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溺愛心中
仙女は褥で乱される

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書籍紹介

富と栄華より、お前が欲しい

契りを交わした者に巨万の富と栄華をもたらす伝説の仙女――その血を引くわこは、野心を抱く政治家秘書の千秋に正体を知られてしまう。彼女を手に入れ、利用しようとする千秋に必死に抗うが……。「俺のものになる悦びに悶えろ」淫らな愛撫とともに熱い楔を最奥に受ける。傲慢なはずの彼に優しく抱き締められ、愛しさが止まらない。運命が引き合わせた二人の激情愛!

ジャンル:
現代 | ファンタジー
キャラ属性:
オレ様・S系
シチュエーション:
甘々・溺愛 | 年の差
登場人物紹介

九重千秋(ここのえちあき)

政治家秘書。精悍で凜々しい顔立ち。俺様で傲慢な野心家。亡き祖父の所有していた地方の屋敷を相続し、そこに匿われていた、さわを見つけるが……。

橘わこ(たちばなわこ)

伝説の仙女「さよ姫」の血を受け継いでいる。瞳が琥珀色で、この世の者とは思えない美しさ。遊女として自由のない生活をしていたが、千秋の祖父に逃がしてもらった。

立ち読み

 隅田川が縦断する地を江戸と呼んでいたより、さらに昔。
 一人の仙女が舞い降りた。
 川で水浴びをしていた仙女を見初めたのは、農民の男。男は岩にかけてあった羽衣を隠し、返してほしければ自分と夫婦になるよう迫った。
 仙女は泣く泣く男と祝言を挙げ、やがて一人の娘をもうける。娘はさよと名付けられた。
 さよはすくすくと成長した。
 男は仙女と生まれた娘さよをこよなく愛し、懸命に働いた。
 すると、男の田んぼには金の米が実るようになった。毎年、絶えることなく穂を実らせ、十年の年月が過ぎる頃には、男は山を築くほどの財を成し、見事な屋敷を構えるまでになったという。
 ある日、さよは男が隠してあった仙女の羽衣を見つける。七色に光り輝くそれは見たこともないほど美しく、さよは羽衣を母親へ見せに行った。
 すると、母親が「これはまさしく私の羽衣」と纏えば、さよの前に美しい仙女が現れた。仙女はさよに「六年後、あなたを迎えに来ます。その日まで清らかでいなさい」と言い残し、空へ昇っていってしまう。
 男はたいそう悲しみ、来る日も来る日もさよを責めた。
 農作業も放り出し、酒で悲しみを紛らわせ、またさよを詰る。
 その様相は徐々に醜悪になり、やがて自分を捨てた仙女までをも恨むようになると、金の米を実らせていた穂はただの米すら実らせなくなり、みるみる枯れた。
 愛する妻を失っただけでなく富までも失ってしまったのは、すべてさよと仙女のせいだと思い込んだ男は、いっそう恨みを膨らませ、さよに辛く当たるようになる。
 男の怨嗟を一身に浴びながらも、六年後、さよは美しい娘へと成長した。
 妻にと望む声は絶えることなく、富豪や権力者、貴族から連日貢ぎ物が届けられるようになるが、さよは誰の求婚にも首を縦に振ることはなかった。ただ、悲しげな顔で蝶のようにひらひらと彼らを翻弄し、その劣情を煽っては身体を重ねた。
 貢ぎ物を父に捧げることが、さよが父のためにできる贖罪だったからだ。
 父は貢ぎ物を酒と女遊びに変え、享楽に耽った。
 さよを迎えに来た仙女は、さよの姿にたいそう悲しんだ。その後、仙女は積年の恨みを果たさんとする男の手にかかり、非業の死を遂げる。
 嘆くさよに、仙女は死の間際永劫に続く呪詛をかけた。
 以来、仙女の物語は「【さよ姫】伝説」と名付けられ、脈々と現代にも語り継がれていた。

