SEX DRIVE ―抗えない性衝動―

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- 本販売日:
- 2020/12/04
- 電子書籍販売日:
- 2020/12/04
- ISBN:
- 978-4-8296-8430-6
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"「きみたちは今日からバディだ」
―スリリングな隠密任務と濃厚発情セックス―"
「ヤる前からこんなに濡らしてる女初めて見た」体が勝手に男を誘ってしまう『過剰フェロモン』体質のヒロイン。色事専門の諜報部員として、一癖も二癖もある男性とバディを組む。任務の為の体を使った『教育』は、やがて心の繋がりを生み……。突然の発情に抗えない男女の痴態はあまりにも淫ら。「手練れな兄貴肌×処女」「豹変ドSな年下×奔放女子」の二編を収録!

貴瀬一粋(たかせいっすい)
シノワズリ諜報部隊のベテランエージェントで純のバディ。いつも気だるげな雰囲気でマイペースだが、意外と面倒見がよく優しい。純の実技演習をしているうちに……?

牧内純(まきうちじゅん)
役所勤め中に突如『過剰フェロモン』を発症。クビになりシノワズリにやってきた。一生懸命でウブ。男性経験ナシ。

中邑陽介(なかむらようすけ)
シノワズリ諜報部隊の新人エージェントで杏奈のバディ。人の好さそうな雰囲気通り、温厚で優しい。周囲からは「童貞」とイジられているが……?

