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偽父

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書籍紹介

おまえは誰にもやらん。俺がもらう

元極道の辣腕社長・大地と父娘同然に暮らしていた心花。日増しに募る恋心を抑え切れず、想いを伝えようとすると言葉を遮るようにキスされて!? 「好きだ。もう絶対に手放さない」胸を揉まれ頂を吸われると甘い痺れが走る。雄の滾りで貫かれれば激しい快感に襲われ――。「俺んとこに嫁に来い」ぶっきらぼうだけれど情熱的なプロポーズに幸せの涙が溢れる超年の差溺愛!

ジャンル:
現代
キャラ属性:
紳士・おじさま
シチュエーション:
年の差 | 甘々・溺愛
登場人物紹介

鎌倉大地(かまくらだいち)

47歳の元極道。現在は複数の企業を経営している社長。普段は柔らかい口調だが、怒ると博多弁が出ることも。

北見心花(きたみこころ)

母子家庭で育つ。いまわの際に母親が残した言葉と一枚の写真から、大地が自分の父親だと思い彼の元を訪ねる。

立ち読み

 その人は、いつも手を差し出してくれる。
「おいで」
 たった三音。
 ただそれだけで、胸が痛くて泣きたくなる。幸せすぎて胸が痛い。
 それは、魔法の言葉だった。
 胸の深いところに凝っていた寂しさが、あたたかな熱に蕩けて体の内側を滴る。
 その温度が恋しくて、わたしは彼が手を差し出してくれるのを待っていた。
 ──違う。それだけじゃない。
 手のひらを天に向け、軽く指先を曲げてわたしを待つ大きな手。
 その手に自分の手をあずけたとき、彼が満足げに目を細めるのが好きだった。
 目尻をかすかに緩ませ、口角を上げた表情は年齢相応であると同時にどこか少年性も感じさせる。
 ──ああ、違う。それだけでもない。
 思い出す、あの優しい声。
 男性にしては少し高くて、どこかせつなさを覚える情感にあふれた、あの人の声。
 初めて会った日も、怯えて泣いた夜も、優しく触れられるときも、いつだって彼の声に心が震えるのだ。
 ゆっくりと水面に浮上するように、意識がはっきりしていく。彼は、きっと待っている。
「おいで」
 また、あの声を聞かせてくれるだろうか。
 また、あの人は微笑んでくれるだろうか。
「……大地、さ……ん……」
 わたしの世界は、もうずっと長い間、彼で満たされていた。

 

 

 

