新しくカートに入れた電子書籍 すべて見る
カートを見る 合計金額(税込)0円
新しくカートに入れた電子書籍 すべて見る
カートを見る 合計金額(税込)0円

君は僕のシンデレラ
エリート銀行員と愛され契約結婚

本を購入

本価格:650(税抜)

カートに追加しました
電子書籍を購入

電子書籍価格:650円(税抜)

獲得ポイント:7pt
電子書籍を閲覧するにはビューアアプリ「book-in-the-box」(SHARP)をインストールしてください。
書籍紹介

夫婦になって、もっとずっと好きになる

「こんなに好きになったのは友香が初めてだ」美しい容貌の夫・悟志に囁かれ、鼓動が速まる。官能的なキスに優しい愛撫。深く繋がれば痺れるほどの快感に喘ぎ……。子供を産む目的で契約結婚したはずなのに、毎晩のように甘く抱かれ、身体は悦びに沸き立つ。冷たいようで、実は温かい。知れば知るほど心惹かれていって――。新婚生活から恋愛が始まるなんてありですか!?

ジャンル:
現代
キャラ属性:
クール
シチュエーション:
玉の輿・身分差 | 年の差 | 新婚
登場人物紹介

間垣悟志(まがきさとし)

メガバンクに勤めるエリート銀行員。お見合いで友香に出会い、契約結婚することに。整った顔立ちで魅力的な男性。

伊藤友香(いとうゆか)

