新しくカートに入れた電子書籍 すべて見る
カートを見る 合計金額(税込)0円
新しくカートに入れた電子書籍 すべて見る
カートを見る 合計金額(税込)0円

きみに恋するつもりはなかったのに

本を購入

本価格:770(税込)

カートに追加しました
電子書籍を購入

電子書籍価格:770円(税込)

獲得ポイント:7pt
電子書籍を閲覧するにはビューアアプリ「book-in-the-box」(SHARP)をインストールしてください。
書籍紹介

どこまで手に入れても、足りない

二十歳以上も歳の離れた佑と政略結婚した藍華。
出会った日から惹かれていた彼と、一緒にいられて嬉しい――。
素直な想いを伝え続けたらクールな彼の態度が一変して!
「俺は本来、欲深いらしい。覚悟していろ」
逞しい腕に抱き寄せられる。深いキスと巧みな愛撫に悶え、
身体の奥まで貪欲に求められ、情熱を注がれて……。
デキる男の本気の溺愛に、甘く淫らに翻弄されて!

ジャンル:
現代
キャラ属性:
社長・セレブ
シチュエーション:
政略結婚 | 年の差 | 新婚 | 甘々・溺愛
登場人物紹介

村沢佑(むらさわたすく)

旧姓・賀屋。村沢建設で常務取締役を務める。ある事情から村沢の名前が欲しくて、藍華の提案を受け結婚するけれど……?

村沢藍華(むらさわあいか)

村沢財閥本家のひとり娘。何不自由なく、けれど親の言いなりに育ったお嬢様。佑のそばにいたいと思い、とっさに政略結婚を提案する。

立ち読み

 中学に入ったばかりのころ、同級生の女子に言われた言葉が今も忘れられない。
『藍華ちゃんは、綺麗なドレスを着せてガラスの箱に飾られたお人形みたい。遠くから見ることはできるけど、一緒には遊べない』
 それだけ言って走り去る背中を見て、否定されたのだと子どもながらに理解できた。
 ショックを受けなかったと言えば嘘になる。けれど同時にそのとおりだなと妙に感心もした。
 旧村沢財閥を形成する村沢一族の本家で、なに不自由なく育てられた箱入りのひとり娘。それが藍華だった。一方で、すべての決定権は親にあり、自身の意思はひとつも顧みられない。
 まさに人形。
 それ以来、その言葉はあっというまに体内の奥深くまで潜りこんで、意識の片隅に居座ってしまった。
 だから賀屋佑の口からおなじ単語が出てきたとき、胸の奥を覗かれたのかと思った。
「きみはいつまで、村沢家の『お人形』でいるつもりなんだ?」
 彼に面会したのはまだ三度めだったから、なおのこと驚いた。
 一度めは、ある事情から従姉のふりをして彼の三男と見合いをしたとき。息子よりも、ひとりで子を育て上げたという賀屋から、どうしてか目を離せなかった。
 二度めは、縁談を解消したとき。事情の説明と謝罪に訪れた場で、賀屋を目にしただけで胸がざわついて頬が熱くなった。気づけば賀屋のまとう、どんなささやかな気配も残らず感じとろうとしていた。
 帰ってからも、ふしぎなほど賀屋のことが頭から離れなかった。
 今日、両親と共に改めて賀屋の職場まで謝罪に訪れたあと、ひとりその場に残ったのはそのせいだと思う。
 とはいえ賀屋と共通の話題があるわけでもなく、会話はすぐに途切れた。だから、これからきみはどうするのかという賀屋の質問は、ただ話の間を持たせるためだけだったに違いない。
 その質問に、いずれ親の決めた相手と政略結婚をすると思う、と返して……告げられたのが「お人形」という言葉だった。
「失礼。息子を見合いさせた俺が言うことではなかったな」
「いえ! 驚いただけです。手厳しいなとは思いましたけど」
 跳ねた鼓動をなだめるように、細い息をそっと押し出してかぶりを振る。嫌な感じはしなかった。
 そこには藍華を嘲ったり否定したりするニュアンスはいっさいなく、憐れみもなかったから。
「手厳しい、か」
 上質なスーツを着こなした賀屋が、向かいの革張りのソファで長い足を組み替える。
 落ち着いた風貌と、渋くて艶のある声。さすがふた回り近くも年上というべきか、そこには、酸いも甘いもかみ分けたのだろう大人の色気がにじみ出ていた。
 けれど心臓がこれ以上はないというほど強い脈を打ったのは、そのせいだからだけではなかったと思う。
「きみには人形ではない生きかたを選ぶ力もあると思ったから、言っただけだ」
 まっすぐ目を見て言われたその瞬間、胸の内にほのかな温度を持った痺れが広がり、わずかも目を逸らせなくなった。
「じゃあ……」
 無意識のうちに口走っていた。
「賀屋さんが、わたしと政略結婚してくださいませんか?」
 もしも人形ではない生きかたが選べるのなら、隣にいる相手は賀屋がいいと思った。
 胸の奥底から突きあげたその感情をなんと呼ぶのか、このときはまだ気づきもしなかったけれど。







