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S系御曹司の淫らなご褒美

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書籍紹介

クールな副社長×調教愛

副社長・祐輝の友人となった鈴菜。冷徹な彼だが、親交を深めていくと優しく接してくれるように。嬉しい気持ちで惹かれていた矢先、酔った拍子に愛撫され……。抗う言葉とは裏腹に下腹部はしとどに濡れてしまう。「無理やりされるのが好きなのか」Mな資質を見抜いた彼は泥濘に熱杭を穿ち、甘苦しい快感を与えてきて――。S系御曹司に身も心も支配され、愛され尽くす幸せ!

ジャンル:
現代
キャラ属性:
社長・セレブ
シチュエーション:
玉の輿・身分差 | オフィス・職場 | 甘々・溺愛 | お風呂・温泉
登場人物紹介

佃 祐輝(つくだゆうき)

株式会社ツクダの副社長にして御曹司。クールなイケメンだが、性格は最悪。でも鈴菜と接しているうちに徐々に変化が!?

田嶋鈴菜(たじますずな)

株式会社ツクダの人事部に勤めている。祐輝の態度の悪さに思わず口出ししたところ、彼の父である社長自ら友人になってほしいと頼まれ……。

立ち読み

 節電のために最小限の灯りをつけただけのオフィスで、田嶋鈴菜はプリンターの前に立ち、ふうっと小さく息を吐いた。
 二時間の残業を経て完成した資料が、次々と印刷されて出てくる。
 経営者の気まぐれなのかなんなのか、現行の福利厚生を見直すべきだと副社長が言いだしたせいで、明日の朝までに会議用の資料が必要だと言われたのだ。
 響く稼働音を聞き、規則的に動くプリンターを見ているのは少し楽しい。普段の仕事中にこうしてただ印刷される様子を眺めていたら、サボりだと注意されてしまいそうだが、一人きりで残業している今なら許されるだろう。
 業務用にしてはコンパクトで少し頼りなく見える機械なのに、印刷スピードは速く正確だ。大量の連続印刷も、ズレやインクの滲みはない。
 開発部が苦労して作り上げた最新式のプリンターなのだから、当然と言えば当然。鈴菜は自社製品に誇らしさを覚えて、誰にともなく微笑んだ。
 鈴菜が勤める株式会社ツクダは、文具やオフィス用品の企画開発、製造、販売を手がけている。と言っても、パソコンやインターネットが発達した今は文具の需要が低くなってしまい、代わりに自社製OA機器のレンタル事業や、中小企業向けのITコンサルタント事業が主になっていた。
 つまり、目の前に置いてあるプリンターなどを開発製造し、契約を結んだ企業や個人に貸し出してレンタル料金をもらうというわけだ。
 ……ちなみに、もう一方の主軸であるITコンサルタント事業は、具体的にどういう内容なのか、実はよくわかっていない。
 なぜかと言えば、鈴菜は主要業務とは関係ない人事部のヒラ社員だから。
 ぼんやりとプリンターを眺めているうちに全ての印刷が終わったらしく、唐突に音が止まった。
 鈴菜は資料を取り上げ、きちんとでき上がっているかを念のために確認する。そして一通りチェックしたあと、浅くうなずいた。
「……これを明日の朝に会議室へ運んでおけばよし、と」
 最後の仕上げに独り言を漏らして、鈴菜は自分のデスクの上に資料を置く。
 あとは帰って構わないはずだが、出先にいる人事部長に資料が完成したことを報告した方がいいだろうかと首を捻った。
 鈴菜の直属の上司である古関は、あと数年で定年を迎える物静かな男性だ。少し忘れっぽいところはあるものの、入社二年目の鈴菜にも優しく仕事を教えてくれる。