色葉杏奈(いろはあんな)
数年前に『過剰フェロモン』を発症。姉御肌でプライドも高い。性に解放的で、発症による“発情”を楽しんでいる。
置かれた場所で咲くしかないなら、せめて誰かの記憶に残るほど鮮やかに咲き誇りたい。
これは私が、理不尽に奪われた自尊心を取り戻す物語。
*
中国格子がデザインされた高級感溢れるガラスのキャビネット。それから、透かし彫りが美しいサイドテーブル。家具はマホガニー材で統一されている。床にはクリーム色と藍色で構成されたシノワズリの絨毯。
オリエンタルで高貴な雰囲気の漂う部屋の中で、私──牧内純は、大きな机の前に立たされていた。
「きみたちは今日からバディだ」
そう言い放ったのは、机を挟んで向かいに座っている四十代後半の男性。ここの所長なのだとさっき自己紹介された。
知性を感じさせるまっすぐな目と、すっきりとした輪郭。人懐っこく柔和な笑みを浮かべながらも、決して相手にNOと言わせない迫力がある。
私はつい流されて「はい」と言ってしまいそうになった。
しかし。
「イヤです」
私の隣に立っている男性──貴瀬一粋さんは、はっきりとそう断った。
ちらりと横目に確認すると、彼はやる気のないぶすっとした表情で不良さながらに腕を組んでいる。
態度が悪い。この部屋で初めて引き合わされてからずっと、この調子だ。
第一印象は見るからにいかついお兄さん。歳は私よりも少し上だと思う。
三十歳くらいかな?
態度は悪いけど……目つきも悪いけど、横顔を見ていると“あれ? ちょっと格好いいかも?”と思ってしまった。
すっと通った鼻筋と、細かく揺れる長い睫毛。あらゆることに対して面倒くさく思っていそうな雰囲気も、見方を変えればアンニュイでセクシー。
所長に対して抗議している不機嫌な横顔にも、なぜだか不思議な魅力を感じた。
別に私、強面な男の人がタイプってわけでもないのに。
「──わかりましたって! 俺が面倒みりゃいいんでしょ!!」
「えっ」
彼の横顔に魅入っていたせいで、私は途中の会話をごっそり聞き逃してしまった。
気付けば会話は終わっていて、一粋さんはイライラしながら所長に向かって捨てゼリフを吐き、部屋から出ようとドアに向かって歩き出していた。私はぺこぺこと所長に会釈し、慌てて大きな背中の後を追う。
所長はニコニコと笑い、彼の背に向かって念を押すように「くれぐれも頼むよ」と。
振り返った一粋さんは更にうんざりした顔で。
「決定事項だからもう覆らないんですよね? ……ぜぇぇぇっったい他に適任がいると思うんだけどなァ~!」
不満タラタラな様子で、わざと大きな声で文句を言って所長室を後にした。
私は何が何だかわからないまま、一粋さんについていくしかなかった。
所長室から出て数歩。私の前を歩いていた彼はピタッと足を止めてこちらを振り返る。
そしてさっきの大声はどこへやら、疲れた様子でテンション低く話しかけてきた。
「……ってことで、俺とお前がバディを組むんだと。不満があればいつでも所長に言ってくれ。俺は喜んで他の男にバトンタッチすっから」
明後日のほうを見ながら、だるそうに後頭部をガサガサと掻く。
よっぽど私とバディを組むのが嫌だったらしい。どうやら私が話を聞いていなかった間に、嫌々所長に言い含められたみたいだ。
(……ところで“バディ”って何?)
ふと頭に浮かんだ疑問を、この人に尋ねてよいものか。
何か説明があったかな? ……あったのかもしれない。
なんせ私はここに来てからずっと緊張と混乱でソワソワしていたので、何か説明されていたとしても半分も頭に入ってきてない可能性がある。
まだ少し、現実味がなくてふわふわしているくらいだ。つい一時間ほど前に予想していた展開とはまるで違う。予想に比べて、なんというか、あまりに……平和。
その場で立ち尽くして考え込んだ私を気にして、彼は声をかけてくる。
「どうした? さっきから呆けた顔して」
「や、ええと……その、随分と……アットホームだったから」
「ふーん。アットホームねぇ……」
温度のない声で返されて、この人が私の感想に対してどう感じたのかはよくわからなかった。目を合わせてくれないのはたぶん、私にさして興味がないから。
そう決めつけてかかっていたら、彼の纏う雰囲気がほんの少し柔らかくなった。
「まあな。所長は特にお人よしだと思うよ。あの人、一度うちで面倒見るって決めた奴のことは見捨てねぇから」
「あ……ですよね。そんな感じがしました」
私たちにバディを組むよう指示したあの所長からは、義理堅さや情の厚さを感じた。
でもちょっと意外だ。この人が素直に所長を褒めるなんて。さっきは所長に態度悪く反抗していたものだから、てっきり二人は折り合いが悪いのかと思っていた。
もしかしてこの人、ツンデレってやつ?
更に彼はこう言葉を重ねた。
「お前のことも家族みたいに扱ってくれるさ、きっと」
「……家族」
まさかこの場所でそんな言葉を聞けるとは思わず、私は更に呆けてしまう。
予想では、今頃私は道具のように扱われ、ひどい辱めを受けているはずだった。
それが、家族みたいに扱ってもらえるだなんて。想像と百八十度違う。
目の前の彼は「にしても……」と言って私の顔を覗き込んでくる。突然のアップ。
ドギマギしながらキュッと唇を閉じ、緊張して言葉の続きを待つ。
「お前、随分と顔色よくなってきたじゃん。所長の部屋に通されるまでは今にも死にそうな顔してたのに」
「あー……」
そう。さっきまでの私はまさしく、今にも死にそうな気持ちでいた。私の人生はもう終わったんだと思っていた。
