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オパール文庫6周年スペシャルアンソロジー シンデレラエロス

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書籍紹介

超一流な男たちにゴージャスに愛されて

世界的大富豪との危険な恋、
大企業の御曹司とカリブ海での孕ませリゾート、
超一流アーティストが見つけた真実の愛……。
濃厚エロスが詰まった極上&極甘なセレブリティラブ!

(掲載順)
『願わくば、あなたとどこか遠くへ』石田累 
『君よ知るや南の島』シヲニエッタ 
『三日間だけのシンデレラ』宇奈月香
『エリート国際弁護士の奥様は愛されすぎてたいへんです!!』蘇我空木
『スイートルームのシンデレラ』吉桜美貴
『過保護な元彼に甘く捕獲されました』りりす

登場人物紹介

劉暁(リュウシャオ)

中国タイヤングループの御曹司。自身も投資家で、年間百億を稼ぐスーパーセレブ。

久世貴臣(くぜたかおみ)

大企業の御曹司。誰もが羨む美貌と財力を兼ね備える。妻の結花を一途に愛している。

武蔵恒星(たけくらこうせい)

KOUSEIの名で活躍。世界が注目する一流アーティスト。とある舞台公演にふらりと現れ……。

レイモンド・エルフィンストーン

イギリス法曹界の貴公子。最愛の沓子と結婚して幸せいっぱい。

ヴィンセント・ロックウェル

ロックウェル財閥の御曹司。映像クリエイター。ブロンドに碧眼で心がときめくようなイケメン。

白井直哉(しらいなおや)

早苗の元彼。久しぶりに会った彼は上質なスーツを着こなし……?

立ち読み

「藤堂巡査部長、僕らが初めて会った時の話をしても?」
「すみません。今、そんな呑気なことしてる場合です?」
 藤堂玲奈は、汗まみれの首をねじ曲げて、背後にいる男を睨みつけた。
 ふーっと息を吐いて、男は片腕を首の後ろに回すと、ごろんとベッドに仰向けになる。
「そうカリカリしなくても。焦ったところで事態が劇的に良くなるわけじゃなし」
「あのですね。今焦らなくて、一体いつ焦れって言うんですか!」
 噛みつくように言って、玲奈は後ろ手に拘束された両腕に力を込めた。
 拉致された挙げ句、見知らぬ部屋に監禁されている。はっきり言って、軽口など叩く余裕もないほど深刻な事態であり、人生最大のピンチである。
 なのに、共に捕らわれた男のこの落ち着きぶりはどうだろう。何不自由なく育てられた人だけに、今もお付きの人たちが都合良く助けに来るとでも思っているのだろうか。
 血管が切れそうなほど力を込めても、両手首の手枷はびくともしない。それは革製で、その連結部分から分岐した鎖が、男が寝そべるベッドの脚に巻き付けられている。
 この部屋──ベッドだけが置かれた十畳程度の部屋で、目が覚めてからかれこれ十分以上は経っただろうか。ただし、移動中の車内で注射を打たれて意識がなくなったから、誘拐時から起算した時間までは分からない。
 相手は複数人の成年男性で、拉致現場となったホテルのベルマンの制服を着ていた。車内で耳にした言葉は中国語。うつろな意識の中で、玲奈が確認できたのはそれだけだ。
 意識を取り戻した玲奈は、まず手枷を壊そうとあがき、それが無理だと分かった後は、ベッドを持ち上げ、脚から鎖を引き抜こうとした。
 床とベッドフレームのわずかな隙間に膝を入れて、ベッドを床から浮かそうとしたのだ。しかしそれも──警察官として日々過酷な訓練を受けているとはいえ──玲奈の体力では到底無理な話だった。
 なにしろベッドは鉄製のキングサイズ。その上に、身長百八十九センチの大男が乗っかっているのである。
 男は、何も意地悪でベッドから動かないのではない。男もまた片腕に鉄の手錠を掛けられていて、その片輪が、ヘッドボード中央の飾柱に繋がれているのだ。
「水を差すようで恐縮だが、今は体力を温存させた方が利口じゃないかな」
 なおもベッドを膝で押し上げようとする玲奈を、男は気の毒そうな目で見下ろした。
「ゆ、悠長に言ってる場合ですか。劉さん、私たち、殺されるかもしれないんですよ」
 懸命にベッドを押し上げようとした玲奈だったが、やがて力尽きてマットにもたれかかり、唐草模様の装飾が施された天井を見上げた。
 ──だめだ、もう身体に力が入らない。
 室内はほどよい温度に保たれているが、玲奈の額には脂汗が滲み、ブラウスとパンツに包まれた全身は汗まみれだった。手首は手枷の摩擦でひりひりと痛み、てこ代わりにし続けた膝は、もはや痛みを超えて火がついたように熱い。
 ──どうしよう。これから一体どうしたらいいんだろう。
 何もかも私のせいだ。私が付いていながら、劉さんをこんな目に遭わせてしまった。どうしたらいいんだろう。もしこれで劉暁が本当に殺されてしまったら──

