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身代わりのきみに、また恋をした

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書籍紹介

何度でも言うよ、愛してる――

従妹の代理でお見合いをした美咲。相手がまさか初恋の人だなんて! 偽りの婚約者として御曹司の柊哉と付き合ううち、募る想いが溢れてゆく。けれど私は今だけの身代わり……。切なさに苛まれていると、彼に突然本当の名を呼ばれ!? 「俺は美咲が好きなんだ」熱い唇が首筋を辿り、巧みな指先に敏感な場所を次々に暴かれれば、心まで蕩かされて。甘く一途な恋愛物語!

ジャンル:
現代
キャラ属性:
社長・セレブ
シチュエーション:
甘々・溺愛 | 幼馴染・初恋の人
登場人物紹介

白瀬柊哉(しらせしゅうや)

ハイジュエリーブランド『SHIRASE』の御曹司。見合いに来たら相手が五年前に助けた女性にそっくりで驚く。別人だとはわかっていても惹かれてしまい……

高末美咲(たかすえみさき)

従妹の藍華に頼まれて、藍華としてお見合いに出席。現れた相手が五年前に自分を助けてくれた人で驚くけれど、正体を明かせないまま付き合うことに……。

立ち読み

 ひとりでは抱えていられなかった。
 哀しみもやりきれなさも、憤りも悔しさも、すべて吐きださずにはいられなかった。
 ただ静かに耳を傾けられたから。心がどうしようもなくゆるんだ。
 喪服の裾を握りしめる手が震える。ローテーブル上の、くしゃくしゃに丸められた紙をにらむ視界がにじむ。
「お店の中なのに、すみませ──」
 話し終えて謝ろうとすると、ソファの向かいから手で制止された。
「いいから」
 彼はそれだけ言うと、テーブル上にばらまかれたネックレス一本分のパールを丁寧に集める。
 白い手袋がふたりのあいだでひらひらと行き来する。
 ひと組の客のためだけに設けられたサロンには美咲と彼しかおらず、静かだ。
「お母様のご冥福を心よりお祈りいたします」
 そっと目を伏せられ、端正な顔立ちがやわらかそうな黒髪に隠れる。
 親族にさえかけられなかった弔意に、涙がこらえきれず溢れた。
「……少々お待ちいただけますか?」
 サロンを出た彼は、ほどなく一枚の紙を手に戻ってきた。ソファに座り直すと、その紙にさらさらとペンを走らせる。
「ここからはお客様ではなくひとりの女性として、きみに話をさせてほしい」
 みるみる紙の片側が埋まる。「夫になる人」の欄が。
 見間違いでなければ、これは。
「婚姻届……?」
 うなずいて顔を上げた彼の深い色をした目に、吸いこまれそうになった。
「あとはきみが埋めればいいだけにしてある。必要になったら、いつでもこれを使えばいい。もちろん、今すぐ提出してもいいよ」
「えっ……?」
 書かれた婚姻届に目を落とす。
 しかし中身は異国の呪文のように見えて、まるで頭に入らない。
「今のきみを、さらに混乱させるつもりではないのだけは、わかってほしい」
 彼が、テーブル上に転がったほうの紙を指す。
 そちらも婚姻届だった。誰とも知らない相手の名前が記入されたもの。
 しかし彼に渡された婚姻届は、それとは意味合いがまるで違う。
「ただでさえ、きみは傷ついてると思う。だから使う使わないは別にして、この紙を逃げ道のひとつにすればいいよ」
 手を差し伸べられたのだと思った。たったひとり、彼にだけ。

 

 

 