◇◆◇

 日が暮れる頃、どこからともなく三味線のお囃子が掻き鳴らされる。
 ガイドマップには決して載ることのない旅館「希月」は、都市郊外の竹林に隠れるように建っていた。
 旅館までの道を灯すのは、点々と建つ石灯籠。
 その先に突如として現れる、三階建ての家屋が「希月」だ。
 薄闇に建つ赤い屋根の建物は、さながら楼閣だ。建物から零れる橙色の光は、それ自体が発光しているかのように幽玄で、どこか幻想的でもあった。
 朱色と橙が入り交じった灯りに照らされた建物に、今宵も一台の車が呑み込まれていく。
「ようこそ、おいでくださいました」
 五十代を過ぎた支配人の男に招き入れられた客は、鷹揚に頷き、彼に二通の封書を手渡した。一通は弁柄色、もう一通は黒色だ。客は横についた着物姿の女を見ると表情を綻ばせ、部屋へ消えていく。
 外の静寂とは打って変わって、建物の中は豪華絢爛。賑わいに満ちていた。
 旅館「希月」は会員制であり、一見さんは受けつけていない。顧客たちが持ってくる封書が次の予約依頼となっていた。
 支配人は渡された黒色の封筒を見て、わずかに苦々しい表情になった。
 封書の色には意味がある。
 たいがいの客は紹介依頼の若草色と宿泊依頼の藤の色を使う。
 しかしそれ以外に、顧客の中でもさらに一握りの者たちだけに許された、特別な意味合いを持つ二色があった。
 弁柄色は希月の特別棟「希月楼」に住む【さよ姫】への登楼依頼。
 そして、黒は明記されている者に凶兆をもたらす呪詛依頼であった。
 だが、現在、希月楼にそれができる者はいない。
【さよ姫】の双璧として存在していた【凶兆のさよ姫】が姿を消して早半年。
 希月の人脈を駆使しても、行方はおろか足取りすら掴めない状況だった。
 支配人は近づいて来た副支配人の男に、封書を渡す。
「鳥のさえずりは聞こえたか」
「まだにございます」
 舌打ちしたい気持ちを呑み込むも、忌々しさまでは消えない。
 いつまで隠し通せるだろうか。
 いや、露見する前にすべてを正さなければならない。
【さよ姫】は門外不出が原則。軽々しく人の目に触れていい存在ではないのだ。
「【さよ姫】様は何かおっしゃっているか」
「──いえ。ですが、お耳に入れておきたい旨が。実は」
【さよ姫】の客が死んだ。
 副支配人がもたらした事項に、支配人は我が耳を疑い、愕然となった。死亡した客は製薬会社の社長だった男だ。最後の登楼が先週。そして、死んだのは今朝だという。
【さよ姫】は元来、富と栄華をもたらす吉兆の存在だ。
 それに対し、不幸へ誘うのが【凶兆のさよ姫】である。
 もし本当に【さよ姫】の力で死んだとなれば、希月の存続にもかかわるゆゆしきことだ。
「その旨、他言はするな。よいな」
 支配人は旅館の格子窓からわずかに見える希月楼を睨んだ。

 

 

 