 藤堂玲奈は、警視庁警備部警護課に所属する警察官である。通称SPと呼ばれる要人警護専従員だ。
 二十七歳で役職は巡査部長。警視庁生活安全部を経て、昨年四月に現職に異動になった。ノンキャリアの女性警察官としては、順調すぎるほど順調な経歴である。
 庁内での玲奈の通り名は「警察の申し子」。それは家族全員が警察官──しかも全員が国家一種試験を経たエリートだからだ。
 父は警視庁刑事部長で、母は警察庁長官官房総務課長。七歳年上の兄は公安部外事課。肩書きを聞いただけで、警察関係者なら無条件で敬礼してしまう面子である。
 いわば警察官のサラブレッドとして生まれた玲奈は、しかし家族の期待を裏切る形で、一般採用で警察官になった。現場で犯人逮捕に携わりたいというのが表向きの動機だが、本当の理由は他にある。
 家族の失望は大きかったが、それも、玲奈が現職──SPに任命されると一転した。
 要人警護とは、文字通り、国内外の政治家や駐日大使など、政府要人を警護する仕事である。
 その任につくSPは、警察官の中でも特に優れた素質を備えた者しか任命されない狭き門だ。逮捕術、格闘術、射撃技能はもちろん、英会話、接遇マナー、運転テクニック、また、二十四時間いかなる状況であっても任務を遂行する必要があるため、強靱な体力と精神力が必要とされる。
 そしてなにより、職務への崇高な忠誠心──いざとなれば、盾となって要人のために殉職する覚悟が求められるのだ。
 当然ながらSPにおける女性の割合は低く、現職では玲奈を含めて二人しかいない。女性を配置しているのは、警備対象が女性であることもままあるからだ。
 SP試験を受けたのは上司の推薦があったからで、決して玲奈自ら望んだ職ではなかったが、幼い頃から警察官マインドを叩き込まれていた玲奈に、SPは適職だった。両親に厳しく育てられてきたから、英会話はもちろん接遇マナーも満点評価。射撃は警察学校時代から得意だったし、実質、総合点ではトップの成績で通過した。
 加えて玲奈は──本人にとってはどうでもいい要素だが──外国要人が連れて歩きたいと思うような、繊細で可憐な容姿を持っていた。
 小さな瓜実顔に、黒目がちの凜々しい瞳。鼻は西洋人形のように繊細で、柔らかそうな唇は淡い桜色に色づいている。
 整ったパーツを持ちながらも美人特有のきつい印象がないのは、唇の形の優しさに加えて、輪郭に柔らかな丸みを有しているからだろう。それと肌──それは朧がかった乳白色で、花霞のような淡い桃色が頬を優しく彩っている。
 黒のパンツスーツに包まれた手足は長く、鍛え抜かれた肉体は引き締まりながらも、二十七歳の女性らしい曲線美を描いている。SPの規則で長い髪はきっちりと一つに束ねているが、それを解けばより優美な印象になるに違いない──と、誰もが思わずにいられないほど、禁欲的な色気を持ち合わせていた。
 とはいえ、この年まで玲奈は異性と付き合った経験がない。
 学生時代は、とにかく男の方が寄り付かなかった。柔道部では〈熊殺しの藤堂〉、酒に強いことから〈うわばみの玲奈〉などと異名をとっていたから無理もないが、警察官になってからは、エリートすぎる家族の存在が仇となっていたようだ。
 たまに両親の縁故を期待しての見合い話が来ることもあったが、玲奈は目もくれなかった。結婚も恋愛も、これまでの人生で必要だと思ったことは一度もない。それは、玲奈の生い立ちが醸成した性格でもあるが、心から惹かれる男性に出会ったことがないせいでもある。
 しかし、そんな玲奈が恋に落ちた。人生で初めての、燃えるような恋に落ちた。
 その相手が、中国タイヤングループの御曹司、劉暁だったのである。