 朝から降り続いていた雨は、引っ越し作業をひととおり終えるころには上がっていた。
 雨滴が、庭に咲いた紫陽花の葉を滑り落ちて地面に弾ける。和の風情のある中庭はよく手入れされており、眺めていると心が落ち着いた。
 生まれてから一度も都内を出たことのない藍華には、海の気配の感じられる静かな土地は新鮮だった。
 藍華は最近ボブにしたばかりの髪を耳にかけ、白の半袖カーディガンと紺色のレーススカートを見おろした。いつのまに引っかけたのか、レースの部分の糸がほつれている。綺麗めの服しか持っていないとはいえ、やはり作業にはそぐわなかった。
 ため息が漏れるのをこらえ、視線を庭に戻して伸びをする。朝から荷解きをしていたので、腰が悲鳴を上げそうだったのだ。
「センスがよくて、なんだか落ち着くお家ですね。賀屋さんが古民家にお住みなのは、意外でしたけど」
 正直に言えば、驚いた。これまでに受けた賀屋の印象は、冷静で理性的とかやり手というもので、この家の持つまったりとした空気感とはすぐに結びつかなかったのである。
「ここは俺の実家だ。両親が亡くなって人手に渡ったものを、最近買い戻した。あとは知り合いに頼んで、リノベーションさせた」
 ぽつぽつとした話しかたは速くもなく遅くもなく、胸にすっと入ってきて心地よい。賀屋が寡黙な性格だと知ったのは逆プロポーズのあとだったが、その落ち着いた話しかたのおかげか、沈黙に焦ることはなかった。
 古民家を再生させたという和モダンな家は、外観こそ日本家屋そのものだが、内装はいたってシックで近代的だ。無垢フローリングの床にしつらえた重厚なダイニングテーブルやリビングのソファはいずれもヴィンテージ家具と思われ、古民家の雰囲気にマッチしている。それでいてキッチン周りは機能的で、最新の家電も揃っている。シンクや作業台もじゅうぶんなスペースが確保されて使いやすそうだ。
 キッチンからダイニング、そしてリビングまでひと繋ぎになった間取りと、むき出しの梁からシーリングファンの回る高い天井のおかげで、開放感があるのも気持ちいい。古民家とは言うものの、古びたという表現とはほど遠い洒落た住まいである。
 一度は家を出ようとして母親の同意も取りつけたが、父親に頭から反対され、ひとり暮らしの計画は頓挫したところだった。だからまさか、その後数ヶ月もしないうちに家を出ることになるとは思いもしなかった。
「不便があれば言ってくれ。改装も自由にしてかまわない」
 賀屋をふり向けば、カウンターキッチンの内側で探し物の最中らしかった。
 改めて見ても、賀屋は立ち姿だけで様になるひとだと思う。
 ラフな半袖シャツから覗く筋肉質な身体と、目尻にかすかに皺のあるすっとした切れ長の目。口数の少なさが、渋みのある色気をいっそう引き立てる。賀屋が狼狽したり動揺したりするところは想像がつかない。
 ましてや賀屋と結婚。切りだしたのは自分だとはいえ、いまだに信じられない。
 賀屋が家の鍵を差しだす。受けとってじっと見つめると、ようやく結婚した実感が湧いてくる。賀屋がダイニングテーブルに白いマグカップをふたつ置いた。
「ホットしかないが。休憩するといい」
 コーヒーの香ばしい匂いが鼻をくすぐる。コーヒーカップではなくマグカップなんだな、ととりとめのないことを思う。コーヒーが好きなのだろう。