「九重忠一氏の遺言により、孫千秋には芦桜の住居、および住居にまつわる私有地、所蔵物すべてを遺すものとする」
 日が斜めに傾ぐこの時間、障子硝子から見える紅葉の赤と紅色の斜陽が混じり合い、壮麗な美しさを見せる。
 磨き上げられた床に映る秋の風景は、見る者に夢と現の境すら曖昧にさせた。
 自然美が色鮮やかな中庭に面した九重邸の座敷には、忠一の親族が集まっていた。
 忠一の個人弁護士である松浦が遺言書を読み上げると、千秋は静かに目を閉じた。親族たちからは誰からともなく失笑と安堵が零れる。
 盛大でありながらしめやかに行われた忠一の葬儀から一週間。
 親族たちは、この日を指折り数えていた。
 誰がどれだけの遺産を相続できるのか。
 忠一が生前、遺言書を残していたことは一同が承知していた。藩士の次男として生まれ、三度大蔵大臣を歴任した大物政治家だった忠一の総資産は数兆円とも言われている。
 一方、引退後の私生活は、親族ですら詳しく知ることはなかった。忠一は芦桜の山を買い、終の棲家となる屋敷を構えるも、たった一人の使用人に世話されながら世捨て人同然となって暮らしていた。
 痴呆が進み、かつての威厳など見る影もないほどくたびれた姿となった忠一を慕う者は、親族の中でも千秋一人だけで、心不全でこの世を去るまでの十年間、息子である慶一ですら顔を見ていなかったほどだ。
 しかし、忠一が残した功績や遺産が莫大なものであることは間違いなく、千秋に有利な遺言になってはいないかと、やきもきしていた矢先の遺言書開示だ。
 最前列に座るのは、忠一の長兄である慶一、その隣には妻満子、二人の息子である長男の一也と、次男千秋。
 二列目には忠一の娘清子家族に、次男の勇だ。
 弁護士は、親族に一瞥しただけで、さらに遺言書を読み上げていった。
 各々思うところがある表情をしていたが、あからさまな不満を口にする者はいない。忠一に一番近づいていた千秋が相続したものに比べればましだという自負があるのだろう。
「あんなに祖父さんに媚売ってたってのに、もらったもんが山と家だけだなんて、侘しいなぁ。売ったところで二束三文にもならないだろ」
 嘲るような口調で口火を切ったのは、勇だった。忠一の子どもの中で、唯一の独身であり、起業家崩れの男だ。忠一から受け継いだ遺産は、三千万円。
 満足する額ではなかったものの、資金繰りに喘いでいた勇にとっては、不動産よりも現金の方がありがたかったに違いない。
 勇の侮蔑に、千秋は秀麗な眉をわずかに顰め、膝の上で拳を握り締めた。
 その姿に、清子が静かにほくそ笑む。
「兄さんの後継にもなれない、じじいからの遺産も期待はずれじゃ、踏んだり蹴ったりだな」
「勇、おやめなさいよ。みっともない。千秋さん、今回のことは父が決めたことですから、どうか気を落とさないで。残してくれただけでもけっこうなことなのよ」
 弟を諫める体を取っているが、口先だけであるのは声音を聞けば十分だ。かくいう清子も、忠一の遺言に胸を撫で下ろした一人だからだ。
 夫慎太朗は、次の選挙に中文田区から出馬を予定している。二人の子どもたちの学費と、金はいくらあっても足りないからだ。
「二人とも、口を慎め。松浦さん、このたびはありがとうございました」
 慶一が、松浦に一礼する。
 役目を終えた男は、遺言書を残して退出した。
「私は、父さんの遺言に異論はない」
 先ほどまで松浦がいた場所に身を置き、慶一が親族たちを見渡した。
