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あなたのすべてを支配したい 御曹司の淫靡な独占欲

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書籍紹介

監禁するほど愛してる

「閉じ込めて私だけのものにしたい」佳純を抱きながら甘く囁く遼真。噛みつくようなキスに体が熱くなる。敏感な蜜芯を捏ねられ、最奥を穿つ巨大な劣情にはしたなく喘がされてしまう。強く求めてくる遼真に惹かれるけれど、佳純は過去のトラウマから想いに応えられなくて。ある朝、目覚めると足枷を付けられて軟禁状態に――。昏く微笑む御曹司と堕ちていく、歪んだ激愛。

ジャンル:
現代
キャラ属性:
社長・セレブ
シチュエーション:
玉の輿・身分差 | SM・監禁・調教 | オフィス・職場
登場人物紹介

飛崎遼真(ひざきりょうま)

大手化学メーカーの御曹司。見た目も穏やかで物腰も柔らかい。佳純に恋しており、彼女を手に入れるべく画策している。

森口佳純(もりぐちかすみ)

遼真と同じ会社で働く、芯の強い女性。複雑な家庭環境と前職でのとある出来事から、素直に人に甘える事ができない。

立ち読み

『……今期の社内公募では、人事企画・マーケティング・社内業務コンサルなど、八つの部署が募集します。すべてのポジションで未経験者の応募が可能となっており、新しい仕事に挑戦したい、幅を広げたい社員の希望を──』
 ウェブ社内報に載せる記事を入力していた広報部の森口佳純は、デスクに置いたスマートフォンの液晶画面が明るくなったことで手を止めた。
 眼球だけ右下へ向ければ、当社が誇る化学強化ガラスのディスプレイに、メッセージを受信したとの表示が浮かんでいる。
 そこに記された男性の名前を見て佳純は眉を顰めた。
 ──また来た……。今はまだ仕事中なんですけど。
 そう思ったのと同時に、時刻が午前十一時五十五分であることに気づく。おそらく彼は早めの昼休みに入ったのだろう。佳純も集中が切れたことで、休憩をとることにした。
 足元のバッグからランチトートを取り出す。節約を信条としているため、弁当派の佳純が社員食堂に行くことはそれほど多くない。
 だがそこで、今日はどこで食べるべきかを微妙に悩み始めた。
 自社ビルの屋上には広い庭園が設置されており、大抵はそこで弁当を食べている。
 九月下旬の今の時季はまだまだ暑いものの、吹き抜ける風が心地よいし眺めもいい。それになんといっても利用者が多く、彼が顔を出すと女子社員に囲まれるため、こちらへ近づくことができないのだ。
 しかし本日はあいにくの雨。おまけにリラクゼーションルームは今週末まで改修中。
 デスクで食べるのはあまり好きじゃないんだけど、どうしよう。小さく呻りながら悩む佳純は、視線を宙に向けて思案する。数秒後、パッと表情を明るくした。
 社内SNSで広報部のスケジュールを確認すると、午後一時から押さえてあるミーティングルームを発見。上司と交渉し、電子ボードなどの準備と引き換えに私的利用をもぎ取った。
 これでゆっくりとご飯を食べられる。ウキウキする佳純は、ランチトートを持って広報部の大部屋を出た。
 風が強くなってきたようで、雨粒が外壁ガラスに叩きつけられては弾かれている。
 日差しが雲に遮られる今日、自動制御ブラインドはフルオープンだ。ガラスに映し出される都内の景色は、まるで水の中から覗いているように見える。
 ここ飛崎マテリアル株式会社は、ガラス製品および化学品の製造大手で、特にガラス分野では国内トップシェアを誇っている。そのため本社ビルでふんだんに使われる建築用ガラスは、最先端技術の粋を集めた自社製品だ。ビルそのものがショールームだと言っても過言ではない。
 佳純は二ヶ月ほど前にこの会社へ転職したが、それまでガラスといえば窓やグラス類などに使われるといった認識しかなかった。しかしこのビルでは、通路と部屋を区切る壁やパーティション、ドア、一部の床や階段やデスクまでもガラス製だ。
