オパール文庫 極甘アンソロジー3
シンデレラママ!

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- 本販売日:
- 2018/08/03
- 電子書籍販売日:
- 2018/08/03
- ISBN:
- 978-4-8296-8348-4
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家族になっても、止まらないラブ!
シンデレラの幸せは終わらない……▼
素敵すぎるダーリンに結婚後もラブラブ胸キュンさせられて――☆
至極の愛されアンソロジー!
(掲載順)
『妻の愛が100%赤子に向かってしまって、夫が暴走しそうです。』佐木ささめ
『子育てママも時には甘く愛されたい』伽月るーこ
『恋する夫婦のしあわせ食卓』山内 詠
『エリート夫は欲しがりな新妻を淫らに啼かせる』砂月砂都子

宗方怜一(むなかた れいいち)
大手医療機器メーカーの御曹司。子育て中の 妻を溺愛しているが、ある不満が……。

古閑拓海(こが たくみ)
弁護士。正義感が強く、仕事熱心。それが 災いして(?)家事を手伝う暇がない!?

豊岡健司(とよおかけんじ)
有名菓子メーカーの御曹司。仕事と家事 の両立で悩む妻を気遣うけれど……。

古屋敷正臣(ふるやしきまさおみ)
次期院長候補のエリート外科医。意外に 嫉妬深く、一度火がつくと……。
家政婦兼シッターも帰宅し、赤子も寝入っている今、二人きりでの静かな語らいを喜ぶ菫は、夫の肩へ頭を寄せて甘える。
人生の幸福とは、このような日常の一瞬の積み重ねなのだろう。
でもSNSの自分と同じような新米ママの呟きで、夫の帰宅が遅くて夫婦仲が険悪になったとか、育児に協力しない夫への不満を嘆いたりする意見をしょっちゅう見かける。
だから自分はとても恵まれているのだ。
そのことを実感するたびに心から伴侶を大切にしたいと思う。……思うからこそ、彼の男性としての気持ちを慰めてあげたいと考えているのだが。
不意に、ウィスキーを味わっている夫の唇が額に触れた。ゆっくりと下りてくる柔らかな皮膚と共に、アイラモルトの特徴的なピート香が近づく。独特の香りが官能の気配を纏って唇を目指す。
そっと目線を上げると、睫毛が触れ合いそうな至近距離に彼の綺麗な目があった。
夫は欧州の血が入っているらしく、日本人より色素が薄めで瞳は茶金がかっている。肌は白く、北国生まれの菫とほぼ同じレベルなので、実家へ結婚の挨拶へ行ったとき、同郷の出身なのかと訊かれたほどだ。
日本人寄りの容貌ではあるが、鼻は高く彫りの深い顔立ちで、東洋と西洋のいいとこどりといった印象がある。
その美しい瞳を見つめたまま唇が触れ合った。
ペロリと下唇を舐められて、『中に入りたい』との意思表示をされる。目を開いたまま隙間を広げて迎え入れると、熱くて厚い舌がこちらの歯列をなぞってから奥を目指す。
ピート香が口内で膨らみ、その酒精に心拍数が跳ね上がる。
「ん……」
合わさった唇の合間から菫の艶声が漏れると、夫の綺麗な瞳が猫の目のように細められた。グラスを持っていたはずの彼の手はいつの間にかうなじに回され、もう片方の手がおとがいを優しくつかむ。
頭部の前後を固定されて逃げようがなく、彼の嬉しそうな瞳を見つめながら隅々まで嬲られた。
「ぁふ、ん……、んっ、んぅ……っ」
自分より大きな舌が、こちらの舌の付け根を突くと腰が揺れる。ぴりぴりする。
ねっとりと執拗で容赦ない舌の愛撫は体の芯を溶かしてしまうようで、思わず夫の胸に縋りついて目を閉じた。
菫の視界が塞がれた途端、彼の舌の動きが激しくなる。
柔らかな蹂躙が口内を席巻して、夫に犯されていない粘膜など残っていなかった。もとより自分の体は隅々まで彼に支配されている。彼の指と唇と舌にすべてを暴かれている。それこそ腹の奥まで。
──気持ちいい……怜一さんのキスは、すごく、気持ちいい……
くちゅくちゅと体液をかき混ぜる卑猥な音を響かせながら、夢中で互いの舌を絡ませ続ける。
ままならない呼吸に息苦しさを感じ始めたとき、そっと菫の体がソファに横たえられた。
見上げると秀麗な容姿に性の滾りを漲らせた怜一が、痛いと感じるほどの強い眼差しを向けてくる。
綺麗な瞳に滲む獣欲は菫を狩る意欲に燃えており、美しい彼の姿と合わせてネコ科の肉食獣を思わせた。狼やコヨーテのようなイヌ科ではなく、しなやかな筋肉を持つ体の線が美麗なヒョウやチーターのような。
ふと、女豹という言葉の男版として、男豹なんて造語が脳裏に浮かんだ。妖艶な彼ならばふさわしい言葉だと思う。
……ただ、自分はそれほど欲情していなかったりする。
菫は出産してから性欲が消え失せていた。おかげで産後三ヶ月が経過しているのにセックスは再開していない。自分としては心地いいキスと夫からのねぎらいで、十分満足している。
しかし男性の方はそうもいかないだろう。出産前の夫婦生活を控えた期間も合わせると、彼はすでに半年も禁欲をしているのだから。
──やっぱり男の人はつらいよね……私も怜一さんとのセックスは結構好きだったんだけど、今はなんとなく乗り気にならないというか……
悶々としているうちに夫の唇が首筋に落ちてくる。肌をくすぐる熱い吐息で彼の発情を感じ取り、拒絶するほど嫌なわけではない菫は大人しく全身から力を抜く。
そのとき。
「ぷぎゃああぁっ」
カッ! と目を見開いた菫は遠慮なく夫を押しのけて素早く立ち上がり、夫婦の触れ合いの余韻など微塵も感じさせない様子で、足早に寝室へ向かった。……狙った獲物を取り逃がし、切り替えの早さに付いていけず、呆然としたままの夫を残して。
「はいはい、ママですよー。起きちゃいましたねー」
いつもはシッターに任せきりなので、母親らしいことができる夜の時間が実は嫌いではない。派手にぐずる赤ん坊に笑顔を見せて、授乳とオムツ替えをこなしていく。
時間がかかる寝かしつけも苦にならなかった。細切れの睡眠しか取れないが、シッターが来る日中に休めるため構わない。
順調に大きくなっている赤ん坊を腕に抱いて、寝室の中をぐるぐると動き回っては、子守唄を歌って赤子の眠りを誘う。と、その際に夫を放り出してきたことをようやく思い出した。
先に休んでもらおうとリビングへ顔を出せば、彼は頭を抱えて上半身をグニャグニャとくねらせている。蛇のように。
「怜一さん。何やってるの?」
すると奇妙な動きを止めた夫は、すっくと立ち上がって爽やかなイケメンスマイルを見せた。
「いや、なんでも? それより龍一は眠ったか?」
「ううん。寝つくまで長いから、先に休んでいてね」
「……ああ」
おやすみなさい、と告げた菫は彼の安眠の邪魔をしないよう、客間となっている空いた部屋の中をぐるぐると回り続ける。
その扉の向こう側で、夫君がフローリングの床に正座して深くうなだれつつ、やるせない表情をして哀しんでいることにはまったく気づかなかった。
(『妻の愛が100%赤子に向かってしまって、夫が暴走しそうです。』佐木ささめ より)

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