 母が亡くなったのは、二年前の元旦のことだった。
 北見心花の母、北見雪は名前から連想するとおり、色白でいつでも冬のような外見の女性だった。一見するとおとなしそうな和顔の美女。しかし、口を開けばそのイメージとは程遠く、気は強いし奔放で自由気まま、それでいて人情家なところがあるお人好しだった。
 心花が生まれる前は公務員だったと本人は言っていたものの、それが事実かどうかはわからない。心花の知る母は、八王子にあるスナック『雪』のママだ。その店の二階で、母と心花は暮らしていた。
 心花は父親を知らない。二十歳になっても、父と会ったことがなかった。
 母は未婚のまま、二十一歳で心花を出産した。
 祖父母は心花が生まれたときにはすでに他界しており、母はひとりっ子だったため、ほかに親戚らしい親戚も知らない。
 子どものころは、お年玉やクリスマスプレゼントをくれる祖父母に憧れたけれど、父に会いたいとは言わなかった。いや、言えなかった。
 母は、酔って帰ってくると、真冬でもリビングのカーテンを開けた。
 そのたび、窓ガラスにひたいをつけて言うのだ。
「ねえ、心花。あんたの名前はね、お父さんがつけてくれたんだよ。どんなときでも、心に花を咲かせて生きていけるようにってね」
 そう言う母の横顔は、心花の知る母親とは違って見えたのを今でも覚えている。母には、いくつもの顔があった。心花の母親としての顔、店のママとしての顔、そして心花の知らない北見雪という女性の顔だろう。
「だから、心花はあたしの大事なお花なの。きれいに咲いて、幸せになってもらわなくちゃ。そのためならあたし、どんな嫌な客にだって笑ってみせるからさ」
 年齢より若く見える人だった。色の白いは七難隠すというのはほんとうだと、母を見ていて何度も思った。二日酔いで青ざめた朝でさえ、母は美しかった。
 男性相手に酒を振る舞うという現実的な仕事をしていても、母の心には遠い昔に恋した男が住んでいる。だから、母はいつまでも年老いることがないのだと、心花はそう思っていた。
 けれど、誰も死から逃げることはできない。
 この世に平等はないと言うが、必ず訪れる死だけが平等だと心花は思う。
 四十一歳の元旦に、母は病院のベッドの上で息を引き取った。入院してからわずか二カ月の短い闘病生活は、残った時間を引きちぎられるように終わりを迎えた。
 病気が発覚した時点で、すでに余命を告げられるほどの病状だったため、心花は働いていた家事代行サービスの契約更新を断った。
 登録制のハウスキーパー業は、なんの保障もない。個人事業主として案件ごとに受託し、勤務先に赴く。健康保険は国民健康保険だし、福利厚生も受けられない。
 それでも心花にとっては大事な収入源だったが、母に残された時間の少なさを知って、一秒でも長くそばにいたいと思った。
 二十年間、たったふたりで生きてきたのだ。
 どちらかというと、あまりべったりした親子ではなかったと思う。それでも、いつも背中に母を感じていた。正面から抱き合うのではなく、背中を合わせてお互いの道を見据える、そんな関係だった。
 高校を卒業したあと、調理師専門スクールに通うためのお金を準備すべく仕事を始めた心花と、いつか心花の店の最初の客になると笑っていた母。
 将来は小さなビストロを開きたい。そこに母を招待したい。きっと母は、少し酔いすぎるくらいにお酒を飲むだろう。酔ったら、また心花の名前の由来を話してくれるかもしれない。何度も何度も繰り返し聞いたあの言葉を、また聞くのかもしれない。そんなふうに想像していた未来は、考える時間さえ残されずに奪われていく。
 幸いにして、調理師専門スクールへ通うために貯金していたから、お金にはしばらく困らない。学校にはいつだって通えるけれど、母と過ごす時間は限られている。心花は躊躇なく貯金をくずし、毎日病院に通った。
 クリスマスには、心花の作ったケーキを病室で一緒に食べて、年の瀬が近づくと母は慣れない編み物を始めた。あまり器用な人ではない。なのに、突然編み物だなんてどうしたのだろうと思った。
 そして、大晦日。
 クリスマス前から続いていた咳は、肺炎に変わった。
 医師から唐突に、余命宣告よりずっと短い終わりの始まりを告げられる。
 まだ時間は残されていると思っていた。短いと知っていても、それが今日明日で終わるものだとは考えてもいなかったのに。
 心花は、母のスマホから常連客のグループトークにメッセージを送った。湿っぽいのが嫌いな母をよくわかっている、長いつきあいの客たちだ。十二月三十一日だというのに、七人が「すぐに行く」と返事をくれて、それから二時間と経たずに病室には入れ代わり立ち代わり見舞客がやってきた。
 メッセージを送ってから、最初のひとりが来るまでの間に、母が小さな声で心花の名前を呼んだ。
「どうしたの? お水、飲む?」
 吸い飲みを手に取ると、母は違うと首を横に振る。
「ここ、ろ……、あんたの、おとうさ……のこと……」
 母は、自身の病状を知っていた。だから、終わりが近づいてきたこのときに、父の話題を選んだのだと心花にもわかる。だが、頭ではわかっていても、心がそれを拒絶していた。
「そんなの、元気になってから教えてくれればいいよ。無理に話すと苦しいでしょ」
 ふいっと顔をそむけた心花の左手を、母が強く握った。細い指のどこにそんな力があるのかと思うくらい、そのときの母はとても力強かった。
「お母さん」
「ちゃんと、聞いておかな……と、もう、聞けなくなっ……」
 酸素マスクを勝手にはずし、母が目を細める。その笑顔は、これまで二十年、何度も見てきた。大好きな母の笑顔だ。
 そのとき初めて、心花は思った。
 ──この人は、死んでしまう。もう奇跡は起きない。わたしは、お母さんに会えなくなる。
 事実として知っていることと、納得して理解することは必ずしも同じではない。
 心花にとって、母が病気で今夜が峠だという事実を認識していることと、ほんとうに母がいなくなってしまうと理解することが同じではないように、現実と感情は少しずれて連動している。
「……お、財布、の……」
「お財布? これ?」
 母の愛用していた黒い長財布は、ぱっと見てわかるイタリアのハイブランド製だ。数年前、誕生日に店の常連客たちが贈ってくれたものだと聞いている。それを手に取った心花を見て、母が苦しそうに咽る。