 スイッチひとつで巨大モニターパネルと化す壁面ガラスなど、最新の機能ガラス製品は本当にすごい。
 ただ、佳純は高所恐怖症の気があるため、床から天井までをつなぐガラスの外壁は、透明度が高すぎて少し怖い。
 廊下の壁側をそそくさと歩き、首からぶら下げた社員証でミーティングルームのロックを解除して中に入った。
 扉を閉めた途端、一点の曇りもない透明なガラスの壁と扉が一瞬で乳白色に濁る。これは必要なときにだけ外部の視線を遮断する調光ガラスだった。初めて見たときは目を見開いて驚いたものだ。
 ようやく一人になれた佳純は、椅子に腰を下ろしてホッと息を吐く。あまり他人と関わり合いになりたくない自分にとって、大部屋での仕事は少し緊張する。前職はもっと従業員数が少ない中小企業だったから。
 ──まあ、それだけじゃないけど。
 おひとり様を望む己の心情に溜め息をつきたくなるが、「幸福が逃げちゃう」と心の中で呟き、グッとこらえる。ランチトートから弁当箱を取り出し、行儀悪くも食事をしながらスマートフォンをタップした。
 彼のメッセージなら、どうせ食事か飲みのお誘いだろう。──ビンゴだった。
『週末に会えないか? 君が好きな野菜料理の美味しい店に連れて行きたいんだ。ご馳走させて欲しい』
 断っても断っても諦めるそぶりを見せない男のしつこさに、とうとう溜め息を抑えることができなかった。そのとき。
 トントン。
 控えめなノックの音が小さなミーティングルームに響いて、佳純はギクリと体をこわばらせる。乳白色のガラスドアに、背の高いシルエットがぼんやりと映っていた。
「どうぞ……」
 小さく声をかけた直後、開けられたドアから現れた端整な顔は、佳純が脳裏に思い浮かべたものと同じだった。
 飛崎遼真。
 前髪をゆるく後ろと脇に流して形のいい額を見せる彼は、メッセージの送り主である。会うたびに後光が差しているように見えるのは、その造作があまりにも見目麗しく、正視できないからかもしれない。
 そんなアホみたいなことを思い浮かべるほど、彼は絶世の美男子だった。
 ──でも、私がここにいるってどうして分かったんだろう。
 佳純が疑問に首をひねっていると、背の高い飛崎は彼女を頭上から見下ろしつつ、切れ長の色っぽい目を細めて優しく微笑んだ。
「お疲れ様、森口さん。私もご一緒していいかな」
 声優にでもなれば売れっ子間違いなしだろう、と頷ける魅力的な低い美声に、佳純は思わず己の腰辺りを撫でた。声だけで女の官能が刺激されて腰を震わせるなど、幾度聞いても困惑してしまう。
 飛崎は「一緒に食べていいか」と許可を求めていながら、さっさと佳純の左隣の椅子を引いて腰を下ろした。そしてどの角度から見ても実に美しい容貌を彼女へ近づける。
「腰が痛いのかな?」
「いっ、いえ、特には……」
 あなたのイケボに腰が抜けそうになりました。などとオフィスで正直に話すほど己の常識は失われていない。いや、それ以前に。
「飛崎課長……できれば隣ではなく向かいの席に座っていただきたいのですが……」
 四人掛けの会議テーブルなのに、隣同士で腰掛けるなど恥ずかしい。
 すると飛崎は不思議そうな表情で首を傾げた。
「以前、私が君の前に座ったら『食事がしにくい』と言われたと思ったが?」
「……確かに言いましたが、あれは真正面に座らないで欲しいという意味です」
 以前もミーティングルームで弁当を食べていたとき、飛崎が現れて目の前の席に腰を下ろした。おまけに甘い眼差しでずっと見つめてくるから、自身の精神力がゴリゴリと削られたものである。
 そのため一つ横の席に移動して欲しいと、やんわりお願いしてみたのだが……まさか隣に座るなど思いもよらなかった。
 他部署の課長に席を変えろなどと言えないため、佳純は無言でポテトサラダを口に運ぶ。
 彼女の諦めを感じ取った飛崎は、クスリと蠱惑的な微笑を浮かべつつ、手に持った紙袋から弁当箱を取り出した。
「君の弁当はいつ見ても旨そうだね。私のおかずと交換しないか」