 今日も、鈴菜だけに残業を押しつけるのはいけないと言って、一緒に残ろうとしてくれたのだが、急な用事で取引先へ出かけていった。
 作成した資料のデータは、印刷前に送って確認してもらっているから問題ない。それでも鈴菜は一言「終わりました」とメールをしておくことにした。
 椅子に座り、スリープモードになっていたパソコンへ手を伸ばす。メールの作成画面を開いたところで、デスクに備え付けの電話が鳴りだした。
 呼び出し音の大きさに驚いて、少しビクッとしてしまう。ドキドキしている胸元を右手で押さえ、左手で受話器を取り上げた。
「いつもお世話になっております。株式会社ツクダ、人事部の田嶋です」
 外線のランプがついているのを確認してから名乗る。と、電話の向こうからほっとしたような溜め息が聞こえてきた。
「田嶋さん、まだいてくれてよかったよー」
「古関部長? どうされたんですか?」
 あからさまに安堵しているらしい上司の声に、鈴菜はパチパチとまばたきをする。何か緊急事態だろうか。
「いやー、こっちの用件は済んだのだけど、せっかくだからと飲みに誘われてしまってね。懇親会を兼ねてと言われては断りきれなくて……申しわけない」
「あ、資料作成は終わりましたから大丈夫です。もう帰りますし」
 どうやら古関は、鈴菜に残業させてしまったことを気にしているらしい。鈴菜が平気だと返すと、古関はもう一度「よかった」と呟いた。
「……それで、実はまた田嶋さんに助けてほしいんだ。飲み屋の方に別の会社の人がきているらしくて」
 弱りきった上司の声を耳にして、鈴菜は内心でポンと手を打った。
「どちらのかたですか?」
「うん。黒沢製作所の人事担当と、サンキャストサービスの営業さんらしい」
 古関の話を元に、鈴菜は頭の中にしまってある情報を探す。程なく思い当たる人物を見つけた。
「黒沢製作所の人事部で会ったことがあるのは課長の深山さんだけだと思います。四十代で眼鏡をかけていて細面の。以前会った時に、釣りがお好きだという話をされたと聞いています」
「ああ、そうだ、そうだ。思い出した」
「サンキャストサービスの営業さんは、先月うちにもきています。三十代でちょっとぽっちゃり体型の男性が熊井さんで、背の高い女性は藤本さんです。これまで込み入った話をされたということは聞いていませんので、挨拶程度の面識かと」
「ありがとう! さすが田嶋さんだ」
 鈴菜の説明に、古関は声を弾ませる。感激したと言わんばかりの様子に、鈴菜は照れくささを覚えてうつむいた。
「い、いえ。こんなことでお役に立てるなら嬉しいです……」
「本当に素晴らしい才能だよ。いつも助けてくれて感謝している。ありがとう」
 古関は何度も礼の言葉を口にしたあと、店へ向かうと言って電話を切った。
 そっと受話器を戻した鈴菜は長い溜め息を吐く。
 鈴菜は人の顔や情報を記憶しておくのが得意だ。一度会った人のことは忘れないし、話した内容もおおまかな部分は覚えている。もともと人が好きで、つい相手を観察してしまうからなのだろう。
 古関はその特技を才能だと言い褒めてくれるが、実際のところ役に立つことは少ない。今のように「仕事上で付き合いのある相手の素性を忘れてしまった」という上司や同僚にアドバイスをするのがせいぜいだ。
 単純に記憶力がいいのなら学業に活かすこともできたのに、なぜ人の顔と情報だけなのかと、鈴菜は恨みがましいような気持ちになった。
 もやもやした感情を鎮めるために軽く頭を振り、パソコンの電源を落とす。
「さ、帰ろうっと!」
 鈴菜はわざと明るく行動を宣言して、勢いよく立ち上がった。