 劉暁は二十九歳。母国中国では〈国民の夫〉と呼ばれるスーパーセレブだ。
〈国民の夫〉といっても既婚者ではなく、彼と結婚したら生涯暮らしに困らないといった理由からつけられた愛称だという。
 父親は中国一の資産家で、タイヤングループを起業した劉浩然。世界中に不動産を持ち、銀行、半導体などの電子機器メーカーや石油関連会社など、中国国内に幾つもの巨大企業を所有している。所有資産では世界の十指に入る、掛け値なしの大富豪だ。
 劉暁はその一人息子で、将来父親の財産を相続するのはもちろんのこと、彼自身も優れた投資家として知られている。二十五歳で投資会社を設立した後は、みるみるその資産を増やし、今では年間百億を稼ぐ有名な青年実業家だ。
 それだけとってみても、十分すぎるほどの運と才能に恵まれた劉暁だが、加えて天は、類まれなる美貌さえも彼に与えた。
 モデルだったという母親の遺伝だろうが、劉暁は、女性なら誰でも見とれずにはいられないほど美しい男だった。百八十九センチの引き締まった長身に、妖艶──なのに清潔感のある切れ長の双眸。彫像のように整った鼻と、男らしいセクシャルな唇。
 ある種完璧な対象美を描く相貌に、それでも中国国民が〈国民の夫〉と呼ぶほど親しみを抱くのは、実際に彼が親しみやすい人柄で、常に上機嫌そうな微笑みを絶やさないからだ。
 真顔の時でも口角の上がっている唇は、まるで人生で起こること全てを楽しんでいるかのようである。美麗にして艶めかしい双眸は、時に無邪気な少年のようにきらきらと輝き、楽しい出来事に面した時は、惜しげもなく端正な顔を破顔させて爆笑する。たとえそれが表面上の芝居であっても、これほどの好人物が人気を集めないわけがない。
 芸能界がガラパゴス化している日本に比較対象はいないが、さながら中国ではハリウッドスターのような存在だろう。
 彼の一挙手一投足がネットニュースの話題になり、ファッション雑誌には必ず彼の特集が組まれる。インスタグラムのフォロワーは四百七十万人。そこにはビバリーヒルズの別荘に並ぶ数種類のスーパーカーや、ホテルやメッセ会場を貸し切って行われたプライベートパーティーの様子が、燦然と輝く宝石やブランド品などと一緒に陳列されている。彼が、嫉妬する意味すらないほど桁外れの資産家であることや、金持ちの友人はやはり金持ちなのだという、残酷かつ明快な現実がそこにはある。
 当然のごとく、そんな劉暁の浮名は世界中で飛び交っており、女優、モデル、美人スポーツ選手、大富豪の令嬢等々、彼と交際中だと報道された女性は数知れない。ちなみに彼は日本通としても知られているが、日本人で彼と噂になった女性は一人もいない。
 後に親しくなってから理由を聞くと「日本人が僕の恋人になるのを、家族はあまり喜ばない」と肩をすくめて答えてくれた。そして君は? と笑いを含んだ目で玲奈を見上げた。
 君のご家族は、中国人が恋人になるのを喜んでくれるのか?
「藤堂巡査部長、今、少し話をしても?」
 束の間、過去を彷徨っていた玲奈の頭に、劉暁の柔らかな声が響いてきた。
「巡査部長」の発音が「ジュンサー・ブ・チョウ」になっている。今のように時折アクセントこそおかしくなるが、劉暁の日本語は完璧だ。たまにネットスラングを交ぜてくることもあるから、日本通だというのは本当の話なのだろう。
「なんですか。──てゆうか、もういちいち役職を付けなくていいですから」
「ん? それは藤堂ジュンサー・ブ・チョウの提案では? 別れた以上、馴れ馴れしく名前で呼ばれては困ると言ったのは、確か藤堂ジュンサー・ブ・チョウの方だ」
「……分かりました。なんでもいいので、呼びやすい方で呼んでください」
 いらっとする気持ちをのみ込んで、玲奈は努めて冷静に答えた。
 全く──どうしてこの人は、今みたいな状況でも腹が立つほどマイペースなんだろう。別れる、別れないで揉めていた時もそうだった。私は必死だったけど、この人はいつも落ち着いていて、どこまでも──悲しくなるくらい前向きだった。