「お母さん、だいじょうぶ? 無理しないで」
「いい……っ、その、中に……」
 言われるまま、心花はファスナーを開けて内側にあるカードスロットから名刺サイズのインスタント写真を取り出した。
 こんなに小さいサイズのインスタント写真は、見たことがない。そういえば、母の高校時代の手帳にはかなり小さなサイズのプリントシールが張られていた。ゲームセンターにあるプリントシール機だと言っていたけれど、昔のものは小さいのだろうか。だとしたら、このインスタント写真も──
「これ……?」
 だが、問題は写真のサイズではなく写っている人間だった。
 縦長の名刺サイズのインスタント写真には、男性ふたりに挟まれて若かりし母が写っている。ミニスカートにロングブーツ、細い弓なりの眉が時代を感じさせた。
 右側に立つ男性は顔を黒く塗られていたが、いかにも高級そうなスーツを着ている。左側の男性は少し顎を引いて笑っていた。顔が隠れ気味になっていてもわかるほど、細面の美しい男性だ。黒髪にスーツ姿でどこか中性的な魅力がある。
 ──え、すごくキレイな男の人。もしかして、この人がわたしのお父さん!?
 どこか線の細い、少年のような雰囲気のあるその男性に、心花は目を奪われた。
 これまで、この世界のどこかに自分の父がいる、もしくはいた、という事実は知っていたが、その人物がどんな顔をしているか、考えたことがなかった。考えたところで、父が自分に会いに来ていないというのが現実だと思っていたのだ。
「ずいぶん、見惚れて……心花、面食い、だっ……たの、ね」
「あっ、もう、何、起き上がろうとしてるの。お母さん、ちゃんと横になって!」
 もしかしたら父かもしれない人物に見惚れていたのを指摘され、心花は恥ずかしさに母の肩をベッドに戻す。そのとき、母の肩があまりに薄くて背筋がぞっとした。
 幼いころ、心花を抱き上げてくれた母の腕は、細いながらも生命力にあふれていた。だが、今はどうだ。母の体は病魔に蝕まれ、今にも折れてしまいそうなほどに頼りなくか細い。
「うしろ……に、名前……」
 裏返してみると、銀色のペンで名前らしき文字が書かれている。
 ──担……担当? それと、鎌倉……
 経年劣化したのか、あるいは財布の中でこすれてしまったのか、文字はひどく曖昧だ。それでも読めたのは、『鎌倉大地』という人名のようだった。
「だい、さん……」
「……この、大地さんって人が、お父さんなの?」
「だい……さ、ん……に、会っ……」
 大きく口を開けて、母がつらそうに咳き込んだ。看護師が早足でベッドに近づき、酸素マスクを口元に当てる。
「北見さん、少し休みましょう。今、点滴に解熱剤を入れています。肺に水がたまっているので、呼吸が苦しいですよね。酸素マスクをしていたほうが楽ですから」
 そう言われて、母が目を閉じた。
 静かに静かに、母の命の炎が消えていく。
 閉じた薄いまぶたに血管が青く浮かび、白い頬はひどくこけている。それでもまだ生きていてほしいと願うのは、自分のエゴだろうか。
 心花は、母の手をそっと撫でた。
 親しい人たちが病室を訪れ、そして去っていく。誰もが北見雪という女性との別れを悲しんだ。母は、自由気ままなところもあったけれど、誰からも愛される人だった。夜になり、どこか遠くから除夜の鐘が聞こえてきたころ、窓の外に雪が降りはじめた。
 日付が変わり、初日の出の直後に母は逝ってしまった。
 最期に母が伝えたかったのは、「大地さんに会って」なのか。それとも「大地さんに会いたい」なのか。
 途切れた言葉の続きは、永遠に失われてしまった。
 正月、成人式、バレンタインデー。さまざまな行事に追われ、街は色を変える。心花はひとりぼっちだった。成人式に出席しなかったのは、会いたい人も晴れ着姿を見せたい人もいなかったからだ。何より、そんな気分になれなかったというのも大きい。
 春が来るころ、やっと最後の遺品整理を終えた。
 母の夏物衣類が入っていた段ボール箱をつぶすとき、カッターで左の手首を誤って切ってしまい、病院へ行くか迷った。けれど、夜遅くに作業をしていたので救急外来へ行くのは憚られる。左手首の内側を縦に走る傷は五センチほど、心花は右手でなんとか滅菌ガーゼをあてがい、包帯を巻いた。
 これからどこへ行くのか、どうやって生きていくのか。そのときの心花にはまだわからないままだった。
 ただ、生きていかなければいけない。
 手首を切ったときに、あふれた血の色にぞっとした。それと同時に、痛みと脈動が生きていることを教えてくれる。自分の体が、自分の心に伝えていた。この体は生きている、だから痛みと血の熱さを感じ、失血の恐怖に怯えるのだ、と。
 母の四十九日法要の翌日に、調査会社へ出向いた。インスタント写真と鎌倉大地という名前から、その人物の居場所を特定してほしいと頼んだ。見つけられるかどうかは別として、着手金だけでもけっこうな出費だった。見つからない可能性も示唆され、追加オプションとなる携帯電話の番号を入手するのは諦め、現住所だけでいいから調べてもらう予定だった。
 思ったよりも早く、調査会社から返答があった。
 その人物は、複数の会社を経営しており、金には困っていない生活をしているらしい。もちろん、古い写真と名前しか手がかりがなかったため、厳密に心花の探している『鎌倉大地』なのかどうかはわからない。だが、年頃や写真の人物との人相比較で候補に挙がった人物の住所を手に入れた。
「こんなに簡単に住所がわかるものなんですか?」
 狐につままれたような気持ちで首をかしげる心花に、調査会社の事務員が無表情に口を開く。
「弊社の代表が、鎌倉氏と古いつきあいがあることが判明しまして。それと、こちらは今回のご依頼とは少々異なりますが、代表が偶然鎌倉氏から受け取った求人広告です。よろしければお持ちになりますか?」
 白木のテーブルにすっと差し出されたそれを見て、心花は大きくうなずいた。
 これは、チャンスだ。
 千載一遇の好機を前に、躊躇する理由はない。
「ありがとうございます。助かります」

 母の死から、三カ月近く過ぎ、都内の桜が満開になった今日、心花はやっとその人物に会いに行く。
 鎌倉大地に、会いに行く。

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