製薬会社の営業職をしていたが、事実無根の不倫の疑いをかけられ、辞職に追い込まれる。不幸な生い立ちながら明るく一生懸命。

立ち読み

 僅かな静寂のあと、ピアノの鍵盤が再びひとりでに動き出す。落ち着いた雰囲気に包まれたホテルのラウンジに、美しき青きドナウの旋律が響いていく。
 クラシックに詳しくなくとも、どこかで聞き覚えのある穏やかなワルツの調子に、私伊藤友香は微かに安堵のため息を漏らした。
 余韻までもが計算された自動演奏だと分かっていても少し不思議な気持ちになってしまうのは、一見アナログなのに中にテクノロジーが埋め込まれているという、相反するものがひとつになっているからなのかもしれない。
「いや本当にご立派なお勤め先で!」
 隣に座る伯母の素っ頓狂な声に、びくりと肩が震えてしまう。毎日聞いているこの声は、今や私にとって苦痛でしかなかった。
 不意に上がる甲高い声は、私だけでなく、内容はどうであれ不快に感じる人も多いだろう。その証のように周囲の客からちらほらと批難めいた視線を感じる。
 ここから見える日本庭園の美しさは有名で、本日は久しぶりの快晴。麗らかな小春日和は気分を浮き立たせてくれる。そんな日の午後をのんびりお茶と共に過ごしたいと思って訪れた場所で、ぺちゃくちゃうるさい九官鳥のような女に遭遇すれば、興ざめどころの話ではない。
 ああ、うるさいなぁ。
 ぼんやりと霞がかかったような頭の片隅で、どこか他人事のように思う。
 今日私たちが北関東にある伯母の家からわざわざ都心の一流ホテルへ出向いてきたのは、お見合いをするためだ。
 ……どうせ破談になるのに。
 分かり切った結末を既に受け入れている私は、一口飲んだ後テーブルに置かれたままの紅茶のカップに視線を落とし続ける。
 顔を少しでも上げれば目の前にいる──本日の見合い相手である間垣悟志さんと、目が合ってしまうからだ。
 この態度が失礼であることは百も承知だけど、お喋りが過ぎる伯母を止められない申し訳なさと恥ずかしさの方が勝っていた。
 二六歳の私に対して、間垣さんは一回り離れた三八歳だという。少々どころかだいぶ年上だ。しかしいわゆるおじさん的な雰囲気は全く感じさせない。
 それは彫りの深い整った顔立ちと、スーツを着ていてもわかるほど立派な体、そして品のある仕草のせいだろう。
 加齢を単なる衰えではなく、青年期の男性が持ち得ない風格へ変換させている彼は、多くの女性を惹きつける魅力を備えている。
 さらに有名大学をご卒業の上、勤め先は誰もが知っているメガバンク。聞き流してしまったが既に役職にもついているらしい。
 こんなに完璧な人と知り合う機会なんて、見合いでもなきゃあり得ないなぁ。と平坦な気持ちで考える。こんなに心がフラットでいるのは、このご縁がこれっきりだと端から分かっているからだろう。
「今は家のことを教えているところでして、まだまだですけれどひと通りのことは出来ると思いますわ! そちらのお好みも教えて頂ければ、お渡しする前にきちんと備えさせますし!」
 相手に話す隙を全く与えず、機関銃のように伯母は喋り続けている。
「……まあ、それはそれは」
 相手方の付き添いの女性は、おっとりとした雰囲気ながら、興奮している伯母の話を上手に流してくれている。
「友香さん、ご趣味は? 何かお好きなものなど……」
「いえこの子は何もないんですよ! 本当に面白味のない子で!」
 付き添いの女性が私に向かって問いかけたというのに、被せるように伯母が返してしまう。
「……そうなんですか」
 女性の応える声にはどことなく呆れが交じっていた。当たり前だ。人の話を聞かず一方的に捲し立てられて楽しい人などいるはずがない。
 ……見合いが始まってからずっと似たようなやりとりばかりが続いている。
「見た目も地味だしこの通り大人しくて、もう本当に至らぬ娘ですけどもね……」
 確かに私は地味だ。奥二重の目に小作りな鼻と薄い唇という、全体的に特徴のないのっぺりとした顔立ちに肉付きの薄い身体は、もう二六歳だというのにどこか女性的な魅力に欠けている。
 でもそんな顔や体型の多くは、この伯母とも共通するものだ。
 私の容姿は伯母の妹であった母から受け継いだものだからである。現に私と伯母が並んでいると、親子と間違われることも多い。
 伯母からすれば謙遜しているつもりなのだろう。それがブーメランのように自分にも突き刺さっていることに気づいていないのは……ある意味おめでたい。
 伯母の一挙手一投足が、私の苛立ちを誘う。けれどここは怒りを爆発させるに相応しい場ではない。喧嘩は余人を巻き込まず、当人同士でやるものだ。
「若いくらいしか取り柄はありませんけど、この通り大人しいのでお申し付けくださればなんでもやりますから!」
 次々と伯母の口から飛び出てくる言葉は、どれも最早謙遜どころかただの中傷と化している。恐らく私を大安売りすることで話を纏める作戦なのであろう。