「ただ、もう昔話を蒸し返すのはやめてください。私たち、あれだけ話し合って、お互い納得して、今日別れたんじゃないですか」
「……僕は納得したわけじゃない。しなければいけないと自分に言い聞かせはしたが」
 しばし動けなくなった玲奈の背後で、劉暁が起き上がる気配がした。
「まぁいい。君の言うように終わった話を蒸し返すのはやめにしよう。なにしろ僕らには、十分後の命の保証すらないんだからね」
「劉さん、お言葉を返すようですが、日本の警察は優秀です。今もきっと近くにいて、私たちを助け出す算段を立てているはずですから」
 咄嗟に言ったが、それは、あまり根拠のない励ましだった。
 むろん、劉暁が拉致されたと通報を受けた時点から、警察は総力を挙げて捜索を始めているだろう。彼ほどの大物に何かあれば、それはもう一外国人の問題ではない、日中の国際問題に発展しかねない騒ぎになるからだ。
 ただし、いくら警察といえども万能ではない。拉致されたホテルや各施設の防犯カメラ、オービスなど、あらゆる社会の目を分析して、いずれこの場所を突き止めることだけは間違いないが、それが数時間以内である可能性は限りなく低い。警察という組織が持つ能力の高さと限界を知っているからこそ、玲奈にはそれがよく分かる。
 目下の問題は、その時まで二人が無事でいられるかだ。
「では玲奈、最初の質問に戻るが、僕らが初めて出会った時に交わした会話を覚えているか?」
「……会話、ですか?」
 眉を寄せた玲奈は、手錠をガチャガチャいわせながら首をかしげた。
 初めて会った時のことは覚えているが、会話──? あの時は大勢の人がいて、二人きりで何かを話した記憶はない。
「自分の愛する人があとわずかな命だとしたら、何をしたい?」
 答えを言われ、思い出した玲奈は脱力した。
 誘拐された者同士が、励まし合うために話をするのは悪いことではない。でも、どうしてそんな不吉な話題をチョイスする?
「……劉さん。もう少し前向きな話をしませんか。たとえば私たちを拉致した連中のことですけど、本当に心当たりはありませんか?」
「最初にも言ったが、心当たりは多すぎて絞りきれない。手がかりになりそうなことは本当に何も覚えていないんだ。すぐに目隠しをされて、有無を言わさずに車に押し込められたからね」
 ホテルの駐車場。あの時、劉家の私設ボディガードの目を逃れたのが全ての過ちだった。
 今夜、玲奈は仕事ではなくプライベートで劉暁と会ったのだ。彼の来日はお忍びだったが、常に誘拐の危険にさらされている劉暁は、非公式な場に行く時であっても、複数の私設ボディガードを連れ歩いている。特に子墨と呼ばれる若いボディガードが優秀で、玲奈とも毎度顔を合わせているが、身のこなしといい目配りといい、SPの生きた教本のような男である。
 しかし今日、劉暁は意図的に子墨の目を逃れて、玲奈と二人になろうとした。そして不本意ながらも、玲奈も彼の策略を黙認した。──これが二人にとって、最後になると分かっていたからだ。今夜、二人は別れるために最後の話し合いの場を持ったのである。
 けれどそれが、取り返しのつかないミスとなった。
 いくら公務外の出来事とはいえ、これは日本警察にとっても前代未聞の大失態だ。要人警護のスペシャリストが、国際的な重要人物と私的に会っていた上、拉致された。たとえ生きてここを出られたとしても、玲奈の警察官としてのキャリアは終わったに等しい。
 しかし今は、そんなことはどうでもよかった。なによりも劉暁を助けたい。今がどういう状況かは分からないが、拉致グループがいないこの奇跡のような時間を、できる限り有効に使いたい。
「じゃあこの部屋に見覚えは? 私の姿勢では全景が一瞥できないんですが、窓がないところを見ると地下室でしょうか」