 話しながら弁当包みを開いた彼が、再び整いすぎた美貌を佳純へ寄せる。対して彼女は、飛崎と反対側へ上半身を傾けた。
「いいですけど、課長のお口に合うとは思いませんが」
「君の作ったものなら、すべてが私にとってご褒美だよ」
 ……女子社員の大半を魅了した流し目で佳純を見つめつつ、歌うような口調で飛崎が囁いてきた。おかげで彼女の手から力が抜け、箸が落ちそうになってしまう。
 すぐさま我に返った佳純は真っ赤な顔で箸を握り締めたものの、心臓が高鳴りすぎて何も言い返すことができない。顔を伏せたまま黙って自分の弁当箱を飛崎の方へ押し出した。
 好きな物を勝手に取っていけ、との声にならない声を感じ取ったのか、飛崎は心から嬉しそうな表情で微笑む。
 そしておかずを全部奪っていった。
「え、え……」
 白米以外のスペースが空になった弁当箱を見て、佳純の目が見開かれる。すぐさま飛崎が、二段弁当箱のおかずが入った方を彼女に差し出した。
「どうぞ。すべて食べてもいいよ」
 にっこりとイケメンスマイルを惜しげもなく振りまく飛崎は、佳純のおかずを美味しそうに食べ始めた。
 こちらが作った料理を食べたかっただけと察した佳純は、抗議するべきか、はたまた気に留めないフリをするべきか、しばし悩んだ後に後者に決めた。すでに自分のおかずの大半が飛崎の胃の中に消えている。
 モヤモヤした感情を抱えつつ、相手のおかずに視線を向ける。
 さすが男性用だけあって量が多い。すべて食べてもいいとは言われたが、奪われたおかずと同量で十分だ。
「いただきます……」
 卵焼きを口に運ぶと、やや甘めの生地の中にチーズの味がする。ピーマンの肉詰めはジューシーな焼き上がりでご飯が進んだ。
「……美味しいですね」
 手作りだと分かる丁寧な味つけなので、料理上手な家政婦さんか、家事代行業者でも頼んだのだろう。
 すると飛崎は意外なことを口にした。
「そう言ってもらえると嬉しいよ。頑張って作った甲斐があった」
「え。これ、課長の手作りですか?」
「そうだよ」
 頷く美男子の顔を、佳純はまじまじと見つめてしまう。あまりにも意外すぎて。
 飛崎姓を名乗る彼は、ここ飛崎マテリアル株式会社の社長の一人息子だ。いわゆる御曹司という立場で、生まれたときから使用人に傅かれてきたと推測できる。それなのに弁当を自分で作ったと聞き、二の句が継げなかった。
 先輩社員の話によると彼の祖父である前代表取締役会長は、今は廃止された高額納税者の公示で、常に五位以内にランクインしていたという。
 飛崎家の自宅は都内の一等地にある豪邸で、初めて訪れた客は大抵迷子になると言われるほど広大な敷地を有しているとも聞いた。“大富豪”なんて日常では滅多にお目にかからない単語がふさわしい、超がつく資産家一族だ。
 なにせ飛崎マテリアルはガラス事業だけでなく化学品事業も絶好調で、海外の市場に占めるシェアも高い。
 ゆえに飛崎家の跡取りである彼は、庶民の佳純が見てもすぐ分かる高級感漂うスリーピーススーツを着こなし、時計などの小物も存在感がまったく違う逸品を身に着けている。
 それが嫌みだと思わせないほど所作が美しく洗練されており、いかにも一般人とは育ちが違うと察せられた。雰囲気そのものが高貴で。
 そういった立場の人が家事をするなんて、もしかして料理をすることが趣味なのだろうか。
 このときふと、彼の白米が半分ほど消えていることに気づいた。慌てておかずの箱を返す。
「あの、私はそんなに食べられませんので、お返しします」
「そうか、残念だ」
「えっと、食欲がないのでしょうか?」
「いや、私が作ったものを食べさせたかっただけ。君という存在を作る一端になりたくて」
「…………」
 どういう意味だろう。……いや、本当は分かっている。人間の体を作るのは摂取した栄養素によるものだから。
 ただ、彼の考え方が受け入れられないだけで。
 ──ただしイケメンに限るって言うけど、ちょっとドン引きなんですが……
 いやいや、もしかしたら雲の上の住人は、女の口説き方も庶民とは違うのかもしれない。
