絶対社長の淫らな躾

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- 本販売日:
- 2019/09/04
- 電子書籍販売日:
- 2019/09/04
- ISBN:
- 978-4-8296-8387-3
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堕ちればいい。心も身体も、私だけに
社長の木崎に弱みを握られ愛人になった綾音。冷ややかな双眸で見下ろされ心臓は早鐘を打つ。強引なキスと淫靡な愛撫。容赦なく腰を打ち付けられ、悦楽の虜になる。愛欲に溺れる日々のなか「きみをもっと甘やかしたい」傲慢なはずの男から垣間見える優しさに心惹かれて……。でも本物の恋人にはなれない。身を引こうと決心すると「そばにいてくれ」と力強く抱き締められ!?

木崎史彦(きざきふみひこ)
財閥グループ系企業・木崎物産創業者一族の息子。現在は社長に就任している。冷静沈着で、何事にも動じないタイプ。綾音の弱みを握り、愛人契約を結ばせる。

白河綾音(しらかわあやね)
木崎物産に勤めている。社内の花形部署に所属する傲慢な男、佐々木と付き合っていた。ある時、無理やり愛撫されているところを社長の木崎に目撃され!?
昼時の丸の内界隈は、昼食をとるべくオフィスから出て来たビジネスマンで溢れている。木崎物産本社ビルでもまた、外の店舗へ赴く人々の往来が激しかった。
何基もあるエレベーターの前で各部署から出て来た人の群れを横目に、白河綾音は人目を避けて非常階段に足を踏み入れた。恋人の佐々木浩介に呼び出されたためだ。
三歳年上の彼と付き合い始めたのは、今から半年前のことだった。木崎物産の花形のひとつであるエネルギー関連の部署に所属する彼から、「結婚を前提に」と告白されたのである。
強引に迫ってくる佐々木に対し、最初は付き合いをためらっていた。だが、もともと結婚願望が強かったこと、そして押しに弱い性格もあって交際を承知した。
──それにしても、いったいなんの用があってこんな場所に……。
恋人が指定してきたのは、非常階段の最上階の踊り場だ。
地上四十階、地下三階からなる本社ビルは、低層階に商業施設が入っている。そのため階段内は自社フロア以外に出入りできないように、社員IDを通さないと入れない仕組みになっている。
最上階は本社重役フロアだが、重役はわざわざ非常階段を利用しない。専用のエレベーターがあるからだ。そのため最上階の階段内は、巨大な密室のようなものだった。
綾音は自分が所属する総務のフロアでIDを通すと、非常階段に続くドアを開けた。階段内にコツコツと自分のヒール音だけが響く中、最上階へと進んでいくと、階上から聞きなれた声が投げかけられる。
「綾音、遅かったな」
「佐々木、さん……」
手すりに手をかけて階下を覗いていた佐々木が、「早く来い」と命じてくる。
恋人の傲慢な物言いが癇に障ることもあるが、花形部署に所属する優秀な彼に見初められたのは素直に嬉しかった。
学生時代から勉強一辺倒だった綾音は、色恋に無縁だった。それよりも、早く社会に出て母親に恩返ししたい気持ちが強かったのだ。
父を早くに亡くし、母はたったひとりで綾音を育ててくれた。父の死後、わずかばかりあった貯金と保険金は、すべて綾音の学費に回された。決して裕福とはいえない生活だったが、母の想いに報いるために必死で勉強に打ち込んだ。
そうしてようやく入社した木崎物産で、採用されたのは一般職だった。
不満があるわけではない。ただ、やはり総合職との格差は感じる。替えが利く自分よりも、会社に必要とされている総合職の人々を、綾音は羨ましく思っていた。
佐々木もまた、入社時に希望する部署に配属され、海外研修を経て本社へ戻ってきたエリート社員だ。そんな男に『結婚を前提に』と乞われれば、悪い気はしない。それに、ここまで苦労して育ててくれた母親に恩返しするためにも、早く身を固めるほうがいい。
──打算ばかりで嫌な女。
彼に対する愛情よりも、条件だけを見ている。そんな自分の在りようへの罪悪感も、佐々木に逆らえない要因のひとつだ。
「ごめんなさい。仕事が押していて」
佐々木のいる踊り場まで上がった綾音は、待たせたことを素直に詫びた。しかし彼は、「仕事ねえ」と鼻で笑う。
「仕事っていったって、どうせ領収書の作成か総合職のサポートだろ。そんなもの、休憩を犠牲にしてするような仕事じゃない」
「そんなこと……」
明らかに一般職を馬鹿にした物言いに、さすがに言い返そうとする。付き合っていくうちに気づいたが、この男は自分が優秀だと自負するがゆえに、他人を見下すような発言をすることがある。
付き合い始めた当初は、そんな自信家なところも魅力的に見えたが、今では一緒にいるとどんどん委縮してしまい、言いたいことの半分も伝えられぬまま唯々諾々と彼に従うようになっていた。
──これで、結婚して上手くやっていけるの……?