 そんな姿がどこか滑稽だった。だってこの素晴らしいご縁が纏まらない方が、伯母は喜ぶに決まっているのだから。
 私は何度目かわからぬため息の中に全ての感情を封じ込める。
 恐らく伯母は「自分はこんなに頑張ったのに、アンタのせいで上手くいかなかった」と後でいたぶる材料にするつもりなのだ。そのためだけにセッティングされた見合いなど、相手にとって迷惑以外の何物でもないというのに。
 この茶番劇は、いつまで続くのか。本当にため息しか出ない。
「よろしいですか」
 その時、自己紹介以来ずっと相槌しか打っていなかった間垣さんがにこやかな笑顔を浮かべながら口を開いた。人当たりの良い優しい声色は、客のあしらいに慣れたプロフェッショナルを思わせる。
「せっかくのいい天気です。……少し外でお話し出来ませんか?」
「えっ……」
「そうですね、あとは当人同士でゆっくりお話しすればよろしいかと」
 付き添いの女性が、渡りに船とばかりに賛成してくる。
 しかし私個人としては、ふたりきりは出来れば勘弁してほしかった。第一、何を話せと言うのだ。
「もちろん構いませんわ! どうぞどうぞ!」
「ちょっと、伯母さん……っ」
 しかし私の反論を封じるように、伯母が思いきり脇を肘で小突いてくる。断ることなど許さないという無言の圧力が伝わってきた。
 仕方がない。そう思うものの、ある意味これは手短に済ませるチャンスなのかもしれないと思い直す。
「では、行きましょう」
 小さく頷いて私は彼と共に席を立った。さりげなく差し出された手に気づかぬふりをして、数歩遅れてついていく。ご縁がないのだから、必要以上の接触は控えるべきだ。
「庭に出ましょうか」
 間垣さんが足を向けたのは、ラウンジから見えたホテルの日本庭園だった。元は大名屋敷の一部として数百年の歴史のある場所で、東京の名園のひとつに数えられている。
 本当の意味でふたりきりになる場所へ連れて行かれなくてよかったと、私は密かに薄い胸を撫で下ろした。
 笑顔の人は、苦手だ。裏で何か考えているのではと想像してしまうから。
 間垣さんに付き従うように、庭園を歩いていく。秋が深まり、朝晩には冬の気配が滲んできた十一月の終わりの日曜日。麗らかな日差しと美しい庭園を彩る紅葉を求めて、混雑とまではいかないものの、それなりの数の人が散策を楽しんでいた。
 広大な敷地の中、時折木立の間に見え隠れする石造りの灯籠が歴史を感じさせ、燃え上がるような楓は今が盛りとばかりに色を誇り、松樹と大小様々な大きさの石で彩られた見事な枯山水はここが都会のど真ん中であることをひと時忘れさせてくれる。
 ひとりであれば、先人の造り上げた素晴らしい庭を心行くまで楽しめたのに。
「綺麗ですね」
 まるで私が顔を上げるのを察していたかのように、間垣さんが振り返る。
「……っ!」
 その笑顔があまりにも眩しくて、私は頷くふりをしながら目を逸らした。
 カッコよくて、いい大学を卒業して、立派な会社に勤めていて……絵に描いたような完璧な人、現実に存在しているものなのね。
 正直、見合いなどしなくとも相手に困っているとは思えない。
 こんなに条件が整った人が、なぜ私なんぞと見合いしているのだろう。……伯母は何か彼の弱みでも握っているのだろうか。
「いい天気ですね」
 眩しそうに手を翳しながら間垣さんが言う。先程聞いた声色とは少し違う自然な男らしい低い声は、私の中にある女の部分をさらりと撫でて、頬を熱くさせた。
 何意識してるの、私。
「……そうですね」
 私がか細い声で応えると、なぜか間垣さんは小さな笑いを漏らした。
 失礼な対応でもしてしまっただろうか。
 思わず顔が青くなる。でも今「そうですね」しか言ってないんだけど! 一体どこで地雷踏んだの私!?
「口がきけないわけじゃなさそうで、よかったと思ってね」
「あ……」
 そういうことか。私の態度を気にする様子もなく、可笑しげに告げられた間垣さんの言葉に、少しだけ安堵する。黙りたくて黙っていたわけではないが、おかげで変な懸念を抱かせてしまったようだ。
「……失礼致しました」
「まあ、あの賑やかな方が隣にいれば、無口になるのも仕方がないか」
「不愉快な思いをさせて、申し訳ありません」
 砕けた物言いに隠された批難に頭を下げる。本人に悪気はないとはいえ、伯母は私と違う意味で失礼すぎた。
「構いませんよ。どうせそう深くお付き合いをするつもりはありませんから」
「えっ……」
 私を振り返り、間垣さんはにこやかに言い放つ。
「……わかりました。貴重なお時間を取らせてしまい、申し訳ありませんでした」
 私は再び彼に深々と頭を下げる。
 断られたことを伯母に伝えれば、そら見たことかとほくそ笑むだろう。間垣さんみたいに条件のよい人に、私が釣り合うわけがないのだ。
 最初から分かりきっていた結末だが、この後に待っている憂鬱な時間を考えると気持ちが沈んでいく。