「ありがとうございます。夏でもホットなんですね」
 席につくと、一リットルの牛乳パックとスティックシュガー、それにティースプーンも渡された。賀屋も向かいに腰を下ろす。
「アイスは香りが薄くなるから飲まない」
「コーヒーのこの匂い、わたしも好きです」
 牛乳と砂糖を入れてかき混ぜる藍華の向かいで、佑はなにも入れずにコーヒーに口をつける。
「お砂糖、あったんですね。さっきキッチンを見たとき、お醤油しか見なかったので驚いたんです。調理器具はあるのに……お料理はどうしてらっしゃるんですか?」
「しない。牛乳も砂糖も買ったばかりだ。コーヒー用のミルクが見つからなくてな。牛乳で悪いが、腐ってはいないから心配しなくていい」
 えっ、とふたつのマグカップを交互に見る。面会のときにミルクと砂糖を使ったのを覚えていて、わざわざ用意してくれたのか。
 賀屋は涼しい顔でブラックコーヒーを飲み干して言った。
「さっそくだが、これからについて先に話しておきたい」
「はい」
 仕事の打ち合わせでも始まるかのような雰囲気に、思わず姿勢を正す。
「この家には週に三日、ハウスキーパーが入る。きみは掃除も洗濯もしなくていい」
「それは正直、助かります。実家には家政婦さんがいたので、家事の経験があまりなくて」
「だろうな。料理も一応、契約に入っている。俺は基本的に外食だから実際に使ったことはないが、きみは頼めばいい」
「え」
「その他、日常生活についてはすべてキーパーに頼め。きみはなにもしなくていい。生活に支障はないはずだ」
「わたし、作りますよ! 得意とは言いませんけど、練習します。だから、一緒に食べませんか?」
 ところが藍華の意気込みとは反対に、賀屋は淡々としていた。
「俺の帰りは遅い。待たないでくれ」
「大丈夫ですよ。ひとりより一緒のほうがいいですし」
 賀屋が眉をひそめる。なんとなく重ねて断られる気がして、とっさに話題を変えた。
「そうだ、さっそくなんですが佑さんと呼んでもいいですか? もう賀屋さんでもないですし、かといって村沢さんじゃ、わたしとおなじで変な感じですし」
 藍華が村沢家のひとり娘であるため、佑が村沢姓に変えたのだった。佑には三人の息子がいるが全員成人しており、彼らの姓はそのままでよいのも、さいわいだった。彼らからも賀屋のままでいると返答をもらっている。ただ、佑は仕事では賀屋姓を使い続けている。
「……かまわない」
 佑がカップをキッチンに戻す。断られずに済んで、肩の力が抜けた。
「じゃあさっそく佑さん、もうひとつお願いがあって。これからは夫婦なので、タメ口で話してもいいですか?」
 ふり返った佑は嫌ではなさそうだが、嬉しそうでもなかった。
(当たり前だよね)
 この結婚を持ちかけたのも、少しでも早く一緒に住みたいと言ったのも藍華である。多少の……いや、かなりの温度差があるのはわかりきっていたこと。
「だめなら無理にとは……」
「好きにしたらいい」
 またそっけない口調。だけどこれも拒否はされなかった。
「よかった! これからよろしくね、佑さん」
 これから温度差をなくせるように、努力すればいい。
 目が合ったのもつかのま佑は向こうを向いたが、ひとまずほっとしてコーヒーにふたたび口をつける。牛乳と砂糖の入ったコーヒーは、苦みの奥に優しい味がした。