心の中で疑問に思ったとき、佐々木は綾音の腕を引いて壁に押し付けてきた。
「なんでおまえを呼んだと思ってんだよ。よけいな問答するためじゃない」
「んっ……!」
佐々木は強い力で綾音の肩を掴むと、唇を重ねた。
いくら人の行き来がないとはいえ、社内でするべき行為ではない。とっさに彼の胸を押し返すも、両手を頭上で纏められてしまう。
いっさいの加減なく手首を掴まれ、綾音は痛みに眉を寄せた。
──こんなことをするために、わたしを呼んだの……?
先ほど言われた心無い発言もあり、心の中で不満が渦巻く。場所を考えずにキスを仕掛けてくる佐々木にも、彼に対して言いなりになっている自分にも嫌気がさした。
「嫌っ、やめて……っ」
無理やり顔を横に反らせた綾音は思わず叫んだ。すると機嫌を損ねたのか、男は舌打ちをして膝がしらを足の間に差し込んでくる。
「うるせーな。おまえは黙って俺の言う通りにしてればいいんだよ。結婚したいんだろ、俺と。一度配属されれば、商社はめったなことで部署替えなんてないしな。このまま今の部署で順当に出世すれば、一般企業の同年代の数倍の年収になる。おまえの生活も安定するんだ。不満なんてないだろ」
「それとこれとは……」
「別だって? 綺麗ごと言うなよ。おまえの同期なんて、そうそうに結婚相手を見つけて退職してる。おまえだって結婚願望が強いって自分で言ってただろ」
容赦なく痛いところを突いてくる佐々木に反論できない。この男は綾音の打算を見抜いたうえで、自分の言いなりになれと……結婚する代わりに口答えは許さないと言っている。
「俺、新しいプロジェクトの一員に決まったんだよ。祝ってくれるよな? 恋人なら」
「や……っ」
足の間に差し込まれた膝がしらが、スカート越しに恥部を押し擦る。勝手な理屈でいいように扱われ、綾音の胸に後悔が浮かぶ。
佐々木が綾音を『腰かけで就職し、結婚相手を見つけたいだけ』だと見下しているように、綾音もまた彼を『花形部署のエリート社員』という条件でしか見ていなかった。ある意味割り切った関係だが、ふたりの間には明確な優劣がある。
──こんなふうに扱われるのは、当然の報いなのかもしれない。
抵抗を諦めた綾音が身体の力を抜くと、佐々木が満足そうに笑う。
「社内で密会するのも興奮するだろ? 響くから声は我慢しろよ」
「じゃあ……」
──こんなところでしなきゃいいのに。
けれども綾音の抗議は言葉にならず、吐息となって唇から漏れるだけだった。
佐々木はブラウスの上から曲線を辿るようにして、ふくらみを揉みしだいていく。
嫌だと思うのに抗えない。自分が情けなくなりながらも、綾音は唇を噛みしめて嫌気に耐えた。
静寂に包まれた階段内に、佐々木の荒い息遣いと綾音の押し殺した喘ぎが広がる。蛍光灯に照らされたふたりの影はくねくねと蠢き、淫気が充満していくかのようだ。
昼休憩が終わるまで我慢すれば、この男から解放される。そう思う自体、佐々木に気持ちがない証拠だ。自覚すると、ますます己の浅はかさが嫌になる。
もう別れたほうがいい。この数カ月何度も考えたことだ。だが、プライドの高い男だから、別れを切り出せばどんな行動に出るかわからない。もし揉めるようなことになって周囲に知られれば、会社にも居づらくなる。そう考えると、別れに踏み切れない。
このまま我慢して佐々木に従っていれば、波風を立てずにいられる。だが、それも限界にきているのは自分自身がよくわかっている。
