして、ドキドキして、可愛いから──好き。
 打算や理屈なんてない。
 でもまさか、この時に感じた『明日もまた、会いたい』を、二十年近く引きずることになるなんて思いもしなかった。
 それから頻繁に公園を訪れはじめた光一は、少しずつ陽奈子たちに馴染み、見事に仲間入りを果たした。
 けれど不思議なものだ。
 光一が同じ世界に染まってくれるほど、陽奈子は自分との違いが──光一だけ制服を着ていることや、帰る場所が違うことが気になりはじめた。
 その違いを表現する言葉を知ったのは、にわか雨が降って、初めて光一が陽奈子の家に遊びに来た時のことだ。
 礼儀正しく振る舞う光一を見た母が、
「やっぱり育ちが違うのねぇ〜」
 と感嘆したのだ。
 その時は、正確に意味を理解できたわけではない。
 でもぽろりとこぼれた言葉は記憶に残り続け、大人になるにつれてその“違い”を理解した。
 光一はどうやら、大きな会社の社長の息子で、いわゆる御曹司らしいこと。
 家の大きさも、通っている学校も、将来設計も、陽奈子とは全く違う世界を見て生きていること。
 だから陽奈子は、恋愛感情を知るより先に納得してしまった。
 光一とは友達になれただけで、十分に特別なことだったのだと。

     ◇◇◇

「やった! 隠れきりました〜。今日もコウくんの負けね!」
 大好きな陽奈子が、出会った日と同じ木の上で勝ち誇っている。
 二十六には見えないベビーフェイス。
 本人は隠しているようだけれど、それが少しコンプレックスらしい。
 膝がギリギリ隠れる丈のタイトスカートは、確か陽奈子の勤めている会社の制服だ。
 そんな格好でどうやって登ったのだろう。光一は不思議に思ったけれど、とにかく彼女は、枝の上で仁王立ちをしていた。
 ──あー、パンツが見えそうな角度だ。
 中学生のような下心で目を凝らす。
 残念ながら影になっていて、ちぇ、と内心舌打ちした。
 光一が陽奈子にはじめて会ったのは、母親が病で亡くなってしばらくしてからのことだ。
 父は母の死から逃げて仕事に没頭し、屋敷の使用人たちは同情を示すばかりで、光一の安らげる場所はどこにもなかった。
 だからあの時は、ただ息をするために、どこか知らない場所へ逃げ出す必要があったのだと思う。
 そして、偶然陽奈子に出会った。
 以降光一は、『友達に笑われるから車の送迎はいらない』だとか、『塾の自習室で勉強してから帰る』だとか姑息な嘘をついて公園に通いはじめた。幸い団地の最寄り駅は、通学用定期の範囲内でもあった。
「おーい! 聞いてる〜? 私の勝ちね?」
 陽奈子が頬を膨らませて腕を組む。
「ったく、いくつになっても負けず嫌いだなぁ。わかったから早く降りて来いよ。飯食いに行こうぜ」
「はあ〜!? 何その、俺の方が大人だから負けてあげますー、みたいなの。大体ねぇ、コウくんと食事行くと、いっつも勝手にお会計済ませて、『俺の奢り』とかエラソーにするから嫌なの!」
「偉そうになんてしてないだろ? 俺が選んだ店なんだから、奢って当然で……」
「私は対等がいいんだってば! っていうか、ファミレスのオムライスが食べたいって言ったのに、なんでフレンチのフルコースなんて予約するの? ほんと、信じられない!」
 そんな事あったっけ、と記憶を掘り返した。
 そういえば初任給を受け取った時、誰よりも先に陽奈子に何かしてあげたくて、格好をつけて食事に誘った事を思い出す。