 大型連休が明けた翌週の金曜日。夜の七時ともなるとフロアは閑散としたものだ。
 三十階建てのビルの二十二階にある職場は、ワンフロアに約三百人が勤める。しかし連休明けの疲れもあってか、そのほとんどが定時がくると同時にフロアを飛びだしていた。
 設備保全部のエリアで残業しているのは、内勤の美咲だけだった。休み明けに出す資料に必要な業者見積が揃ったのが、五時半を過ぎてからだったのである。
「高末さん、見積チェックまだやってるの? それくらいにしとけば? 飲み行こうよ」
 ひとりパソコンとにらみ合いをしていると、おなじ設備保全部の先輩に画面を覗きこまれた。外で吸ってきたところなのか、煙草臭い。
「いえ、営業が月曜のうちにお客様に提出したいそうなので。仕上げて帰ります」
「そんなら月曜でいいじゃん。まだ金曜だよ?」
 美咲は胸辺りまでのストレートの黒髪を耳にかけ、先輩にかぶりを振る。
「ですが、月曜の朝は立てこみますし、今のうちに仕上げておきたくて。不測の事態があっても困るので……すみません」
「あ、そ? じゃあ先に帰らせてもらうわ。お先」
「お疲れさまです」
「……誘ってやったのに、可愛くねぇ」
 帰りがけに聞こえたつぶやきに、重いため息をつく。可愛げがないとか、生意気だとか。きまじめで面白みがないとか。言われ慣れてはいても、気分は落ちる。
 なかでもその性格が顕著に出たのは、五年前の一件でだろう。
 気を取り直そうと軽いストレッチをすると、キーボードの横に置いたスマートフォンが震えるのが目に入った。画面に表示された名前に首をかしげ、更衣室に移動する。ひとつ年下の母方の従妹からだったが、今夜は会う約束はなかったはずである。
「美咲ちゃん! よかった……捕まった」
 村沢藍華は控えめな彼女に似合いの話しかたをするが、今夜はやけに声が上ずっている。
「どうしたの、今日もやっぱりうちに来ることにした?」
 藍華とは、母が急逝してひとり残されてから約一年後に出会った。最初は、自分と瓜ふたつの容姿を持つ従妹に仰天したものである。
 それから四年、今では本物の双子かと思うほどの仲だ。母の駆け落ちにより村沢家と絶縁状態にある美咲にとって、藍華は唯一の身内ともいえた。
「ううん、お泊まりの話じゃなくて……。美咲ちゃん、明日……空いてる、よね?」
「空いてるけど?」
 恋人もおらず、休日といえば家で観葉植物の世話をするか、動画配信を視聴するくらい。週末の予定が特にないのは、週に三日は泊まりにくる藍華がいちばんよく知るはず。
 けれど藍華の口調からは、ただならぬ雰囲気を感じる。けげんに思ったとき、告げられた内容に美咲は自分の耳を疑った。 
「実はね、わたしの代わりに、お見合いに出てほしいの……っ」