それなのに、別れを決断できない。情けなくなった綾音が、ふたたび唇を噛みしめた。そのときである。
「ここで何をしている?」
淫靡な空間を切り裂く冷ややかな声が投げかけられた。
驚いた綾音は、反射的に佐々木から離れて辺りを見回す。すると、階下の踊り場からこちらを見上げている男がいた。
「何をしていると聞いているんだが? 私は」
ふたりを交互に見た男は、同じ台詞を慇懃に言い放った。
秘め事を目撃された動揺で二の句を継げずにいると、男はゆっくりと階段を上がってきた。前に立った男の冷ややかな視線に身を竦ませたとき、佐々木が震えた声を上げる。
「──木崎社長っ……!!」
「こんな場所で淫行に耽るとは……我が社はずいぶんと社員に寛容になったものだ」
男──木崎史彦は、眼鏡の奥にある切れ長の双眸を皮肉げに細めた。
木崎はその名の示すように、木崎物産創業者の一族で、もとは副社長を務めていた。しかし、病気療養中の社長に代わり、最近正式に社長に就任した。三十代前半という若さだが相当の切れ者らしく、社の重役たちもこの男には頭が上がらないという。
スッと通った鼻筋に薄い唇、酷薄な印象を与える切れ長の目……近くで見れば見るほど恐ろしく整った容姿だ。百八十はある長身に纏うスーツをはじめ、ネクタイや靴など身に着けているものはすべて一級品で一分の隙もない。
シルバーフレームの眼鏡の奥にある瞳は佐々木に据えられ、なんの感情も見て取れない。ただ、静かに次の言葉を待っている。
「しゃ、社長……これは、その」
「きみは確か、佐々木くん……だったね。これはどういうことだ?」
「たっ……大変申し訳ございませんっ! つい出来心で……」
いるはずのない人物を目の前にして、佐々木はすっかり畏縮していた。自社のトップに淫事を目撃されたのだから当然だ。きょろきょろと視線を泳がせ、今にも土下座しそうなほど狼狽えている。
一方の木崎は、無感情のまま佐々木を見据えていた。眼鏡のブリッジを押さえながら、わずかに吐息をつく。
「仕事熱心だと聞き及んでいたのだが──残念だ。きみの上司にも報告しておこう。追って社内規定に則り、ペナルティが科せられるだろうからそのつもりで」
「待ってください、社長!」
佐々木はその場に崩れ落ちるように膝をつき、木崎の足に縋りついた。今にも泣き出しそうな表情で見上げながら、必死に訴える。
「ど、どうかクビだけは……! わ、私は新規事業のプロジェクトチームに入ったばかりで、これからって時なんです!」
形振り構わず懇願する佐々木は、傍目にもかなり醜悪だった。社長の靴を舐める勢いで平伏している。一方、己に縋る男を値踏みするように眺めていた木崎は、やがて口もとを歪めて嘲笑を浮かべた。
「……場合によっては、私の胸に収めて見なかったことにしてもいい」
「じ、じゃあ……っ」
「彼女を置いて、今すぐにこの場を立ち去れ。意味は──解るな?」
木崎の言葉を聞いた佐々木は、一瞬目を見開いた。しかしごく短い沈黙のあと、「承知しました」と告げると、綾音を一顧だにすることなく足早に階段を駆け降りていく。
微塵もためらいのない恋人の足取りを呆然と見ていた綾音は、わけもわからずその場に立ち尽くす。
──どういうこと……?
突然の事態に、思考が上手く働かない。

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