 ああ、また怒られる。面倒だなぁ。そう思った瞬間、これまで何度も聞かされた伯母の金切り声で繰り出される罵倒が耳に蘇る。
『愛想のひとつも出来ないの!? ああもう本当に、あの子そっくりで腹が立つ!』
 整形でもしない限り、容姿は選べない。自分にはどうすることも出来ないものを責められる時間はただ不毛なだけだ。
「……っ」
 下げた頭を戻すと、なぜか間垣さんと目が合った。その眼差しは何かを探るように鋭く私を見据えて、思わず息を呑んでしまう。
 また私は失敗してしまったのだろうか。いやでも今度は変な態度してないし! なにか分かりづらい地雷がある人?
 内心焦り始めた私の目を捉えたまま、間垣さんの視線がすっと動く。
「え……?」
 促されたように同じ方向へ目を向けると、川にかかる朱塗りの太鼓橋の前で、白無垢と紋付袴姿のカップルが写真撮影しているところであった。
「ふたりともとっても素敵よ!」
 恐らくどちらかの母親なのであろう年嵩の女性が、傍らで弾んだ声を上げる。するとポーズを決めていたカップルのふたりが嬉しそうに微笑んだ。
「ああ、いいですね! そのままニッコリ!」
 すかさずカメラマンがふたりの笑顔を写真に収める。
「……いいなぁ」
 絵にかいたような幸せなカップルを見て思わず羨む言葉が零れた。
 まだ二六だから、これまで結婚なんて具体的に考えたこともなかった。恋愛そのものがどこか遠いものだったから、その延長線上にある結婚を考えたりするはずがない。
 だけど、私はもうまともな結婚なんて、出来ない。
 別に結婚したかったわけでもないのに、出来ないことが確定してしまうと、どうしたことか無性に悲しかった。無数に拓かれていた未来がぎゅっと狭まったような、そんな心もとない感じに襲われてしまう。
 仕方ないじゃない。
 ため息を押し殺しながら、自分に言い聞かせる。
 いい加減見切りをつけなければいけないと思っても、簡単には割り切れない。未練がましい自分にまた、傷つく。なかなか悪循環であるとわかってはいるが、止まらなかった。
「友香さんは、和装とドレスどちらがお好みですか?」
「えっ!?」
 唐突すぎる問いかけに、自虐的な思考に沈みかけていたところを引き戻されてしまう。
 間垣さんの視線は幸せそうなカップルに向けられたままだ。……ということは花嫁衣装のことだろう。
「えっと……」
 たった今破談になったばかりだというのに、こんな話題を振ってくるなんて……意外とデリカシーのない人なのだろうか。そう思うと少しだけ残念な気分になってしまう。
 イケメンだからつい中身もイケメンだと思っちゃうけど、世の中そんな上手いこと出来てないって。
「……特に好みはありません」
 すると間垣さんはふふっと小さく笑い声を上げた。
「女性は皆衣装に憧れがあるものだと思っていましたが」
「……私にはどちらも似合いませんから」
 謙遜などではなく本心からそう答える。実際、貧相な身体の私には着物もドレスもイマイチ似合わないのだ。今日身に着けている黒いオーソドックスなワンピースもサイズがあっておらず、服に着られている状態である。
 元々あまり肉付きはよくない方ではあった。しかしこの半年で随分痩せてしまっていたおかげで、痩せているというよりはやつれていると表現した方がしっくりきてしまう。
 顔も、身体も、そして経歴さえも、私は誰よりみすぼらしい。
「……友香さんは、今回の話をどう思っていらっしゃいますか?」
「えっ、どう、とは……?」
 想定外の間垣さんからの問いかけに一瞬思考が停止する。しかしながらどう思うも何もたった今お断りされた立場では、咄嗟に適切な答えが見つからない。
「僕はこのまま進めていければと思っているのですが」
「はい? 何をですか?」
 まるで伯母のように素っ頓狂な声を上げてしまう。
「友香さんと僕の結婚ですよ」
 当然のことをなぜ問うのかとばかりに、間垣さんが首を傾げる。
「いやいやいやちょっと待ってください! たった今、断られましたよね?」
「なぜそう思ったのですか?」
「へっ!?」
 質問に質問で返されると、ただでさえ動揺で混乱した頭が余計こんがらがってくる。
「いや、その、伯母と深い付き合いしたくないって言われたら、普通断られたと思いますけど……」
 私のしどろもどろな説明を聞いて、間垣さんはようやく納得したように小さく頷きながら言った。
「どうやら、話に聞いていたよりも、あなたはまともな人のようだ」
「……っ!」
 先程受けた衝撃を上回る失望が、私の心を覆い隠していく。
 ああ、そうか。釣書には絶対に書けない私の過去を、間垣さんは全て知っているのか。
 頭から血の気が引いて、指の先から感覚がなくなっていく。
「……まともなんて、そんな……」
 震える手を握り込んで、細かく呼吸を繰り返す。それは落ち着くための行為だったけれど、彼は違うように受け取ったらしい。