 人事部のオフィスから出た鈴菜は、帰宅しようとエレベーターの前にやってきた。と、近くで話し声がしているのに気づいた。
 このフロアは人事部と経理部、応接室、そして奥に社長室と秘書室がある。
 二四時間体制の顧客サポートセンターや、営業部などとは違い、残業をしている人間は極端に少ない。そんな場所で立ち話をしているのは珍しいことだった。
 盗み聞きをするつもりはないが、エレベーター横の階段で話しているらしく音が響いてくる。切羽詰まったような女性の声を耳にして、鈴菜は内心で首をかしげた。
 ……あれは、受付の土井さん?
 個人的に親しくしているわけではないものの、出社した時に朗らかな挨拶を返してくれる素敵な女性だ。しかしまったく部署が違う彼女が、どうしてここにいるのか。
「あ、あのっ……副社長、私……」
「……なんの用かは知らないが、忙しいので早く済ませてもらいたい」
 焦る土井を突き放すように、男性が冷たく返事をする。立ち話の相手がこの会社の副社長だと知って、鈴菜は僅かに眉を寄せた。
 なんだか嫌な予感がする。鈴菜はエレベーターのボタンを押すことも忘れ、息を詰めた。
 ほんの少しの沈黙のあと、意を決したように土井が口を開いた。
「私、副社長が好きなんです……!」
 初めて遭遇した愛の告白の現場に、鈴菜は驚き目を見開く。が、想いを伝えられたはずの副社長は、どうでもよさそうにフンと鼻であしらった。
「そうか。俺はきみのことが好きじゃない。そんなことを考えている暇があるなら、仕事をしてくれ。話はそれだけか?」
 温度を感じない拒絶の言葉に唖然とする。いったい何が起きたのか、鈴菜にはとっさに理解できなかった。
 呼吸もまばたきも忘れ、ただ立ち尽くしていると、土井の呻き声が聞こえてきた。
「う……ううっ……」
 続いて踵を床に打ちつけたような音が鳴り、すぐに遠ざかっていった。おそらく土井が泣きながら駆け去ったのだろう。
 無音になった階段で、副社長が「うんざりだ」と言わんばかりの溜め息を吐く。それに気づいた瞬間、鈴菜の中に激しい怒りが湧き上がった。
「……なんてひどい……!!」
 強すぎる感情は止めようもなく、口から迸る。声に気づいたらしい副社長が、鈴菜の方に向かってくるのがわかった。
 鈴菜のまなざしと、副社長の冷ややかな視線がぶつかる。普通なら怯んでしまいそうな状況だが、憤慨しているせいか少しも怖くない。鈴菜は感情のままに眉をひそめた。
 副社長の名は、佃祐輝という。この会社の創業者である現社長の息子で、年齢は二八歳。
 背が高くスマートで、クールなイケメン。名のある大学を優秀な成績で卒業したあと、世界経済と経営を学ぶため海外へ数年間留学し、その後は副社長として父親の事業をサポートしている。つまり、見た目、学歴、収入すべて優良のデキる男というわけだ。
 ……ただし、性格は最悪だった。
 経営者としてはいいことなのかもしれないが、とにかく合理主義で無駄を嫌う。人並みの感情があるのか聞いてみたくなるほど冷徹で、周囲と円満な関係を築く気もないらしい。
 今までも彼に対してのよくない噂はちらほら聞いていたものの、実際にここまで思いやりがない人だとは思っていなかった。
 あからさまな非難の視線を受け止めた副社長は、表情を変えずに軽く首を傾けた。
「何か言いたいことでもあるのか?」
 状況を考えれば「ありません」と返さなければいけないのだろう。鈴菜はただのヒラ社員で、相手は社長子息の取締役なのだから。だがどうしても納得がいかなかった。
「あの返事はひどすぎます」
 本当に言い返されると思っていなかったのか、副社長が僅かに眉を上げる。
「……では俺に好きでもない女と付き合えと?」
「そうじゃなくて。断るにしても言い方ってあると思います」
「なぜ俺が興味のない相手にそこまでしてやらなければいけないんだ?」
 どこまでも傲慢な物言いに、鈴菜の苛立ちがますます募る。
「異性として興味がなくたって、彼女はここの社員なんですよ?」
「ああそうだ。だから俺のことは諦めて、仕事に専念するように言っただろう」
 副社長が土井に向けた言葉の真意を知り、鈴菜は呆気に取られた。
「……本当にそれで彼女が納得して、仕事に集中できると思っているんですか?」
「どういう意味だ?」
 副社長は鈴菜の問いかけが本気でわからないらしく、サッと眉根を寄せる。怒っているように見える険しい表情だが、人間観察が得意な鈴菜には、彼がひどく困惑しているのだとわかった。
 ほんの少し、鈴菜の中で副社長のイメージが変わる。傍若無人な仕事人間だと思っていたが、実は不器用な人なのかもしれない……。