     *

 ひと月ほど前、約二十歳も年上の佑に逆プロポーズをした。
「では賀屋さんが、わたしと政略結婚をしてくださいませんか?」
 言葉をなくした様子の佑を見て初めて、われに返った。鼓動が派手に乱れて、手がつけられなくなった。
(わたし、なに言って……!?)
 唐突すぎる、とか、待っておかしいでしょ、とか。頭の中にありとあらゆるダメ出しが乱れ飛んでも、後の祭り。
 当然というべきか、ややあって返ってきた言葉は冷ややかだった。
「大人をからかうのはよしなさい。俺はもう四十六になる。子どももいる。村沢のお嬢さんから見れば枯れたおっさんだ」
 歳も、三人の息子のことも知っていた。佑が二十代前半で結婚し、三男が生まれてすぐに妻と死別したことも。きっかけは彼の三男と村沢家との縁談だ。
 村沢といえば、一時期は隆盛を極めた旧財閥家として知られている。財閥解体にともない一度は弱体化したものの、現在でも村沢の名前を冠した企業は他業種に亘る。佑が常務取締役を務める村沢建設もそのひとつである。
 佑はその旧財閥家との縁故を必要としており、藍華の父は当時経営していた村沢商事への資金援助を求めていたことから持ち上がった縁談だった。しかし縁談は流れ、資金援助の話も立ち消えた。
「きみも枯れた男に抱かれる覚悟はないだろう」
 佑が前髪をかき上げる。その仕草の色っぽさと、抱かれるなどという生々しい言葉のおかげで頬は熱くなったが、想像しても嫌だとはこれっぽっちも思わなかった。
「枯れたなんてとんでもない! それに覚悟はあり……ます」
 しかしゆったりと足を組んだ佑は、相手にもならないという顔のままだった。
「お願いします。賀屋さんは村沢の名前を必要としておられるんでしょう? だからお互いに、そうするのがちょうどいいと思うんです」
 それまで本気にしていなかっただろう佑の目の色が、このとき初めて前向きなほうに変わった。
「……了解した」
 決めてからの佑の行動は早かった。
 藍華の両親を交え、都内の料亭で食事会という名の顔合わせをした。
 政略結婚といっても、利があるのは佑の側だけ。資金援助の話が流れた今となっては、藍華の家には佑と結婚するメリットはない。まして、藍華は二十四歳。いくらでも相応しい相手を見つけてやる、と猛然と反対した父を、佑は驚くほどスマートに説得してしまった。
 最終的には、村沢の人間の結婚なら式はどこそこの神社で、招待客は、と目を剥く発言をする父を説き伏せ、式はせず籍だけを入れることにしたのも佑だった。
 異論はなかった。式やウエディングドレスに憧れがないとは言わないけれど、佑との結婚を決めたのは藍華自身である。「村沢家の人形」としての仰々しい式をされるのには抵抗もあった。
 父も食事会が終わるころには佑にすっかり心酔し、君なら安心だ、よろしく頼む、と畳に頭をつけるほどだった。
 それから一緒に暮らすまで、あっというまだった。佑の態度は一貫して、業務のひとつとでもいわんばかりだった。
 そうやって始まった結婚だった。