「わたしも……別にこれでいいわよ。その代わり、夫の選挙戦には兄さんがサポートしてくれるのよね」
「約束しよう」
「俺は物足りないなぁ。兄さんや姉さんは不動産もがっつりもらって、どうして俺には現金だけなんだよ」
「お前は、すでに父さんから土地を譲り受けているだろう」
 その土地はもう抵当に入っているだけに、勇がチッと舌打ちをした。
「千秋にとっては不本意な結果となっただろうか、堪えてくれ」
 奥歯を噛み締める千秋を、隣に座る兄の一也が不安そうに見ていた。
 同じ紺系のスーツを着ていても、着る者が違えばこうも見映えが変わるのかという見本のような兄弟だ。男性美溢れる千秋に対し、一也は痩躯で気弱さが滲んでいる。体格も千秋の方が一也より一回り大きくたくましい。兄だと言われなければ、一也が千秋の弟だと思う者もいるだろう。
 一也は、おずおずと声を上げる。
「……あの、僕の分を千秋に。僕はその……財産にはあまり興味はないから」
「一也、軽はずみな言動は慎め」
 慶一の一声に、一也がびくりと肩を震わせた。
「で、ですが父さん。僕は……」
「まだ地質学者になりたいなどと言うつもりか。私の跡を継ぐのは、お前だ。一也、私の期待に応えてみせろ」
「──はい、父さん」
 一蹴され、ちらりと千秋を見遣ってから口を噤んだ。
 慶一は、忠一の地盤を受け継ぎ、与党である真民政党の幹事長代行の任に就いている。一也は慶一の政策秘書であり、次期後継者になることを見越して側にいるが、自分の父親にすら意思を通せない人間が、どうして日本の政治を担う者になれるだろう。
 誰の目から見ても、一也は政治家には向いていない。親族たちは、昔から恐竜に夢中だった一也の姿を見てきている。むしろ政治に関心を寄せていたのは、千秋だ。慶一の側で、父親の背中に憧れ、追いかけ続けていたことも、彼らは知っている。
 千秋もまた慶一の秘書を務めていた。しかし、一也とは違い、千秋は私設秘書だ。
 成長するにつれ、忠一の面影を濃くする千秋は地元後援会とのパイプ役に最適だという慶一の判断からだ。事実、後援会からの千秋の評判はいい。
 それでも、誰も慶一の言葉に異を唱える者はいなかった。
 忠一という圧倒的な庇護を亡くした千秋より、これからの九重家を支える慶一についた方が利はあると考えた結果だ。
 肩を落とす一也の隣で、千秋はじっと前を見据えていたが、ゆっくりと口を開いた。
「お父さん。お話が以上なら、俺は下がらせてもらっていいですか。仕事が残っています」
「好きにしろ」
 立ち上がり、親族たちには一瞥もくれず外に出る。
(──これでいい)
 侘しいどころか、万々歳だ。
 万事、千秋の目論見通りに進んだことに、歓喜がふつふつと湧き上がってくる。あと一分長くあの場に留まっていたなら、耐えきれず喜びの雄叫びを上げていただろう。
 だが、我慢を強いる姿を彼らは実に都合よく解釈してくれた。
 親族の中で、誰一人として忠一が抱える秘宝に気づいている様子は見受けられなかった。でなければ、あれほど余裕でいられるわけがない。
 たまらず口元が綻んだ。
 これほど思い通りにことが運ぶなど、想定外もいいところだ。
(二束三文だと?)
 馬鹿を言え。
 千秋が得たものは、未来を変えうる力だ。
 あれさえあれば、悲願が叶う。
(このときを待っていたんだ)
 両手で髪を掻き上げる。
 ギラリと光る切れ長の双眸には、闘志が宿っていた。