 鈴菜は自分の気持ちを鎮めるために、一度、深呼吸をした。
「副社長は土井さんがどういうつもりで告白をしたのか、わかりますか?」
「わかるわけがない」
「そうですよね。私もわかりません。副社長と交際したいということだったのか。あるいはただ想いを伝えたかっただけなのか。……だから副社長はまず彼女の気持ちを受け止めて、希望を聞くべきだったんです。それでもし交際したいというなら断ればいいんです」
 鈴菜の指摘に、副社長は眉間の皺を深くする。さっき自分で言った通り、そこまで土井を気遣う意味がわからないのだろう。
「土井さんは受付担当の優秀な社員です。交際することはできなくても、彼女の話を聞いて想いを理解してあげることは、きっと会社の利益にも繋がります。さっきみたいに初めから跳ね除ければ彼女は傷ついて退職してしまうかもしれない。逆に受け止めればもっと意欲的に働いてくれるはずです。……会社は技術やデータで成り立っているわけじゃありません。それも含めて社員が動かしているんです」
 相手を思いやることの大切さを理解してほしくて、鈴菜は言葉を重ねる。
 もしかしたら、目上の人間に対してとても失礼な態度と言動をしているのかもしれない。余計な諫言のせいで、このさき会社に居づらくなる可能性だってある。それでも黙っていることはできなかった。
 鈴菜の話をどう感じたのかはわからないが、副社長は顔をしかめたまま黙り込んでいる。なんとも言えない重い空気を感じて、鈴菜は思わずうつむいた。
 と、急に背後から拍手が響いた。
 突然のことに鈴菜は飛び上がり、慌てて後ろを振り向く。見れば少し離れたところに壮年の男性が立っていた。
「社長……」
「親父」
 鈴菜と副社長の声が重なる。
 ゆっくりと近づいてきた社長は、鈴菜の顔を覗き込んでにっこりと笑った。
「ありがとう、田嶋さん。きみは素敵な人だ」
「え?」
 なぜかいきなり褒められ、鈴菜はうろたえる。状況が理解できずに呆然としていると、社長は「大丈夫」とでも言うようにうなずいた。
「きみは私がアレに注意しようとしたことを、すっかり代弁してくれた。あの通り、相手の気持ちをまるで理解していないバカ息子でね。困っているんだよ」
 アレというのは副社長のことらしい。話の内容からすると、社長も鈴菜と同じように土井の告白を聞いていたようだ。
 父親にはっきりと貶された副社長は、不機嫌そうにそっぽを向く。
 社長は息子の様子を気にもかけずに、両手で鈴菜の手を握り締める。そして、これみよがしに眉尻を下げ、ゆるゆると首を横に振った。
「こんな歳になって、恋人どころか友達の一人もいないなんて信じられないだろう?」
「えっ……ええと……」
 副社長に友達がいないという話には少し驚いたものの、本人の前で「そうですね」とは言えない。どう反応していいのかわからず、オロオロしていると、社長は悲しげに目を伏せた。
「どこで育て方を間違えたのか……親の言うことはまったく聞かなくてね。せめて誰か一人だけでも、対等な立場で付き合ってくれる友達がいればと……」
 子を想う親の愛情を目の当たりにして、鈴菜の胸が痛む。誰か友達になってくれそうな人を紹介できればいいのだろうが、気難しくて不器用な副社長と付き合える相手に心当たりがなかった。
 社長は「こんな身内の話をしてすまない」と呟いたあと、憂いを払うように素早く頭を振って顔を上げる。鈴菜に視線を合わせ、苦笑いを浮かべたところで、ハッと目を見開いた。
「そうだ……田嶋さんがいるじゃないか……」
「はい?」
 急に自分の話をされ、鈴菜はパチパチとまばたきをする。社長は鈴菜の手を握る力を強くして、目を輝かせた。
「田嶋さん、お願いだ。どうか息子の友達になってやってほしい! それで友人関係とはどういうものか教えてもらいたい」
「ええーっ!!」
「親父!?」
 静かな廊下に三人の叫びが響く。
 社長の無茶な要求に、鈴菜は思いきり首を左右に振った。
「む、無理ですっ」
「どうして? 顔は妻に似ているからそう悪くないと思うが、見るのも嫌かな?」
「そういうことじゃなくて。友達付き合いの仕方を教えるなんてできませんし……」
 さっきは怒りに任せてつい説教めいたことをしてしまったが、立場も年齢も上の男性に人間関係をレクチャーしろと言われても無理だ。副社長がイケメンかどうかという問題ではない。
 困り果てている鈴菜とは反対に、社長は明るくカラカラと笑った。
「いやいや。そう難しいことはしなくていいんだよ。普通に会って話をしてくれるだけで。あ、でも……もしかして、田嶋さんの恋人に叱られてしまうかな?」