「過去を悔やんでいるのでしょう? 僕は女性の一度の過ちを許せぬほど、狭量な人間ではありません」
 笑みを深くした間垣さんに、私は見せつけるように大きなため息を吐いた。
「……よく私と見合いしようと思われましたね」
 過去に見合いしたのは、私に相応しい……二〇も年上の引きこもりだったり、親の介護要員を求めるものであったりと、普通の縁談ではまず纏まらないような類の人ばかり。
 実のところ、そんな人たちからですら、私は断られ続けている。それだけの、瑕疵があるのだ。こちらの事情が伝わっていたのならば、とっくに断られていてもおかしくない。
「第三者から聞いただけで判断するのは失礼ですから」
 間垣さんはさらりと言い放つ。さすがに本人に向かって「見合いしたのは興味本位でした」なんて本音を漏らすほど、間抜けな人ではないようだ。……過去の相手のほとんどは隠そうともしなかったのに。
「それは……素晴らしいお考えですね」
「おや、なかなか手厳しい」
「そうですか」
 もう態度や声色を、取り繕おうとは思わなかった。間垣さんは、見た目通りの人ではないとわかったからだ。しかし考えてみればメガバンクで役職に就いているような人間が、海千山千でないはずがない。
「まあ、僕も失敗していますからね」
「えっ……?」
 相手の仮面を剥ぐための手を探っていた思考が、思わぬ言葉で引き戻される。戸惑い首を傾げた私に、間垣さんは「おや、知りませんでしたか?」と少し意外そうに微笑んでみせた。
「僕は以前一度結婚しています」
 その一言で、私が見合い相手となった理由を理解する。
 三組に一組は別れるというデータもある程、昨今離婚は特段珍しい話ではない。しかしこのような出会いの場に限定すれば、マイナスには違いない。
 ああ、なるほど。だから私なんかに話が回ってきたわけだ。
「そう、ですか」
「あらかじめ伝えておいたはずですが」
「……失礼致しました」
 私は事前に彼の釣書どころか、写真すら見ていない。ただ伯母に言われるがまま連れて来られただけ。
「では改めまして、僕は初婚ではありません。ですがこのままお話を進めて頂いても構いませんか?」
「……はぃ?」
 今なんて言った? そんな心のうちがそのまま声になって漏れた。
「し、正気ですか?」
 もちろん、と間垣さんは鷹揚に頷く。
「釣り合いはとれていると思いますが」
「間垣さんみたいな素晴らしい方には、もっと相応しい女性がいると思いますけど」
 どんなに素敵な人でも、どんなにお金持ちでも、私の事情を知っている人と結婚したくない。それだけが、私の希望。
 和やかに写真撮影していたカップルたちは、次なるフォトスポットへと移動していく。人気がなくなり、周囲には静寂が広がり始めた。
 庭園を寄り添い歩いていくカップルたちのような結婚など、夢のまた夢──いや不可能だろう。
 それでも開け放たれたパンドラの箱の中に唯一残ったものに、縋るしかない。私には、もうそれしか方法が見つからないのだから。
「では、僕と取引をしよう」
 まるで人がいなくなるのを待っていたかのように、間垣さんは唐突に提案してくる。
「はい?」
 また間抜けな声が出るけれど、そんな私の様子は華麗にスルーして彼は続けた。
「僕はもうすぐ転勤が決まっていてね。よければ結婚してついて来てほしい」
「……私と結婚してあなたに利があるとは思えませんが」
 ついに本性が出たか。急激な方向転換に、私は思わず身構えてしまう。
 聞きようによってはプロポーズのような誘い文句ではあるけれど、彼が口にしたのは「取引」だ。
「悪い話ではないよ」
 警戒心を剥きだしにした私を見た間垣さんはにやりと意味ありげに口の端を上げてみせた。それは、これまで見ていた穏やかな笑顔とは全く違う笑みだった。

おすすめの関連本・電子書籍
電子書籍の閲覧方法をお選びいただけます
ブラウザビューアで読む

ブラウザ上ですぐに電子書籍をお読みいただけます。ビューアアプリのインストールは必要ありません。

  • 【通信環境】オンライン
  • 【アプリ】必要なし

※ページ遷移するごとに通信が発生します。ご利用の端末のご契約内容をご確認ください。 通信状況がよくない環境では、閲覧が困難な場合があります。予めご了承ください。

ビューアアプリ「book-in-the-box」で読む

アプリに電子書籍をダウンロードすれば、いつでもどこでもお読みいただけます。

  • 【通信環境】オフライン OK
  • 【アプリ】必要

※ビューアアプリ「book-in-the-box」はMacOS非対応です。 MacOSをお使いの方は、アプリでの閲覧はできません。 ※閲覧については推奨環境をご確認ください。

「book-in-the-box」ダウンロードサイト
一覧 電子書籍ランキング 一覧

ジャンル・シチュエーション検索

 

ジャンル

キャラ属性

シチュエーション