 芦桜にある忠一邸は埼玉の山深い場所にぽつりと建っていた。
 敷地面積は東京ドームの七倍、そのほとんどが山だ。つまり、忠一邸から見渡す景色すべてが私有地ということになる。
 千秋は遺言書開示の翌日、忠一邸へ向かった。
 山林の中を走る道を、ゆっくりと車で上がっていく。鬱蒼と茂る木々の陰になり、午前中だというのに薄暗さすらあった。車内のモニターが示す外気温は十度。
 広大な敷地を有する理由は、彼が九重忠一だからだ。
 外為法の立役者として日本の歴史に名を刻んだ男は、七十三歳のとき老いを理由に政界から退いた。しかし、忠一の影響力は引退後も絶大で、彼に援護を求めんとする者たちが後を絶たなかった。それに嫌気が差したのか、忠一は時代に見合った政策は活力ある若者が率いるべきであり、古参がいつまでもしゃしゃり出るものではないと、山を買い家を建てるとそこに籠もってしまったのだ。以来、彼は世捨て人となり山中で細々と暮らしていた。
 それでも、最初の頃は忠一の威光を求めて、彼のもとを訪れる者は多かった。
 しかし、ゆっくりとだが忠一に痴呆の症状が現れるようになると、彼らは一切の世話を使用人の寿子に任せ、疎遠になった。
 だが、彼が老いを理由に親族をも欺いていたのを、千秋は知っている。
 周囲に利用価値がないと思わせることこそ、真の目的だったのだ。世間の煩わしさの一切を断ち切りたかった忠一の目論見は見事成功し、彼は安住の地を手に入れた。
 門扉の前に車を寄せ、千秋は愛犬グレートピレニーズのミコを連れ立って悠然と長屋門をくぐった。
 両手を広げたように築地塀が忠一邸を囲っている。
 一歩足を踏み入れれば、東京の邸宅とは景色の違う日本庭園があった。
 紅色に染まった東京の邸宅が動なら、芦桜の邸宅は静。
 苔むした庭園は一面緑に染まり、淀んだ心を浄化してくれる。千秋はこの風景を見るたびに、自分がいかに息苦しさを感じていたか気づかされた。
 秋風が千秋の髪をいたずらに揺らす。
 乱れた前髪を掻き上げ、まっすぐ家屋の中へ入った。
 中は驚くほど静かだった。
 使用人の寿子は葬儀後、慶一から暇を出され、今は山の麓に住む息子夫婦のもとに身を寄せている。そのせいか忠一邸に来ると焚かれていた甘い香の匂いもしない。
(あれは、どこだ)
 数奇屋造りの廊下を進みながら、一部屋ずつ中をのぞいた。ついでに、換気も兼ねて縁側の硝子戸も開ける。どこの部屋もたいがい畳間で、最奥だけ洋間と畳間が続き部屋になっていた。
 アンティークな振り子の柱時計が妙な存在感を醸し出している。
 自室にするならこの部屋だろうと見当をつけつつ、二階へ続く階段を上った。
 ミシ……、ミシ……と歩くたびに廊下が鳴る。その後から床板に爪が当たる乾いた音が続いた。
 二階は一階とは違い、畳間が二間あるだけ。
 普段は使われていなかったらしく、中はがらんどうとしていた。以前はもっと屋敷内に忠一が収集していた美術品が溢れていた気がしたが、寿子が片付けたのだろうか。
(ここでもないのか)
 ならば、どこに隠れているのか。
 思案し、ふと忠一が部屋の改装をしたという話を思い出した。半年前だったろうか。
 直接見てはいないが、搬入された品々は到底忠一の趣味とはかけ離れたものばかりだというのは聞いていた。
 陣中見舞いに寄った千秋が偶然見たのは、山ほどのフェイクグリーンと大量の造花だ。
 寿子の話では、猫を囲うための部屋を作るのだとか。
 しかし、当時も今も造花で飾られている部屋は見当たらないまま。忠一に尋ねても、ここぞとばかりに痴呆の振りをしてごまかされた。
(離れか?)
 忠一邸は母屋の他に離れの間が一棟建っている。外に出て、屋敷を回り込みながら歩いていると、換気扇が動いているのに気がついた。
 寿子が消し忘れたのだろうか。
 最初はさして気にも留めなかったが、次第に違和感がせり上がってきた。
 使用人として長年忠一に仕えてきた寿子は真面目で几帳面だ。そんな彼女が長期間家を留守にするのに、換気扇を切り忘れたりするだろうか。
 立ち止まり、じっと千秋は動き続ける換気扇を見つめた。
 あれはまだ屋敷にいる。
 確信したからこそ、踵を返した。
 縁側から中に入り、耳を澄ます。
 この屋敷のどこかに千秋が知らない空間があるのだ。
 それは、どこだ。
 ──……。
 音に反応したのはミコだ。
 瞬時に音がした方に首を向け、出所を探り出した。
「バゥ!」
 ミコが階段横の壁を前脚で掻いている。鼻を近づけ、匂いを嗅いでいた。
「ここか」
 一見しただけでは、この先に空間があるようには思えない。
 だが、犬の嗅覚は人間よりもはるかに優れている。そのミコがここだというのなら、間違いない。
 千秋は壁に手を添え、開くための仕掛けを探した。すると、わずかだが皮膚が壁のおうとつを捉えた。それは縦長の長方形を描くように続いている。大きさ的に扉の引き手ほどだろうか。
 思案し、千秋は長方形の下部分を押した。それは、くるんと半回転して、シルバーの取っ手が現れる。やはり隠し扉か。
 取っ手を掴み手前に押し開けば、壁が音もなく開いていく。現れたのは、階下へ続く階段だった。
 ミコがするりと千秋の脇を通り抜けて、階段を下っていく。
 後を追いかけて、千秋も階段を下りた。距離的に地下一階といったところだろう。
 突き当たりには、扉が一つあるだけだった。
 予想が正しければ、あれはここにいる。
 手に入れることができれば、千秋の満願は果たされる。
 グッと腹の底に力を込め、ゆっくりと扉を開けた。

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