     *

 土曜日の昼下がり、国内でも随一の老舗である帝洋ホテルのラウンジは適度な喧噪に包まれていた。
「愚息が遅れまして申し訳ないですわ。主役だというのに、なにをしているのかしらね」
 約束の時間から三十分が過ぎようとしている。美咲は桜色のワンピースの膝に置いた手をぎゅっと握り合わせた。間を持たせようとアイスティーに口をつけたが、ストローはとっくに空になったグラスの中で濁った音を立てた。
 両隣を藍華の両親、美咲にとっては叔母夫婦に挟まれ、緊張で手のひらにはびっしょりと嫌な汗を掻いている。
 とはいえ今日の美咲は、はたからは誰が見ても藍華本人だろう。
 開店と同時にデパートに駆けこんで藍華の好むようなワンピースを買い求めた。普段はほとんどしないメイクにも三倍は時間をかけた。髪も初めて染めた。藍華とおなじ茶色、長さも藍華に合わせて肩下くらいのセミロングに切った。
 藍華からは親子の仲はあまりよくないと聞いていたものの、叔母夫婦にさえ気づかれないのは複雑な気分である。それに叔母とは母の葬儀以来、五年ぶりだった。
 けれど今は、そんなことよりもお見合いだ。 
「藍華さんも、ごめんなさいね。柊哉もそろそろ着くと思うのよ。まったく、こんな大事な日に遅刻だなんて」
「私は構いませんが……なんでしたら別の日に改めましょうか?」
 申し入れたとたん、叔父に鋭くにらまれて美咲は口をつぐんだ。叔父は白瀬の母親に視線を戻すと、尊大さの覗く態度で話を逸らす。
「ご子息はSHIRASEの総本店長でいらっしゃるのですから、目の回る忙しさでしょうな。あの若さで総本店長兼……えー、と」
「取締役商品統括部長よ、あなた」
「あ、ああ。とにかく優秀な息子さんをお持ちで、安心ですな。うちにも柊哉さんのような息子がおればよかったのですが、あいにく娘ひとりで」 
 見合いの相手はハイジュエラー「SHIRASE」の創業家一族の御曹司で長男、現在三十二歳。白瀬柊哉という。
 いずれ父親のあとを継いで代表取締役社長に就くのは疑う余地もないらしい。
『高校を出て渡米して宝石鑑定士だったかな? の資格を十代のうちにとって、そのまま向こうの大学で経営学を学んで帰国したって聞いてる』
 事前に藍華から聞いた説明を思い返すだけでくらくらする。
 SHIRASEは世界に名だたるハイジュエリーブランドの一角として周知されている。年間売上高は四百二十億円、そのうちの約八割が海外での売上だ。日本国内では路面店と一部のデパートにのみ出店し、さらにはパリ、ロンドン、ニューヨーク、上海……と世界の主要都市における一等地にも路面店を構える。
 富裕層が主な顧客らしく、低価格帯の指輪でも数十万円はする。一介の会社員である美咲には、まるで現実味がない世界だ。
「そろそろ身を固めさせたいと思っておりましたから、ちょうど良い機会でした。でも、藍華さんにお嫁にきていただいてよいのかしら? 村沢さんも旧財閥家を背負われるお立場でしょう」
「いえ、すべてはご縁のままですから。ねえ、あなた」
 藍華の家は貿易商を起源とする旧村沢財閥の流れを汲んでおり、叔父はその中核企業である村沢商事の社長である。藍華なら、白瀬家との縁組みも妥当なのだろう。それに、藍華によると白瀬とは同じ中高一貫校の出身らしい。
 と、そこに大理石の床を闊歩する重い足音が近づいた。
「お待たせして申し訳ありません」
 穏やかな抑揚を持つ、低音の響き。
 どこか懐かしさを感じる、ふしぎと落ち着く声。
 挨拶しようと立ちあがった美咲は、涼やかな輪郭を描く吸いこまれそうな目に意識を奪われた。
「っ……」
 時間が、止まったかと思った。
「村沢藍華さん? 初めまして、白瀬柊哉です」
 仕立てのよい、細身のブルーグレーのスーツに白シャツ。紺のネクタイにシルバーのタイピンが光っていた。黒のストレートチップの革靴は一点の曇りなく磨きあげられ、全身から爽やかな品がにじみ出ている。
 身長は百八十センチくらいだろうか。美咲の目線がちょうど白瀬の喉仏辺り。
 黒髪は襟足で揃えられ、ゆるやかなカーブを描く眉が穏やかな印象を与えるのに一役買っている。すっきりとした鼻梁と、端正な輪郭。
 甘すぎず、かといってクールというほどでもない絶妙なバランス。綺麗という表現が見事に合う。
 しかし美咲が息をのんだのは、その美貌や佇まいに圧倒されたからではなかった。
「……──はい」
 初めましてじゃない。
 母が心筋梗塞で倒れ、あっけなく他界した五年前が脳裏によみがえる。美咲が二十歳を迎える三日前だった。
 美咲は葬儀の場で、ただひとりの出席者だった親族の叔母に結婚を強要されて揉めた。その際に引きちぎられたパールネックレスを修理してもらいに飛びこんだ先で、白瀬に応対されたのである。
 ──そのとき渡された婚姻届は、受けとらなかった。
 でも、差しだされた言葉は忘れようもなかった。
 とはいえ「藍華」である今は、間違ってもそんな話題は口にできない。それに白瀬の表情にはわずかの変化もなく、美咲を覚えているようには見えなかった。
 見合いは形ばかりの質問をいくつか交わしてお開きとなった。美咲も帰り支度をして化粧室を出る。と、通路で眉間に深い皺を刻んだ叔父が待ち構えていた。
「村沢の娘らしく振る舞えと言っておいただろうが。こっちが出直してもいい、だと? いつからそんな口を利くようになった」
 忌々しげに吐き捨てられ、顔が強張る。
「……すみません」
「下手に出ると舐められるだろうが。だいたい、栄子に言われてきてみれば、なんだあのスカした男は。宝石? チャラチャラしおって。うちにはなんのメリットもない」
 鉛でも飲みこまされた気分で、美咲は唇を噛む。
 財閥としての村沢家が機能していたころ、村沢の業態は商社だけでなく銀行業・製鉄業など多岐に渡った。しかし、藍華によると村沢商事は業績不振が続いているらしい。
『村沢の分家からもやいのやいの言われてて、父は入り婿だから肩身が狭いの』
 藍華はそう零したが、頭を地面に押しつけられるのに似た息苦しさを覚える。叔父についてロビーに戻る足は知らず重くなった。
「お前には村沢の名に相応しい縁談を用意してやる。だが、向こうに断られてはうちの沽券に関わる。それを頭に置いて行動しろ。それから……」
 と、ふいに叔父が言葉を切った。
 角を曲がったところで白瀬が壁に背をもたせかけて立っている。ぎょっとする美咲の前で、白瀬は叔父に一礼した。
「今日は大変申し訳ありませんでした。藍華さんが俺を気遣ってくださったと母から聞きました。思慮深いお嬢様とお見受けしますが、少し藍華さんとお話させていただいても?」
「……ふん。せいぜい、色目でも使えばいい」
 鼻を鳴らす叔父にも不快な顔をせず、白瀬はにこやかに頭を下げた。
「ありがとうございます。行こうか、藍華さん」
「はい……」
 叔父のものとは異なるゆったりした歩調に並ぶと、息苦しさから解放された気がした。