 気を回しすぎな社長の言葉に目を剥く。
「え!? こ、恋人はいませんから!」
「そうなのかい? 今の若い男は見る目がないんだな。田嶋さんはこんなに愛らしくて聡明なのに」
 歯の浮くようなセリフを向けられ、かあっと頬が火照る。もちろんお世辞だとわかっているが、容姿を褒められたことがない鈴菜は恥ずかしくてたまらなくなった。
 鈴菜は背が低くて痩せっぽちで、女性として魅力的とは言いがたい。髪の量が多いのと、伸ばすと癖が出るのとでショートカットにしているせいか、中学生の男の子に間違われたことさえある。顔の作りは平凡で目立つような性格でもないため、今までモテたことも、誰かと交際したこともなかった。
 鈴菜に恋人がいないと知った社長は、何かを思いついたように眉を跳ね上げ、続けてパチッとウインクをした。
「それなら田嶋さんに恋人ができるまで、祐輝をこき使ってくれて構わないよ。あの通り見た目だけはいいからね。侍らせて歩いてもいいし、運転手代わりにしてもいいし……」
 驚きの提案に鈴菜はぽかんと口を開ける。と、それまで黙っていた副社長が声を上げた。
「いろいろ勝手に決めるのはやめてくれ。俺には友達なんて必要ない。仕事が忙しいのは親父だってわかっているはずだ。その女と遊び呆けている暇はないだろう?」
 副社長が拒否した瞬間、それまでニコニコしていた社長がスッと真顔になる。社長は鈴菜に「ごめんね」と囁いたあと、そっと手を離して副社長の方へと顔を向けた。
「田嶋さんに対して失礼なことを言うのはやめなさい。お前は何もわかっていない。さっき彼女が、会社は社員が動かしていると言ったのをもう忘れたのか?」
「それと俺の友達の話と、どう関係あるんだよ」
「……お前はいつも合理化だの効率化だのと言うが、日本の企業はそれだけではやっていけない。ここは和の国だからね。人と人、企業と企業の繋がりを大事にしなければ、経営は立ちゆかなくなる。しかし、お前にはそれができないだろう?」
 社長の指摘に、副社長はぐっと押し黙る。人付き合いが苦手なのは、自分でもわかっているらしい。
「そんな古くさいやり方が、いつまでも続くわけがない」
 なかば苦しまぎれのような副社長の反論を、社長は首を横に振って跳ね除けた。
「まあ、さきのことはわからないが、今はまだ横の繋がりが重要視されているんだよ。だから、お前はもっと他人とコミュニケーションを取らなければいけない。そして相手がどんな人で、どう感じるかを察して動けるようになりなさい。……そのために、田嶋さんと付き合うのはとてもいい勉強になるはずだ」
 すっかりやり込められた副社長は、苦々しい表情で視線をそらす。
 社長は何も言えなくなった息子を見て満足げにうなずいたあと、鈴菜の方に向き直った。
「そういうわけで、愚息をよろしくお願いしたい。頼む、田嶋さん!」
「え……ええー……」
「もちろん、きみに労力をかけさせてしまうから、相応の謝礼はするつもりだよ」
 謝礼が出るという話を聞いた瞬間、鈴菜は反射的に頭を振っていた。
「あの、それはだめです。謝礼はいりません。……友達はお金で買うものじゃないので」
 おそるおそる鈴菜は社長に意見をする。生意気だと叱られてしまうかもしれないが、金銭で繋がっている関係を友達とは絶対に呼びたくなかった。
 鈴菜の主張に、社長は大きく目を瞠り、次に瞳を潤ませた。
「……田嶋さん、きみはなんて素晴らしい人なんだ。本当にその通りだよ。すまないね、私が間違っていた」
「いえ、わかっていただけてよかったです」
 自分の気持ちが伝わったことにほっとして、鈴菜は肩の力を抜く。社長が泣き笑いのような表情を浮かべたのにつられて微笑むと、またギュッと手を握られた。
「ありがとう! 善意の気持ちだけでこんなやつと友達になってくれて。きみは我が家と我が社にとって救いの女神だ!」
「えっ、あれ……?」
 いつの間にか、副社長の友達にされちゃってる────!?
 鈴菜はただ「謝礼は必要ない」と言いたかっただけなのだが、社長は「謝礼なしで友達になる」と受け取ったようだ。
「あ、いえ、あの、社長、さっきのは」
「田嶋さん、ありがとう。本当にありがとう!!」
 話が食い違っていることに慌て、声を上げるが、社長の感謝の言葉で掻き消されてしまう。
 感激した社長の様子に圧倒された鈴菜は、結局「違う」という一言を発することができなかった。

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