 佑の朝は早い。車通勤だからなのもあるが、家を七時に出て八時前には出社する。だから六時に目覚ましをセットしておいたのに、起きてみれば隣はもぬけの殻だった。
 一緒に暮らすのを機にひとつのベッドで寝るようになったものの、佑は毎日、藍華が気配に気づかないうちに起きだす。そのため、一緒に寝ているという実感はないに等しい。リビングに行くと佑はすでにスーツに着替えていた。
「おはよう、佑さん。早いね。何時に起きたの?」
「別に、きみと変わらない」
 佑は飲み終えたコーヒーのカップをシンクに置くと、ネクタイを締めた。
「行ってくる」
「もう?」
 七時にはだいぶ余裕がある。しかし佑がダイニングテーブルの椅子に手を伸ばしたので、藍華はビジネスバッグを取りあげて渡した。
「今日は早く帰れる?」
「無理だな。待たなくていい」
「そっか……じゃあ、いってらっしゃい。気をつけてね」
 最後まで仏頂面だった佑を見送ってキッチンに戻ると、シンクにはカップのほかにも食器がいくつか置かれていた。ふと気づいて冷蔵庫を開ける。
「あっ……」
 佑の帰宅が遅くて出しそびれた昨日の夕食が、なくなっていた。形が崩れてしまった魚の煮付けも、味がぼんやりしてしまったポテトサラダもだ。料理本とレシピサイトを駆使して作ったそれらは、美味しいとは言えなかったのだが、佑は黙々と食べたのだろうか。想像したら、頬がゆるんだ。
 週末もおなじだった。寝坊をしたわけでもないのに、目が覚めたときにはすでに隣は空になっている。
「佑さん、おはよ。ごめんね、また遅くなった……」
 慌ててリビングに向かうと、土曜日だからか佑は白のTシャツにグレーのスウェットという部屋着姿のまま新聞を読んでいた。
「きみまで早起きする必要はない」
「でも、佑さんと話したいから」
 佑は新聞から顔を上げなかった。
「用件は、適当にメッセージを入れておいてくれ」
「送っても既読スルーばっかりなのに……」
「文字のやり取りはまどろっこしい。かけ返したほうが早い」
「そうかもだけど……って、そうじゃなくて、用事がなくても話したいんだってば」
 佑が新聞をめくる手を止める。起き抜けの髪には耳の横に寝癖があった。新聞を持つ指にもつい、目がいってしまう。佑の手は節ばって、指がすらりと長い。男っぽい手だと思う。
 と、佑と目が合った。照れ隠しで笑ったがさっきの返事はなく、佑は新聞に目を戻す。
(話したくないってことかな……)
 気落ちしかけて目を佑から離すと、佑のマグカップが空になっていた。
「コーヒーのお代わり、淹れるね」
 できることがあったのに意気揚々として、コーヒーマシンに豆をセットする。淹れるといってもミルつきの全自動マシンなので、豆と水さえセットすればあとはお任せだ。スチームミルクも作れるらしい。マグカップを置き、コーヒーカップの倍量を指定してスタートボタンを押す。
「佑さん、朝食はパンでもいい?」
「いや、いい。朝はコーヒーだけだ」
「そうなの? いつも夕食の残りを朝に食べてくれてたから、朝食も要るものだと思ってた」
「出されたものは食う」
 佑が新聞を畳むと、作動音の止んだコーヒーマシンを目で指した。
「コーヒー、できたぞ」
「あ、うん」
 できあがったコーヒーを佑に渡すと、佑が小さく礼を言って受けとる。
「じゃあ、これからは毎朝わたしにコーヒーを淹れさせて?」
 佑が眉間に皺を寄せた。
「……好きにしろ」
 口調はそっけなくても、差しだしたものは否定せず受けとってくれる。
 村沢の娘はこうであれと、頭から押さえつけられるのに慣れてしまっただけに、こちらの思いを受け止められるのが新鮮でむず痒い気分になる。ほんの小さなことなのに、いちいち心が浮き立つ。
 だからだろう、佑の前だとやりたいことがするりと口に出るのは。
「うん、そうする。佑さん、トースターを買ってもいい? わたしは朝、パン派なの」
「好きに買えばいい」
「佑さんも使うかもしれないものだから、どんなのがいいか見てみる。また相談するね」
 なおも言うと佑はかすかなため息をついたきり黙ってコーヒーを飲んだ。
「……行ってくる」
「えっ、今日も出勤なの?」
 週末で佑も部屋着だったから、休みだと思いこんでいた。
「……ああ。遅くなる」
 それならそうと言ってくれればいいのに。今日もゆっくり話ができないのを寂しく思いつつ、支度を終えた佑の見送りに出る。
「明日はもっと美味しいコーヒーを作るから楽しみにしてて。いってらっしゃい」
 機械が作ったのをおくびにも出さずに胸を反らしたけれど、これといった反応もないまま、佑は仏頂面で出かけていった。

おすすめの関連本・電子書籍
電子書籍の閲覧方法をお選びいただけます
ブラウザビューアで読む

ブラウザ上ですぐに電子書籍をお読みいただけます。ビューアアプリのインストールは必要ありません。

  • 【通信環境】オンライン
  • 【アプリ】必要なし

※ページ遷移するごとに通信が発生します。ご利用の端末のご契約内容をご確認ください。 通信状況がよくない環境では、閲覧が困難な場合があります。予めご了承ください。

ビューアアプリ「book-in-the-box」で読む

アプリに電子書籍をダウンロードすれば、いつでもどこでもお読みいただけます。

  • 【通信環境】オフライン OK
  • 【アプリ】必要

※ビューアアプリ「book-in-the-box」はMacOS非対応です。 MacOSをお使いの方は、アプリでの閲覧はできません。 ※閲覧については推奨環境をご確認ください。

「book-in-the-box」ダウンロードサイト
一覧 電子書籍ランキング 一覧

ジャンル・シチュエーション検索

 

ジャンル

キャラ属性

シチュエーション