「ヒナが喜ぶと思ったんだよ……ちょっとしたサプライズっていうか……。大体お前こそ、二十六にもなって何隠れんぼに本気出してんだ」
 陽奈子は口ごもった。
 風が頬を掠める。同時に、陽奈子の長い髪がふわりと揺れた。
 空に黒い雲が流れてくる。
 あたりが異様に暗くなって、またたく間に陽奈子の顔が見えなくなった。
「コウくんはさ……、なんでまだ私と遊んでくれるの?」
「何? 聞こえないから、降りてこいって」
 空が光った。遅れて、遠くで雷が轟く。
「ヒナ、雨が降りそうだ……、なあ、俺の負けでいいってば。完敗。フレンチも悪かったって」
「じゃあ……」
 陽奈子が、何事かを呟く。耳を欹てる。でも聞こえない。
 見上げている額に、ぽつりと雨粒が当たった。
「じゃあ……早く、脱いで?」
「えっ……」
 背後から声がして振り向いた。知らない女が立っている。
 もう一度木の上を見上げる。陽奈子がいない。
 もっと早く、土下座でもして負けを認めればよかった。
 そうしたら今頃、どこか暖かい店の中で、陽奈子が口いっぱいにオムライスを頬張る可愛い姿を眺めていられたのに──。
「ちょっと、聞いてるの! 早く脱ぎなさいよ! 私、ずっと待ってたのよ! 次のデートでは、最後まで抱いてくれるって約束だったのに。あれは嘘だったの!?」
 ヒステリックな声。
 女の手が首元に伸びてきてネクタイを解かれる。
 うっと、胃の底から吐き気がこみ上げた。
「ほら、早く脱いで! 今すぐ子供を作らないと……私も光一さんも、大変なことになるの! 怖がらないで、大丈夫よ。私は大企業の社長の、CEOの、大物政治家の娘で、散々遊んできたから経験は豊富だけど表向きは処女ってことになっていて、胸だって増量したし、あなたのお父様の会社に貢献出来る立場があって、ブライダルチェックもバッチリで安全よ! 賞味期限はずっと先! まだ美味しいの、食べていいのよ、だから孕ませて!」
 鬼の形相でシャツのボタンをぶちぶちと千切ってくる女の声は、次第に低くひび割れて、父親の声へと変わっていく。
「光一、私の言う通りにしろ。それ以外の選択肢は危ない。勉強しないと危ない。一流の大学に入って、会社を、名誉を守らないと危ない。金目当ての女に引っかかったら危ない。早く私の決めた相手と結婚しないと──亡くなった母親が悲しむ!」
 ──ああ、これは限りなく現実に近い悪夢だ。
 ようやく夢だと自覚したのに、熱くてぐにょぐにょとした物体に全身を覆われていて、金縛りにあったように身体が動かない。
「ねえ、光一さん起きて? ルームサービスが届いたわ。やだうなされてる、可哀想……」
 首元で乾いた音がして、うっすらと目を開けた。
 夢の通り、ネクタイが丁寧に解かれて、シャツが開かれていく。
 悪魔を連想させる長い爪には、赤い色と、きらきら光るデコレーション。
 知らない女が、自分の上に乗っている。
 カタログに載っていそうな美女だな、と思った。
 でも見た目なんてどうでもいい。
 陽奈子じゃないから。
 知らない天井。知らない照明。嫌な合成香料の匂い。
 いつの間にか女の指先が下って、脚の間を這っている。
「こうしたら、少しは素敵な気分になるかしら……?」
 ふう、と耳に息を吹きかけられる。
「っ、う……」
 今度こそ本当に戻しそうになって、喉にこみ上げた熱をぐっと飲み込む。
 心はねじ伏せる事ができる。でも身体の反応だけは嘘をつけない。
 ──なんだここは、地獄か?