 飛崎からは転職直後から、ずっとアプローチを受け続けていた。初めて飲みに誘われたとき、人事部の課長がなぜ自分を知っているのかと驚いた記憶がある。最終面接のときに飛崎も面接官だったと聞いて納得したが。
 それでも他部署の人間をわざわざ誘うなど、ちょっとおかしいなとは思った。
 とはいえ断ると角が立つと思い、彼と飲みに行ったのだが……そこで告白されたときは、ガス入りミネラルウォーターを噴き出しそうになったものだ。
 それ以降、こうして休憩時に話しかけてきては熱心に口説かれる。
 おまけにいつの間にか、教えてもいないのにこちらのSNSのIDを把握していた。数日前にいきなり彼からメッセージが来たときは、ストーカーじゃないかと本気で疑ったほどだ。
 どうやってIDを知ったかは笑って教えてくれなかったが、こちらのスマートフォンに何かしたのではないかと勘繰ってしまう。
 それというのも以前、社内でスマートフォンを紛失し、翌日には観葉植物の陰に落ちていたのを、清掃会社の方が見つけてくれたという出来事があった。飛崎のメッセージが届くようになったのはそれ以降のことだから、彼の関与を疑うのは仕方がないと思う。
 しかし発見時にデバイスの自動ロック機能はきちんと作動していた。赤の他人がデータを盗み見ることはできないはず。
 いったいこちらの何を気に入ったのか知らないが、自分には迷惑な話だった。……そこでふと、女子社員たちが話していた噂を思い出す。
「あの、飛崎課長……」
「何?」
「私はここに転職したばかりで、この話はごく最近、知ったんですけど……」
 飛崎は大手企業社長の一人息子でありながら、誰に対しても公平で、仕事もできる跡継ぎとして人望も厚い。
 そのうえ理知的な美男子というのもあって、社内の女性陣だけでなく、取引先の女子社員にまで熱狂的なファンがいるらしい。
 ゆえに彼は、とんでもなくモテるとも聞く。
 しかし佳純が飛崎マテリアルに転職する以前、彼は自分に群がる女性たちへこう言い放ったという。
『私は恋愛に興味はないので、付き合う女性は結婚相手だと思っている。だから家と会社にふさわしい女性がいい』
 つまり会社にとって利益となる、しかるべき名家の御令嬢以外はお断りということだ。
 なのに察しが悪いのか空気を読めないのか、それでも飛崎に延々と付きまとう女性たちがいたため、彼は笑顔でこう尋ねたという。
『君たちは私と会社のために何をしてくれる? 私の伴侶となる以上、いずれは社長夫人として同じような立場の方々と交流するが、会話についていける教養はあるか? あと、海外からの賓客を自宅でもてなすことも多いけど、君たちは何ヶ国語を話せる? 女主人はただ椅子に座っているだけでは許されない。私と結婚した後のビジョンをぜひ教えてくれないか』
 矢継ぎ早に質問されて答えられず、泣いて逃げ出した子もいたというから恐ろしい。
 まあ、もっと恐ろしいのはそのようなことがあっても、純粋に“顔が好き”という欲望に忠実なファンが、いまだに熱い視線を向けていることか。
 飛崎がただのエリート社員なら、ただの顔がいい男というだけなら、アプローチし続ける猛者は途切れなかっただろう。
 しかし彼は住む世界が違う人だ。佳純も会社の中にいると、そのことを肌で感じる。
「……だから、私はこうして課長から、その……個人的に話しかけられると、困ってしまうんです。私は課長と会社のために何もできませんし……」
「あ、それ嘘だから」
「……は?」
 佳純が伏せていた目線を上げると、いつもより近くに彼の端整な顔がある。思わず反対側へ仰け反ったとき、飛崎がこちらの左手首を握り締めたので硬直した。
「私は妻に多くを望んでいない。そばにいて私を癒してくれれば十分だ」
 しかし本音を周囲に漏らせば、女豹と化した者たちが群がってくると容易に想像できた。そのため自分や会社に役立つ女性でなければ無理と言い切ったという。
「私が人生の伴侶に選ぶ女性とは、私が心から愛した人だ。それが私の妻となる条件だよ」
 力強い視線で佳純を射貫きながら、飛崎が真剣な表情で告白してくる。