 ラウンジに戻るのかと思いきや、白瀬はホテルを出た。五月の中旬だというのに、夏かと勘違いするような陽射しが直撃して、美咲は目を細める。
「どちらへ? 話をするなら、ホテルでもよかったのでは」
「藍華さんは疲れたでしょう。今日は帰るといいよ。送っていく」
 車寄せに出たふたりの前に黒塗りの車が停まった。タクシーではなく白瀬家の車らしい。ではさっきの挨拶は話をするためではなく、美咲をあの場から引き離すためだったのか。美咲が気まずい雰囲気のまま、親と帰らずに済むように。
 そう気づいたときには引き留めていた。
「私は疲れていませんから、お時間さえよければ……お話、させてください」
 白瀬がおや、という風に眉を上げると、運転手に車を引き返させる。
「なら、コーヒーでも飲もうか」
 年季の入った飴色のテーブルとボルドーのソファがレトロな内装の、こぢんまりとした喫茶店に入る。奥のテーブル席について注文を終え、美咲はさっそく頭を下げた。
「さきほどは、父が失礼を申しあげてすみません」
 化粧室前での会話を聞いたからこそ、助け船を出してくれたのだろう。けれど白瀬にしてみれば下に見られたも同然で、気持ちのよいものではなかったに違いない。
「気にしてないよ。大事な娘の結婚に厳しくなるのは当然だと思う。しかし藍華さんも大変そうだ。……ああ、ごめん。親子の問題に口を出して悪かったね。秘書にもよく注意されるけど、うっかりしてた」
「とんでもないです。助かりました。ありがとうございました」
 白瀬が苦笑を返してアイスコーヒーに口をつける。
「俺の印象が悪いままなのも、避けたいしね。要は自分のためで、礼を言われることじゃないよ」
「印象は悪くないですけど……なんでそう思われるんですか?」
「忘れた? 俺、藍華さんを三十分も待たせたよ。これがたとえば会議だったら俺には発言のチャンスも与えられないところだ」
「そうでした。なんで遅刻を?」
 白瀬がストローから手を放して腕を組んだ。
「俺が理由を答えたとして、嘘かもしれないよ? 会議が長引いたからだと答えても、実は恋人と会っていたのかもしれない」
「恋人がいらっしゃるんですか。じゃあなんでお見合いを……」
 困惑して尋ねると、白瀬がくすりと笑った。
「藍華さんはひとを疑わないんだね。今のは真に受けないでくれると助かる。恋人はいないよ。実は、お客様にトラブルがあってね。解消する手伝いをしていた」
「そうでしたか、すみません。よく言われます、可愛げがないとか冗談が通じないとか」
「まじめなのは、信用できるという意味だよ。褒め言葉だ」
「……ありがとうございます」
 この性格を褒められたのは初めてだ。戸惑うものの、今まさに信用とは真逆の行為をしているので気まずい。
「でも……印象が悪いままなのは避けたいとおっしゃるのに、恋人と会っていたかもなんて答えをはぐらかさなくても……最初から言ってくださればよかったのに」
 白瀬がアイスコーヒーを飲みかけてストローを咥えたまま、目をみはった。
「そうだね」
「いえ、初対面でなんでも言えるわけないですよね。私こそ知った風な口を利いてすみません」
 いや、と白瀬が苦笑する。
「ごめん。言い訳が好きじゃなくてね」
「言い訳でも、説明してくださるほうがいいです。そうすれば白瀬さんを知れますから」
「……驚いたな」
「はい?」
「いや、俺もひとつ藍華さんを知れた」
 白瀬の笑顔がやわらかくほころぶ。見合いの最中とは異なる笑みに、つい見入ってしまった。

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