彼は私の顔を覗き込んだまま、ニヤニヤ笑って私の想像を言い当ててくる。
「なに? もしかして“風俗店に売り飛ばされるかも”とか思ってた?」
図星を突かれて“ううっ”と言葉に詰まった。
どうしてバレたんだろう。
頭の中を読まれた恥ずかしさで俯いていたら、「ははっ」と軽快な笑い声が聞こえた。直後、彼はその整った顔を私の顔の真横まで持ってきて、抑えた声で囁く。
「今まで勤めてた役所はクビになったんだっけ? そうだよなぁ。普通の職場はヴィーナのお前を雇ってくれないよな」
「っ……」
バカにするような彼の口調が悔しく、頬がカッと熱くなる。
彼が口にした『ヴィーナ』という単語が耳の中で忌々しく響いた。
一粋さんは声の抑揚を強くして、どんどん大袈裟に煽ってくる。
「勤務中に発作を起こして、発情されでもしたら大問題! 同僚の男どもをこぞって誘惑しちゃって? “神聖な職場は一変、一対多数の大乱交会場に!!”……なーんてことになったら、目も当てられないもんな~」
「……やめてください」
この人の言う通り、私は『ヴィーナ』だ。ひとたび発作が起きると本人の意思とは関係なく発情してしまう原因不明の奇病『過剰フェロモン』を患っている。
数年前から日本国内で流行り始めた過剰フェロモンは、成人女性が稀に発症し、治療法が未だ確立されていない。一度発症してしまうと発作的な発情に悩まされ続ける不治の病。
この過剰フェロモンを発症した女性の総称が『ヴィーナ』。
私はつい最近発症し、ヴィーナになった。
ヴィーナは社会的に冷遇されている。例に漏れず私も、新卒から勤めていた役所を解雇されてしまった。
理由は今さっき一粋さんに言われた通り。万一私が職場で発情してしまったら、放出されたフェロモンに男性職員が触発されて、大きな混乱を招くから。
(……悔しい)
解雇を言い渡された時のことを思い出すと余計に悔しくて、我慢していた涙が瞳の中に膜を張る。
勤め先の上司に発症したことを打ち明けたら、困ったように「発症しちゃったならもう無理だよねぇ」と笑われて終わった。これまで仕事で努力してきたことや、築いてきた人間関係は一瞬にして駄目になってしまった。
そんなのってアリ?
私が何をしたっていうの。
(だめ……泣くなっ……)
私の不幸を笑ったこの人の前では絶対に泣きたくなかった。
けれど涙の膜は厚くなり、瞳の縁ギリギリまで溜まっていたソレは決壊し、“ぼろぼろっ!”と一気に零れだす。嗚咽まで出てくるので慌てて口を手で塞いだけれど、何も間に合っていない。
「ふッ……うぅ──っ……!」
「……って、うわ! 泣くな泣くな! おい! 冗談っ……冗談だから!」
一粋さんはなぜだか慌て始めた。私は泣いていたのでその表情を確認できなかったけど、「悪かった!」「お前がまだ発症したばかりだってこと忘れてて!」と弁解しているのが聞こえた。声の感じからしてかなり動揺している。
「ベテランのヴィーナの鉄板ジョークなんだ! 傷つけるつもりとかはなくてっ……」
何それ。意味わかんない。“ベテランのヴィーナ”って誰?
鉄板ジョークって、発作を起こして職場を大乱交会場にすることが? ナイでしょ。どんだけ趣味の悪い冗談……それで“傷つけるつもりはなかった”とか言われても!
頭に浮かんだ恨みがましい言葉の数々は、泣いていたせいでひとつも声にできなかった。
「泣くなよ……」
一向に泣き止まない私に、一粋さんもすっかり弱っている。女子が泣いていたら面倒くさがって放っておきそうなのに、意外なことに彼は私のそばにい続けた。
ただ一緒にいるだけじゃなく、なんとか慰めようとする雰囲気まである。
「お前まだ発症したばっかなんだろ? “初めて発作が起きた時も自宅で一人だった”って言ってたし。知らない男に襲われずに済んだならよかったじゃん! 大ごとになる前にここに来てラッキーだよ、お前は」
「ラッキーじゃない……!」
慰めているつもりなんだろうけど、慰め方が的外れ!
私が大きく抗議したことで彼はやっと見当違いだと気付いたのか、反省したようにしおしおとした態度になる。
「まあ……そっか。お前の立場からしたらそうだな。突然変な体質になって日常生活を送れなくなったとなれば、そりゃ“ラッキー”なんて思えないか……」
小さな声で「悪い」と謝られた。
謝れる人なんだな、と、少し彼を見直した。
かと思えばまた頭をガサガサと掻いて「くそっ!」と悪態。「だから新人のヴィーナの面倒を見るとか向いてないってっ……」などとぼやいていた。
(……やだな)
風俗店に売り飛ばされなくてよかったけど、結局ここでも私は厄介者扱いだ。
過剰フェロモンを発症してしまった以上はもう仕方がないのかな。
人に迷惑をかけて、疎まれながら生きていくしかないの?
「っ……うっ……えぐっ……」
涙が止まらない。初対面の、しかもとても意地悪な男の人の前で泣きじゃくるなんて屈辱的だ。でもどうしても止められなかった。
これは何の罰だろう?
私はさして賢くもないし、何かの才能に秀でているわけでもなかった。でも平凡な人間なりに努力して、人の役に立とうと懸命に生きてきた。
それなのに突然こんなワケのわからない体質になって、厄介者扱いされて。
努力も、過ごしてきた時間も全部否定されてしまった。
(どうして私がこんな目に……)
ただ社会と繋がって、慎ましくも幸せに生きていきたかった。
こんな私、もう誰も必要としてくれない。

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