 この状況で彼の真心を疑うほど、佳純は無神経でも鈍感でもない。己の顔面が発火しそうなほど熱いと彼女は感じる。
 それでも頷くことなどできないため、視線を落として唇を引き結んだ。
 痛いほど張り詰めた静かな部屋にかすかな雨音が響く。外壁ガラスは防音仕様になっているのに、よほど強く風が吹いているのかもしれない。
 その音もやがて治まってきたとき、佳純の手首を縛めていた大きな手のひらが外れ、長い指が彼女の細い指をすくい上げた。
「すまない、困らせてしまって。でも諦める気はないんだ。……私はしつこいんだよ。君もそう思ってるだろう?」
 反射的に頷いてしまった佳純だが、すぐさま無礼を悟って勢いよく首を左右に振る。うろたえるその様子に飛崎が声を上げて笑った。
 佳純はキョトンと彼を見遣る。
 ──この人、こんなふうに笑ったりするんだ。
 自分とは生まれも育ちも考え方も生き様も何もかも違う人なので、なんとなく異星人のような存在だと無意識のうちに思っていた。しかし彼もごく普通の人間なんだと、赤い血が流れる自分と同じ生き物なのだと、当たり前のことに気づいて肩の力が抜けた。
 少しだけ親しみが持てた気がする。
 飛崎はすぐに笑いを収めると、柔らかな微笑を浮かべて優しい瞳で佳純を見つめた。
「私に好かれた時点で諦めてくれ。たぶん、これは血筋なんだよ」
「はあ……」
 これ、とは、しつこいという意味だろうか。
 乗り気ではない相手を追いかけ続けるのは、確かに褒められる行為ではない。が、良く言えば粘り強い性質なので、一概に悪いとは言えないと思う。
 一瞬、そんなことを考えて呆けていると、飛崎が長い腕を佳純の背もたれへ伸ばし、前屈みになって彼女の耳元へ唇を寄せた。
「私は気が長い方ではあるけど、できればあまり焦らさないで欲しい」
 格段に近い距離で、甘くて低い魅惑の美声に囁かれ、反応しない女など皆無だろう。
 びくりと身を竦めた佳純の瞳と、飛崎の色香にあふれる瞳が見つめ合う。彼は狙いを定めた女性を射貫きながら、己の唇まで持ち上げた彼女の指先にそっと口づけた。
 飛崎の綺麗な瞳に、吸い込まれるかのような気分で見惚れていた佳純は、数拍の後に自分を取り戻して目を剥いた。
「せっ、セクハラ……ッ」
 との声を上げた途端、素早く飛崎が離れて残りの弁当に箸をつけた。
 変わり身の早さに佳純はついていけず、呆然としたまま彼を見つめることしかできない。
 すぐに飛崎は弁当を食べ終えた。
「じゃあ、私は戻るから」
 笑顔で告げた彼は颯爽とミーティングルームから出ていく。その後姿を佳純は見送ったまま動けなかった。
 そのときスマートフォンがメッセージを受信し、彼女の体が飛び上がった。狼狽しながら焦る視線をディスプレイに向けると、映っているのは飛崎の名前。
『それで、週末は食事に行く?』
 ……そういえば断ることをすっかり忘れていた。佳純はドキドキと高鳴る胸を手のひらで押さえつつ、デスクに突っ伏して大きく息を吐く。
 飛崎と話すときはなぜか少しだけ緊張する。やはり地位と権力を持つ人間は、醸し出す空気が違うのかもしれない。人を跪かせ、従わせることに慣れた王者の風格のようなものが、こちらの余裕を削ぎ落とすような気がして。
 ──だからあの人の綺麗な瞳を見るたびに、説明しにくい変な恐れを感じるのかな。
 慣れればこの奇妙な感覚も消えるのだろうか。しかし慣れるほど飛崎と出かけるつもりはない。
 一度きっぱり、「迷惑だから関わらないで欲しい」と苦情を申し立てた方がいい。相手が会社の御曹司ということで、今までこちらは強く出られなかった。が、あまりにしつこいなら、この件はパワハラに該当するはず。
 頭のいい飛崎ならば、自社の女子社員にパワハラをしていると噂されたくないだろう。
 ──あんまりお酒は飲めないんだけど、仕方ないなぁ。
 溜め息を零しつつ飛崎へ了承のメッセージを送る。
 そして箸を持ち直したとき、どうして自分がここにいると分かったのか、を聞き忘れたと思い出した。

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