 ──いや、違う。確か海外出張から戻って……空港近くのホテルで休んでいたら、彼女が押しかけてきて……でも、話している途中で疲れて……。
 鉛のように重い腕を持ち上げて、彼女の手を振り払う。
 どうやら雷の音は現実のものだったらしい。窓の外は暗く、雨が降りしきっていた。
 ──どいてくれ、吐きそうだ。こっちは長時間のフライトでくたくたなんだ。
 喉元まで出た言葉を飲み込んで、なんとか口元に微笑を作る。
「……ごめんね。疲れてるんだ……。もう少し休ませてもらえると嬉しい」
「でも今、たっぷり寝たでしょう? 光一さん、いっつも疲れてるっておっしゃって、一度も真剣に向き合ってくださったことがないわ」
 彼女は整った眉を寄せ、蟻が横断できそうな長い付け睫毛をぱさぱさと上下させつつ、ベッドから降りていく。
 光一は言い訳をする気力もなく、瀕死の体で冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出した。
 確か、マユだか、マユミだか、そんな名前だった。
 出張で日本を発つ少し前、父親の仲立ちで付き合う事になった五人目の見合い相手。
 お互い政略結婚だとわかっている。
 彼女は、光一が縁談相手を次々に断ってきたことを知っているのだろう。おそらく親から『何とかモノにしろ』と命じられているだけで、はじめから心の交流なんて望んでいない。
 その前の女性も、前の前の女性も、更にその前も──皆同じだった。
 つまり、彼女たちは初対面の時は清楚で慎ましく振る舞っているのに、いざ付き合いが始まると科を作ってしなだれかかってきたり、肉体の膨らんでいる部分をちらちら見せてきたりする。
 そんな女性ばかりを相手にするうち、光一はいつからか生理的欲求を全く刺激されなくなってしまった。
 男としては致命的な欠陥だ。
 彼女はけだるげに長い髪を指に巻き付け、水を飲む光一を振り向いた。
「光一さん。私たち、いつになったら恋人らしくなれるのかしら?」
 悪夢の百倍は品のある言い方だ。
 でもセックスしてやっと、恋人らしくなれる関係とは何だろう。
「変なことを言わないで下さい。もうお付き合いしているでしょう?」
「でも……」
 無感情に受け流したいのにまた気分が悪くなって、洗面台で顔を洗った。真冬だけれど、肌が切れそうなほど冷たい水が丁度いい。
 濡れた顔を上げると、鏡の中のやつれた自分と目があった。
『どこの子? 何年生?』
『また一緒に遊ぼ!』
 生まれ育った環境の違いなんて気にせず、対等に接してくれる女の子は、今も昔も陽奈子だけだ。
 くだらないことで張り合って、笑わせてくれる。そして光一に何も望まない。
 ──今すぐヒナに会いたい。声を聞きたい。
 週末の夜だ。もしかしたら恋人と一緒に過ごしているのだろうか。
『私はねー、カレにめっちゃ愛されてるもん! コウくんは色々しがらみがあって大変だねぇ〜』
 いつもはどす黒い嫉妬でいっぱいになる惚気を、今は聞きたくてたまらない。
 ズボンのポケットに入れたままだったらしいスマホが、メッセージの受信を伝えてくる。
 大人になって陽奈子から連絡をくれることは無くなってしまったのに、
 ──ああきっとヒナだ。だって昔も一番辛かった時に現れて声をかけてくれた。
 と期待しながら通知を確認する。
『前回紹介した女性とは順調か? 長期の出張だっただろう、早く会いに行ってやれ。今度こそ下らない我儘を言って断るな。これ以上私の面目を潰さないでくれ』
 ──クソ親父かよ。悪夢と変わんねーじゃねーか。
 亡くなった母のためにも期待に応えようとしてきたけれど、いい加減に限界だ。
「ねえ、光一さんって……」
 部屋からけだるげな声が漂い、まとわりついてくる。嫌な予感しかなかった。
「もしかして、EDなの?」
 鏡の中の自分が先に笑った。
 本当の恋人なら。思いやりのある関係なら──陽奈子なら。
 絶対にこんなタイミングで、そんな言い方はしないだろう。

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