「そうだろうね。扉は二つあるが、頑丈そうな鉄扉が出入り口で、右側の木製扉は隣室に続いているんだろう。人のいる気配がないから、トイレか浴室かもしれないが」
 そこで言葉を切った劉暁が、室内をぐるりと見回すのが分かった。
「部屋には空調と寝台が一つだけ。テレビもないところを見るに監禁部屋のようだが、その用途で造られたものなら、地上からは発見されにくい構造になっているはずだ」
 冷静に分析する劉暁を尻目に、玲奈は自分の顔があからさまに曇っていくのを感じた。その推測が当たりなら、発見してもらえる確率は絶望的に低くなる。
「──僕の勘で恐縮だが、おそらくはプロの仕業だよ。麻酔薬かな、暴れる君を押さえつけて注射する手際も鮮やかだった。今さら聞くまでもない気もするが、気分は?」
「大丈夫です。頭も身体もすっきりしています」
 本当は多少頭が重たいが、そこはあえて強がりを言った。
 ただ、それほど害のあるものではないだろう。もし違法薬物の類であれば、覚めた時の気分の悪さは格別だと聞いたことがある。
「ちなみに僕は財布と携帯はもちろん、時計や指輪までなくなっている。君は?」
「時計と警察手帳、……それからハンドバッグがありませんね」
 努めて冷静に答えながら、玲奈は自分の胸元に目をやった。襟の詰まったデザインだから目立たないが、ボタンが二つ千切れてなくなっている。あまり考えないようにしていたが、ブラジャーの位置も多少ずれているようだ。
 意識を失っている間に起きたことを思うと恐ろしさに身がすくみそうになる。しかしその感情は、警察官として絶対に表に出してはならない。
「とにかく劉さん、手錠が外れるかどうか、諦めずに試してみてください。触った感じ、玩具を少しまともにしたような感じで、それほど頑丈ではなさそうなんです」
「やっているよ。──それより、気晴らしにさっきの話の続きをしないか? もし君が、あの時と同じ質問を今されたら、どう答える?」
 自分の愛する人があとわずかな命だとしたら、何をしたい?
 小さなため息をついた玲奈は、反論をのみ込み、今は劉暁の希望通りにしようと思い直した。こういう時こそ落ち着いて、冷静でいなければならないからだ。
「答えはあの時と同じです。最後の一秒まで、その人を救う方法を模索します」
「相変わらず可愛げがないね。しかもその答えは、万人に当てはまるんじゃないか?」
 金具がヘッドボードを叩くやや強めの音と共に、ギシッとスプリングが微かに軋む。劉暁が手錠外しを諦め、再びベッドに身を沈めたのだと分かった玲奈は、ぎりぎりで不満の声をのみ込んだ。
「じゃあ質問を少し変えよう。君にはどうにもならない状況で、僕の命があと十分だとしたら?」
「申し訳ありませんが、こんな状況で仮定の質問には答えられません」
「それでも答えて欲しいんだ。君と僕の残り時間が十分だとして、その時君は、僕が望むことを叶えてくれるだろうか」
 うつむいた玲奈は唇を噛み締めた。それでも答えは、出会った一年前と変わらない。
「……すみません。どこまでいっても、私に劉さんが期待する答えはできません」
「そのようだね。でも僕は、君が望むことを全力で叶えたいと思うよ」
 玲奈もまた思い出していた。それが一年前に聞いた劉暁の答えだ。僕なら、その人の願いを全力で叶えるよ。たとえそれが、世界を滅ぼすものであっても。
 ある意味玲奈より現実味のない回答をした彼は、今、同じ質問をされたらどう答えるだろうか。そう思った時、背後からふわりと抱き締められた。
「──っ?」
 悪い夢でも見ているような思いで振り返ると、にこっと笑った劉暁の顔が間近にある。
「だっ……」
「欺してはいない。話している間に手錠が外れたんだ」
 彼はそう言うと、玲奈の頬に軽く唇を当てた。

(『願わくば、あなたとどこか遠くへ』石田 累 より)

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